第五十話 保健室での会話
明菜side
ーー
世刻秋渡に知らないうちに座らせられ、その妹の世刻舞が私にタオルを差し出す。正直頭が付いていっていない。よく見ると保険医の荒木と呼ばれていた先生はもう気を失った。私以上に付いていってなかったんだろうね。そりゃそうか。
「っ!」
足に痛みが来る。ここは関澤冬美の刀によって斬られた場所。思ったよりも深かったらしく頑張って痛みを堪えながら包帯を巻く。が、
「ぐっ!?」
肩からも痛みが来た。ここは櫻井の銃で撃たれた所だ。ここも深かったのか、思わず汗を流す。だが世刻秋渡に助けられなければ私は今保健室にいる関澤冬美、室川綺羅、工藤結衣と共に頭を撃たれて死んでいただろう。そう考えるとゾッとする。
「……大丈夫ですか?汗凄いです……が?」
世刻舞が私の肩から滲み出た血を見る。寝ている間にこっそり手当てしてたんだけど限界が来たらしい。さすがに応急措置だと無理か……。
「はぁ……はぁ……」
痛みが多いせいなのかとても息苦しい。足の手当てをする処か完全に動きが止まっていた。ここままだとまずい。
「全く……ここも怪我してたなら言ってくださいよ……」
世刻舞が呆れながら私から包帯を取り、慣れた手付きで包帯を巻いている。私は痛みがあるのに先程と比べたら気が楽になった。保健室の外からは先程教室を出ていった世刻秋渡と雷紅達の戦っているのだろうという金属がぶつかり合う音がする。そういえば世刻舞はああいう兄持つのはどんな気分なんだろう?
「ねぇ」
「はい?」
「貴女は世刻秋渡のことを妹としてどう思うの?怖くないの?」
私の質問は正直あんな怪物めいた兄がいるのは純粋に怖いと感じる。それをこの世刻舞はどう思っているのかが凄く興味深い。
「お兄様のことですか?とても強くてかっこよくて頼りになって料理上手くて頭良くて運動神経抜群でモテモテな兄だと思っていますよ?」
…………つまりは怖いと感じるとかそう言ったことは全くないのね。面白いよ。一部なんか力が籠っていたところがあったけどそれは気にしないでおこう。
「そ、そうなんだ。凄いのね」
「ふふ、当然ですよ。それが兄ですから」
少し迫力が強かったから少し引きながらなんとか答える。そして治療をする手を止めずに微笑む。可憐な笑顔だ。何かを信じられるということ。正直羨ましい。私にはそんな関係の人はいなかったから……。有栖も私を利用していただけだったし、雷紅達も正直私を信用していたとは思えない。
「そういえば一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
「明菜さんはこれからどうするんですか?」
「……あ」
そう、有栖を殺されたから私はどこにも行く宛がなかった。お金もそんなにないし……。あれ?私生きていけない?料理とか家事は一通りやらされてたから大丈夫だけど……。私は汗を流す。やばい……。本気でどうしよう……。頼る相手って言ってもそんな人いないし……。ど、どうしよう……!?
「やはりないんですね」
「うっ」
グサッと何かが刺さった気がした。だけど否定ができない。事実だから……。私は突然慌てた。
「ああ……。どうしよう……」
折角有栖の呪縛から放たれたのにこれは泣きたかった。私はズーンと落ち込んでしまった。生きることが私にはできない。ちゃんとした生活を送ってみたいな……。
「ならば私達の所に来ますか?」
「……え?」
世刻兄弟の……所?……あの世刻秋渡が許可をするのだろうか?けどもしいいならそうしたい。家事くらいなら手伝える。
「……いいなら……行きたい。けどいいの?」
やはりいいのかが心配だ。二人の家族の中に混じるのはなんだか迷惑にも思える。しかし世刻舞は、
「構いませんよ。部屋は嫌と言うほど余っていますし。ただ来るなら一つ約束をしてほしいです」
「約束?」
どんな約束だろう?行動範囲の制限とか?それとも食事少なめとか?そ、それともお金?どんなことが言われるのかが心配だった。
「はい。お兄様や私達に危害を加えることをしないことです」
世刻舞はニッコリ微笑みながら彼女のいう約束を言ってきた。だけどそんな約束だったの?
