第五十五話 秋渡の周り
次の日。
家には今恋華、舞、そして明菜がいる。僕はさすがに疲れたからゆっくりしていた。今はベッドで横になりながら昨日のことを考えていた。明菜は櫻井に利用されていたに過ぎず、明菜の親はすでにいない。僕に暁のことを聞いてきたことからしたら暁に殺されたのかもしれない。櫻井は暁と繋がっている可能性はない。金髪達は櫻井の配下として僕を攻撃してきた。いや、仇を取ろうとした。僕は自分が殺されるということから自分をただ守っただけだ。
「(ただ以前から予想はしてたがやはり僕が狙われたら周りに危害が加わるな……)」
今回は舞や冬美達を巻き込んでしまった。明菜は恐らく裏切り者として殺しに来た可能性が高い。いずれにせよ明菜も巻き込む形になっていまった。そして何よりも学校の生徒を巻き込んだ。
「やはり僕は不吉を呼ぶ人間なのか……?」
僕は今までの人生を少し思い返してみた。
幼稚園時代。
恋華以外は何事にもはしゃがない僕を皆気味悪がり、話し掛ける人がいなかった。先生も最初は話し掛けていたがほとんど反応しなかった僕に対してついに放っておいた。恋華も周りから僕に話し掛けるなと言われていたにも関わらず何度も何度も話し掛けて来た。僕の親は恋華の親とは昔から仲が良かった。だからか両親からは恋華だけは大事にしろと言われていた。言われなくとも僕は昔から恋華が苛められているのを聞いたらすぐに助けに行った。相手がボロボロになるまで殴ったこともあったな。喧嘩は強かったからか、負けた記憶はない。だが……。
「たしか恋華が苛められた理由は全部僕が関係してたんだよな……」
恋華が僕を遊びに誘ったら周りが嫌がり、そこから恋華に苛めが始まった。何度も止めたら減ったがそれでもなくなりはしなかった。結局僕が原因で起こったことだ。もし僕がいなかったら恋華はこんなことにはならなかっただろう。そうなるとやはりこの時点で恋華を不幸にしちまったな……。
「……やはり恋華からは距離を置くべきだったか?」
どうしてもそう考えてしまう。何事もなく暮らし、何事もなく結婚をし、何事もなく幸せになっていただろう。僕は……やはり邪魔者……なんだろうな。
「……ダメだ、こんなことばかり考えちまう。……クソッ!」
僕は寝ていた体を起こし、頭をかく。五神将と言われれば聞こえはいいが実際には恐怖を与えるものだ。正直言ってこんな呼ばれ方されても嬉しくもなんともない。逆に鬱陶しいだけだ。
コンコン
「誰だ?」
「お兄様、舞です」
「舞か。どうした?」
「いえ、何かお声が聞こえたのでどうなされたのかと……」
「ああ、うるさかったか?すまんな」
「いえ、ただとても苦しそうなお声でしたので……」
いかんな、舞をかなり不安にしちまっている。現にとても心配そうな顔をしてる。僕は少しふっと笑って立ち上がり、部屋のドアへ向かう。すでに起きていたから着替えはもうしていた。まぁとてもラフな格好をしているが。
「心配かけてすまんな」
僕は舞の頭を撫でてから下へ向かう。舞は僕の後ろから付いてきている。……なぜだ?凄く後ろから視線を感じるんだが……。いや、気にしないでおこう。
リビングに入ると恋華と明菜がご飯の用意をしていた。
「おはよう、秋渡。よく眠れた?」
恋華が僕と舞に気付き、聞いてきた。ちなみに恋華には櫻井達の件は教えてある。そしたら明菜がここにいるのにも納得した。ただ詳しくは説明していない。精々明菜が櫻井のところの奴だったが櫻井に殺されかけたところを僕達が救ったって言っておいた。まぁそもそも恋華は明菜のことを知らなかったからそれ以前の問題だったんだがな。言わなくても問題ないようにも思えたがこの中で知らないのが恋華だけというのはさすがにどうかと思い、教えた。始めは驚いていたがすぐに驚きはなくなっていた。特に金髪達や櫻井との戦いのところは僕が勝ったのに納得した顔をしていた。昔から僕の喧嘩とかを見ていたのとそれに付け加えて五神将ということを教えたからかもしれないな。いずれにせよ話し終えた時はとにかく僕や舞の心配をしてきた。保健室でのことも言ったからだ。あとは明菜のことだがこれは本人に話させることにした。さすがに本人がいるのに他人が勝手に話していいもんじゃない。
「ああ、寝れた。が、少し疲れが残ってるな」
結構動いたしな。あとは櫻井から受けた傷か。足には明菜のワイヤーで受けた傷もある。痛みはあまりないが風呂に入る時はさすがにしみる。
「あれだけの戦闘がありましたからね。無理はありません」
舞が心配そうに僕の足を見ていた。舞が手当てしたからどこに傷があるのかがわかるからな。今みたいに平然と立っているのを見て無理して立っているようにも見えるはずだ。だから余計に心配してるんだろうな。痛みは平気なんだがな。
「あれくらいは平気だ。青葉と殺り合った時に比べればな」
あいつとは三十分くらいの戦いが続いた。しかもその時は何度かダメージも負ったから正直今回はダメージが軽い方だ。青葉の大鎌を何度も防ぐのはさすがに大変だった。大鎌は重いし青葉が連続攻撃してきたし。あいつはなんであんな軽々とあんなデカイ大鎌を振り回せるんだ?正直次会った時にまたあれを受けるのは辛い。僕は自分の左手を見る。あの時実は少し腕が痺れた。二刀流でやったはいいが左手はあまり動かせなかった。結果的に勝ちはしたがあまり喜べるようなものじゃない。
