第六十五話 散歩にて
あれから幸紀と少し談笑してから電話を切る。そして少しまた考える。正直今年になってまだ半年も経ってないにも拘わらずこんなに何かが起きている。五神将と戦ったり色んな人と話すように……あれ?よく考えたらほとんど話してるの女子じゃね?五神将と橋本と相澤を除いたら大体話してるのは女子だ。恋華は昔からだが星華、冬美、愛奈、美沙、舞、幸紀、そして明菜。こいつらは今年になってからだ。他にも凜桜の生徒の弓月とかもそうだな。
「今思えばなかなか濃い半年だな。この後にも何か起きそうだな。夏休みとかは特に怖い……」
夏祭りとか海とか色々ある分、誘われそうな気がする。自信があるとかじゃないが少なくとも去年みたいにのんびりはできそうにないだろうな。課題が出たらなるべく早めに終わらせておくか……。
「それよりも今は幸紀とのことか」
僕はベッドに横になりながら電話で聞いたことを思い出しながら自分がどうしたいのかを考える。冬美と愛奈と幸紀からの告白。容姿は三人ともすごくいい。正直こんな世界じゃなきゃ誰もが泣いて喜びそうな相手が僕に告白してきている。実力が備わっていてリーダーシップ、責任感ある人望がある冬美。雨音財閥の一人娘であり、一途に相手を想ってくれる愛奈。偶然会ったけど助けられたらしっかり恩を返そうとする真面目だが一緒にいて楽しい幸紀。……正直この中から選ぶのはかなり困難だ。とうしたもんか。
「秋渡ー?」
いきなり部屋のドアから明菜の声が聞こえて思わずビックリしてしまった。……情けねぇな。いつもならドアの前に誰かがいればすぐに気配で気付けるのによ。どうやらそこまで迷いが出てきてるみたいだな。
「っ!」
僕は自分自身がこんなことで迷うとは思っていなかった。いや、こうなるなんて思いもしなかった。だからこんなにも動揺しているのか?いや、とりあえずなんとか平静に……。深呼吸してから僕はベッドから立ち上がってドアに向かい、ドアを開ける。そこにはどこか心配した顔の明菜がいた。
「どうした?」
「それはこっちの台詞よ。さっきの電話で何があったの?」
親父と電話してる最中は風呂から上がった舞と明菜に気付いてはいたが……。確かに色々あったと言えるがこいつが聞きたいのはそういうことじゃないだろう。きっと気配に気付かないほど悩んでいた僕に疑問があったのだろう。僕の異変は親父との電話後。だから明菜は舞が何かをしてる今のタイミングで聞きに来たのだろう。
「大したことじゃない。少なくとも五神将は関係ないからな」
「……そう?それならいいけど……。でも長谷川幸紀のことならしっかり考えた方がいいわ」
「……なぜ幸紀を?」
「さっきの電話で言ってたのを聞いたからよ」
僕は明菜の言葉に驚いたがよくよく考えたら結構な声で話してたから聞こえても不思議ではない。今度から声のボリュームに気を付けよう。とりあえずずっと立ったままなのもなんなので部屋に明菜を入れる。明菜は「片付いてるわね」と言ってベッドに座る。僕も机の椅子に座る。
「……幸紀だけならこんなに悩まなかったんだがな」
「あら、他にもいるの?」
明菜は驚いた反応をするがどこか納得した顔をしている。つまりは今の言葉だけでわかったってことか。
「ああ。他にも二人な」
「え、二人だけなの?」
「え?」
「え?」
二人だけとはどういうことだ?他にもまだいるというのか?僕は他にいるのかを考えるが特に思い付かない。ひょっとして恋華、星華、美沙もそうだと言うのか?
「あなた、随分鈍いのね」
「なぜだろう、よく言われる」
明菜はおかしそうに笑いながら話す。僕は橋本とかによく鈍いと言われるがなぜなのかがわからん。
「まぁそれはそれとして話してもらえない?できることなら協力するから」
明菜は協力を申し出てくれる。こう言った話って相談してもいいものなのだろうか?今まで誰かに相談なんてしたことがほぼないからわからんな。だが一人でこれだけ悩んでるんだ。相談に乗ってもらおう。
「ああ。もしもの時は頼む」
ーー
僕から話を聞いた明菜は少し考え始める。心なしかかなり深刻そうに考えている。え、そんなに問題なことなのか?
