第六十話 元生徒会副会長
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電車に揺られること一時間半。まだ時間がかかる上にやることがないのは正直辛い。ずっと座ってるのも疲れる。かと言って暇を潰す方法は舞と話してるか音楽を聞いてるかしかない。生憎今日は本も持ってきてないからな。舞と話すと言っても今上の空の舞に話しかけるのは躊躇ってしまう。気を楽にさせることができれば苦労はしないのだが、残念ながらそんなことはできないんだ。理由?性格だ。
「(……深桜から遠いのはさすがにわかっていた。舞の心にも何か来るだろうしな)」
茂実村で爺達にお世話になった上に十数年も思い入れがある村だ。これから行くのはその村の変わり果てた姿だ。辛いだろうな……。
「(ともかく今はしてやれることは特にないな……)」
仕方なく僕は舞をそっとしておくことしかできなかった。
ーー
一時間半後。
終点の茂実村の駅に着いた。そこは昔と変わらずに残っていて辺りは自然だった。とても空気が美味しく、思わず大きく息を吸ってしまうほどだった。だがずっとこうしてるわけにもいかず、とりあえず村へ歩き始めた。
「こんなに自然豊かだったんだな。ここに来るのは何年ぶりだろう」
「そんなに昔のことなのですか?」
「ああ、多分小学校に入る前くらいだったかもしれない。それくらい昔だ」
随分と懐かしい。あの時はただ喧嘩が少し強かった程度の子供だったんだよな。……今はそんなレベルじゃなくなったが。それでも懐かしい雰囲気は出てる。故郷とは言えないがそれでもそれに近いレベルだ。
「そうですか。……お爺ちゃん達は安らかに眠っているのでしょうか」
爺と婆さんか。あの二人は恐らくここで殺される前に舞が無事に僕の元に着いたことで安心して眠っただろうな。どんな思いで、どんな顔で眠ったかはわからないが少なくとも悪くはないだろう。そう信じたい。
「行けばわかるさ。きっとな」
「……そうですね」
電車の中に比べたら舞の落ち着きが戻っているので安心した。まだ軽い微笑み程度でも充分と言えるだろう。舞と一緒に雑談をしながら茂実村の跡地に着いた。
ーー
着いた時の第一印象だが、さすがにこれは残酷だと思わざるを得なかった。家は焼き焦げた跡が大量にあり、全焼したのがはっきりとわかるのが一つや二つなんてものじゃなかった。こんなにまでするのか……。また、道の土には乾いた血痕がこれまた大量にある。瞬殺だったのか、それとも苦しめられてこうなったのかはわからないがそれでもあまり想像はしたくない。僕は吐き気に襲われている舞の背中を優しく擦ってやりながら村を見る。襲われた時にこの村に残ってた人間は皆殺されたのは確実だ。生存できる見込みはない。だが予告されたにも関わらずこれだけの血があるということはそれだけ村人が残っていたということになる。
「(それにしても想像以上に酷いな……。まさか建っている建物が一つもないなんて……)」
舞の背中を擦りながらそう考えていた時だ。村から人の気配を感じ、僕は咄嗟に腰に装備している刀に手をやる。……ここでさっき電車から降りたのは僕と舞だけだ。つまりここには今他には誰もいないはず。どういうことだ?と、舞は怖がって僕の服をキュッと握ってくる。さすがに僕が警戒したのを見て何かを思ったんだろうな。それにしても誰だ?こんな所に来てる奴は。すると、ついにそいつは姿を現した。
「ん?こんな所で何をしているの?」
そいつは前に恋華、星華に苦幻夢をかけてきて凛桜の生徒を苦しめていた女だった。
「テメェ……」
「……あ」
相手も僕が誰だか気付いたらしく、驚いた顔をする。だがそれよりもこいつは何としてでも潰したかったので僕にとっては丁度よかった。
