第四十九話 五対一
???side
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秋渡が一人で迎撃体勢につくちょっと前、深桜高校に潜り込んでいた櫻井と明菜から連絡が途絶え、その原因を突き止めに櫻井の部下がやって来ていた。櫻井が部下に男性を入れなかったため、構成員は皆女性である。ここに来た五人はここで櫻井が殺されたとは思っていないため、どうして連絡が途絶えたのかがわからない。また、護衛として付けた明菜も連絡が取れなかった。だから余計に心配になり、乗り込んできたのだ。しかし、お目当ての櫻井も明菜も見付からない。
「一体有栖様はどこにおられるのでしょうか……」
歩きながら五人の中で最も下の位についている女性が不安になって顔を曇らせる。それを見て櫻井の部下は皆不安がる。しかしその中で一人だけは不安な顔もせずに堂々としていた。
「大丈夫だ。有栖様と戦って勝てる輩はいない。あの方の弾丸の性能によって悉く倒されるのみだ」
その一人は主の敗北を全く考えていない。櫻井が倒されるのを見たことがないが故にだ。五神将であれば話は別だが……。しかし、今まで挑んできた男、女は全て返り討ちにしてきた櫻井だ。ここで敗れるとは思えなかった。だがここで五人のうちの一人が何かの臭いを感じた。
「……あの、何か臭いませんか?」
その一人が鼻に手をやって四人に言う。だが先程の女性は何の臭いかはわかっていたがそれがどうしたと言わんばかりに鼻で笑う。彼女が思ったのは恐らく櫻井の正体に感付いた者が櫻井か明菜の手によって排除されたとしか考えていなかった。もし逃げ延びてもそれは少しだけ寿命が延びただけだ。
「そんなに心配ならその臭いの場所を確認してくればいいだろ?どうせここの生徒のものだろうけど」
「……わかりました。念のため確認をしてきます。雷紅さん達は先に有栖様の探索をお願いします」
「わかったわ。炎真も気を付けるのよ」
雷紅と呼ばれた金髪の女性は頷き、炎真と呼ばれた赤髪の女性も頷く。そして炎真は臭いがする方に向かって行った。雷紅は残りのメンバーの水城、月風、真地の三人と共に人の気配が多い保健室へと歩みを進めて行った。
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秋渡side
敵は五人。さて、どうするかな。幸い今はもう夜七時だから残っている生徒はここにいるメンバーしかいない。教師も気配から荒木しか残っていない。僕は目を瞑りほんの少しだけ気を引き閉める。そしてすぐに目を開ける。
「荒木、保健室のドアを壊させてもらう」
「……え?」
「弁償はちゃんとする。じゃあ……」
荒木はこんな状況で言った僕に驚いた。もちろん壊したら当然弁償はしっかりする。さて、相手が突っ込んで来ないしそろそろ始めるか。
「行くぜ!」
僕は猛スピードで床を蹴り、保健室のドアを蹴飛ばして破壊し、廊下に出る。そこには突然中から出てきた僕に対して驚いた顔をしてる女が五人いた。なぜか一人だけ息切れを起こしているが……。だが僕にとってはありがたい。疲労してるならそいつは格好の的だ。
「……貴様、何者だ?」
金髪の女が僕を睨みながら聞いてくる。当然僕は易々と正体を明かすことはしない。
「ここの在校生だ」
「そんなことは聞いていない。何者だ……。ただならぬ何かを感じる……」
「それと、ただの男子生徒でもないね」
「私達を見ても怯えてもないし焦ってもいない」
金髪の女が少し汗を流す。金髪の言葉に赤髪と茶髪もそれぞれ言葉を発する。そしてどこか怯えるかのように僕を見ている緑髪の女。そして僕を冷めた目で見てくる青髪。こいつらは一体何者だ?というかここには本当に色んなやつが来るな。ま、今はどうでもいいか。それよりも茶髪はよく見ているな。
「ふ、ただ僕が恐怖を隠してるだけかもしれないぞ?」
「……それは考えられないわ。そんな軽口を叩いてくる時点でね」
僕の軽口に青髪は淡々と答えてくる。まぁ相変わらず冷めた目のままだがな。だが意外とよく見てる。
「さて、とりあえず部外者には帰ってもらおうかな。できれば大人しく帰ってほしいんだが……」
女共を見るとあからさま臨戦態勢に入っていた。要するに帰るつもりはないんだな。
「ならば力付くで帰らせてみろ!」
金髪の女がめっちゃ睨みながら僕に向かって剣を振りかざして来る。僕はそれを刀で受け止め、懐に潜り込んできた青髪と緑髪に蹴りを放ち、下がらせる。同時に金髪の剣を弾き、茶髪も突っ込んで来たのを刀を振って動きを牽制する。そして遠くから銃を構えている赤髪に向かって瞬時に移動して刀の柄で鳩尾辺りを攻撃する。そしてすぐに元いた場所に戻ってまた五人と対峙する。この間に相手が僕に与えたダメージは皆無だ。
「もう終わりか?五人もいるのに」
「なめないでよ!」
緑髪がナイフを数本投げ、両手にダガーを取り僕に向かってくる。僕はそれに対して刀でナイフを全て叩き落とし、突進しながらダガーを振ってくるのを軽く避け、緑髪の足を引っ掛けて転ばす。
「キャッ!?」
転ばされた緑髪は僕の動きが見えなかったためか驚き、その間の硬直時間に足を引っ掛けたのだ。そりゃ簡単に転ぶだろう。そもそもなめて掛かってきてるのは相手だと思うんだがな。やれやれだ……。
「(こいつらと明菜を比べたら明菜の方が強く感じるな。まぁまだ全力じゃないんだろうけど)」
けどさっき投擲されたナイフはワイヤーとかの類がなかった。明菜の方が戦い慣れてるようだな。まぁさっきからめっちゃガン見してくる金髪がいるがな。
「くっ!こいつ、強い!」
「ひょっとして有栖様を殺したのって……」
「!こいつか!!」
緑髪が悔しげな顔をし、赤髪が僕を睨み、金髪が殺気を飛ばしてきた。答え次第では容赦しないということかな?
