第六十六話 婚約相手~幸紀side~
幸紀side
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私は電話で秋渡さんとの通話を終えてから熱くなった頬を冷ますために外に出て散歩をしていました。お父さんから秋渡さんと婚約していたことを聞いた時は驚きで固まってしまい、脳が処理をできていませんでした。ですが突然秋渡さんから電話が来たときは思わずビクッとなってしまい、恐る恐る出ました。電話に出ると秋渡は今日婚約者がいることを聞いたらしいです。私も最近聞いたばかりなのでなんとも言えませんが……。
初めはお父さんとお母さんから「お前には婚約者がいる」と聞いた時はやはりいるんだな、としか思えませんでした。私の家庭はそれなりにお金持ちなので自分の結婚相手は選べないということは理解していました。ひょっとしたら自分よりもかなり年上の人と繋がるかもしれないとも。私はそれにガッカリしながらお父さんの話を聞いていましたが、相手は同い年と言われました。しかもなぜか嬉しそうに語っていたのです。余程いい家と繋がったのでしょうか……。
「幸紀、お前の婚約者の相手なんだがな、きっとお前も喜ぶと思うぞ!」
「そうですか?」
乗り気じゃない私はほぼお父さんの言っている婚約者にあまり興味がありませんでした。私は繋がることはないと知っていながらも想い人ができてしまっています。しかしお父さんはこう言った話はあまり聞いてくれないので話せずにいました。なので自分の気持ちは殺さなきゃと何度も思っていました。
「幸紀、君の相手はこの人だよ。まぁまだ相手の親はその子に話していないみたいだけどな」
お父さんが妙に上機嫌に写真を見せてきました。私は内心溜め息を付いて憂鬱になっていたのですが、写真を見たらそんな気持ちはどこかへ飛んでいってしまいました。それはそうでしょう、写真に写っている顔はたった今の今でも忘れることはない私の想い人。
「かなりのイケメンだろう?彼の名は……」
「秋渡さん!?」
そう、写っていたのは世刻秋渡さん。私の初恋の相手だったのです。急に写真を手に取って大声を上げた私にお父さんとお母さんは驚きました。
「知っているのか?」
お父さんは名前を叫んだことで顔見知りだとわかったみたいです。私はお父さんの言葉に急に写真を手に取ってしまったことを謝罪してから元の場所に戻しました。そしてどう答えようか悩んでしまいました。
「えと……その……」
「ん?」
「うぅ……。……はい」
悩んだ末に答えた私に珍しくお父さんとお母さんはキョトンとしてしまいました。うぅ……。どうしよう……。怒られるかもしれないと思った矢先でした。
「がっはは!そうかそうか!なら話が早くて助かるな!」
「ええ、そうですね、あなた」
「これは今まで来ていた話を蹴ってまで維持しててよかったぞ!」
「……え?」
私はお父さんの言葉に思わず口を挟んでしまいました。そういえば会長や佐々木さん達も結婚話が多くて嫌になるとは言ってたけどなぜ私だけそういったことがないのかとても疑問でした。パーティーとかがあった時は声をかけられてもお父さんは断っていたのを思い出しました。なんて言って断っていました?
