第四十三話 秋渡の強さと舞の想い
僕は刀をもう一刀鞘から抜き、二刀流になる。そして二刀流になったと同時に相手からは見えないほどの速さで刀を振る。すると今まで僕を追尾してきた弾丸は弾かれて全て床に落ちた。ただ傷口から少し血が吹き出る。足に力を入れたからそりゃ仕方ないがやはり痛いな。だが……、
「あ、あれを全て打ち落としたというの!?」
櫻井はとても動揺していた。そりゃそうだ。十何発もの弾丸を全て防がれたということだからな。僕はそのまま刀の切っ先を櫻井に向ける。櫻井は銃を僕に向けるがその手は震えていた。
「さて、まだやるか?続けるならこちらも攻勢に出させてもらうがな」
抑揚のない声で僕は淡々と言う。もう勝ちは決まっている。しかし櫻井はここでいきなり俯き、髪で顔を隠しながら笑う。頭でも打ったのか?
「ふははははっ!」
狂ったかのような声を上げる櫻井。どうやら頭は壊れたみたいだな。僕は切っ先を櫻井に向けたまま警戒をする。例え頭が壊れたとしても油断はできない。
「ふ……ふ……ふははっ!笑わせないで!こんなことがあっても大丈夫なようにある仕掛けをしてあるのよ!これで貴方達は木っ端微塵に消し飛ぶわっ!」
櫻井が笑いながら懐から取り出したもの。それは何かのスイッチだ。いや、何かではないな。あからさまに考えられるのは一つ。
「……起爆スイッチか」
僕はまためんどくさいのを用意してたなと思う。はぁ……。本気でめんどくさい。爆弾は恐らく色々な所にあるだろう。こいつは校長という立場を利用して生徒と教師が授業中に見回りという名目の元で設置場所を探し、絶好の場所に仕掛けた、と言ったところか。
「はぁ……。面倒なことをしてくれるな」
「ふふふ、投降すればこれは押さないであげるわ」
立場が逆転したと思ったのか、こちらに降伏を促す。確かに今の状態では冬美、舞、工藤、室川だけでなく部活で残っている生徒も巻き込んでしまう。そうなると橋本と相澤も含まれるな。
「お、お兄様……」
僕がずっと黙っていたから不安になったのか舞は弱々しく声をかけてくる。僕はチラッと舞を見て目で大丈夫だ。と訴える。舞は理解したのか小さく頷いた。そして再び櫻井と向き合う。
「あら?兄弟会話は終わったのかしら?」
「ああ。今日の夕飯は何かってのを話してた」
「へぇ……。随分呑気ね」
「ああ。今日は僕のリクエストを聞いてくれるみたいだからな。ちゃんとここから無事に出て帰らなきゃいけなくなった」
本当は舞は僕にリクエストを何度も聞いてくるから今更だけどな。たまに何か言うと喜んで作ってくれる。それにそうすると何故かいつもよりも飯が旨くなる。不思議だな。
「というわけでだ。お前はちょいといなくなってもらうわ」
僕の今の言葉は相手に対しての死刑宣告みたいなものだ。僕は刀を鞘に仕舞うと少し腰を落とす。櫻井は即座に何をしてくるのかを悟ったのか、起爆スイッチのボタンに手を乗せる。いつでも起爆できるということだ。だが……、
「その起爆スイッチからお前の手を離したらそれでチェックメイトだよな」
「……………………………………………………………………………………え?」
長い間のあとに起こったこと。起爆スイッチを持っていた櫻井の左手は僕の手の中にあった。起爆もしていない。そもそもその起爆スイッチはもう動かないだろう。なんせボタンを押さない位置の所を斬り、ボタンから繋がっている場所は斬ったのだから。まぁそれには当然櫻井の左手も一緒に斬られる。持ってた手だからな。
「キャアアアアアッッ!!?」
女らしい悲鳴を上げると同時に斬ったところから激しく血が吹き出した。舞がいるからあまりやりたくなかったがしょうがない。あとで説明しておこう。櫻井は痛みのあまり床に転がった。手首のところを綺麗に斬ったからそこから血が流れる。
「お、お兄様……?」
「すまんな、舞」
僕は本気で舞に謝罪をする。恐らく血を見て怖がったのだろうな。当然か。けどこうしないとみんなの命が失っていた。それに比べたらずっといい方だ。
「う……く……」
手首を斬っただけなのだがやはりそれは相当堪えるようで痛みを堪えている。右手で左手を押さえ、なんとか立ち上がろうとする。しかし起爆スイッチは斬られてもう使えない。奥の手もなくなった。
「さぁ、まだやるか?今度はその……首を斬る」
僕が本気の目をするとそれは冗談じゃないと理解したのか、後ずさる。だがもう何もない。右手にはまだ銃があるがリロードもできないのでもう意味はないだろう。現に櫻井は悔しげに唇を噛んでいる。
「くそぅっ!」
逃げようと反対を向き、背中を見せる櫻井。だがそれが仇になる。
ブシュッ!