「……私は世刻秋渡に救われた。一度怪我を負わせた。けど助けてくれるならその約束は破らない」
私は世刻舞の約束に応じた。むしろ何かあったら助けて恩返ししたいな。大きい借りができちゃったし。私は無意識に笑った。
「明菜さん、笑ってる方が似合っていますね」
「……え?」
それを聞いて初めて自分が自然と笑ってたことに気が付いた。けれど嫌な気分じゃなかった。
「ふふ、ではここでお兄様の勝利を待っていましょうか」
「うん。世刻秋渡なら負けないだろうし。世刻舞は優しいね」
「うーん……」
突如世刻舞が思案顔になる。え?な、何か変なこと言ったかな?そんなことないと思うんだけど……。
「明菜さん、私達のことは名前で呼んでください。それをもう一つの約束として追加します」
「えっ!?」
「だから私のことは舞と呼んでくださいね♪」
「あ、う……。ま、舞……」
私は恥ずかしくて俯き、小声で舞の名を呟いた。
「はい、明菜さん♪」
だが聞こえてたらしく、笑顔で私の名を呼んでくる。なんか……恥ずかしい……。だけど嫌な気分には全くならなかった。なんだがとても温かいと思った。けど舞は呼べたけど世刻秋渡のことはそう呼べるのかな……?まぁやってみようかな。
と、ここで治療が終わったらしく、キッチリ巻かれた包帯が足と肩にあった。
「ありがとう、舞」
「はい♪」
私のお礼に笑顔で答える舞。微笑ましいな。
「……変わったわね」
突然の声に私と舞は驚いてそっちを見る。そこには室川綺羅とベッドの上で体を起こし、目を覚ましていた関澤冬美と工藤優衣がいた。保険医はまだ気絶してるけど。
「お、起きたんですね……。ビックリしましたよ……」
舞は心臓に悪いですと言って胸を押さえる。けどよくよく思えば室川綺羅は最初から聞いてたんだよね?あ、それよりもまずは……。
「あの……、ご、ごめんなさい……」
謝らなくちゃいけない。気絶させたのが有栖だとしても怪我は全員に負わせてしまったんだから。私は頭を下げる。殴られるのも覚悟の上だ。
「……本当に変わったわね」
「え?」
関澤冬美の言葉に下げてた頭を上げる。そこには関澤冬美と室川綺羅と工藤優衣の驚いた顔があった。横には舞の笑顔があった。
「……ふぅ。まぁいいわ。この件については特別に許します」
「あ、ありがとう……ございます……」
私は少し涙声になりながらお礼を言う。
「ふふ、こうしてると敵対してた時のが嘘みたいね」
室川綺羅が笑いながら言う。う……。あの時はただ殺すように命じられてただけだしなぁ。だからああなったとも言えるけど……。
「ところで世刻君は?」
工藤優衣がキョロキョロ保健室を見るが世刻秋渡がいないことを疑問に思っていた。保険医は見たが見なかったことにしていたけど。
「お兄様なら櫻井の部下と廊下で戦っています。私と明菜さんをここに残して」
舞は真剣な顔をして答えた。それに関澤冬美達も真剣な顔をする。が、
「まぁ秋渡君なら楽勝ね……」
「……私もそう思うわ」
すぐにそれがなくなって安心した顔になる。事情を知らなかった二人もやはり世刻秋渡の強さを知っているということだ。
「信頼してるんですね」
私はそんな言葉が自然と出てきた。それに対して全員で、
「彼の強さを間近で見たからね」
と笑顔で答えてくれた。私はそれを見て彼には絶対に敵わないと思った。
「ふふ、貴方には感謝しなきゃいけないわね」
私は保健室の入口を見てそう呟いた。そして住むことについてお願いもしなきゃね。
ア「どうも、アイギアスです!」
冬「こんにちは、冬美です」
舞「舞です!」
明「明菜です」
舞「今回のお話は本当に長いですね」
ア「はい。おかげで恋華さんと星華さんと愛奈さんと美沙さんと幸紀さんの出番がないんですよね……」
冬「怒ったり不安になっている所が想像できるわね」
明「世刻秋渡の仲間、か……。仲良くできるのかな?」
舞「大丈夫だと思いますよ」
冬「愛奈さんは嫉妬しそうだけどね……」
ア「そうですね」
明「なんだか凄そう……」
舞「そういえばふと思い出したのですが明菜さんって一年生なのですよね?」
明「うん、そうだよ」
舞「後輩って感じが全くしないです」
明「舞は逆に先輩って感じが全くしないよ」
冬「どっちもどっちね。話し方とかからして」
ア「そうですね。さて、そろそろ終わりにしましょう」
舞「わかりました!」
ア「それでは……」
ア・舞・明・冬「また次話で!」