第七十一話 星華の告白
テストが終わり、追試発表が行われる日。
今回は勉強してたと思ったがよくよく振り返ったら僕、橋本と相澤に教えてただけだった。ともかく二人は無事に赤点を免れたらしく、僕に礼を言ってきた。ちなみに僕は学年一位の成績だったらしい。らしいというのは順位を貼り出されても見に行ってないからだ。なぜ知ってるのかというと橋本が教えてくれたのだ。
「しっかし世刻は本当にスゲーな。学年一位なんて今の世の中男じゃありえないと思うぜ?」
相澤がそんなことを言ってくるが、今回はあまり否定もできない。確かに二年では一位は僕だが、三年と一年は両方とも女子が一位なのだ。というか十位まで全部女子らしい。二年も僕以外は女子らしいしな。
「ま、ともかく本当にありがとう、世刻。おかげで追試は免れた」
「どういたしまして、か?とりあえず夏休みはのんびりできそうでよかったな」
「ああ」
橋本が改めて礼を言ってくる。僕はそれよりも夏休みはどうしようかなと考えていた。のんびり過ごすことが一番なのだが、多分それはできないだろう。愛奈が黙ってるはずがない。
「秋渡さ~ん♪」
噂をすればなんとやら。愛奈がいきなり僕の背後から抱き着いてくる。僕は席から立てなくなった思わず溜め息をつく。橋本と相澤は笑ってるが、助けてくれる素振りはない。まぁ愛奈相手だし仕方ないっちゃ仕方ないが……。
「なんだ?愛奈」
とりあえずずっと抱き着かれるのはごめんなので愛奈の拘束を解いて愛奈に聞く。また抱き着こうとしてくるがそれは頭をがっしり掴んで押さえ込む。
「抱き着かせてください」
「用件がそれだけなら力を込めるがいいな?」
「すみません、冗談です」
愛奈は抱き着こうとするのをやめて謝罪してきた。
「んで、なんだ?」
僕がさっさと言えと促すと愛奈が頭をがっしり掴まれていたところを手で擦りながらも僕を見てくる。
「秋渡さん、夏休みは何かご予定はありますか?」
夏休みの予定……。やはり嫌な予感は的中しちまうんだな。愛奈が何か計画しててもおかしくないことはわかりきっていた。逃げる準備もしておかないとな。
「ある」
「先に言っておきますが課題をやるため、なんて言い訳は聞きませんよ?」
釘を打たれたか。だが甘いな、愛奈。
「悪いな。僕にはデートという予定があるのでな」
実は幸紀から夏休みにどこか一緒に出掛けないかと誘われている。婚約者という立場から断るわけにはいかないし、断る理由もない。だがそれよりも今、この教室の中は僕の発言に静まっていた。
「デー……ト?」
その発言に一番早く反応したのは愛奈ではなく、愛奈の後ろにいた美沙だった。その顔はどこか悲しげで今にも泣き出しそうだった。しかしそれは美沙だけじゃない。他のクラスメートの女子全般がそうだった。……僕がデートするのがそんなに予想外か?男子は男子でなんか固まってるし。
「ああ。凜桜の子と」
「はぁっ!?」
僕が凜桜と言うと側にいる相澤が驚いた声を出す。あ、凜桜って軽々しく言わない方がよかったか?うーん、だが冬美以外は幸紀と会ったことないんだよなぁ……。だから名前出してもわからんだろうし凜桜の子って答えたんだがやはりまずかったな。
「え?そ、その子……とはお付き合いを?」
愛奈が普段ならありえないほど動揺して声を振り絞っていた。僕は付き合ってることになってるのかわからないが婚約者だとそんなものかと思って普通に答える。
「そうだな。付き合ってるってことになるな」
これを聞いた瞬間、愛奈はこの世の終わりのような顔をし、美沙は両手で顔を覆い隠し、星華は普段の冷静さが欠けたように見るからに驚愕している。舞はそこまでではないのか、比較的落ち着いて……いや、立ったまま気絶してた。なぜだ……。
「やれやれ、僕が誰かと付き合ってることがそんなにおかしいかね?まぁ顔とかが良くないことは自覚してるが……」
「「「「「それはないです!!!」」」」」
僕が肩を竦めて呟いたらクラスの女子全員に否定された。なぜ全員して言うんだ?わからずに首を傾げていたが心当たりもないし別にそんな重要視することでもないからいっか。
ヴィィ……
ふと僕のスマホから振動がした。スマホの画面を見るとメールが来てて開いてみる。送り主は幸紀だった。
『件名:夏休み
本文:こんにちは、秋渡さん
突然で申し訳ありませんが明日何かご予定はありますか?』
僕は本文を見てから考える。明日……終業式とLHRくらいか。午前で終わるし午後はないもんだな。
「(午後なら空いてる……と)」
簡潔にそれだけ送って送信が完了したのを確認し、スマホを内ポケットに仕舞う。だがふとクラスメートほぼ全員……いや気絶してる舞とその介抱をしてる美沙と星華以外の全員が僕を見てた。しかも無言で。え、何この気まずさは?
