第十五話 アイドルの木上美沙との再会
木上を守り抜いて彼女が無事に帰ってから一週間。橋本からは質問攻めを浴びたが全ての質問に対して僕はノーコメントと言った。橋本は不服そうにしてたがな。
木上はあれから特に何もなくアイドルとして活動していた。僕はあの時に渡していたロングコートを木上にあげた。そしたら遠慮してたが僕が応援の証と言ったら目をキラキラさせて喜んだ(理由は知らん)。そしたら代わりにと木上が着けていたブレスレットをもらった。ダイアモンドみたいなものだった。なんでも僕に丁度似合ってそうだから、となぜか照れてれしながら言っていた。
ともかく彼女は元気にやっている。なんで知っているかって?あの後落ち着かせた後に連絡先を聞かれて向こうが時間ができた日にメールが来るんだ。僕なんかとメールなんかして楽しいんかね?まぁいいか。
「ふぁ……。ねみぃ……」
今は授業中。教科は数学。女教師が式を言っている。いや、説明している。周りをさりげなく見る。相澤は寝てた。そりゃもうぐっすりと。あ、チョークが投げられた。チョークはまた絶妙に相澤の額に直撃。痛そうだな。
さてはて、他はどうなんだろう?と周りを見る。橋本は今のやり取りに笑っていた。真面目に授業は受けているみたいだな。
星華は黙々とノートに黒板に書かれているのを写していた。のだが僕の視線に気付いたのか、僕の方を見てくる。するとすぐに赤くなって目を逸らした。中々可愛い仕草だった。けどやはり見てた僕が悪いだろう。
愛奈を見る。こいつは頑張ってノートに何かを書いていた。ただ黒板は一切見ていない。つまりは落書きだろうな。けど愛奈は頭いいから特に問題はなさそうだ。と不意に愛奈はぽわーっとのほほんとした顔になる。……絶対変なことを妄想してるな。んで、それをノートに書いてると。アホらし。
と、ここでチャイムが鳴った。次は昼飯か。どーすっかな。
「世刻、学食行こうぜ!」
とさっき撃沈した相澤が額を赤くしてやって来た。ダメージはあまりないらしい。
「ああ、いい……」
ヴィィィン。と言い終える前にスマホが振動した。メールか。
「ん?どした?」
「すまん、メールだ。少しかかるだろうから先に行ってくれ」
「おう、わかったぜ」
相澤が教室を出る前に橋本を誘い、二人で去って行った。さて、メールか。誰からだ?
宛名を見たらそれは木上からだった。ん?この時間だと普通仕事じゃ……?と疑問に思いながら内容を見る。そこには、
『今日そちらの学校が終わったら会えないかな?忙しいなら諦めるけど……』
とのこと。放課後は基本僕は暇だ。から別に問題はない。しかし木上はここにはいないのでは?とりあえず返信しねーとな。
『いいけど突然どうした?また襲われたのか?』
送信っと。さて、本気でどうしたんだろう?あ、すぐに返信が来た。打つの速いな。
『そうじゃなくて私、転校することなって深桜高校に行くの。けど前はあまりのんびり出来なかったし久しぶりに会いたいの』
ん?んん?転校?誰が?木上が。どこに?ここに。マジで?え?本気で何があったんだ?
『お、おう……。まぁ会うことに関しては別に平気だ。暇だし』
送信。なんかこの学校、スゲーな。前にお嬢様が来たと思ったら次はアイドルかよ。どんだけだよ。しかも何気に五神将の棗と黒坂が来たからかなり凄いよ?
『ほんとっ!?ありがとう!!』
……めっちゃ喜んでるような返信が来た。うん、なんで?てか仕事は?
『で、放課後はどこで会うんだ?』
そこは聞いとかねーとな。さて、どこになるのやら。あ、返信が来た。そして見た瞬間、僕は驚愕した。だって会う場所が、
『世刻君の家で……どうかな?』
なんだもん。なぜ僕の家?前のデパートでいいんじゃ……。とふと考える。そうか、木上がまたあのデパートに来たら騒ぎになるもんな。そしてゆっくり遊べなかったから集合場所に出来るような所がない。後は僕の家しかないっつー訳だな。と納得する僕。
『わかった。けどどうやって家まで来るんだ?』
たった一度しか来てないから道を覚えていない可能性が高い。そうなると来れないだろう。しかし次に来た返信は、
『大丈夫だよ!私、道覚えているから!』
とのこと。スゲー記憶力だ。
『ならいいけどな』
驚きでそれしか言葉が出なかった。もとい、それしか返せなかった。そしてなんで僕の家を覚えているんだ?
