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特別話 クリスマス編

メリークリスマスです

ピリリ、ピリリ。


朝に軽く刀を振って、体を動かして体を温めた秋渡はシャワーを浴び、舞や明菜にシャワーを勧められたので浴びてきて上がってから部屋に戻ると秋渡は自分のスマホが鳴っていることに気が付き、スマホを手に取る。どうやら幸紀からのようだ。嫌な予感を覚えつつも秋渡はひょっとしたら本当に何か用事かもしれないと思い、電話に出る。


「もしもし?」


『あ、秋渡さん。おはようございます』


「ああおはよう。朝からどうした?」


今日は学校も終業式くらいしか特にないが、それでもこんな朝早くから電話をかけることには何かあるだろうと秋渡は考えている。弓月からの電話じゃなかったのは安心しているが、幸紀は婚約者だと知ってしまったのでどう対応したらいいか未だに悩んでいた。だが幸紀はほぼいつも通りなので気にしない方がいいのだろうかとも思っている。


『はい、その、朝早くから電話は申し訳ないと思ってはいるのですが……』


どこか歯切れの悪い幸紀の声に秋渡は僅かにだが眉を潜める。大方弓月に何か指示をされたのだろうが、特に追及はしないことにした。


「構わん。それで、どうした?」


『秋渡さんは学校が終わった後は何か予定はありますか?』


「僕か?それって……」


『あ、いえ。その……』


やはり言いづらそうにしていることから弓月が関係してるのかと秋渡は思ったのだが、どうなのだろうか?秋渡のみの予定を聞いてきたことから個人で何か用事があるのだろう。凛桜は女子生徒しかいないことから男子に声を掛けることは婚約者か余程仲が良くなければ基本的にはない。秋渡はそんな凛桜の生徒からアドレス交換をしているから知らなかったが、前に弓月が語っていた。


「弓月に何か言われたのか?」


弓月ならばそれくらい普通にありそうなので聞いてみたが、よく考えれば何かあれば直接連絡をしてくるだろう。時計破壊戦で秋渡に惚れた時の彼女の行動は誰もが驚愕していた。特に同じ生徒会であった佐々木と斎藤は他の誰よりも驚いていた。だからこそ秋渡を余計に敵視していたのだが、秋渡はそんな視線を軽く流していた。だがメアドを交換した後は何度も弓月からメールを送られてきていてそのことから何かあれば自分で連絡をしてくる。


『いえ、会長から何か言われたわけではありません。私個人の……うぅ……』


恥ずかしいのか、なかなか言葉が出てこない幸紀を秋渡は幸紀からの言葉を待つ。別にまだ時間には余裕があるので気軽に待っていた。それから三分くらい経ってから幸紀は深呼吸して息を整える。


『秋渡さん、何も予定がありませんでしたら私とデートしてください!』


まるで告白するかのように幸紀は声を張りながら言ってきた。秋渡は声の大きさに思わず少し耳からスマホを離したが、すぐにまた耳に当てる。


「んな大声じゃなくても聞こえるぞ」 


『はうっ!?』


幸紀は大声を出したことに恥ずかしがって思わず変な悲鳴をあげてしまった。秋渡は幸紀が恥ずかしがっているところを想像してフッと笑う。自分の婚約者となっている幸紀を微笑ましく思いながら秋渡は学校後の予定を考える。


「(覚えてる限りでは確か何もなかったな。行けば愛奈とかに声は掛けられそうだが……)」


それに舞に言い訳を考えなければならない。舞は秋渡と過ごしていることに幸せを感じているようなので、こういった日に秋渡が出掛けるとなると間違いなく激しく追及してくるだろう。だが学校が違う幸紀とは舞だけでなく、深桜にいる誰よりも会う機会は少ない。なので秋渡は幸紀とデートしてもいいだろうと思ってはいるが、周りがそうはさせてくれないだろう。予定があると言えば基本的に黙って引き下がる人が周りに少ない秋渡はなにかしら聞かれるだろう。


