第三十四話 秋渡に対する想い
秋渡side
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あーあ。ついに教えちまった。五神将だと言った瞬間に幸紀は驚愕と共に畏怖を感じただろう。なんせ表情がそうなっていたからな。僕は目を瞑りこれから幸紀とどうするかを考え始めた。って、そんなに考える必要はないか。単純な話、関わりを消せばいい。そうすりゃ知り合いに五神将という恐怖の対象がいなくなるから安心するだろう。僕としては勝手ながら友人と思っていたからあまりしたくなかったがこうなりゃしょうがない。僕は目を開け、横にいるそれを伝えようとした。しかし幸紀はじっと僕を見ていた。しかもその目は恐怖を感じてるとは思えない上にかなり真剣だった。そして幸紀が口を開く。
「秋渡さん。あなたが五神将なのはわかりました。ですが私としてはまだ疑問があります」
声も真剣であり、僕も自然と真剣な顔になる。そして無言で続きを促す。
「どうして同じ五神将と戦い、そして女性である私を助けてくれたのですか?」
……なるほど。幸紀の疑問は当然だった。五神将は女性を敵視している。つまり先程僕の行動、幸紀を救うことはそれに反することだ。だが僕はククッ、と軽く笑う。……なぜかそれを見た幸紀は咎めずに頬を赤くしていた。理由はわからんが幸紀の疑問に答えるとしよう。
「僕は別に女性を憎んでいるわけでもない。それに、友人を救うのは当然のことだろ?」
僕が言ったことが余程意外だったために瞬時に理解できなかったのか幸紀は目をパチパチさせて僕を見てくる。その表情は先程の真剣さはなく、ただただきょとんとしていた。
「え?」
声が出たのは数秒後。しかも聞き返す言葉。僕はまた少し薄く笑って少し言葉を変えて言う。
「僕は他の五神将と違うってことだ」
不敵の笑みを浮かべ、答えた。すると幸紀はわなわな肩を震わせる。……ん?ひょっとして怒らせた?それとも泣かせた?しかしそんな予想は外れ、突然幸紀は僕に抱き着いて来た。僕は咄嗟のことだが避けられたし止めることもできたが、安心でもしたのだろう。幸紀を正面から受け止め、抱きながら頭を撫でる。
「よかった……」
ポツリと幸紀はそんなことを呟いた。先程救われたから瞬時に嘘ではないと思ったんだろうな。それと、告白してきたから好きな人が敵にならなかったのもまたそうだろう。……そうか、こいつの想いにも答えを出さないとな。だが冬美のこともあるしなぁ……。かと言って下手に先伸ばしするのも良くない。敢えてハーレムでも形成するか?いやいや、それは良くないか。それに余計なのも入って来そうだ。愛奈とか弓月とか。それ以前にそんなにハーレムに入ってこないか。
「一夫多妻制がありならこんな苦労もしねーんだけどなぁ……」
「え?」
あ、やべ。思わず声に出しちまった。もちろん抱き着いてて間近にいる幸紀に聞こえないはずはなく、バッチリ聞かれてしまった。しかし幸紀はボソボソとなにか言ってるだけだった。そして幸紀は恐る恐る僕の顔を見つめて来た。顔を真っ赤にしながら。
「しゅ、秋渡さん、わ、私もその多妻の中に入れてもらえるのでしょうか……?」
「……え?」
どこか不安そうに聞いてきたのはまさかのこと。しかも僕がモテることというか一夫多妻も前提らしい。モテる、のかは知らんが変なやつには好かれるな。僕は色々思ったが今はそれについてはいい。それに、やはり誰か一人に絞った方がいいだろう。その方がいい。そんな気がする。
「……入れるも何もそんなことはまずできても僕には不可能だ。僕のことが好きな人はそういない」
むしろ僕のことを知った瞬間皆離れて行くだろう。五神将という名の化け物だからな。僕は幸紀から視線を外した。恋華や星華、冬美も普段はそのままだが恐らく内心はかなり怖いだろう。敵意を示していなくても僕の強さを直に見たのだから。
「何よりも僕の正体を知って幸紀も怖いだろ?仕方ないことなんだがな」
僕はふっと笑い歩き始めた。思えば幸紀もよく僕と話してたものだ。銀髪でオッドアイだから普通怖いと思うんだがな。まぁいいか。幸紀とはこれきりにした方がいいかもな。と思った矢先だった。
「私は秋渡さんが怖いとは思いませんよ?」
幸紀がそんなことを言ってきたのだ。僕は止まり、振り返る。
「なぜだ?」
「命救われてますし私に手を差し出してくれたじゃないですか」
僕の疑問に迷いを見せない感じに幸紀は僕の目を見ていた。真っ直ぐに躊躇いもない様子だった。幸紀は「……それに」と続ける。まだあるのか?
「秋渡さんはかっこいいしクールですし頼れますし強いし何より、優しいじゃないですか」
顔を赤くしながらも言い切った幸紀。僕は幸紀の言葉に本気で固まった。別に僕はかっこいいこともしてないしクールとも言えないし頼られたことはそんなない。強いのは、まぁ認めるが……。だが最後の優しい。これは本気でありえない。優しいなら僕は中学時代男子を見放したりしなかったはずだ。
「……僕は自分のやりたいことをやっただけだ」
なんとなく話しにくくなったので僕は前髪で目を隠すようにしながら再び歩き出した。気配で幸紀が付いてくるのがわかる。だが僕はそれが嫌ではなかったのでそのまま歩き続けた。
「秋渡さんはやっぱり優しいですね」
幸紀が横に並んだ時にそんなことを言ってきた。僕はチラリと幸紀を見やる。幸紀は僕の方を見て微笑んでいた。幸紀の言葉は僕には理解ができない。あれだけ人も殺している僕に優しさなんて存在するわけがない。そう思い、幸紀の言葉を否定しようとした時、
「深桜高校に棗が現れた時も黒坂が現れた時も両方とも一人で撃退して深桜高校の生徒を救っていますし青葉の配下に木上さんが狙われた時も全力で守ってますし私の心にも潤いをくださいました。そんな人を見たら誰もが思いますよ」
そんな幸紀の言葉に思わず目を見張ってしまった。
……僕の負けだな。幸紀、そんな風に思ってくれたのはお前くらいだぞ。僕は立ち止まった。幸紀は同じように止まり、「どうしたのですか?」と聞いてくる。そんな幸紀に僕は近付き、そして、
幸紀を力強く抱き締めた。