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第二十五話 苦幻夢

苦幻夢なんて言葉は実際にはありません。

多分。

翌日。

僕は凜桜女子学園に来た。学校には連絡してあるのでそこは心配してない。ただ愛奈と舞に後から何を言われるかがわからん。……後から厄介だな。さて、いつまでも校門で立ち尽くしてたら意味がないな。とりあえず入るか。ん?視線を感じるな……。と思ったら視線の主は僕の前から走ってきてた。てか弓月だった。


「おはよう、秋渡君。今日もイケてるわね」


「おはよう。そしてサヨナラ」


僕は回れ右をして歩き出す。すると後ろから弓月が抱き付いて来た。まぁ振りほどくのもそのまま引きずるのも可能だがそうしたら来た意味がないから止まる。


「ごめんなさい、ほんの冗談です。だから帰らないでぇ!!」


見事にほぼキャラ崩壊していた。僕は溜め息をついて振り返り弓月と対峙する。弓月は少し肩で息をしながら僕を見る。そして会長らしいしっかりとした顔付きになる。


「改めてようこそ我が凜桜女子学園へ。では早速案内をするわ」


「ああ」


とりあえず僕はなぜ呼ばれたのかを確認したい。ただわかるのは絶対にテストの鼓舞じゃないのは確かだ。必ず何かある……はず。弓月だから単純に呼んだ可能性もあるからなぁ。


ーー

凜桜の生徒会室に入り、僕は前に会った三人とも対峙した。幸紀と佐々木と斎藤……だったっけ?駄目だ、幸紀しか覚えてねぇ。弓月が会長の席に座り、他の三人もそれぞれの席に着き、僕も空いてた席に座る。


「さて世刻秋渡君、単刀直入に本題に入るわ」


弓月は腕を組みながらそう言い放つ。えらく真顔で。しかも佐々木と斎藤も、そして幸紀も真剣な顔をしてる。これはやはり何かあったと考えていいな。


「貴方に見てほしい映像があるの」


そう言って弓月はリモコンを操作してテレビを付け、一つのDVDを見せてきた(どうやら用意はしてたらしい)。僕はテレビを見る。そこに映っていたのは鎖に繋がれ、拘束されている一人の女子生徒。しかも気のせいじゃなければこの凜桜の生徒だ。画面がぼやけてるからよくわからんがなんか心なしか映ってる女子生徒はかなり疲弊状態だった。しかも目が死んでる。そして荒々しい息。その様子がずっと映ってた。しかしそれだけ。僕は弓月の方を向いて尋ねる。


「それで、これがどうしたんだ?」


「秋渡さん、本題はここからです」


弓月に聞いたのだがまさかの幸紀が答えた。しかしここから?僕は再びテレビの方を向く。そこにはさっきとは変わらない一人の女子しか映っていない。一体なんなんだ?とここで突然女子生徒が苦しみ出した。そして一つの人影が映る。背中越しなので顔は見えない。ただ細いから多分女性なのだろう。そしてその謎の人物は右手を上げる。すると女子生徒はさらに苦しみ、涙が溢れていた。それは今から起こる恐怖ではなく、既に起こっている恐怖に苦しんでいるように見える。ここでチラッと僕は弓月達を見る。弓月は一応DVDを見ていた。しかし心なしか歯軋りをしてるように見える。佐々木と斎藤はもうテレビから視線を外していた。幸紀も見ていたが耐えかねるかのような感じだ。僕は再びテレビを見る。この人物は一体何をしたんだ?するとここでDVDが終わった。僕は弓月に向き直る。