「ふむ、そうだな。今のところは特にないが学校に行ったらどうなるかわからんな」


『そう……ですよね。ふふ、すみません、こんなこと朝から聞いてしまって……』


心底残念そうな声をしながら落ち込んでいないことをアピールするように元気そうな声で誤魔化そうとしている幸紀に秋渡は軽く罪悪感を覚えた。だがここでふと気付く。


「幸紀、一つ聞いていいか?」


『え、はい。なんでしょう?』


「門限とかあるか?」


『門限、ですか?なぜですか?』


秋渡はもし門限が特になかったり多少遅くても平気ならば後から少しでも時間を作ってやろうと思い、聞いてみる。もしこれで門限が早ければ少々厳しいが、そうでなければ遅くに出歩くのも一つの手だと考えた。そうすれば例え誘われても途中で抜け出して幸紀に時間を割いてやることができる。それを説明してやると幸紀からは無言が返ってくる。


「(やはり長い時間がいいのか?それとも門限が厳しいか?)」


だが幸紀は少し携帯から耳を離して誰かに何かを聞いていた。秋渡は多分親だと判断して待つ。……なぜか嬉々とした声が聞こえ、幸紀が反論する声も聞こえる。一体何を話しているのだろうか……。


『すみません、ちょっと親に聞いてみたのですが秋渡さんが送ってくれるのであれば構わないそうです。それかふ、二人でホテルに行くならば……その……よ、予約するとも……』


秋渡はやはり親に聞いていたのかと納得し、送るのは構わないと思っている。家は知らないので護衛みたいにしかならないが……。それにしてもホテルか、と秋渡は思う。ホテルで泊まることは構わないが舞が寂しがるだろう。だがたまにはとも思う。


「ホテルか。悪くないな……」


『えっ!?しゅ、秋渡さん!?』


何気ない呟きに幸紀は戸惑った声をあげる。秋渡は思わず呟いたことに「あ、やべ」と思ったが、別にそこまで困らんからいいかと思い直す。


「ああ。ホテルはあんまし言ったことないからな。個人的に行ってみたい気はするぞ」


『あ……。で、では一緒に行きますか?』


「ああ。いいぞ」


さらりと了承した秋渡に幸紀は電話越しでもわかるくらい「えへへ……」と笑う声が聞こえていた。……直後に幸紀が親に対して何か言う声も聞こえていたが……。


『で、ではそのようにしましょう!く、詳しくわかったらメールします!』


「わかった。集合場所は凛桜学園の前で時間は八時くらいでいいか?」


『は、はい!で、ではそろそろ学校へ行きます。朝早く失礼しました』


「ああ、じゃあまた夜な」


『はい!』


時間と集合場所だけは決めて秋渡は通話を終了させた。そして制服に着替えると学校用の鞄を持って部屋を出た。


ーー


「ほ、ホテル……ですか?」


舞に今日は帰らないと朝御飯時に伝える。当然理由を聞いてきたが秋渡は正直に答えた。明菜は呆れながら聞いていたが舞はショックがでかいのか、茫然としている。だが自分の好きな兄がワクワクしているのに文句を言うことはできなかった。舞は今日だけと心で何度も唱えながら我慢することにした。秋渡はそんなことも知らず帰ったら準備しなきゃなと思いながら味噌汁を飲んでいた。


ーー

学校に着くとやはり皆クリスマスのことを語っていた。カラオケに行こう、どこかでパーティーしよー、みたいな会話があちこちから聞こえる。秋渡も席に着いたら恋華、星華、愛奈、美沙、舞、橋本、相澤と同じようなことを話していた。


