第四十八話 また敵の襲撃
秋渡side
ーー
僕の質問に簡単に答えただけの明菜。だが暁の名を出した瞬間、明菜はどこか苦しそうに、そして憎しみに駆られたような顔をした。つまりこいつは暁と遭遇したことがあるということだ。それも最悪な形で。さすがにこれ以上聞くのはまずいかもな。しかしだった。
「なぜそんなことを聞くの?」
まさか話を明菜から続けるとは思わなかった。しかも明菜の目は嘘を許さないような感じだ。まぁ元から嘘をつく気はない。
「簡単だ。暁の奴を黙らせるためだ」
僕の答えに明菜は嘘か本当かを確かめるように僕を見続ける。僕もそれを正面から受け止める。嘘偽りのない僕の本心だ。ずっと暁を放置していると危険な気がする。だから僕は暁と対峙する時のために情報がほしい。
やがて明菜は嘘じゃないと理解したのか、ホッと息を吐く。
「良かった……」
明菜は本気で安心したらしい。恐らく僕が暁の仲間になると思ったのかもしれない。だとしたら聞いてきた理由は阻止することか?まぁいい。
「けどごめんなさい。私も彼については少ししか知らないし参考にならないと思うわ」
明菜は本当に申し訳なさそうに言う。やはり暁はまだ謎だらけなのか。僕は腕を組んで考える。
「(たしか年齢は僕と同じなんだよな……。愛用している武器は不明。出身地不明。現在住んでいる所不明。女性を敵としている理由不明。何を目的に動いているのかも不明。容姿不明……)」
ここまで思って僕は気付いた。あれ?これ何も情報ないのも同然じゃね?
「……何もできねぇ」
「え?」
僕の呟きを聞き取った明菜が突然どうしたの?という顔をしてきた。当たり前だが……。僕は明菜になんでもないとだけ言って誤魔化しておく。だが改めて考えることも特になかったからもう考えを放棄した。
ふと僕は時間が気になって腕時計を見る。針はもう六時半を指していた。
「あ、もうこんな時間なのね」
同じことを思っていたのか、荒木に説明を終えた室川が保健室にある時計を見ていた。荒木を見ると混乱しているのか頭を抱えていた。……そっとしておこう。
「お兄様、いかがなさいますか?」
舞が僕に聞いてくる。本物の校長の安否も気になるがこれからやるのは効率が悪いな。だがまだ冬美と工藤が目を覚ましていない。かといって二人をこのまま放置すれば親が心配するだろう。さすがに理由はありのまま話すことはできないからな。別の意味で心配される。かと言ってこの状態で帰すわけにもいかないな。それはそれで問題だ。目を覚ますまで待つしかないか。
僕は考えがまとまったので舞、室川、明菜、荒木を順番に見ていく。全員僕が何かを言おうとしているのに気付いたのか、または僕の意見を優先と考えたのかは知らないが僕を見ていた。普通ここは荒木が指示を出すべきところなんだけどな。
「……冬美と工藤はまだ目を覚ましそうにないから僕が二人を見ているからとりあえずお前らは今日のところは一旦帰宅した方がいいだろう」
要するに僕が二人の護衛みたいなものだ。それに、明菜は捕らえたとはいえこいつの強さは並じゃない。加減してたとは言え、僕や冬美相手にあれだけ傷を負わせられるほどだ。そいつを動けない冬美や工藤の前に残すわけにはいかない。舞の実力は知らないが室川や荒木だと荷が重いだろう。
「世刻秋渡」
突然明菜から呼ばれる。明菜を見ると何やら真剣な顔付きをしていた。僕は明菜のこの様子からただ事じゃない何かを感じた。
「……どうした?」
「何か接近してる」
「!」
僕は思わず驚いた。自慢じゃないが僕はそこそこ気配を読み取ることができる。だが明菜は何かの接近に気が付いたが僕はそれには気付けなかった。
「舞、荒木、室川。冬美と工藤の側にいろ。明菜、動けるか?」
とりあえず僕は三人に警戒を促す。明菜には少し協力をしてもらう。荒木は混乱してたが室川と舞は即座に頷き、荒木の腕を取って冬美と工藤の元に移動する。明菜は首を縦に振り、ソファーから立ち上がる。だがやはりまだ傷が痛むのか、顔を苦痛に歪めて膝を付く。だがそれも一瞬のこと。すぐに立ち上がり、保健室のドアの前でナイフを構え、警戒体勢を取る。
「……世刻秋渡。数は四人よ」
「四人……。一体何者なんだ……」
僕に気配を悟られなくてここまで来れた敵が四人。警戒した方がいいな。僕も明菜に遅れをとらないようにドアの前に刀を構えて待つ。さすがに近付いて来たから僕も気配を感じ取れた。
「(……ん?)」
一つ気が付いた。気配は四つじゃなくて五つ感じる。明菜が数え間違えたのか?
