第六十八話 明菜からの申し出
家に着き、靴を脱いでリビングに行くと舞と明菜が出迎えてくれる。まぁ舞はちょっと不機嫌そうに頬を膨らませていたが……。明菜は何かに気付いたような顔をしてて舞に見えないところでニヤニヤしてた。
「遅いですよお兄様!」
「すまんな。散歩中に知り合いと話し込んでた」
「むぅ……。まぁ無事に帰ったからいいですけど……」
むくれながらも心配してくれていた。てっきり舞のことだから追求してくると思っていたのだが……。まぁ幸紀とキスをしました、なんて言えば僕の身が本気で危ない。
「散歩は満喫できたかしら?秋渡」
明菜がニヤニヤするのをやめて聞いてくる。こいつ、やっぱ只者じゃないな。絶対わかってて聞いてる。ニヤニヤするのはやめたが口角は上がったままだ。僕はそれに気付きながらも憤慨しないようにする。ここに明菜だけだったら少しはいいだろうがここにはわかっていない舞がいるから何も言えん。
「ああ。色々と考えられる時間だったぞ。散歩に出掛けるのも悪くないな」
僕はそう言って部屋へ向かう。散歩に出掛けるのが悪くないと思ったのは本当だ気分転換にもなるし少しだが色々と忘れられる。今回は幸紀と偶然会ったこともあるが別に悪い気はしなかったし。不良は邪魔だったけど。
「部屋に戻るの?汗をかいたならシャワーでも浴びたらどう?」
と、思っていたら明菜がシャワーを勧めてきた。確かに夏だから外は夜でもそれなりに暑い。そこまで動いたわけでもないがそれでも浴びるのもいいかと思った。
「なんなら背中流してあげようか?」
「えぇっ!?あ、明菜さん!?」
明菜の爆弾発言に舞が反応した。明菜は舞の驚きように首を傾げている。まるで「私、変なこと言った?」とでも言うように。しかし驚いているのは舞だけではない。僕もさすがに動きを止めてしまった。そしてなぜ何も感じていないかを考えるとすぐに思い付いた。
「(櫻井や金髪とかと同じように考えているのか)」
あいつらは女だし明菜にそんなこと言われても何も思わないだろう。しかし今回は相手が違う。さすがの僕もできれば遠慮したかった。
「気持ちはありがたいが遠慮しておこう」
僕が遠慮をすると明菜はおとなしく引き下がる。と、思ったのだが……。
「遠慮なんていらないわ。だから少し話ながらどう?」
そんなことはなかった。僕と舞は唖然としてしまい、言葉が出てこなかった。しかし僕よりも舞の方が早く動いた。
「そ、それならば妹の私がお兄様のお背中を流します!いいですよね、お兄様?」
舞、別に背中を流してほしいわけじゃないんだぞ?だから張り合うのはやめてほしい。僕は溜め息を付き、シャワーはやめておいた方が良さそうだと思った。幸い散歩に行く前に風呂に入ってたから特に問題はないだろう。
「シャワーは今はやめておく。だから二人ともの厚意も悪いが受け取らん」
「あ、そうですか……」
「そう。でも話は本当にあるのよ?」
僕の言葉に舞は目に見えてしょぼんとして明菜は特に変化はなかったが顔は少し真剣だった。僕はそれに二人きりで話したいということがわかった。シャワーを勧めてきたのもそれが目的だったのか?だがそれなら別に部屋に戻ってからでもいいような気がする。
「話?」
「ええ」
「……後で部屋に来てくれ」
「わかったわ。舞、頼むから盗聴とかはしないでね?」
「わ、わかってますよ!しませんよ。お兄様、私は先に寝ますね」
明菜に盗聴を疑われた舞は少しビクッとしながらも返事はした。そして部屋へ行くことにした舞は「おやすみなさいませ、お兄様、明菜さん」と言って僕達からの返事を聞いてからリビングから出て二階へ行った。
僕は改めて明菜に向き直る。舞が部屋に行ったならばわざわざ僕の部屋で話す必要はない。
「話ってなんだ?」
僕は単刀直入に聞く。明菜は真剣な顔で僕を見てくる。一体何の話なのか、僕には想像つかなかった。
「あなた、黒坂虎雄と真っ向から戦うっていうのは本当?」