「今年のクリスマスはみんなどうするんだ?」


橋本がそう切り出すとそれにまず愛奈が答える。


「秋渡さんと素敵な夜を過ごしたいですね!二人でイルミネーションを見たり寒いから手を繋いだり……」


「悪いが夜は先約がある」


秋渡は泥沼にはまらないようにするために愛奈の話を遮って釘を打っておいた。だが秋渡の言葉には愛奈だけでなく、舞以外の他の女性陣も反応した。


「しゅ、秋渡夜は誰かと約束してるの!?」


「……誰と?」


「私を放っておいてどなたと約束したのですか!?」


「お、教えて、秋渡君!」


恋華、星華、愛奈、美沙は秋渡に迫って聞く。秋渡は腕を組みながら特に動じもせずに答えるか否かを考える。だが言ってもいいかと軽く考え、口を動かす。


「幸紀だ。長谷川幸紀。あいつと約束がある」


「へぇ、凛桜の生徒会の人とか?」


橋本が驚きながらも楽しそうに反応する。秋渡は「ああ」と答え、朝に電話が来たことを告げる。だが女性陣はもっと早く行動すればよかったと後悔していた。秋渡に好意を抱いている人は多く、その範囲は深桜だけでなく凛桜にまで及んでいる。だが秋渡は告白してきた人以外からの気持ちは全くわかっていない鈍感なのでそんなことは微塵も知らない。知ってもおそらく軽く一蹴するだろう。

それはそうと女性陣はなぜ悔しがっているいるのかが秋渡には理解できなかった。


「(ひょっとしてみんなでどこかに行きたかったのか?)」


もし皆で何か計画していたのならばさすがに申し訳ない。


「ははは、世刻。長谷川さんとは何時から約束してるんだ?」


橋本はなぜか笑いながら時間を聞いてくる。秋渡が時間を答えると橋本「結構遅いんだな」と答えた。秋渡自身も思っていたが恋華達から何か言われると思ったからこそ遅めにしていたので特に何も思っていない。


「まぁ一回帰ってから準備して出なきゃだからお前らとどこか行くにしても早めに一回帰るがな」


「そうか。だ、そうだぞ?」


橋本は笑いながら女性陣を見やる。恋華達は輪を作って何か相談をしていた。だが秋渡はそれをそっとしておく。橋本と相澤の二人に「お前らはどうするんだ?」と聞く。


「俺はとりあえず街を軽く回るかな。んで家でのんびりしているさ」


と橋本は言う。


「俺は帰ってテレビでも見てるぞ。この時期は面白いのが多いからな」


と相澤は言う。

二人のを聞いてそれはそれでのんびりできそうだと思い少し羨ましく思った。幸紀と二人だから何かあるとは思っていないがそれでも一人の時間は今日はあまりない。


「くっ!どうする!?」


「……とりあえず今日は午前で終わり。……だからせめて五時くらいまでは街を回るのはどう?」


「本当は二人きりがよかったのですがこの際ここで口論になるのは嫌ですしそれが無難そうですね……」


「皆で回るのも楽しそうだし私はいいと思うな」


「お兄様とイルミネーションを見れるのならば今日は我慢します」


どうやら女性陣も話は付いたみたいだ。代表で恋華が秋渡に伝えると秋渡はそれを承諾した。折角だから橋本と相澤もどうだ?と誘ったが二人は首を横に振った。橋本曰く秋渡のハーレムと行動したら後が怖いとのこと。と、秋渡にはいまいちわからなかったが、まぁ仕方ないかと強くは言わなかった。


終業式などは特に何もなかったので割愛。


ーー

放課後。


成績が良かった人や良くなかった人で大分テンションの差が出ている。秋渡は基本的に成績は上位なので特に気にしていないが、橋本は少し厳しい顔を、相澤は溜め息を付きながら落ち込んだ顔をしていた。秋渡は二人に声を掛けるか迷ったが、とりあえず声を掛けるくらいなら構わんかと思って声を描けることにした。


「聞いていいがわからんが二人はどうだった?」


秋渡の言葉に橋本がまず反応した。


「前よりは少し落ちたよ。まぁ赤点はないからいいけど」


「俺も赤点はなかったけど結構ギリギリの科目が何個かあった」


どうやら二人とも追試は免れたみたいで秋渡は「そうか」と答えつつ安堵していた。もし追試があるとなったら今どんな言葉を掛けても嫌味になってしまうからだ。


「世刻は……聞くまでもないか」


橋本と相澤は秋渡の成績を把握しているため、早々に赤点があるとは思ってはいなかった。秋渡は自分の成績表を見て家庭科だけが微妙なのを渋っていたが……。家庭科以外は基本的に九十五点以上なのでまぁいいかと思っている。