「逃がすと思うか?んなわけねぇだろ」
僕は櫻井の背中から刀を刺した。櫻井は一瞬だけビクッ!となった。僕は刀を抜いた。ズプッと生々しい音がしたと同時に櫻井は床に倒れた。傷口からも大量の血が出てくる。声も上げなかったことからすると即死だったみたいだな。
さて、それよりも舞だな。どうすっかな……。離れる方がいいか。目の前で人を殺したんだからな。しかも実の兄が。
「舞」
僕が声をかける。舞は「はい」と返事をする。僕は返り血のついた顔を舞の方へ向ける。正直これはかなり怖いはずだ。しかし、
「お、お兄様!お顔が汚れています!すぐに拭きます!」
なぜか舞は僕に怖がるどころか自分から僕に近付き、あまつさえ僕の返り血を拭ってくれる。ってあれ?
「ま、舞。人を殺した僕が怖くないのか?」
思わずストレートに聞いてしまう。そりゃそうだろ?目の前で殺人があり、しかもその犯人が手の届く所にいる。普通怖がるよな?
「え?お兄様はお兄様ですよ?……あ!足も怪我をしています!見せてください!」
僕の質問には何当たり前のことを聞いてるのですか?みたいに軽く言われてしまった。……しかもその質問よりもさっき弾丸で貫かれた足を心配しに来るという。
「あ、ああ……」
僕は素直に足の具合を見てもらうことになった。……あれぇ?舞のやつ、全く怖がってないぞ?むしろ怪我の心配をされるという。
この後は夕飯のリクエストは何かを聞かれ、お兄様は騎士の如くの強さで私を守ってくださいました。となぜか頬を赤らめて喜んでいた。
さて、この後処理どうしようか?
秋「ふぅ……。今回も勝負ついたな。短時間で」
ア「君が強すぎるのですよ」
舞「はい!お兄様は強いですよ♪むしろ最強クラスです!」
秋「……そこまで上にいるかはわからないな。世界にはもっとすごい奴等がたくさんいるからな」
ア「君ほどの人間がたくさんいるのも怖いですよ……」
秋「そうか?まだ明かされていない五神将の最強もいるんだぞ?」
舞「そうですがお兄様なら勝てます」
秋「……舞の自信はどっからやって来るんだ?」
舞「お兄様に対する愛です♪」
秋「そ、そうか……」
ア「苦労してますね」
秋「色々な……」
舞「そういえば会長さんは無事なのでしょうか?」
ア「それに関してはネタバレになるのでここでは伏せておきます」
秋「それがいいだろうな」
舞「ところでお兄様、今日の夕食のリクエストは何かありますか?」
秋「ふむ……。じゃあ今日は肉じゃがとかの気分だな」
舞「わかりました!腕にかけて作ります♪」
ア「すごい妹さんですね」
秋「逆に言えば舞が毎日作るようになったから僕は料理が出来なくなってるんだがな」
舞「では……、お兄様の手料理、食べさせて頂けますか?」
秋「それは構わないぞ?」
舞「あーん、でお願いします……」
秋「……」
ア「あー、なんとなく察しました」
秋「助かる。……そろそろ終わらせるか」
舞「そうですか。お兄様、お約束、守ってくださいね♪」
ア「それでは!」
ア・秋・舞「また次話で!」