第五十九話 茂実村へ
その日、授業は午前で終わったので午後からは時間がある。特に何かをするわけでもないのでさっさと帰ることにした。そしてふと思い付く。
「舞、午後から何か用事はあるか?」
ちょうどこっちにやって来た舞に尋ねる。まぁ他にも星華や愛奈や美沙もいるんだがな。
「いえ、特には……。どうかなさいましたか?」
舞の予定も今確認し、何もないことがわかった。ならば丁度いいな。
「墓参りに行くぞ」
「……そういうことですか。はい、わかりました。このまま行きますか?」
「いや、一回帰ってからにしよう。荷物もあるし」
「はい」
「というわけだ。愛奈、美沙、星華、僕は先に帰らせてもらう」
別に許可をもらう必要はないのだが、一応伝えておく。
「お墓参り、ですか。お父様かお母様ですか?」
愛奈が墓参りというのに食い付いてきた。深くは教える必要はないがそれくらいは教えてもいいだろう。
「いや、祖父と祖母だ。舞はその二人に世話になってたんだ」
「……もうあの村もなくなってしまいましたが」
舞の言葉に全員が固まってしまった。とても重たい話だろう。舞にとっては故郷がもうないということだ。舞の故郷を廃村にまで追い込んだのは誰なのかは知らないが少なくとも棗ではないのは確かだ。あの時はあいつは偶々この深桜に来ていた。こっちに来るまで少なくとも電車で三時間はかかるような所だ。だから棗が村を襲ったのならばあの時僕と遭遇することはありえないことになる。……あの二人を殺った奴はさすがに許せないな。あんな人達だがそれでも家族だったのに変わりはない。
「そうなんだ……。なんか悲しいことを思い出させちゃってごめんね……?」
「……いえ」
美沙が謝るが舞の表情は浮かないままだった。とりあえず僕達は三人に別れを告げて教室から出ていった。
ーー
玄関で靴を履き替えて外に出る。舞はまだ少し暗かったが、それでもさっきよりはまだ良くなっていた。
「秋渡ー、舞ー」
後ろから明菜の声が聞こえ、僕は振り返る。そこには朝と変わらない明菜がいた。丁度明菜も終わったんだな。
「おう、明菜。そっちももう終わったんだな」
「うん。やっぱり昨日のことが強く影響してるんだと思う」
「ああ、同感だ。ところでこの後舞と出掛けて来ても平気か?」
「え、うん、平気だけど……。どこに行くの?」
「……茂実村って知ってるか?」
僕の言った村ーー即ち茂実村が舞の故郷だ。知っててもおかしくはない。……今はな。
「あの廃村になってしまった村……だよね?どうして?」
明菜の疑問は当然のことだ。今になってその廃村に行く理由はない。だが舞と僕は別だ。あの二人が眠っている場所でもある。
「ちょっとな。長旅になるから帰ってくるのは夜になる」
「ん、わかった」
明菜にも伝えたので僕達はさっさと帰り、すぐに着替えて途中で花を買い、電車に乗った。三時間もあるため、飲み物や軽い食べ物も買ってきた。電車に乗ったが、舞はずっと無言だった。僕も窓の外を見て過ごしている。アナウンサーが次の駅を説明しているがほとんど聞いていない。
「お兄様……」
乗ってから三十分は経ってからだろうか、ずっと無言でいた舞が話しかけてきた。
「どうした?」
僕は窓から見える外の景色から舞の方へ向き直る。舞の顔はやはりまだ暗かった。
「茂実村の人は……、私以外に生存者はいるのでしょうか……」
生存者、か。そう言えば舞以外は知らないな。まぁ単純に興味がなかったのだがそれでも聞いたことはないな。
「(ひょっとしてあの爺は襲われることを予期していたのか?いや、確か爺は村が襲われるということを言われたって言ってたよな。ならば他に生存者がいてもおかしくはないはずだ。なのになぜ他に聞いたことがないんだ?)」
村が廃村になった理由は村が燃やし尽くされたからだったはずだ。村に残っていた奴は少なくとも皆死んだだろう。そこでふとあの辺りの地形を思い出す。確か記憶に残っているままならば交通機関は今乗っている電車だけなはずだ。しかも村から少し離れている。だとしたら舞は電車に乗ってきたことになるのだが、滅ぼすことを言われたのならばどう考えても動くはずがない。これはどういうことなんだ?