「それよりほら、お前の嫁の一人が迎えに来たぞ」


橋本は秋渡の後ろを指しながら笑う。秋渡は「嫁なんていつ持ったんだ?」と思いながらも振り返るとそこには橋本の言葉に嬉しそうに頬を緩ませている愛奈がいた。


「えへへ。橋本さんお上手ですね♪」


ニタニタしながらも照れる仕草だけは上品な愛奈に秋渡はやれやれと溜め息を付く。ともかくこれから恋華、星華、愛奈、美沙、舞、そして先程誘っておいた冬美に明菜と男子が一人に対して女子が七人というアンバランスを抱えながらもそのメンバーで街を回る。秋渡は何事もないといいと思いながらも無理かと諦めている。そう、このメンバーには人気アイドルの美沙がいるのだ。そりゃ無理だろう。ともかく秋渡はコートを羽織って鞄を持ち、愛奈達と教室を出た。


ーー


玄関で全員が合流すると早速街へ向かう。それぞれ雑談をしながら移動をしてるが秋渡は居心地が悪かった。道中での周りからの目が痛いのだ。普段はそこまで気にしないのだが、今日はクリスマスということもあって一人でいたり友達同士でいる人も多い。そんな人からの視線は嫉妬やらなんやらでいっぱいだ。秋渡はややうんざりしてるが夜はそれがないと我慢することにした。


「わぁ……。綺麗な飾り付けですね♪」


ピンクのコートを着て手を合わせながら愛奈が街にあるクリスマスツリーに反応をする。


「……綺麗」


星華も見入るようにして眺めていた。恋華達も同様にだ。秋渡も同じように眺めてはいるが特に表情は変わらない。だが内心では皆と同じように綺麗だとは思っている。


「夜に見ればさらに綺麗だろうな」


「そうだね」


秋渡の言葉には美沙が反応した。今美沙が来ているのは制服だがその上には秋渡が以前に渡したロングコートがある。首にもマフラーを巻いており、色は白。秋渡は自分が渡したロングコートを着ている美沙を見て折角だからレディース用のコートを着たらもっとかわいいだろうにと思ったが口には出さなかった。


「クリスマスか。今まではこんなに和やかな雰囲気には触れることすらなかったな」


明菜は櫻井や雷紅達といた頃を思い出しているのか、目を瞑っていた。だが目を開けると口角を上げる。


「こういうのもいいわね」


どうやら満足しているようだ。それに舞はクスリと笑っていた。秋渡もフッと笑って櫻井から解放されてよかったなと思っていた。


「さて、そろそろ移動しよう。店も色々イルミネーションが施されているだろうからな」


秋渡は皆の返事を聞いてから移動をした。


ーー


移動してる最中。まぁ美沙がいるから当然だが団体でも声を掛けられる。おかげで今は……。


「み、美沙さん!サインください!」


「美沙よ!かわいい!」


「他の子もかわいい子多いな」


「あの男は?」


「男なんて興味……キャー!すっごいイケメンじゃない!」


「本当だ!あの銀色の髪、綺麗……」


と、こんな感じで美沙だけでなく他の奴等にも反応がある。おかげで進めない。美沙は笑顔で接しているが舞や明菜は鬱陶しそうにしていた。かくいう秋渡も結構うんざりしてる。


「うぅ……お兄様……」


舞はとうとう僕にしがみついてしまった。明菜なんてポケット隠しているナイフに手を伸ばしてるが、冬美に止められる。明菜は渋々やめたが冬美も少しうんざりした顔をしていた。


「(やれやれ、こりゃこれだけで時間がなくなりそうだ)」


秋渡がそう思い始めた時だった。


「おいおい、そこのアイドル。俺らと最高の日を過ごさねぇか?」


ガラの悪い連中が五人ほど現れた。まぁ今は冬美や明菜がいるからそんなに問題はないと秋渡は思っていた。


「え?いえ、それは……」


急に現れた男達に周りの人達は離れていく。すると美沙だけでなく恋華達も目に映る。当然男共は下劣めいた目で皆を見る。


「げへへ。他にも良さそうなのがいっぱいいるじゃねぇか」


リーダーらしい背の高い男が舌で舐め回すように恋華達を見る。舞や美沙は思わず恐怖で秋渡の後ろへ隠れる。そこで初めて秋渡が目に入ったのか、目を細めて秋渡を見る。


「なんだテメェは?男は失せな。俺らはそこの女達に用があるんだよ」


「下劣めいた目で僕の大事な人を見てた奴には何があっても近付けるわけにはいかないな」


秋渡は皆の前に出て男達を睨む。男達はそれに怪訝そうに見ていたが秋渡はそれを無視して腰に差してある刀を抜いて男達に刀の切っ先を向ける。男達は慣れた手付きで銃を取り出して秋渡に向かって構える。