「ふむ、中々考える連中だな。明菜の仲間ってのもあるからか?」
「なっ!?まさか明菜も!?」
僕が明菜の名前を出すと青髪が反応をする。へぇ、明菜を仲間と見ていたのか。櫻井は駒みたいにしてたんだろうけどよ。それはそうと……。
「茶髪、気付かないと思っていたのか?」
僕は背後の刀を一閃する。さすがに危ないと判断したのかすぐさま距離を取り、四人と合流する。いや、判断じゃなくて反射的にか。まぁ気配を完全に消していたし足音も出さなかったのは正直賞賛する。だけど僕はさすがに気が付いた。そもそも動きを牽制してからすぐに気配を消し、行動できるように他の四人が動いたのだから連携は凄まじかったな。
「くそ!貴様!名乗れ!」
「なぜそんなに切れているのかはわかるが名乗る理由がないね」
金髪の睨みに全く動じずに金髪を見返す。金髪はさらに殺気を飛ばしてくる。結構やるなぁ。正直ここまでの殺気はそうそうに飛ばせねぇよ。櫻井の部下、か。
「伊達にあいつの部下じゃないってことか。だが……」
僕は言葉を区切り、目を閉じてすぐに開ける。そして……
「その程度の殺気や覚悟で僕に勝てると思ってんのか?」
心底冷めきった言葉に相手を殺すのに躊躇いのないということを示す絶対零度の目で五人を見つめた。その目を真っ向から受けた五人はさっきの威勢が凍り付いたかのようになっていた。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
舞「舞です!」
明「明菜です」
秋「今回は長い戦いだな」
ア「そうですね。まぁ相手の数も多いですから」
明「雷紅達五人に有栖、そして私……ね」
舞「そうですね……」
秋「だが戦ってるのは僕だけじゃない。冬美達も一緒だ」
ア「確かにそうですね」
明「だけど彼女達は重傷を負った」
舞「室川先輩だけは軽傷でしたが……」
秋「それでも死ななかっただけマシさ。僕達が行く前に全員を殺すことができたんだ」
明「……そうね。有栖にとっての誤算が貴方だったことだわ」
舞「そういえば先程言っていた五人は強いのですか?」
明「強いわ。有栖も一目置いていたほどだし」
秋「…………そういやふと気になったんだがお前らの組織って人数はどれくらいいるんだ?」
明「大体三十人くらいよ。まぁ戦える者に関して言えばその半分以下だけど」
秋「つーことはまだ今回の五人以外にもいるんだな?」
明「ええ。まあ雷紅達に比べたら弱いけど」
舞「それならお兄様にとっては楽勝ですね♪」
秋「さて、どうだかな」
ア「楽勝だと思いますよ……」
明「クスッ。信用されてるわね」
秋「……やれやれだ」
舞「お兄様に勝てる者なんていないです!」
秋「……僕過去に一度敗れてるんだが」
舞・明「えっ!?」
ア「あの時ですか?」
秋「ああ。あの時だ。そういやあの時のあいつ、あれから襲って来ないな」
舞「お、お兄様に勝つ程の実力者……」
明「かなり興味深いわね……」
秋「ま、来たら次はぶちのめす」
ア「秋渡君、目が本気になってますよ……」
秋「ああ、本気だからな」
ア「は、はは……。そ、それじゃ今回はここまでにしましょう」
秋「そうだな」
ア「それじゃ……」
ア・秋・舞・明「また次話で!」