第六十九話 五神将、暁春樹
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ある暗闇の中。一人の男が玉座に似た椅子に座っていた。その男の姿は暗闇で全くと言っていいほど見えない。なぜこんな暗闇にいるのか、それは簡単だ。
「失礼します、暁様」
パチリという音と共に暗闇が電気によって明るくなる。入ってきた者の声は女であり、玉座に座るのは暁と呼ばれた男。男の見た目は秋渡に劣らないほどの美貌を持っていた。髪はまるで髪全体に血を被ったのではないかと言うほど真っ赤な色をしていた。男の瞳は閉ざされていてわからないがそれでも男からの雰囲気は只者じゃないことが窺える。
女の方はそんな男に対して冷静を努めているが、内心かなり怖がっていた。女の見た目は凛とした顔立ちをしており、目は女にしては鋭く、またその黒い瞳は飲み込まれそうなほど綺麗だった。髪も黒く、後ろ髪をポニーテールにして降ろしていた。長さは腰まで届くか届かないかくらいだが長いことはわかる。
女は部屋の入り口から中心部歩き、玉座に座って右腕で頬杖をかいている休んでいる暁と呼ばれた男に声をかける。そう、この男こそ五神将の中で秋渡を除いた中で最強と呼ばれている暁春樹その人だった。
「暁様、最後の五神将と疑われている男のリストが完成致しました」
女の報告に暁は目を開ける。一見穏やかな雰囲気がある暁だがその内にある殺気はとてつもなく大きかった。暁の瞳は秋渡のようにオッドアイであり、色は右が青で左が赤だった。眼光は鋭く、その目で見られただけで立ち竦んでしまうだろう。現に報告に来た女はそれだけなのに冷や汗を掻いてしまっているほどだった。しかし暁がフッと笑うと彼は頬杖をかくのをやめて女に近付く。
「報告ありがとう、椎名。下がっていいよ」
口調は驚くほど穏やかだが自然に彼の言葉には逆らえない感覚に陥る。しかし椎名と呼ばれた女はリストの紙を渡してから一礼をし、それから部屋から出ていく。暁はリストを手にしてまた玉座に座ると足を組んでからリストに目を通す。その中には名前が五人ほど上がっていた。
「柏木大貴、前澤奏、瀧川雄大、高須武志、そして世刻秋渡。ふむいまいちどれもピンと来ないが……」
暁はリストの中に書かれている一人に目を止める。暁の目が自然に細められる。
「……確かこの高須武志とやらは虎雄の親友と言ってたな。でも虎雄から聞いてた話的にこいつが五神将じゃないのは当然だな。もしそうなら僕達の集まりに来てるはずだからね」
そう決めて暁は高須を最後の五神将候補から抜いた。それに虎雄に頼っている時点でさらにその線は薄くなるだろう。そうなると他の四人だが……。暁は柏木、前澤、瀧川、世刻の名に聞き覚えがないかを頭の隅から隅を探ってみるが、高須以外は記憶になかった。
「(……部下に探らせてみるか)」
暁はチリンと呼び出しベルを鳴らすとすぐに呼ばれた配下が一人現れる。椎名と呼ばれた女ではなく、普通に部下の男だ。椎名は単に秘書みたいなもので事務方面なのでこのことは任せることができない。
「お呼びですか?暁様」
膝を付く男に暁は満足そうに頷いてから用件を伝える。
「ここのリストに書かれている高須武志以外をちょっと調べてもらえる?すぐにわかることだけでいいよ」
「はっ!直ちに!」
「それと何人か……いや三人程度でいいかな?まぁ三人程度そのリスト内のところに潜り込ませて。もしこの中に五神将がいればこれだけでも変化はあるからね」
「はっ!」
男は立ち上がってすぐに部屋から去る。暁はリストを本の少ししか見せていないのに完璧に記憶していった部下に驚きもせずそのまま玉座に腰を下ろす。
「うーん、これでこの中にいなかったらその時点でもう一人は存在してないようなもんなんだよね。五神将として生まれた奴がそう簡単に死ぬとは思えないし。でもそうなると……うーん」
暁は色々考えたがいまいちピンと来なかった。特にもういないことはないような気がしていた。だが暁はともかく結果は直にわかるかと判断して一回だけ体を伸ばしてから飲み物を取りに部屋を出た。
部屋を出てから暁は今は予想してなかった人物と出会った。
「あれ?暁。何をしてんだ?」
それは五神将の青葉龍大だった。暁も彼が今ここに来てるとは聞いてなかったので驚いていた。青葉も暁が出てるとは思ってなくて驚いていた。
「龍大。どうしたんだい?」
「いや、暇潰しみたいなもんだ。それと報告をな」
「報告?」
青葉の言葉に暁は眉を潜める。青葉本人から報告と言えば彼本人に関わることなのは今までの傾向からわかっていた。だがどれも報告にしても彼がどこかの裏組織を潰したとかそれくらいしかなかったのであまり気に留めてなかった。が、今回は違った。
「俺、お前以外を相手にして敗北を味わった」
「……え?」