「げへへ。俺達は五人に対してテメェは一人だ。勝ち目なんてねぇぜ?」


リーダーが笑うと他の男も笑う。だが秋渡は男達からは全く恐怖を感じていない。そりゃ男達の銃なんて黒坂に比べたら格段に弱いので当たり前と言えば当たり前だが……。


「兄貴、あいつの女、全員胸がデカイぜ?」


「ああ。ヤりがいがありそうでいいねぇ。美沙ちゃんもスタイルいいからな!げへへ。最高のクリスマスじゃねぇか!」


「ひっ!?」


美沙は自分の体を両手で包み込む。他の女子も同じだ。秋渡は益々不機嫌になる。


「最高のクリスマスか。じゃあお前らを真っ赤にしてクリスマスを味わうといい」


秋渡は高速で動くとまず周りの男を斬る。男達は銃を構えたまま倒れた。


「……え?」


「そういや言ってなかったな。僕は美沙の護衛でもある。だから今の発言で僕がお前らを攻撃することは認められる。だから……覚悟しろよ?」


秋渡の発言とその殺気から男は思わず怯んだ。秋渡は美沙達を守るためにまた皆の前に立つ。男は後ろで倒れてる仲間を一瞬で倒した目の前の銀髪の男を見る。秋渡の殺気は本物であり、それは五神将のものだから余計に恐怖を駆り立てる。


「ひ、ひぃっ!?ひ、人殺しめ!」


男から思わず出た言葉は秋渡の後ろの女性陣に対して敵対心を持たせるものだった。秋渡ですら背後からの気配に少しゾッとしている。


「いい度胸ね?私達を犯そうとしたくせして」


「全くです。そもそも貴方が余計なことをしなければよかっただけなのですよ?」


「……秋渡への悪口は許さない」


「お兄様に対してなんという口の聞き方なのでしょう。許せませんね」


「舞や秋渡の敵は私の敵」


冬美は刀を構え、明菜はナイフを構える。恋華は弓を構えて舞を後ろへ下げさせる。秋渡は女は怒らせると怖いな、と思いながら刀を仕舞う。男はそれで助かったと思ったのか、安堵の息を漏らすがすぐにそれは覆された。冬美と明菜の殺気だ。


「覚悟、出来てるわね?」


「後ろの連中みたいに済むと思わない方がいいよ」


「う、うわぁぁぁぁぁっっ!!」


男の断末魔を聞きながら秋渡は美沙達の所へ戻る。


「怪我はないか?」


「う、うん、ありがとう……」


顔を赤らめながらはにかむ姿は世の男女を魅了させるのに充分なものだった。秋渡はよかったと思い、冬美と明菜によってフルボッコにされた男を見る。二人は倒れた男達を放置して皆のとこに来た。


「さて、じゃあ行くか」


秋渡は何事もなかったように言うと全員が頷いて移動を再開した。


ーー


あの後は全員で楽しく店を回り、気付けば夕方になっていた。秋渡は時間を見てそろそろ準備をしなきゃなと思っていた。


「皆、そろそろ……」


秋渡がそう切り出すと全員がガッカリしながらも誰も文句を言わなかった。秋渡がなんとか時間を作ってくれたからこそ楽しめたのだ。トラブルもあったが、それもなんとかできたので全員がほぼ満足できていた。


「うん、そうだね。じゃあ今日は解散かな?」


美沙の言葉に全員が頷いた。そしてそのままその場で解散をすると秋渡は恋華、舞、明菜と一緒に家へ向かった。

家に戻ると秋渡はすぐに部屋へ行き、着替えてから荷物を用意する。幸紀から連絡が来てるか確認すると、メールが来ていた。開くと幸紀からで内容を見る。


『件名:ホテルの予約


内容:親がホテルの予約を取ってくれました。お金も私の親が出すとのことです。なのでその辺りは気にせずに楽しんでほしいです。場所は深桜ホテルの高級部屋ということなのですが、よろしかったでしょうか?』