「久しぶりだな。こんな所で何をしている」
「……答えるとでも?」
「ならさっさと斬る」
鞘から刀を抜き、切っ先を女に向ける。こいつには凛桜が襲われた時に一度やられた。冷静さを欠いてしまったが故のことだがそれでもだ。苦幻夢を使える分、厄介だがあれは近距離で使えば使用者にも影響がある。だからこの距離ならば食らう心配はない。いつでも踏み込めるように膝を若干曲げて構える。舞も掴んでいた手を離した。しかし、
「……ここで何をしているかを答えることは構わないわ。けどその前に質問があるの。それだけ答えてくれないかしら?」
女は戦意はないと言うかとように両手を挙げる。僕は女の言葉と行動に少し驚いた。質問?時間稼ぎかと思ったが女は動こうとも何かをしようと身構えてる様子もない。ということは本当に質問しようとしてるのか。
「内容次第だな」
「聞いてはくれるってこと?」
「ああ」
僕は一旦刀を鞘に仕舞う。だがいつでも抜けるように刀から手は離さない。しかし女はそれを見ても何も言わずに僕の顔を見てきた。
「あなた、高須武って知ってる?」
「……高須?」
高須って誰だっけ?なんか聞き覚えがあるような……。
「あれ?あなたの友人……と言っていいのかはわからないけどたしか雨音愛奈を狙ってた男なんだけど……」
「……ああ、あの黒坂と一緒にいた雑魚か」
「……さらりと雑魚扱いしてるあなたが凄いわ」
いや、あいつは確か瞬殺だったしな。動きも雑だし黒坂がいたから動けてたようなもんだったしな。完全にあの時は黒坂のオマケだったし。それにしてもなぜここで高須の名が?
「それよりも高須がどうしたんだ?」
「私、彼に言われてあなたの友人を攻撃してたの。あなたとその子が私の両親を殺したって聞いて」
「……両親を殺した?人を殺したことは確かにあるがそれは青葉や黒坂の部下だけだぞ?」
「あの、私は人を傷付けたことすらないのですが……」
僕と舞の言葉を聞いて女は俯いて何かを考えるかのように黙りこむ。そしてしばし考えてからまた顔を上げて僕達を見てくる。
「世刻秋渡、あなたは本当に彼らの部下だけ殺したの?」
「ああ。怪我をさせた相手の数は覚えてねーが殺したのはそいつらだけだ」
「武器はその刀?」
「見りゃわかるだろ」
「ならやっぱり違うわね……」
女はやってしまったと言わんばかりに悔しい顔をした。両親を殺した。そのことが僕達と敵対する理由を作ってしまった。高須に騙され、関係のない人を巻き込んで苦しめた。そのことから来る罪悪感に押し潰されてきている。僕の目にはそういう風にしか見えない。
「ここまで迷惑をかけておいて言えることじゃないけど今までごめんなさい」
女はペコリと頭を下げて僕達に謝罪をしてきた。しかしどれだけ謝っても許されることじゃないのはこいつもよくわかっているだろう。なんせこいつは深桜だけでなく凛桜の生徒まで巻き込んだ。そのことから許されないことは百も承知しているはずだ。それでも謝った。
「(それにしても高須はここまでして僕を消したいのか。面倒な奴に目を付けられたものだ。まぁ、例え面倒な奴に目を付けられたところでそいつは再起不能にしてしまえばいいか。というかもう諦めたと思ってたのにまだ懲りてないのか。潰すか)」
僕は次に誰を殺るべきかを決め、暁の相手をするのは後回しにすることにした。暁が動いてるのは間違いないが、暁が僕のことを知っているとも限らない。ならばまずは僕を消そうとしている高須を逆に消すことに専念するとしよう。
「せ、世刻秋渡?」
「ん?なんだ?」
「お兄様、何を企んでいるのですか?」