暁は悪い冗談かと思った。が、それはすぐないと判断した。なぜなら青葉の表情が本気で悔しそうだったからだ。普段の青葉ならこんな表情は暁と戦った時くらいしかしてなかったことから本気なのはわかっていた。だからこそ信じられない。暁は何度か青葉とやり合ったが全て勝ってはいるが青葉の実力は本物だとよくわかっている。
「お前もいつも全力じゃないが俺が戦った相手もまた全力じゃなかった。しかも相手は男だ。今の世界、俺達に勝てるのは同じ五神将しかいねぇ。相手も五神将って名乗りやがったからな」
「……なるほど。龍大がここに来たのはわかった。けど戦って敗れたならなんでそんなに傷がないんだい?」
青葉の顔には傷一つない。それだと戦ったのは随分前ということになる。暁は最近ならば傷がないことに当然疑問に思うだろう。これは誰もが同じだろう。青葉は顔を逸らして歯軋りをする。それを見て暁は納得した。ああ、言いにくかったんだな、と。
「俺だってあんな敗北するなんて思ってなかったんだ。俺が勝てない相手は勝手にお前だけだと思ってたからな」
「フフ、龍大にそこまで思われてたなんてね。……ところでその龍大が勝てなかったっていう相手の名前を聞いてもいいかい?」
暁はリストの人物達を調べる前に最後の五神将の名前を知れると思い、聞くことにした。青葉は頭を掻いてから名前を告げた。
「世刻秋渡だ。ついでに教えておくとこいつには俺だけじゃなくて黒坂と棗も敗れてる。実質あとはお前だけってことだな」
「……なんだって?」
暁は青葉からの予想外の情報にさすがに笑えなくなった。自分以外の五神将が敗れていたことは彼とて予想外すぎたのだ。しかもそれが同じ相手だとすればさすがに驚きを隠せない。つまりは実質実力は暁と同格だということになる。暁は最後の五神将は世刻秋渡だと確信を持った。そしてこれから一番の要注意人物だと本能で悟った。
「(世刻秋渡、か。あの龍大ですらも簡単に破ったんだ。僕も気を付けなきゃね)」
しかし暁本人は気付いてなかったが彼は自然と笑みを浮かべていた。その笑みは青葉には楽しみで仕方ないとしか取れず、青葉は背筋が凍るような思いをしていた。
「(……あー、すまん、世刻。お前、暁に完全にターゲットにされたわ。……だが俺も暁と世刻のどっちが勝つのかは気になるな)」
青葉は不敵な笑う暁を見ながらそんなことを思っていた。
恐らくこの時だろう。秋渡にとっての最大の戦いの幕開けはこの瞬間に始まっただろう。この戦いは五神将全員と他の関係者、無関係者関係なしだろう。それは春樹と秋渡の信念の違いから当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
どちらにせよ秋渡は五神将ということから逃げることもできない。
ア「どうも、アイギアスです!」
幸「幸紀です」
舞「舞です!」
ア「今回は今まで名前しか出ていなかった最後の五神将が登場しましたね!」
幸「今回の話だけだとあの青葉龍大すらも恐れるほどなんですね……」
舞「ふふん!お兄様ならばそんな相手でも負けることはないですよ!」
ア「知らないうちに秋渡君へのプレッシャーですね」
幸「ですが舞さんの言う通り、秋渡さんが負けるところは想像できませんね」
舞「はい♪お兄様は最強のですから」
ア「……秋渡君、大変ですね」
幸「あ、そういえば舞さん」
舞「はい、なんでしょうか?」
幸「その……秋渡さんって何が大好物かわかりますか?」
舞「お兄様の大好物……ですか」
ア「……彼、好き嫌いなさそうなんですが……」
舞「そうですね……。普段からあまり表情が変わりませんから断言はできませんがポテトは好きだと思いますよ。滅多に作れませんが前に作った時は喜んで食べていましたから」
ア「な、なんか意外ですね……」
幸「う……。ポ、ポテトサラダは駄目なのでしょうか?」
舞「いえ、多分大丈夫かと。ところでどうしてお兄様の大好物を聞いてきたのですか?」
幸「そ、それは……その……。しょ、将来のことを考えて……(ボソッ)」
舞「え?なんて言いましたか?」
幸「好奇心って言いました」
舞「へぇ、好奇心でしたか」
ア「(凄く疑っていますね)」
幸「そうです!好奇心なんです!」
舞「あ、は、はい……そうですか……」
ア「あはは、ムキになっているところ、かわいいですね」
幸「あぅ……、からかわないでください……」
ア「それではここまでにしましょう。それじゃ……」
ア・幸・舞「また次話で!」
オマケ
秋「ほう、それでポテトサラダを」
幸「は、はい。本当は普通のポテトをと思ったのですが冷めてしまうので」
秋「フッ、ありがとな」
ポンッ
幸「あう……」
秋「(……旨いな。幸紀は料理も上手いのか。女子力高い)」
幸「ど、どうですか?」
秋「ああ、旨いぞ。ありがとな」
幸「は、はい♪」