秋渡は思わずメールの内容を疑った。まさか全額負担されるとは思っていなかったので驚きが大きかった。だがそこで断るのもなんだか悪いと思い、秋渡はとりあえず一泊分の荷物を持って部屋を出る。リビングに顔を出して一声掛けて玄関に行くと舞と明菜が見送りに来た。


「お兄様、お気を付けていってらっしゃいませ」


「いってらっしゃい。変なことするんじゃないわよ?」


「しないよ。……行ってくる」


秋渡が靴を履き終えると立ち上がる。舞は心配そうに、明菜は冷やかすように声を掛けた。そして秋渡はドアを開けて出た。


ーー


幸紀との待ち合わせ場所の凛桜女学園へ行くとそこにはもう幸紀がいた。


「あ、秋渡さん」


「すまん、待たせたな」


「いえ、では参りましょう」


幸紀と一緒に歩き出すと改めて幸紀の格好を見る。上は白いコートで薄黄色のマフラー。下は水色のミニスカートで黒いソックスを履いていた。オシャレができている辺りはさすが凛桜の生徒である。昼間の恋華達も学校帰りだがそれでもコートを選ぶセンスはあったし普通に似合ってもいた。だが私服と組み合わせた幸紀はさらにかわいかった。


「楽しみですね、秋渡さん」


「……ああ、そうだな」


幸紀が無邪気な笑顔を向けて話し掛けると秋渡は幸紀から目を逸らす。その姿に幸紀はさすがに不自然に思い、首を傾げた。


「どうかしましたか?」


「……服、似合ってるぞ」


「……え?」


秋渡が若干照れながら頬を指で掻きながら服を誉めると幸紀が顔を赤くする。だが嬉しそうに俯くと幸紀は小さな声で「ありがとうございます……」と呟いた。その後は少し無言になったが、すぐに深桜ホテルに着いた。受付でチェックインをすると鍵を受け取る。が、一つしか渡されなかったことに秋渡と幸紀は疑問を抱く。そのことを聞くと受付の人は営業スマイルで答える。


「はい、ご予約を頂いた際に同じ部屋で構わないと窺っております」


「お父さん!?」


幸紀も知らなかったことらしく、幸紀は思わず叫ぶ。今長谷川宅では幸紀の父親はいい笑顔をしていることだろう。秋渡はあの親父の親友ならやりかねないということを懸念していた。ともかくキャンセルするわけにもいかないので鍵を受け取って部屋へ行った。部屋に入るとそこには高そうなソファやら少し大きめの……いや、二人用のベッドが置かれていた。


「お父さんに嵌められた……」


「ああ。そうみたいだな。あの親父の親友なんだからこんなことしてもおかしくないことになぜ気が付かなかったんだろう……」


「ど、どうしましょうか?」


「……いや、とりあえず今日は普通に泊まろう」


冬じゃなければソファで寝るという手もあるが、掛け布団も一つしかないことからそれもできそうにない。とりあえずもう開き直って夜を迎えることにした秋渡はコートを脱いでハンガーに掛ける。そしてベッドに座るとそのふかふかした感じがいいと思った。


「幸紀もとりあえず座りな。もう開き直った方がいい。文句なら帰ってから存分に言うといい」


「うぅ……。しゅ、秋渡さんは私とその……寝ても……」


「別に構わんさ」


「そうですか。それなら……」


照れながらとりあえずコートを脱いでハンガーに掛け、マフラーを取ると鞄の上に置く。そして秋渡の横に座ると息を吐く。


「ふぅ……。ベッドふかふかですね」


「ああ。……そういや全額負担とか悪いな」


「いえ、これくらいは……」


部屋に着いてから幸紀はずっと恥ずかしそうにしていた。かくいう秋渡も全く意識していないわけではない。時々幸紀は秋渡を盗み見ているが、秋渡は見た目は平然としているように見えている。