少し困惑している女と平然としながらも気にしている舞の言葉に僕は我に返り、二人に僕が思っていたことを話した。舞はそれに対して異論は唱えることなく逆に賛成をし、女は高須の裏に黒坂がいることを伝えてきたが僕はそれに関しては問題ないと言い、女を黙らせた。女は不服そうにしながらもそれ以上は何も言ってこなかった。
「そういやお前の名前はなんだ?」
「私?私は新崎沙彩。元深桜高校の生徒会副会長よ」
「……ああ、お前が生徒会副会長か。冬美から軽く話は聞いていた」
「そう。あなたは生徒会にいるかしら?」
「いや。ただ生徒会メンバーとは全員面識がある。……時計破壊戦は覚えているか?」
「ええ、覚えているわ。凛桜との戦いで私達が手も足も出なかった戦いね。それをなぜ?」
「そいつは今年も行われてな」
「なんですって!?」
新崎沙彩は時計破壊戦のことを聞いて驚き、そして苦い思い出を思い出したかのような顔をする。いや、実際に思い出したのだろう。こいつは時計破壊戦に敗れ、凛桜に連れていかれた。そりゃ凛桜に恨みはあるだろうな。
「今年は誰を連れていかれたの?」
目を伏せながら新崎は声を出した。恐らく去年自分が連れていかれたことを思い出したからだろうな。
「安心しろ。今年は勝ったから誰も連れていかれてない」
「……え?」
僕はフッと笑い、今年はどうなったかを伝えた。新崎は弓月の強さを知ってるからこそ負けたと思ったのだろう。しかし今年は負けてない。僕と舞は新崎の後ろにある家の跡地に向かうため歩き出す。
「僕が弓月を負かした。だから今年は勝ったから誰も凛桜には連れていかれてないと言った」
僕の言葉に新崎は信じられないといった顔をしたが、やがてホッとしたようで安堵した顔になった。
僕はそれを見て少し笑い、新崎の肩をポンと叩き横を通り過ぎた。
「ありがとう」
すれ違い様に新崎からその言葉だけ聞こえた。
「気にするな」
僕はそれだけ言って舞を連れて爺と婆さんの家のあった場所に向かった。今はそこに墓がある。もちろん二人の墓だ。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
星「……星華です」
美「美沙です」
ア「まさかのところで生徒会副会長さんに会いましたね!」
星「……一体どんな人だったんだろ?」
美「話を聞いたことがないからなんとも言えませんね」
秋「冬美からは少し聞いたが確か冬美と似たような人だったかな?」
ア「ではやはり人望もあったのでしょうか?」
秋「聞いた限りだとそうだな。けど苦幻夢は転校して凛桜を辞めたあとだと思う」
星「……どうして?」
秋「簡単に言えば苦幻夢を使えるなら弓月達には簡単には負けないと思う。冬美や室川から聞いた話からしたら瞬殺だったらしいからな」
美「ですがそれだと苦幻夢を使う前に敗れたってことも考えられますよ?」
秋「そうだな。まぁそこらは多分本編で副会長さんが話すだろう」
ア「そうですね。あ、そういえば今他の小説も書いてるんですよ」
秋「……この小説、全然終わる様子がないのにか?」
ア「出すのはこの作品が無事に終わったあとになりますよ」
美「なぜですか?」
ア「これだけは言ってしまいましょう。実は書いてる小説はこの作品と関係があるからです!」
星「……そうなの?」
ア「はい。とはいえこの作品の登場人物で主に出るのはほぼ一人です」
秋「待て、なんか凄く嫌な予感がするんだが……」
ア「番外編と言っていいのかはわかりません。ですが番外編と取る人もいればそうでないと取る人もいると思いますよ」
美「どんなものが登場するのですか?」
ア「それはまた次話のこの後書きの場でお伝えしようかと思います。一度に全て話しては面白味が欠けてしまいますからね」
秋「……また面倒になりそうだな」
ア「それでは……」
ア・星・美「また次話で会いましょう!」
秋「……色々と勘弁してもらいたいな。まぁ、また次話で」