「この女子生徒、この後はどうなった?」


僕は弓月に聞いた。弓月は俯きながら一言。


「死んだわ……」


それはかなり重たい一言だった。弓月によるとあの女子生徒は凜桜女子学園に一度来たが友人だった奴に怯え、そしてそのままその日に屋上から飛び降りたらしい。しかし女子生徒は苛めを受けていたわけではない。なのにも関わらず突然いなくなり、久しぶりに会ったら完全に誰も信用も信頼もしていなくなっていた。そしてその女子生徒が自殺をした後にこのDVDが届いたらしい。弓月達もさすがに中身を見て絶句。そしてこの謎の事件はこの後もあったらしい。そのためにこの学園の生徒は皆怯えている。中には辞めてはいないが学校に来なくなってしまった生徒もいるとか。映像は今見たものだけらしいが。ともかくこのままではまずいと思い、色々捜索をしたのだが成果はなし。だから困っていたらしい。とここで深桜高校に強靭な精神力、体力がある人物がいることを知り、例の時計破壊戦を行った。つまり弓月はこの事件の解決のためにその生徒を欲したらしい。理由はこの相手をどうにかするため。これは冬美達も知らない事だ。当然だが。んで、その生徒が僕だったというわけだな。


「話はわかったが手掛かりなしじゃあな……」


さすがに手掛かりがないと僕も何もできない。僕の呟きに弓月は、


「そうよね……。けれど全くないわけではないの」


弓月はそう答えた。そしてテレビを……正しくはDVDを指す。


「そのDVDが撮られてる場所は特定できたの。だから今日、そこに乗り込んで決着をつけるわ」


弓月の目は力強い。多分生徒会長としてこれ以上は許せないのだろう。気持ちはわかる。さて、ここまで来れば僕が呼ばれた理由がわかる。


「だから秋渡君、どうか私達に協力をして!」


弓月が頭を深く下げる。他の三人もだ。僕は内心でどうするかを考える。だが次の言葉でそれは杞憂だと察する。


「これはひょっとしたら貴方達の方にも牙が向くかもしれないの!だからどうか!」


深桜高校にも。それは僕の仲間が死ぬことと変わりはない。僕はすぐ決断する。


「わかった。協力してやる」


弓月はその言葉に、


「ありがとう……」


と呟いた。


ーー

その後、すぐに僕達は動いた。そして弓月達が予想した場所へ。意外と近くて驚いた。そこは無人の倉庫だった。如何にも何か行うには最適な場所だった。僕達は慎重に倉庫の扉を開けて中を確かめる。が、誰もいない。


「……誰もいませんね、夏希様」


「……そうね。やはり間違ってたのかしら……」


二人がそう呟いて中に入った。それに僕と幸紀と斎藤も続く。しかしここで僕は人の気配がした。


「誰だ?出てこい」


僕がそう言うと四人は辺りを見回す。しかし探してもどこにもいない。と思ったらいきなり視界がぶれる。


「っ!?な、何!?」


突然のことで焦る四人。するとまた突然、前方に一人の人物が現れた。そいつはあのDVDで見た者と体格が一緒だった。


「ようこそ、凜桜の生徒会さん御一行……。そして一人の少年……」


声も高い。やはり女性か。僕は視界があまりぶれても平気なのですぐに女性を見る。フードを被っていた。


「まさかこんなに早く来るなんて思ってなかったわ。ふふ……」


予想外だったにも関わらずそこまで焦っている様子はなかった。いや、予期していたと言ったところか。弓月が視界が回復したのかフードの女を見る。


「貴女ね?生徒達を苦しめていたのは」


「そうよ?」


あっさりと認めたな、こいつ。けど気になることがある。なぜフードの女はずっと口角を上げているんだ?と。しかしそれはすぐにわかった。


「うっ!ま、待ってください!夏希様!殺さないで!」


「「「!?」」」


突然の叫び声。それは斎藤のだった。弓月はすぐに駆け寄り、斎藤に声を掛けるが声が届いていないのか、斎藤は苦しみ続けているだけ。これに弓月達は混乱する。その中僕はフードの女を見る。