「青葉龍大。大鎌使いで暁の配下ね」
明菜がここで口を挟んできた。暁も僕と同じく青葉を打ち破ってる男だ。どうやって戦ったのかはわからんがそれでも勝っている。
「あいつの性格的に誰かの下に付くようには思えないがな……」
あいつは好戦的だ。誰彼構わず、ではないがそれでもかなり暴れる方だ。五神将の中でも戦闘に関して言えばまずあいつが一番に反応をするだろう。暁は謎に包まれているからなんとも言えないがそれでも暁があまり目立ったことをしないことからそこまで好戦的ではないだろう。棗は強い奴を探してるが同時に仲間探しもしている。あいつは己を鍛えるためだろう。冬美から聞いた話ではあいつは五神将の中で一番格下と言っていたらしい。現に黒坂は棗の情報を手に入れ、そこからあの機械人間を造っている。棗が黒坂より強ければそんなことはさせないだろう。確かに棗の大剣じゃ黒坂の改造銃とは相性も悪い。あいつの銃は追尾能力、貫通力、弾丸の重さの全てが普通のよりも上回っていた。ひょっとしたら僕の知らない能力がまだあるかもしれないな。
「そうね。だけど暁はまだ未知数な男。彼しか知らない何かがあるのかもしれない」
「うーん、考えすぎかもしれないんだけど……」
明菜は暁の得体のしれない何かによって青葉は従っていると思っているみたいだな。謎に包まれている暁ならあり得そうだ。
「恋華お姉様、どうなされましたか?」
恋華は人指し指を顎に当てながら何か考えている。僕も恋華が何を考えているのかに興味がある。明菜も同感なのか、恋華を見る。
「いやね、何か目的が一致して一緒にいるんじゃないかって思ってさ。それなら協力をしてもおかしくないしさ」
僕は恋華の説明を聞いて全身に電気が走ったかのように感じた。そうか、目的が一致するんなら共に行動してもおかしくないじゃないか。しかもあいつらには共通の目的がある。
「……そうか、あいつらは共に今この国を支配してる女から男を助ける為に戦っている。そして自分が国を支配してそこで女が男を好きにさせないようにするっていう目的があいつらは共通している」
「お兄様の言葉を付け加えて言いますと支配するのはお二人のうちのどちらか強い方が適任というのも窺えますね」
僕の推測に更に理由を付け加えてくれる舞。僕達の説明に明菜は頷いた。厄介な奴等が共通の目的を持ったもんだな……。そこに黒坂も入る。棗も入るんだが今はどうなんだろう?前は美沙の件の時はあいつは偶然会っただけだが助けてくれたしな。
「ふぅ、暗い話はこれくらいにしよっか」
息を吐きながら恋華がそう言う。僕達も肩の力を抜く。いつの間にか力が入っていたのか。ここで配慮してくれた恋華に感謝だな。
「そうね。じゃ、ご飯にしよっか」
四人での食事。今までは恋華の家族といた時しかなかった光景だな。恋華の両親の所が明菜と舞になってるがな。だが、こっちはこっちで悪くない……。初めは明菜と恋華に何か起きないかと不安だったがそれは杞憂だったようだ。どうやら料理中も仲良く話ながら作ってたらしく、舞もその中に加わっていたみたいだ。まぁ明菜が僕達の命を狙ってたのを聞いたらどうなるかはわからんが今はこれでいいと僕は思いながら三人の会話を聞きながら飯を食べていた。
……そういや忘れてたけど校長はこの後どうなるんだ?
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
幸「幸紀です」
秋「やれやれ、化物クラスの人間になるととことん周りとの関係を考えちまうな」
幸「ふふ、秋渡さんならばそんなこと深く考える必要はないと思いますよ?」
秋「身の危険を感じるのにか?」
幸「逆に考えてみてください。身の危険を感じるのは今は女性の方全員です。棗さん、黒坂さん、青葉さん、そして暁さん。彼らが今は私達にとってとても怖い存在です。しかし秋渡さんの周りの方は秋渡さんという頼もしい方が側にいます。しかも暁さん以外全員撃退してる方ですよ?つまり秋渡さんの側にいることは安心なのです。秋渡さんが負けるとは思っていないからこそ、です」
秋「……なるほどな、そんな考え方があるとは思ってもいなかったな」
ア「一番の安全場所、ですからね。深桜にいる人は皆同じなのではないでしょうか?」
秋「全員とはさすがに言えないな。ま、心配してるほどじゃないってことか」
幸「はい♪私、素直に秋渡さんと知り合えてよかったです」
秋「なんでだ?」
幸「今までは夜に眠るのが怖かったんです。いつか襲われるんじゃないかって不安になって……」
ア「確かに、いつどこで彼らがやって来るかがわからないですからね」
幸「はい。ですが今はそんなに心配していないです。秋渡さんを見てたら安心感でいっぱいでしたから……」
秋「そうか。そんなに影響があったのか。それならよかった」
幸「はい♪さて、そろそろ終わりましょうか」
秋「そうだな」
ア「それでは……」
ア・幸・秋「また次話で!」