『娘にはもう婚約者の最大候補相手がいますので。声をかけていただいたのに申し訳ありません』
婚約者の最大候補相手。もしかしてそれって……。
「ん?おお、すまんな。実はお前にもかなりの数のそういった話が来てはいたんだわ。けどな、話が来る前からその秋渡君の親と約束をしててな。だから例え地位がどんなに高くても拒否をしてたんだよ。下手な相手だと幸紀が幸せになれんからな」
「ふふ、舞渡や秋雨さんから写真を渡された時は本当に驚いたわね。昔少し見ただけの彼らの息子がこんなに格好よくなっているんだもの」
「がはは!しかもどんな地位が高い相手でも彼よりも今地位が上の人はほぼいないだろう!」
「そうね。今は総理大臣よりも上なのかしら?」
「たしかそうだろ」
「え?え?」
なんだかいきなり話始めた二人に私は混乱してしまいました。総理大臣よりも地位が上?それってつまり……。
「ああ、顔見知りだから聞いてるかもしれんが彼は五神将だ。だからどんな貴族よりも彼は上の立場にいる。がはは!彼は数少ない女性の味方をする五神将だからな!」
ふと私は青葉龍大と戦った後に聞いた話を思い出しました。秋渡さんは自らを五神将だと語ってくれました。同じ五神将には五神将しか太刀打ちできないのは今の世界では当たり前のことです。しかしニュースで見た五神将の名は……。
暁 春樹。
青葉 龍大。
黒坂 虎雄。
棗 達也。
この四人だけでした。なのであと一人は誰なのかわからなかったのです。しかしそのせいで自分が五神将だと名乗る人が多くいたらしいのです。お父さんも蹴った相手にそう名乗った人が何人かいたらしいのですが、それでもお父さんは親友であった秋渡さんのお父さんから秋渡さんが最後の五神将だと聞いていたので蹴っていたそうです。確証は基本的にはないのですが子供でも大人でも有り得ないほどの頭の良さ、運動神経、そしてまるで手慣れたような戦い方ができることと体にどこか普通の人よりも変化してるところがあるそうです。秋渡さんはどうやら髪と目が変化しているそうで銀髪でオッドアイなんだとお父さんは教えてくれました。
「まぁ俺は五神将じゃなくても秋渡君を幸紀の相手に選んでいたがな!」
お父さんは嬉しそうにして笑っています。が、急に真面目な顔になり、辺りの空気も張り詰めた感じになります。
「それで、幸紀。お前は彼と結婚をしたいか?」
「正直に答えるのよ?」
お父さんとお母さんは私の意見を聞いてきました。秋渡さんと結婚……。そんなの……答えは一つしかありません!
「したいです!」
少しも考える素振りを見せなかった私にお父さんとお母さんは真面目な顔で見てきました。うぅ……。正直なことを言ったけど少しは考えた方がよかったのかな?しかし。
「まさか即答とはな。理由を聞いてもいいか?」
「はい。彼とまともに話したのは私が交通事故で車に轢かれかけた時に咄嗟に助けてくださった時なんです。しかし彼は初めは時計破壊戦があってまともに話を聞いてはくれなかったのです。ですがそれが終わってからは友達があまりいない私と出掛けてくれました。その頃にはもう彼にはすでに惹かれ始めていたのですが……。その時に青葉龍大が現れて私を殺そうとしてきました」
私の言葉にお父さんとお母さんは目を見開きました。五神将に命が狙われたのですから当然でしょう。
「しかし秋渡さんが身を挺して守ってくださったのです。それも青葉龍大を返り討ちにして……。その姿にもう私は完全に好きになってしまったのです。その後は告白もしたのですが……。ですが告白した後に家柄上繋がることは不可能と思い出してしまいまして……なので……わた……しは……じ……ぶんの……気持ちを……押し殺さなきゃと……思って……」
私はとうとう堪えることができずに泣き始めてしまいました。
「です……が……。無理でした……本気で……好きになった……相手への……気持ちを……殺すのは……」
泣き声になってしまい、まともに話せなくなった私にお母さんが優しく撫でてくれます。しかしまだ言えていないことがあるのでこれだけはと私は思いました。
「なので……その気持ちを……殺す必要が……ないのならば……私は……強くて……優しくて……温かい……彼と……秋渡さんと……結婚……したいです!」
私はとうとう俯いて本気で泣き出してしまいました。お母さんは抱いてくれています。
「そうか。ならば、幸紀の相手は決まりだな!」
「ふぇ……?」
「そんなに大好きになった相手とならば幸紀は幸せになるだろう?だったら幸せにしてくれる秋渡君を選ぶに決まっているじゃないか!彼ならば俺も安心して幸紀を任せられるしな」
「そうね。幸紀のこの気持ちを聞いて元々望んでいた話を断る必要はないものね」
お父さんとお母さんは笑顔でそう言います。ですがまだ不安です。
「秋渡さんに相応しい相手になれるでしょうか……。ライバルも多いし……」
思わずネガティブな言葉が出てしまいました。それだけ彼の周りはレベルが高い女性が多いので仕方ないのかもしれませんが。
「こりゃ花嫁修業だな。ま、後は向こうにも聞いてみることだな」
「他の子の負けちゃダメよ?秋渡君の妻になりたいのならば全力で頑張らなきゃ」
「……はい!」
私はお母さんの言葉に力強く返事をしました。それを見てお父さんもお母さんも笑顔で頷いてくれました。
秋渡さん、私、秋渡さんに相応しい女の子になってみせます!だから……私を見ててください!