「お兄様?」
舞に声をかけられ、そこでようやくはっと我に返る。舞は心配した顔で僕を除き込んでいた。いかんな、村のことを考えすぎてた。
「いや、なんでもない。生存者か。どうだろうな……。五神将も関わっていたならさすがに厳しいだろうが……」
「やはりそうですね……。どうして私だけが生き残ってしまったのでしょうか?そもそも茂実村がどうして狙われたのでしょうか?」
舞だけが生き残ったことはさすがにわからんが狙われた理由か。想像してもただ自然豊かだったことしか思い出せない。よくよく考えれば狙われる理由がない。なのに今、茂実村は廃村となった。なぜだ?偶然狙われてのか、何か隠された秘密があったか……。
「……わからないな。舞だけが生き残った理由はあの爺がなんとかしてくれたとしか思えん。茂実村が狙われた理由は全くわからない」
茂実村についてはそんなに詳しくは知らない。なぜ狙われたのか、なぜ消されたのか、何があるのか、わからないことだらけだ。ただ唯一わかるのは爺と祖母の二人は安心して過ごせていたことだ。つまり危険に晒されることはないはずだ。
舞は俯き、また無言になる。僕はそんな舞を見て何とも言えない気持ちになった。
「……念のため刀は持ってきたが使わないことを願いたいな」
僕は一人ポツリとそれだけ呟き、腕を組んで目を閉じた。まだ二時間以上はある。少しくらい寝る時間はあるだろう。舞も今はそっとしておく方が得策だ。
頼むから何事も起きないで終わってほしいものだ。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
舞「舞です」
明「明菜です」
秋「今回の話は僕と舞の祖父と祖母の住んでいたところへ行く話だな」
明「随分急展開ね」
舞「ですが茂実村は私の育ったところでもあります」
ア「それにしても自然豊かな地だったのですね……」
舞「はい。外に出ていくだけでも空気がとても美味しかったです」
秋「今もまだ空気が美味いところになっているといいんだがな」
明「そんなにとんでもない悲劇が起こったんだね……」
秋「まぁそこに関しては次回話す予定だ」
ア「そう言えば秋渡君はどこで刀を手に入れたのですか?」
秋「ん?あれか?確か小学校の時だったかな?その時に親父が送ってきた」
明「え?その時からあの刀を持ってるの?」
舞「とても小学生では持てないように思えますが……」
ア「しかも意外と刀大きかったですよね?」
秋「ああ。普通ならな。けど何故か僕は軽々と持てたんだ。扱い方は初めはわからんかったが親父の道場で刀を振るっていたら知らないうちに我流って言っていいのかはわからんがそれができてた。そして恋華を助けてる時に使おうとしたら刀見られただけで怖がられてた。だから刀は護身用に使うことにした」
舞「ですがその護身用にしていた刀は……」
秋「ああ。今は完全に護身用になんかなってない。本気で戦うためのものになってる」
明「でも秋渡が戦う時って……」
秋「さぁ、一体どういった時だろうな」
ア「丁度いいですしここで締めましょうか」
秋「そうだな。それじゃ……」
ア・秋・舞・明「また次話で!」
ーー
オマケ
舞「先程のお兄様は照れていたのでしょうか?」
明「うーん、秋渡は表情が変わりにくいからなんとも言えないわね……」
舞「でもでもはぐらかしたってことは今のお兄様にはちゃんとした戦う理由があるということですよね」
明「それは確かにそうだと思う。うーん、ちょっと気になるね……」
舞「……お兄様がお話しになるのを気長に待つとしましょうか」
明「それがいいと思うよ」