「どうした?みんな」
僕は動揺を見せずに聞くと全員がハッとなって何人かは目を逸らす。そして代表してか橋本が僕に声をかけようとしてたが、なぜか黙ったまま。僕、メール見て返信しただけだよな?
「秋渡さん!今のひょっとして先程おっしゃってた彼女さんですか!?」
滅茶苦茶動揺しながらも質問してきたのは愛奈だった。なぜそこまで動揺してるのかはわからんが僕が頷くと愛奈は生気が抜けたようにその場にへたりこんだ。なお、他にも美沙は涙目で完全に固まり、星華は俯いてしまって前髪で目を隠す。橋本はバツが悪そうに目を逸らして頭をかき、相澤はなぜか遠い目をしていた。僕はわけがわからず皆どうしてそんな反応をするのかが全くわからなかった。
「秋渡ー!いるー?……って空気重っ!?」
このタイミングで別のクラスの恋華がやって来たが、来て早々教室内の空気の重さにたじろぐ。逆の立場なら僕も同じ反応をするだろう。恋華はとりあえず状況判断するためにキョロキョロと教室内を見回す。しかしあの愛奈が生気の抜けた顔で動かなくて涙目で固まってる美沙も反応せず、星華はいつの間にか教室の端で体育座りして落ち込んでおり、舞が気絶して倒れてるのを見てさらにギョッとなった。
「しゅ、秋渡……。説明求めてもいい?」
恋華がなんとか声を振り絞って出すが、その声は震えていた。
「……僕に彼女がいるってのを話したらこうなった」
僕はありのまま起こったことを簡潔にそれだけ話した。恋華はそれだけで察したみたいだが気のせいか肩が震えていた。……誰か助けてくれ。だけど残念ながらもう放課後だからチャイムに助けられるとか教師が来るっていうことはない。どうしようか。
「こんにちは。舞、帰ろ……う?」
すると今度は一年の明菜がやって来た。しかし恋華と同じで一瞬固まったがそれでもすぐに硬直は解けたみたいで僕を見て、そして周りを見て状況を飲み込んでいた。説明してないがそれでもさすがだ。なら少し明菜と話してた方がいいか?
「秋渡、話したの?」
しかし明菜はいきなりストレートに言ってきた。どこか呆れたような口振りだがやはり明菜は正確に状況を理解していたみたいだ。
「ああ、まぁな」
「なら今舞や恋華さん達が固まってるのも嫌でも納得できちゃうわね。……舞が気絶するとは思わなかったけど」
舞のことには僕も全面的に同意だ。だがそれよりも……どうしようか?これ。まさかこんなことになるとは思ってなかったからどうしようもないが……。だがこいつらを放っておくわけにはいかないよな。
と、ここでまた内ポケットからスマホが鳴った。メールだが幸紀からで内容は……。見た瞬間僕は思わず固まってしまった。
「どうしたの?」
そんな僕を見て明菜が不審に思って近寄ってきた。しかし僕は内容を見てまだ固まってて明菜に答えられなかった。そしたら明菜が僕のスマホを覗き込んできた。が、すぐに明菜も固まった。
『件名:用件
本文:わかりました。それで明日ですが私の両親が会いたいそうなので家に来てほしいんです。午後一時くらいで大丈夫ならその時間に凜桜女学園の校門で待ってますね』
待ち合わせはいい。凜桜に行くのもまだ百歩譲っていい。だが両親に会うっていうのはどういうことだ?終業式が終わって早々堅苦しい思いをすることが確定したが……え、どうしよう。
「……そもそもなんで両親と?」
思わず呟いてしまったがそれがいけなかった。そう、さっきまでの会話だけならば彼女とのデートってことでまだ違和感はない。が、恋人の両親に会うということは挨拶ということになる。幼馴染みの恋華ならまだそこまで不自然じゃないが、今回はその限りじゃない。つまり……。
「「「「「えぇぇぇぇぇぇっっ!!!?」」」」」
誤解を招くことになる。あー、もう弁解するのもめんどくさい。とこの時丁度先生が来て早く帰れと催促があったおかげでその場は救われた。
なお、帰ってから舞は元気がなく、明菜が必死に慰めていた。
ーー
翌日。
朝は気まずかったが、とりあえず教室に入ってじきにLHRが始まり、成績表が渡されてそれを確認する。というのが大体の奴等はそうだろう。あちこちでどうだったかを友達同士で話してる奴等がちらほら。舞や美沙に愛奈はとりあえず立ち直れたのか、それぞれ成績について話していた。それを眺めていたら近くに星華がやって来た。
「……どうだった?」
「ぼちぼち、と答えればいいか?ほれ」
聞かれたので見せてやる。星華は表情を変えずに僕の成績表を見てそして返してきた。そして星華は自分のを見せてくれた。
「ほう、四と五だけか。さすがだな」
僕が素直に誉めたがなぜか星華は珍しくムスッとしていた。
「……秋渡は家庭科以外五。……私は四が結構多い」
「あー、嫌味言ったわけじゃなかったんだが……」
「……ところで家庭科だけなんでこんなに他よりも下なの?……テスト良かったでしょ?」