「あ、秋渡さん、お飲み物は如何ですか?」


「ん?ああ、ありがとう。貰うよ」


幸紀が置かれているポットからお湯をコップに淹れてコーヒーの粉を入れる。入れてスプーンで混ぜるとそれを秋渡へ渡す。秋渡はお礼を言ってから一口飲む。秋渡の飲む姿勢に幸紀は思わず見惚れていた。


「美味いな」


「よ、良かったです……」


「幸紀」


「はい?」


「風呂先にいいぞ?」


夜は冷えていただろうし時間的にもう入っててもいい時間だ。なので秋渡はレディーファーストということで先を譲ることにした。しかし幸紀は少し考え、そして秋渡を見る。


「いえ、私は長湯になるので秋渡さんからお先にどうぞ」


「ん?そうか?……ならお言葉に甘えるか」


長湯なら後の方がいいかと考えて秋渡は先に入ることにした。コーヒーを飲み終えてから秋渡は鞄から必要なものや着替えを取り出してから部屋の洗面所へ行った。

幸紀は一人でコーヒーを味わいながら秋渡のことを考えていた。強さは弓月を手玉に取れるほど。だが大事な人を守るという優しさは持ち合わせている。だから彼に惚れる人は多いだろう。そう考えると今この状況は彼に惚れてる人にとっては羨ましすぎるだろう。


「そう考えると嬉しすぎますね、この状況。会長に嫉妬されそうです」


逆に言えばさらに距離を縮めることができることでもある。幸紀は背中を流すかどうか悩んだが、恥ずかしさが勝る。幸紀は頬に手を当てながら秋渡が上がるまで悩んでいた。


ーー


「幸紀、上がったぞ」


結果的に幸紀は背中を流しには行けなかった。秋渡はなぜか落ち込んでいる幸紀に首を傾げたが、特に理由が思い付かなかった。だが幸紀は秋渡の風呂上がりの姿に顔を赤らめた。普段はサラサラな髪が湿気でくっついている分普段は見れない姿が今目の前にあった。


「っ!」


幸紀は思わず全力で顔を逸らしてしまった。秋渡は突然目を逸らされてどうしたのかと思う。


「ど、どうした?」


「~っ!な、なんでもないですよ!?」


顔を赤くしながら目を逸らした幸紀に秋渡は戸惑った。


「お、お風呂いただきますね!」


幸紀は風呂のセットと着替えを持って浴室に入っていった。秋渡はよくわからなかったが、とりあえず本を読んで待つことにした。


ーー


「お風呂いただきました」


一時間くらい経っただろうか。幸紀が風呂から上がってきた。秋渡は本から顔を上げて幸紀を見ると風呂上がりだからか顔が火照っていた。その姿が艶やかで秋渡は思わず固まってしまった。彼女の服装も今はパジャマであり、普段よりもかわいく見える。


「秋渡さん、どうかしましたか?」


見惚れていたところで声を掛けられて秋渡は少し慌てる。


「あ、いや、なんでもない」


「?そうですか」


そう言って幸紀は秋渡が座っているソファの横に座る。幸紀からはシャンプーのいい匂いがして秋渡は少し頭がクラクラしていた。


「ふぅ……気持ち良かったです」


「そうか。それはよかったな」


幸紀はまだタオルで髪を拭いていた。秋渡は本を読むことで戸惑いを誤魔化していた。


「んー!そういえば秋渡さん」


「ん?」


「いつも何時に寝ていますか?」


幸紀の質問に秋渡は顎に手を当てて考える。


「基本的にはバラバラだな。遅い時は本当に遅いし」


「そうですか。あの……」


幸紀は元々赤かった頬をさらに赤らめる。秋渡は本を閉じて幸紀を見る。


「今日は一緒に寝るのですから……頭を撫でてほしいなって思いまして……」


もじもじしながら言う姿はとてもかわいい。秋渡は横にいるかわいい彼女に思わず抱き締めたくなる衝動に駆られたがなんとか耐える。だがそのお願い事で秋渡はどうすればいいか悩んだ。が断る理由もないので秋渡は承諾した。