「あんた、幻覚か何かを使える奴だな?」


僕の質問にフードの女は少し驚いたように口角を下げる。しかしすぐに口角を上げる。


「クスッ。でも残念。私が使えるのは幻覚だけではないわ」


「苦幻夢」


僕の言葉に次こそは驚きを隠せなかったようだ。フードの女は押し黙った。


「詳しくは知らないが夢の中で悪夢を催促して見させる物だったな。しかも大体が見た本人に対する裏切り、または本人の一番信頼してる人物の死亡、そして一番の信頼してる人物が家族や仲間を殺すものだったはずだ」


僕の言葉にフードの女は黙って聞いていたが、やがてまた笑う。


「凄いわね、君。当たってるわよ」


やはりか。つまり斎藤は今、信頼してる人物である弓月に家族か仲間を殺されている幻を見てるのだろう。しかし一つ気になるな。


「どうして眠っていない人間に使えるんだ?」


あれは記憶が正しければ寝ている人のにしか効果はなかったはずなんだが……。フードの女は僕の言葉に肩を震わせる。


「簡単よ。私が幻覚でそれを見せてるからよ」


「!そうか!幻覚でそいつをコントロールしてあたかも夢じゃないかのように見せていたのか!」


「そうよ。それに自分が起きていれば本当にあった事だって実感するでしょ?さて、ここで問題。もし目の前に自分の大切な人を殺した人間が次に会ったとき何事もなかったかのような反応をしてたらどう思う?」


幻覚を使って今起きてるかのように見せ、気付いたら目の前で大切な人が殺されていた。しかも自分が一番信頼してた人物が。そしてあのDVDの女子生徒は多分周りの人物が全員敵になってたんだろう。でも学校に行ったらどうだ?周りが何事もなかったかのように気軽に話し掛けて来たら?しかも自分の大切な人を殺したにも関わらず。しかも幻覚にかかった本人は普通の笑顔が恐怖の笑顔になるだろう。次は自分を殺すんじゃないかと思って。仮にそうでなくとも自分の大切な人を殺した人を信用できるわけがない。つまりは、


「自分にとっては全てが信じられなくなる。しかももう大切な人もいなくて生きる意味もなくなって導き出される答えが死ぬこと。って言ったところか?」


「そうよ。仮に死ななくても信頼していた人物を再び信頼することはないでしょうね。目の前で大切な人を殺してるのだから」


僕の答えに愉快そうに笑っているフードの女。つまりこのままでは斎藤は自身を殺すかまたは生きてても何も信用できなくなるかのどちらかと言うわけだ。


「ダメよ!斎藤千世!しっかりして!」


「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


弓月がどんなに声を掛けても斎藤には聞こえていない。佐々木と幸紀も声を掛けるが効果はない。むしろどんどん酷くなっているような気がする。


「クスクス……。その子はもう完全に死んだわね。残念ね、弓月夏希」


「お願い!斎藤千世!」


「はっ!!」


斎藤は弓月の声に答えることなく、目から、口から血を流した。まるで全てに絶望したかのように。あのDVDで見た女子生徒と同じ、死んだ目をしてた。弓月が涙を流しながら抱き締める。願いながら。とここで急に何かを思い出したかのように手を叩くフードの女。そして僕を見て、


「そうそう、少年、君にも言っておくけれど今頃貴方と親しい人もみんな苦しんでると思うわよ?」


と言った。僕はそれに思わず言葉を失う。そしてすぐにフードの女を睨み付ける。


「ふざけるなぁ!」


僕は無意識にフードの女に斬りかかっていた。しかし怒り狂った僕に冷静な攻撃ができるはずもなく、隙だらけだった。フードの女は隙を見事に突き、僕に蹴りを食らわす。僕はもろに腹に食らって吹き飛び、倉庫の鉄筋コンクリートに強打した。一瞬呼吸ができなかった。


「ぐっ!?」


「ふふふ……。それじゃあね♪」


フードの女は突如消えた。まるで最初からそこにいなかったかのように。


「秋渡さん、大丈夫ですか!?」


幸紀が起き上がれない僕に寄り添ってきた。どうやらあの幻覚、苦幻夢は斎藤にのみ、放ったらしい。いや、まだだ!