「婚約者か。それはいきなり言われたら戸惑うのも無理はないわね……」
明菜は頭の中で色々と整理をしているのか、腕を組んで目を瞑っていた。親父達のせいかいきなり何か言われるのはそこまで動じることはないのだが、さすがにレベルが違う。僕も慣れるまでは随分時間がかかった。親のことなのに親父は一味違うからな。お袋はなんというかほわほわした感じだ。……なんで破天荒な親父と癒し系のお袋が結婚なんてできたんだろう……。
「うーん、とりあえず今はどうしようもないわ。何かあればまた連絡はしてくるだろうからそれを待つしかないわね」
「やっぱそうだよな。親父は一応僕達の気持ちを優先してくれるとは思うが……」
だからといって幸紀の親は違うかもしれない。凛桜の生徒は大体親の決めた相手と結婚する、ということが多々あるという。もしそうだとしたら幸紀の両親は僕をその相手とした前提で話を進めているだろう。親父も承諾しちまってるし。……駄目だ、頭が混乱してきた。夜風にでも当たるか。
「……すまん、ちょっと夜風に当たってくる」
「わかった。いってらっしゃい」
明菜は止めることなく見送ってくれた。
ーー
外に出て軽く散歩でもするかと思い、辺りをブラブラと歩き始めた。夏に入った時期だからか、夜でもそこそこ暑い。
「(少し風があるが風もぬるいな)」
とりあえずコンビニでも行って飲み物でも買うか。僕は近くのコンビニまで歩いて向かった。
少ししてコンビニに着き、店に入って飲み物コーナーの中にある冷たいスポーツ飲料水を購入して外に出る。
外に出てついでだからと公園にまで来る。そこにあるベンチに腰を下ろすとさっき買ったスポーツ飲料水を袋から出してキャップを開けて飲む。外がそこまで寒くないからかおいしい。
「だからよ、いいじゃん少しくらい!」
「そうそう。きっと楽しいぜ?」
……なんでこう僕が外に出ると変なことをしている野郎共をよく見るのだろうか。何かのフラグが立ったのか?けど今回はこんな夜に出てる相手が悪いだろう。僕は男共の言葉を流しながらスポーツ飲料水を飲む。
「やめてください!私はすでに心に決めている人がいるんです!」
抵抗してる女の声が聞こえた。それすらも流そうと思ったのだが、それができなかった。だって今の声、聞き覚えが……。
「そんな相手ほっときなって!」
「俺らといた方が楽しいぜ?」
「嫌!触らないでください!」
なおも男共に抵抗してる女。僕はベンチから立ち上がり、持ってる飲み物を握る。女の声。間違えるわけない。だって……。
「(ついさっき聞いた声じゃねーか!)」
そう、聞き間違いでもしない限り声の主は幸紀だ。遠くからじゃよくわからないし暗いところで声をかけられたからか、顔は見えなかったが、声だけならば間違いない。
「おら早くしろ!」
「チッ!無理にでも連れてくか!」
「嫌!助けてください!秋渡さん!」
おい、個人名を叫ぶな幸紀。それ、男共には逆効果だぞ。
「秋渡?プッ、叫んだところで助けになんて来るわけねぇじゃねーか!この時間にぶらつくような奴じゃないなら余計にな!」
案の定男は幸紀の腕を掴みながら馬鹿にする。確かにそんな物語のようにタイミングよく好きな異性が現れることはないのだが……。
「……どうして今日に限ってこんなタイミングがいいのかね」
僕はやれやれと呆れながらも声のする方へ歩き出す。が、さすがに幸紀に何かあったら親父に何か言われるかと思い、お小言はごめんこうむりたいと思った。なので持ってるペットボトル(中身入り)を幸紀の腕を掴んでるだろう男の気配のする方へ投擲する。あ、手加減忘れてた。
ゴッ!
「ごふっ!?」
男はいきなり飛んできたペットボトルに反応できず、モロに顔面に食らった。幸紀はいきなり掴んでいた手がなくなって戸惑う。もう一人の男も思わず固まったようだ。幸紀は最初は固まっていたが、すぐに男から離れた。僕はそんな中平然と歩きながら近付く。すると気配に気付いたのか、幸紀が振り返る。そして僕を確認するやいなや。
「秋渡さん!?」
あまりのタイミングに本気で驚いていた。しかし側にすぐに来る。
「よう、幸紀。今助けてやる」
僕は幸紀を撫でてあげながら男を睨む。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
恋「恋華です」
愛「愛奈です!」
ア「皆さんクリスマスはいかがでしたでしょうか?」
秋「……特別話ではかなり恥ずかしかったぞ」
恋「秋渡がデレた!?」
愛「というか特別話にしては羨ましすぎます!私も同じようにしてください!」
星「……そうだー」
美「わ、私もできれば……」
舞「お兄様との素敵な一夜……素敵すぎます!」
ア「なんかたくさん来た!?」
秋「帰っていいか?」
ア「ダメですよ」
星「……秋渡、今度家に来る?」
秋「どっちでもいいぞ」
恋「家には昔から来てるし……ああ、どうしよ?」
秋「けど最近行ってねーな。久々に恋華の親に挨拶に行くか」
愛「秋渡さん、是非家にも!」
秋「久英さんがなんかしてきそうだ……」
愛「あ、あれはその……」
恋「前座があるのね……」
美「秋渡君、今度来てみる?」
秋「橋本に殺されそうだ。それにおいそれとお邪魔するわけにはいかんだろ」
美「な、なんで?」
秋「そりゃ、な?」
舞「は、はい。美沙さん、さすがに厳しいかと……」
美「へ、平気だもん!秋渡君なら大丈夫だもん!」
ア「うわー、ファンに聞かれたら嫉妬の嵐ですね」
舞「それと美沙さんの自信はどこから来るのでしょうか?」
秋「わからん。が、嫉妬されるのは勘弁願いたいな」
美「う、で、でもぉ……」
秋「わかったわかった。今度行くよ。何かあったらフォローしてくれよ?」
美「!うん♪」
舞「ふむ、お兄様は女の涙に弱いと……」
恋「それはないんじゃないかな?」
愛「え?」
恋「小学校の頃私を苛めてた人に女子が多かったけど容赦なく泣かせてたし……」
ア「容赦ないですね……」
秋「恋華を守るためにやったまでだ」
恋「先生も困ってたよ。腕っぷしは先生よりも上だったし」
ア「……本当に小学生だったんですか?」
秋「ああ。それはそうとそろそろ終わろう」
ア「そうですね。では……」
ア・秋・恋・星・愛・美・舞「また次話で!」
オマケ
秋「ところで冬美はいつ復帰するんだ?」
ア「さすがにそろそろかと」
秋「……何か奢ってやろう」