今日はいつもよりもえらく喋るな……。やはりさっきのことを気にしてるのか?まぁそれはそうと家庭科の点数が低い理由だが実は簡単なことで今回実習で裁縫があったんだ。だが僕は昔から裁縫が大の苦手で何かあったら恋華を頼っていた。迷惑をかけると言ったらなぜか嬉しそうに服を縫ったりしてくれていた。
「……裁縫が苦手でな。テストは良かったが実習があまりにもダメだったからそれで点数が落ちた」
僕が頭を掻きながらそう答えると星華は心底意外そうな顔をして凝視してくる。なんらおかしいことはないと思うんだが……。
「……秋渡にも苦手なことがあるんだね」
また無表情に戻った星華にそんなことを言われる。
「そりゃ誰しも苦手なことはあるだろ」
「……そうね。……でも秋渡はなさそうに思ってたから」
「そんなことないぞ?実際に裁縫は大の苦手だしコミュニケーションを取るのも上手くないしな」
「……そう」
星華は僕の苦手なことを聞いて手を顎に当てて少し考え、すぐにまとまったのか、手を叩く。
「……じゃあ秋渡の恋人になるには家庭科方面が強ければ有利なのね」
「…………え?」
「……私、秋渡の相手になれるように努力する」
「お、おう?」
「……だから……私にもチャンスがほしい」
「チャンス?」
僕は星華が何を言いたいのかわからず、聞き返す。星華はどこかやれやれと言った表情を一瞬浮かべたがまたすぐに無表情に戻る。それから頷いてジッと見つめてくる。……顔が少し赤く見えるのは気のせいか?しかしその理由はすぐに理解することになる。
「……私は秋渡が好き。……秋渡の彼女になりたい。……できるなら結婚も」
「なっ!?」
まだ人が多い中での星華から発せられたのは大胆な告白だった。決して大きくない声なのにまるで時間が止まったかのように教室は静まりかえった。星華は顔をさらに赤らめながらもジッと僕を見続けてくる。だがさすがの僕も星華の言葉には……いや、告白には固まってしまっていた。正直星華は友達としてしか僕と接してないと思っていたから余計に驚く。だがどうする?幸紀の婚約者であるならばチャンスを与えても悲しませるだけだ。けど星華の目は真剣であり、まるで幸紀に負けないような顔をしていた。それを見てこりゃ与えなくても諦めるつもりはないなと思い、溜め息混じりに返す。
「ふぅ……。まぁ好きにしな」
僕がそう返したら星華は薄く笑ってから小さく頷いた。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
冬「冬美です」
美「美沙です」
ア「今回は秋渡君のことについて語ろうかと思います」
秋「それ、本人がいるとこでやるか?」
ア「秋渡君に聞きたいことがありますから」
冬「私は興味深いからやりたいわ」
美「私も聞きたいです!」
秋「……何を聞く気だ?」
ア「では早速。まず初めの質問ですが秋渡君は黒いロングコートを好むとのことですがなぜでしょうか?」
美「あ、それ私も気になってました」
秋「うーむ、単純にロングコートが好き、としか言えないな……。他の理由は特にないし。黒なのは大体黒しか販売されてないからだ」
冬「そういう理由だったのね」
美「じゃあもし他の色があったら何色がいいの?」
秋「そうだな……。赤か白が無難だと思ってるな」
ア「似合いそうですね。では次にいきますね」
秋「ああ」
ア「深桜高校への入学を決めた理由はなんですか?」
秋「決めた理由……。あまり目立たなそうだったからってのと近かったから」
冬「そ、そうなのね……。数少ない男女争いが少ないからとかもあるのかと思ってたわ」
秋「いや、それはなかったな。そこまで知らなかったし」
冬「そ、そう……」
美「でも確かにあの近辺だと他の学校と言えば凛桜女学園くらいしかありませんよね」
秋「ま、そういうこった」
冬「今なら夏希が喜んで受け入れそうね」
秋「んなこと……あるかもな」
ア「否定できないんですか?」
秋「時計破壊戦でお目当てが僕だった時点でお察しだ」
美「あー……そうだね」
ア「次、と行きたいとこですがこれはまた次話に回しますね」
秋「まだやるのか……」
冬「むぅ……。もうちょっと聞きたかったな……」
美「同感です……」
ア「それでは……」
ア・秋・冬・美「また次話で!」
ーー
オマケ
夏「(ふふふ、これで秋渡君の心も奪えるわ……)」
幸「(……秋渡さんと同棲とかしてみたいな。ふ、夫婦みたいなことをしたりとか……)」
夏「(うーん、でもあの秋渡君がプレゼントとか喜ぶのかしら?)」
幸「(お、お風呂とか一緒に入って背中を流したり……とか……。ベッドで一緒に寝たり……とか。恥ずかしいけどしてみたいな……)」
秋「っ!?(なんだ!?なんか異様に寒気がしたぞ?)」
冬「どうしたの?」
美「どうかしましたか?」
秋「いや、なんでもない(気にしないようにしよう)」