「恋華、星華、冬美、愛奈、美沙、舞!どうか、どうか早まらないでくれ……」


僕はそれだけ言うと意識を失った。最後に見えたのは幸紀の泣き顔だった。


ーー

僕はふと何かいい匂いがして目が覚めた。まず目に映ったのが白い天井。一瞬保健室かと思ったが違うな。まず保健室ならこんな香ばしい匂いはしない。それに感触的にベッドじゃなくて布団だ。しかしあの後ってどうなったんだ?……腹が減ったな。痛みはもうあんまない。背中は少しだけ痛いけど。さて、とりあえずここはどこだ?僕は体を起こして周りを見る。ここは家、か?自宅じゃないのはわかったが……。ふと時計を見る。えーっと、ん?針が動いてねぇ!壊れたのか……。と少し悲しい気持ちなる。その時にドアが開いた。現れたのは幸紀。お盆に何か色々乗せてた。


「あ、秋渡さん、大丈夫ですか?」


幸紀は持ってきたお盆を布団の脇に置いて僕の顔を見てきた。相当心配してくれたらしい。


「あー……。大丈夫と言えば大丈夫だ」


「本当ですか?」


「……信用ねぇな」


僕は答えたが疑われた。まぁあんだけ取り乱したんだししゃーないか。


「あ、いえ、そうではなくて……、その……」


幸紀はあたふたしたと同時に俯いてしまった。こいつはどれだけ心配してくれたんだろうな。僕は苦笑を浮かべて幸紀の頭を撫でる。幸紀は何をされてるのか最初はわからなかったみたいだが理解したと同時に赤くなった。僕はそれを見て微笑ましげに薄く笑う。それが五分くらいしてから僕は幸紀を撫でるのを止める。なぜか幸紀が気持ちよさそうにして目を瞑っていたが急に止めたために首を傾げた。

さて、いい加減本題に入らんとな。


「幸紀、あの後はどうなった?」


僕は真剣な顔で聞く。幸紀もさっきまでのようなほんわかから真顔に切り替わる。


「斎藤さんは病院へ運ばれました。ですがやはり精神的な意味で死んでいるために回復はしていません。医師の方も暫くは様子を見る、だろうです」


「そうか……。暫くは斎藤は動けないな」


僕は幸紀の話を聞き、そして恋華達のことを思い出す。あいつらが一番大切だと思っている人。舞は多分僕だ。自意識過剰じゃないよ?っと、それは置いといてと。とりあえず恋華から救いに行くか。幻覚空間であのフードの女が飛ばすとしたら学校か家のどっちかだろう。恋華は多分家だ。よし、行くか!僕が立ち上がると幸紀が慌てる。


「しゅ、秋渡さん、もう少し寝てないと……」


僕は立ち上がると少し背中に痛みを感じた。けどこの程度なら問題はないな。我慢できるっつーよりも正直障害にならない。ただ看病してた幸紀からしたら相当痛く見えるのかもしれないな。


「大丈夫だ。それよりも僕の仲間が危ないからな。救って来ないとやべぇ」


「……わかりました」


幸紀は案外早く納得した。幸紀を見る。どこか悲しそうだ。


「必ず無事でいてください。それだけが条件です」


「いいだろう。じゃあ行ってくる」


僕は外履きを履いてもうスピードで恋華の家に向かった。恋華はああ見えて結構心が弱いからな。すぐに助けるぜ、みんな!だからもう少しだけ待っててくれ!


ア「どうも、アイギアスです」

秋「ったく、苦幻夢って変な言葉作りやがって……」

ア「言わないでください!」

秋「まぁいいけどさ。それはそうとこの後はどうなるんだ?」

ア「予定ではそれぞれの目線にするつもりです」

秋「ほう、お前、女性視点なんて書けるのか?」

ア「…………」

秋「黙るなよ」

ア「自信がないんです……」

秋「はぁ………。まぁ頑張って書けよ」

ア「はい」


次は少し訳ありで更新が遅れます。


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