第五十八話 皆の気持ち
教室に戻る頃にはもうすぐ授業が始まるところだった。移動教室の生徒は移動し、普通に教室で授業の生徒は皆準備をしている。……時々視線を感じるのは気のせいだと思いたい。ともかく舞と共に教室に入る。中ではまだチャイムが鳴っていないのをいいことに友人同士で喋っている連中が多い。とりあえず授業に間に合ったのはよかった。僕はパソコンではなく、ノートに戻したのでまだ空いている時間にパソコンで作ったノートを写している。こうすれば案外復習にもなる。ただ量が多いからまだそんなに写せてはいない。せっせとシャーペンを動かしていると愛奈がやって来た。
「あら?秋渡さんノートにしたのですね?」
愛奈は上品に口元に手をやって驚く。こう言ったお嬢様の片鱗はしっかりと見せるからさすがだ。……僕に対する行動もそうであったらどれだけよかったことか……。ちなみに愛奈が僕がノートに変えたことに驚いた理由だが単純につい最近変えたからだ。舞と明菜にノートにしたらどうかと言われ、最初は拒否したのだが舞はそれじゃ一緒に勉強ができないと言い、明菜も勉強を教わりたい時に困る、だそうだ。
「舞と明菜がうるさくてな。恋華も色々言ってくるから丁度いいか、て変えた」
「クスッ、相変わらずの仲良しですね」
「恋華は昔からだし舞は妹だ。明菜も最近は二人目の妹に思えてきた」
「恋華さんと舞さんはともかく明菜さんのことはどうかと思いますが……」
「言うな、僕自身がそう思ってる。……予鈴まであとどれくらいだ?」
「もう一、二分で鳴りますよ」
「そうか。今はここまでだな」
パタンとノートを閉じてノートを鞄に仕舞い、授業で使うノートを取り出す。そして愛奈の方を向く。相変わらず綺麗な銀髪が靡いているな。……そうだ、ついでに聞いてみるか。
「愛奈、もし僕が生徒会長になったらどうする?」
別に本気で答えを期待してるわけじゃない。あくまでも『もしも』の話だ。だが愛奈は笑顔から一転して真顔になり、考える素振りを見せる。……がそれもすぐになくなり、また笑顔に戻る。
「それはさぞかし楽しい学校になりそうですね。私も生徒会に入って秋渡さんのフォローをしたいです」
……楽しい学校になる?いやいや、それはいくらなんでも無理だろう。冬美みたいにいると安心するみたいなことは僕にはできないし生徒の学校生活をどうすれば楽しくできるかもわからん。そんなので到底生徒会長が務まるわけがない。
「クスッ、大方自分には人を楽しませることはできないと思っているのかもしれませんがいるだけでも安心はできると思いますよ」
心を読まれたのか、思っていることが顔に出ていたのかはわからないが、愛奈に思っていたことを言われて驚いた。だけどやはりいるだけでも安心するということが納得できない。僕は思わず愛奈を訝しい顔で見る。愛奈はさすがにそれを受け止めるのは難しいのか、苦笑を浮かべた。
「うん、その気持ちはわかるな」
と、ここで美沙も会話に加わってきた。しかもどうやら愛奈と同じ気持ちらしい。やはりわからないな。どうして僕が生徒会長になると安心なんだ?こいつらは気にしないだろうが生徒のトップに男子が立つことなど今の世の中あり得ない。それはこいつらも理解してるはずなんだが……。
「なんだ?世刻が次の生徒会長になるのか?」
あざとく会話に入ってきた橋本がそんなことを言う。橋本を見ると横には相澤もいる。
「そんなことはない。ただ生徒会にどうかって話をさっきされただけだ」
「なんだ、世刻が生徒会長になるわけじゃないのか?」
僕はさっき呼び出されたことはあくまでも代理だが、やったら間違いなくそのままの流れで生徒会に入れられるだろう。さすがに貴重な自由時間を削りたくはない。それにしてもなぜ相澤は少し残念そうにしているんだ?