ーー
と、意気込んだのはよかったのですが散歩の途中で知らない男の人達に絡まれてしまいました。二人いたのですが、二人とも気配をうまく消していたので気付くことができませんでした。五神将の暁春樹が少し動き出してから男の人達はよく女性に何かしようとしてきます。今回は私がターゲットにされてしまいました。散歩をしようと思ったことを後悔しています……。
「嫌!助けてください!秋渡さん!」
私が思わずそう叫んだことを男の人達は馬鹿にしてきました。ですが今の私には短刀がないので抵抗すればするほど危険な目に……。いえ、捕まった時点で危険な目に会いますね。男の人達はとうとう服を脱がせようとしてきました。初めては秋渡さんが良かったな……。私はこれからされることに泣き出して抵抗をやめてしまいました。
「ごふっ!?」
しかしいきなり何処からかペットボトルが飛んできました。近くに誰かいたのでしょうか?ですが女性ではこんな勢いよくペットボトルを顔面に当てることはできないと思いました。となると男の人?ともかく考える前に私は掴んでいた手がなくなったのですぐに男の人達から距離を取りました。そしてペットボトルが飛んできた方角を見ると。
「秋渡さん!?」
先程まで電話をしていた相手が……私の大好きな人がそこにいました。私は思わず彼に走り出して抱き着きます。秋渡さんもそれを受け入れてくれました。しかも安心させるように撫でながら。
「よう、幸紀。今助けてやる」
頼もしい言葉を私にかけてくれる秋渡さんはやっぱり格好いいです。誰よりも……。そして秋渡さんは私の手を離させると私の前に立ちます。その姿はやはり頼もしい背中をしていました。今度は嬉しさによって涙が出てしまいました。
「さぁ、覚悟しろよ?僕の婚約者に手を出したんだからな」
……涙が一瞬で引いて顔を真っ赤にしてしまいました。このタイミングでそれは卑怯ですよ、秋渡さん……。でも……嬉しいです。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
幸「幸紀です」
ア「幸紀さんは秋渡君よりも少し早く婚約相手のことを聞いたんですよね?」
幸「はい。初めは乗り気じゃなかったんですけど……」
秋「まぁお嬢様学校ではよくありそうなことだ」
幸「……相手が秋渡さんとわかったらそんな気もなくなってしまいました」
秋「え?」
幸「写真を見せられた時は驚きました。見覚えのあるイケメンでしたから」
ア「モテる男は辛いですね♪」
秋「イケメンではないんだがな……」
幸「そんなことないです!秋渡さんは誰よりも格好いいんですから!」
秋「ちょ、幸紀、ストップ!」
ア「おお、目の前であの秋渡さんが押されてます。これは珍しいですね」
秋「解説してんな!斬るぞ!」
ア「脅されました!?」
幸「初めて助けられた時なんて……」
秋「あれは……」
幸「抱き締められながら転がった時、秋渡さんは私に痛みを感じさせないようにギュッて抱いてくれました。お陰様で怪我一つなかったんですから……」
ア「あー、私、別室にいますね?」
秋「お前は残れ。逃げんな」
ア「ひどっ!?」
秋「あれは咄嗟だ。偶然起きたことだと言える」
幸「ですがその偶然によってでも私が秋渡さんに助けられたことに変わりはないです」
秋「……まぁな」
幸「それだけではありません。あの青葉龍大からも守ってくれたじゃないですか」
秋「邪魔されたからな」
ア「デート、でしたっけ?」
幸「はい♪あの時も怖かったです。ですが秋渡さんが助けてくれるのはこうなる運命だったんですね」
秋「やめろ幸紀。なんか熱くなってきた……」
幸「あ、すみません……」
秋「シュンとならないでくれ、なんか悪いことをした気分になる」
幸「秋渡さん……やっぱり優しいです……」
ア「ではまた次話で会いましょう!」
秋「おい!?」
オマケ
冬「早く復帰しないと秋渡君がとられちゃう!」
結「まぁ彼モテモテだもんね。頑張りなよ」
冬「当然よ!」
結「……この気合い、別のところでも発揮されないのかしら」