明菜からの質問は言われれば質問されてもおかしくないものだった。なぜ知ってるのか、恐らく不安になった舞が明菜に話したのだろう。新崎との会話の中には舞もいたから黒坂との衝突も知っている。だが黒坂は機械人形を使ってくるため僕と新崎だけでは到底対処できない。そこは悩んでいたところだった。
「ああ。本当だ。愛奈に対する愛だとかなんだとか言うが僕は僕が友かそれ以上と思った人は守るようにしている。前回黒坂は潔く退いてくれたが高須は違う。今回は高須と戦うのが一番だが黒坂は友のために必ず来る。だから僕は黒坂と機械人形を同時に相手をしなければならん」
高須は多分新崎の苦幻夢でなんとかできるだろう。しかし黒坂は別だ。新崎曰く自分より格上の相手となると苦幻夢は効かないらしい。となると基本戦いでは勝つことができない五神将は同じ五神将しか戦えない。しかし青葉との戦いの後、僕は五神将でも順位付けがされてるのではないかと考えている。つまり今は上から暁、青葉、黒坂、棗の順番になっているだろう。こうなると上の者は一体誰が抑えられるというんだ?簡単だ。イレギュラーがいればいいのさ。だがそのイレギュラーがいない。順位を付けられれば必然的に頂点は現れるがその頂点に立ち続けることはあまりできない。が、今暁はそれをできてしまっている。だからこそ厄介なんだ。頂点ということがわかるということはその配下に付くことが嫌ではないことになる。そいつがいれば自分を守れるからだ。
「黒坂は五神将の中でも三番目。もし暁や青葉や棗が混ざったら勝ち目なんてない」
「そうかしら?」
「は?」
ないとは言い切れない青葉、暁、棗の乱入に頭を悩ませていたが明菜はそうでもなかった。僕は明菜に無言で問い掛ける。明菜はそれを了承すると簡潔に説明した。
「要するに黒坂と高須……?と戦っている時に入れなきゃいいんでしょ?だとしたら私がワイヤーで少しは時間を稼げるわ。それに……」
なるほど、トラップか。僕は少し考えようとしたが続きがあるのでまだ明菜の言葉に耳を傾ける。
「あなたなら勝てるでしょ?」
なぜか少し自信があるかのように語る明菜。いや、対峙したから感じたのか?それにしてはそこまで言い切れるのはわからない。
「一応以前暁春樹以外の五神将と戦ったことは知ってるわよ。聞いたから。だから暁はわからないけどそれでも早々に秋渡がやられるとは思えないわ。その証拠に今までの五神将を退けてるんだから」
……自信があったのは根拠があったからか。しかし誰から聞いたんだ?冬美達にでも聞いたのか?舞は知らないはずだから考えられるとしたら冬美か恋華なんだよな。あ、棗は星華もだな。黒坂はその中に愛奈が入るな。美沙は青葉の部下との戦闘だけ。青葉との戦いに至ってはそう接点がない幸紀だけだ。となると誰に……。
「ふふ、棗達也、黒坂虎雄との戦いは深桜の生徒が大半知ってるし青葉龍大との戦いは街で行われたことから色んな人が知ってるわよ」
「……教えてくれたのはありがたいが人の心を読まないでくれるか?」
「あなたの心が読めたらその人は素直に凄いと思うわ」
なかなかに酷い言われようだ。舞や愛奈はなぜか簡単に心を読んでくるぞ?しかもいつもとあまり変わらない平然とした顔で言われてもなんか釈然としない。ともかく明菜が助っ人に入ってくれるならこいつの実力的になんも問題はない。むしろ機械人間の相手をしてもらいたいほどだ。そうすると僕は心置きなく黒坂と戦え、新崎は高須と戦える。ただ数が未知な分明菜一人ではさすがに部が悪い。以前は僕だけでなんとかなったがそれは棗の劣化版だったからに過ぎない。だが明菜だと棗と戦っても多分勝てない。となると劣化してるとはいえ数で勝る向こうが有利だろう。そうなるとやはりもう少し戦力がほしい。
「(どうする……。冬美達は怪我が回復してるとしても新崎がいるのに一緒に戦わせるわけにはいかない。新崎が気を使うだろうし。となると冬美はアウト。どうする……)」