「俺は世刻が生徒会長になってもなんも問題ない気がするけどな……」
「……秋渡だったら多分女子も反対しないと思うよ?」
「……いきなり背後から現れるのは心臓に悪いからやめてくれるか?星華」
「全く驚いていないように見えるんだが……」
相澤が呟いたことに賛同するかのような言い方をしながらいきなりぬっと僕の背後から星華が現れながら星華は女子も反対しないと言ってきた。それにしても星華が背後から忍び寄ってきたことに本気で気付かなかった。こいつ、やるな……。橋本が言ってたような全くではないが確かにあまり驚かなかった。舞が朝に僕のベッドに潜り込んでる時の方がよっぽど驚くからな。
「それにしてもここにいるみんなは僕が生徒会長になることは反対しないんだな」
僕がそれを聞くとその場にいる星華、愛奈、美沙、橋本、相澤の五人は頷いた。逆にどこか納得するかのように満足そうな顔をしていた。
「クスッ、お兄様、如何なさいますか?」
舞も会話に加わり、どうするのかを聞いてきた。保健室で荒木との会話からあまり乗り気じゃなかったはずだからなんとなく僕の気持ちも理解してると思うんだがな。まぁ舞のことだから恐らく僕の意見を優先するんだろうな。
「さぁな。やっぱ乗り気じゃないからな。それに……」
僕は一度言葉を区切り、一人ずつ見る。そして一言。
「生徒会に入らなくともお前らは守る気でいるしな」
フッと笑いながらそのことだけは言った。それに対してのそれぞれの反応だが……。
愛奈。
「もう、秋渡さんってば……。嬉しくて思わず頬が緩んでしまうではないですか……」
美沙。
「はわ……。また守ってくれるって言われちゃった……」
星華。
「……嬉しい。……ありがと、秋渡」
橋本。
「こりゃお前と友人である奴の特権ってやつなのか?」
相澤。
「はは、すげぇ頼もしい友人を持ったな、俺ら」
舞。
「ああ、お兄様……。舞はどこまでも付いていきます」
照れてるのが四人、素直に喜んでるのが二人だった。
と、ここでこれだけ話してたら当然なのだが、チャイムが鳴ったので各々席に戻って授業に励むのだった。僕は冬美、恋華、幸紀もいたらどんな反応をしてたんだろうな、と考えながら授業を聞いていた。とはいえ大体理解してるからあんま意味なかったがな。冬美と幸紀の二人は僕に告白すらしてきた。恋華は昔からの付き合いがあるからってのがあるからか、想像がしやすかった。
ア「どうも、アイギアスです!」
舞「舞です!」
幸「幸紀です」
星「……星華です」
ア「今回は珍しく秋渡君がいないんですね」
舞「お兄様は少しお疲れのようでしたので」
ア「できた妹さんですね」
舞「お兄様の妹ですから♪」
星「……じゃあ秋渡の苦手なものもわかるの?」
舞「……そう言われればお兄様って苦手なものってあるんでしょうか?」
幸「あはは、秋渡さんですからね。なくてもおかしくない気がしますよ」
ア「いえ、一応あるらしいですよ?」
舞・星・幸「その話、詳しく教えてください」
ア「いやいや、さすがに彼のいないところでそれは無理ですよ(私が斬られますから)」
舞「むぅ……。あ、恋華お姉様なら知ってるかもしれません!」
星「……そうだね。……後で聞いてみよう」
幸「(そう言えば前に裁縫が苦手って言ってたような……)」
ア「幸紀さんは前に聞きましたよね?(コソッ)」
幸「はい、今思い出しました(コソッ)」
舞「そう言えば五神将の出番があれからありませんね?」
ア「一応近いうちに出そうと考えていますよ」
星「……棗、黒坂、青葉、暁。……秋渡は誰でも勝てそう」
舞「勝てそうではなく勝てますよ」
幸「強いですしね。青葉龍大を相手に一歩も引かないほどだったし」
ア「ですね。彼に敗北という文字はなさそうです」
星「……でも暁は強さがわからない」
幸「ですが秋渡さんの強さも未知数ですよ」
ア「どっちが勝ってもおかしくないってことですね」
舞「それでもお兄様が負けるのが想像できません」
ア「……どうなるでしょうね。ではそろそろ終わりましょうか。それでは……」
ア・舞・星・幸「また次話で!」