「ふわぁ……。ありがとうございます!」


幸紀のその屈託のない笑顔に秋渡はなんとか堪えることができた。


ーー


それからしばらく話したり外の景色を見てイルミネーションを楽しんだりして時間を潰した。そして二十三時くらいになった辺りで……。


「秋渡さん、これプレゼントです」


ニッコリと笑いながら少し小さめな箱を渡してくる幸紀。秋渡はキョトンとしたがすぐに口角を上げる。


「ありがとな」 


「いえ。秋渡が喜んでくれるといいのですが……」


幸紀はお礼を言われて嬉しがるが、すぐに不安に変わる。


「開けていいか?」


「はい」


秋渡は確認してから箱をに結ばれているリボンをほどいてカパッと開ける。そこには桜の形をしたアクセサリーが施されたネックレスが入っていた。


「その……秋渡さんは桜とかが好きと聞いたことがあるので……。ど、どうですか?」


「……嬉しいよ。ありがとう」


「あ……よ、良かったです……」


幸紀は心底安心したようにホッとした。秋渡はその姿を見てフッと笑い、そして自身の鞄から小さな箱を取り出す。そしてそれを幸紀に手渡す。


「え?」


「お返し、てなるけどクリスマスプレゼントだ」


「……開けていいですか?」


「もちろんだ」


幸紀は嬉しそうに笑いながらリボンをほどいて蓋を開ける。そこには雪の結晶の形をしたアクセサリーが施されたネックレスが入っていた。


「まさか同じネックレスをプレゼントするとは思わなかったがな」


秋渡は薄く笑うと幸紀はプルプル震え、そして。


ギュッ!


秋渡に抱き付いた。さすがの秋渡も驚いて咄嗟に反応できなかった。


「幸紀?」


「ありがとうございます!秋渡さん!」


嬉しそうに顔を上げる幸紀を見て秋渡は笑い、頭を撫でる。


「こんなに綺麗なネックレスをプレゼントしてもらえるなんて……嬉しいです♪」


「喜んでもらえて何よりだ」


すぐに着けたいと思ったがさすがにネックレスをしながら寝るわけにはいかないので朝に着けることにした。そして二人でベッドに入り、側にあるライトの明かりだけがある。


「幸せです。こんなにいいクリスマスを過ごせるなんて……」


「そりゃ良かった」


「……頭、撫でてもらってもいいですか?」


「了解、お姫様」


言って秋渡は優しく幸紀の頭を撫でる。幸紀は嬉しそうに秋渡の腕の中に入る。ベッドは広いが二人は敢えて寄り添っていた。


「クスッ、とても優しくて強い騎士様ですね」


「剣士なんだがな」


「秋渡さんならきっと剣士、というよりも剣聖のような気がします」


お互いに笑いながら会話をしていたらだった。


「ふわ……」


幸紀が欠伸をして目をゴシゴシする。秋渡はフッと笑うと幸紀に声を掛ける。


「そろそろ寝ようか」


「うにゃ……ひゃい……」


幸紀は秋渡の腕を腕枕にして安心するようにしてすぐに寝息を立てた。


「……ありがとな、幸紀。おやすみ」


「……おやしゅみ……にゃさい……。秋渡……さん」


秋渡をギュッと抱き締めながら幸紀はすやすやと眠った。秋渡も少しだけギュッと抱き締めてあげてから眠った。


ーー


朝。


幸紀は早くから起きたが、秋渡はまだ寝ていた。幸紀は抱き締められている状態になっていて幸紀は顔を真っ赤にする。が、満更でもないので秋渡が起きるまでそのままでいることにした。


結局秋渡が起きたのは二時間後だった。が、幸紀はその間は凄く幸せだったので笑顔でいた。


ーー


「……スマン、朝は結構弱くてな……」


「構いませんよ」


朝御飯を食べてから二人は着替えて部屋で荷物を纏めていた。そして少ししてから二人はホテルから出た。


「昨日は楽しかったです。ありがとうございました」


「いや、僕も楽しかった。また機会があれば来よう」


「はい!」


その後はお互いにネックレスを着け合ってから幸紀を送って秋渡も帰った。


「(こんなクリスマスも悪くはないな)」


そう思いながら薄く笑って帰路に着いた秋渡だった。幸紀とのクリスマスの思い出を背負いながら。



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