僕は頭の中で戦える友人を思い浮かべていく。恋華。駄目だ、機械人間じゃなくて間違いなく過去にやられたことから黒坂のところに行くだろう。普段は友人を殺されたショックを隠してはいるがそれでも今回は駄目だろう。以前黒坂が現れた時は完膚なきまでにやられたと聞いたしやられていたところも見た。あの時は語らなかったが呆気なくやられたことを悔しがっていたところも見た。泣いているところも見た。僕が黒坂を撃退したとはいえそれでも悔しさでいっぱいなはずだ。声をかけられず、僕はその後は知らないが怪我が治ってからはいつも通りの恋華だった。
「(とりあえず黒坂と縁が強いのは主に恋華と愛奈、か?)」
恋華は弓をそれなりに使えるが愛奈はそういうものが一切ない。……と思う。確信を持てないのはあいつが僕の想像を超えるほどの力で抱き締めてくることがあるからだ。僕は平気だがあれが橋本や相澤だったら無事じゃないかもしれんな。あの力は果たしてどこから来るのだろうか。
「……私だけじゃ黒坂の機械人間は止めることは難しいかもしれない」
不意に明菜が口を開いたので僕は明菜の言葉に意識を向ける。明菜は肩をすくめる。明菜のワイヤーは切れ味はいいが機械人間相手だとわからない。そもそも黒坂は何の素材を使って作ってるのかもわからんしな。下手な物だとワイヤーが呆気なく千切られて終わりだろう。ナイフだけでなんとかなるような固さじゃないのは実際に戦って刀で斬った僕がよくわかってる。
「皮肉なことね。あれだけ人を斬りつけてきたワイヤーやナイフが役に立たないかもしれないなんて。今までを否定された気分だわ」
明菜は薄く笑ってはいるがそれでも悔しそうに手を握っていた。僕はそれを見てやはり手はないのかと思った。が、ここで一人の男が僕の脳裏を過った。こいつなら強さも機械人間を破ることもできるんじゃないかと思いながら。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
明「明菜です」
愛「愛奈です!」
明「作者、投稿遅くない?最後に投稿したのって……」
秋「一日だな。一体何をしてたんだ?」
ア「そりゃ色々ですよ……。今はもう削除しましたが新しい作品も書いてましたし」
愛「なぜ消したのですか?」
秋「大方作品の出来具合が悪かったんだろ」
ア「その通りとも言えますしそうじゃないとも言えますね」
明「どういうこと?」
ア「リアルでの訳ありってことなんですよ」
愛「へぇ。ちなみにどういう作品を書いてたんです?」
ア「動物のことに関してのことですよ。読んでくださった方がいればいいのですが……」
秋「動物?」
ア「……まぁそれはいいです。もう削除してしまいましたから」
愛「この後の展開はどうする予定なんですか?」
秋「とりあえず黒坂との対決は近いな」
愛「以前は秋渡さんの圧勝でしたね!」
明「あら、そうなの?なら今回も楽勝なんじゃない?」
秋「……どうだろうな」
ア「言い切れないんですか?」
秋「ああ。前回と違って今回は敵地に向かうからな。地形的に不利な可能性が高い。それと黒坂の機械人間だな」
明「同時に相手……って言ってたわね」
愛「そういえば前回は秋渡が機械人間を全滅させてから深桜高校に来ましたね」
ア「ああ、だから最後に協力してくれそうな人に頼もうとしてるんですね」
秋「まぁそういうことだ。協力してくれなかったらそれまでだがな」
愛「その場合はどうするんですか?」
秋「フッ、それはここでは軽くネタバレになる。だから言わないでおこう」
明「賢明な判断ね」
ア「誰が協力者なのか、是非予想しておいてください!」
秋「もっとも、すぐわかった人もいるだろうがな」
ア「では今回はここまでです。それでは……」
ア・秋・愛・明「また次話で!」
オマケ
ア「そういえば初詣はどうでしたか?」
秋「……周りの視線が痛かった」
ア「それは秋渡君の見た目が……」
秋「違う。大勢いる中で愛奈と舞が喧嘩してな」
明「主にあなたの取り合いでね」
秋「……」
ア「なるほど、理解しました」
秋「解せん」