「……明菜」
「……何?」
敵を警戒しながら明菜に話しかける。明菜はドアから少し目をこちらに向け、反応する。僕も目だけを動かし、明菜の目を見る。
「敵は四人じゃない。……五人いる」
「……何ですって?」
明菜は驚いたが、すぐに顔付きを変えて真剣な顔をする。僕はほんの少し頷き、ドアに視線を戻すと足腰をぐっと下げ臨戦体勢に入る。だが気配はドアの前でずっと止まっている。敵はドアの前にいるのはわかってるのだが動きはない。数も五人。ふと横をチラリと見ると明菜が肩で息をしていることに気が付いた。
「はぁ……はぁ……」
よく見ると明菜の額からは汗が出ていた。しかも顔色も悪くなってきている。このままだとまずいな……。明菜も下がらせておくべきだった……。仕方ない。
ガッ
「え?」
僕は明菜の腰に手をやり、手早く舞達のところに移動して明菜を座らせ、元の位置に戻った。明菜は何が起きたのかわからなかったのか、目をパチパチしている。舞と室川と荒木もだ。しかし舞は硬直がすぐに解け、明菜の様子を窺う。そしてかなりの汗をかいていることに気付き、タオルを差し出している。
「これを」
「え?あ、うん、ありがとう……」
まだ少し混乱しているのか、それとも痛みによるものなのかはわからないがギクシャクしながらタオルを受け取る明菜。僕はそれを見てから室川を見る。室川も包帯とかを出して手当てを始めている。荒木もさすがは保険医というべきか、手慣れた手付きで手当てをしている。
さて、明菜はこいつらに任せて、僕もそろそろ奴等の迎撃をするとしますか。もっともこの程度なら多分ものの数秒で終わるかもしれないがな。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
恋「恋華です」
愛「愛奈です♪」
秋「新たにまた敵が襲来か。今度はどんな奴なんだ……」
愛「どうな奴が来ても秋渡さんならば楽勝ですよ~」
恋「うん、私もそう思う!」
秋「楽でも嫌なんだよ……」
ア「あ、それとひょっとしたら明菜さんもヒロイン候補に入るかもしれません」
恋・愛「えっ!!?」
秋「……冗談だろ?前入らないって言ってただろ?」
ア「……いや、よく読み返すとこれ、フラグ立ってね?ってなってるんですよ」
秋「なんだと……」
恋「だ、ダメよ!これ以上増やすのは!」
愛「そ、そうです!私が秋渡さんとくっつきにくくなってしまいます!」
ア「あなたいつもくっついているでしょ……」
秋「それは確かにそうだな……」
愛「私は秋渡さんの方から抱いてほしいのです!」
恋「それは私がさせないわ!」
愛「恋華さんに邪魔はさせません!」
恋「こっちの台詞よ!」
秋「……まーた喧嘩が始まったな」
ア「これもいつものことに思えますがね」
秋「否定はしない。ところでこの敵達との戦いは辛いのか?」
ア「君に辛い戦いはあるのですか?」
秋「……暁とは……か?」
ア「まぁそんなに苦戦しないとだけは言っておきます」
秋「……そうか。そろそろ終わるか」
ア「そうですね。では……」
ア・秋「また次話で!」
ーー
秋「ところでこの二人の喧嘩はいつまで続くんだ?」
ア「……さぁ?」