『うん!じゃあまた後でね!』
と来た。僕はそれに、
『おう』
と返した。放課後が楽しみだな。と同時に不安も覚えたがな。
さて、とりあえず昼飯にするか。
ーー
その頃。
木上美沙は仕事場の休憩室で顔を綻ばせていた。理由はもちろん秋渡を誘えたことだ。美沙は秋渡の周りのことを知らない。だが彼の見た目は今の世界でも数少ない女性に人気のある男性だろう(本人に自覚は全くない)。そんな男性に助けられ、あまつさえ彼のロングコートももらった。それだけで彼女は仕事に対するやる気が凄かった。冷える日はロングコートを羽織って行動をしている。
「(世刻君……。君の温かさ、そして応援が伝わって来るよ……)」
と、ロングコートを羽織ながら紅茶を飲む美沙。
その時にその部屋にマネージャーの女性が入ってきた。美沙の様子を見に来たが今の彼女を見てストレスが溜まっているかどうか考えたがその心配はなさそうだ。むしろ先程よりも生き生きしていた。
「美沙、そろそろ時間よ?」
「はい、友里さん!今行きます!」
……マネージャーの女性ーー友里はこの短い間に何があったのかと疑問を持つ程に生き生きしていた。思わず友里は、
「……美沙、一体この短い間に何があったの?」
と聞いてしまった。しかし誰もが同じ疑問を持つだろう。それに対して美沙は、
「内緒です」
と悪戯を思い付いた子供のような顔で答えた。
この時点で友里は少し予想をした。
一、ファンからの応援メッセージを読んだ。
しかし美沙の下には嫌と言うほどメッセージが来ている。彼女にとっては最早読みきれない!と嘆いていたほどだ。なのでこの可能性はないだろうと友里は直感した。
二、一週間前の一日デートで何か良いことがあった。
最も可能性が高いのはこれだろう。美沙はこの日以来から今まで見たことがないほどのやる気を見せている。それならあの企画は成功ということになる。あれは元々は美沙のストレス解消のために行ったものだからである。
三、男ができた。
これもやる気を出させるのにはとてもいいものだ。だが今の世界ではアイドルに好かれるほど整った男は少ない。しかも強くなければ守ることさえも無理だろう。まぁそれが棗や黒坂などの五神将なら別であるが……。
なんであれ友里が想像できるのはこのくらいだ。なんとなく三の気がした。今の美沙はどこか恋する乙女の顔をしていたからだ。
「(ダメね……。とりあえず私は仕事に集中しないと!)」
首を横に軽く振って気持ちを切り替える。まずは目の前のことを考えることにした友里だった。
ーー
放課後。
僕はさっさと帰る支度をした。いつものことなので気にするやつは……
「……秋渡、もう帰るの?」
いたよ。しかも恋華か冬美か愛奈かと思ったらまさかの星華だった。よく考えたら冬美は生徒会があるからそうそうに来れないんだったな。
「用事があるからな。だから早く帰るんだ」
「……用事?」
「そ。用事。だから今日は話し相手にはなれないんだ」
そう言うと星華はわかるかわからないほどの動作でしょぼんとした。
「というわけだからじゃーな」
鞄を持ってさっさと教室を出る。あ、そーいや愛奈は恋華と買い物に行ったんだったな。さっき誘われたけど即座に断った。めんどーになりそうだったし。
……さて、校門を出て真っ直ぐ家に向かう。と、そこで一台の車が止まっていた。高級車とまではいかないが中々いい車なんじゃね?種類は知らねーけど。とそんなアホなことを考えていたら、中から誰か降りてきた。ってあの女、前木上のとこで司会してたやつじゃねーか?そして僕と目が合い、
「こんにちは、世刻君」
やんわり微笑んで挨拶をしてきた。けど顔は笑ってるが目が笑ってない。この人は僕に苛立ってんのか?なんであれ挨拶をされたのにしないのは悪いな。
「こんにちは、だな。いつぞやのマネージャーさん」
答えるとマネージャーさんは驚いた顔をした。てっきり覚えていないとでも思ったのだろう。しかしすぐにキリッと表情を改め、
「あなた、一週間前美沙に何をしたの?」
と言われた。一週間前といえば久崎とその他諸々に襲われたんだったな。そして自宅で戦ってそいつらを退けた。だけだったよな?
とりあえずあったことを言っておくか。
「久崎っつーどっかの所属の奴に攻撃されたから木上を守った。それだけだが?」
めんどいから説明は噛み砕いた。ただスナイパーはまた違うだろう。久崎の部隊は多分特攻隊かなんかだろう。
「世刻君は美沙を守れるほど強いの?」
と僕が言ったことの守ったという言葉にマネージャーさんが反応した。そうか、よくよく考えたら例えこの世界で女が強いのは事実だが裏世界の奴等はそうとは限らねーんだ。なんせ裏世界の連中は殺しのプロだ。つまり表の世界の恋華などの女を潰すことは充分可能なんだ。んで、木上などのことを快く思っていない奴はそいつらを雇って暗殺を目論むのもいるだろう。プロの殺し屋、暗殺者を返り討ちにできるのは表の世界では冬美クラスの女、五神将とかぐらいだろう。それほど強い。んで、僕は男で五神将であることを知ってる奴はごく少数だ。それを知らない奴からしたらそりゃ疑うよなぁ。
「さあね。ただ運良く撃退できただけかもな」
けどわざわざ自分から話す必要はないだろう。それに、五神将は皆女を恨んでるみたいなイメージが強い。だから余計に話す必要はない。話したら自分の首を絞めるだけだし。まぁ仮に攻撃されても余裕で返り討ちだけどな。
「そう。ならいいわ。私はこれだけを聞きたかったの」
これとは木上のご機嫌とかだろうな。橋本が美沙ちゃんの笑顔がいつも以上に輝いてるー!!って大声で言ってたからな。恋華にうるさい!と殴られていたけど。
「ほら、美沙。世刻君よ」
そう言って車のドアを開けたマネージャーさん。そこからは一週間前に見た緑色の髪、エメラルドのような綺麗な瞳をした女、即ちアイドルとして名が知れ渡っている木上美沙が出てきた。
どうも、アイギアスです。
私は最近自分の作品を読み返して思ったことがあります。それは恋愛作品なのに恋愛要素が少ないことです。なんせすぐにバトル。終わったら少し経ってまたバトルの繰り返しになってきていました。
少しずつでも恋愛要素を増やせたらなと考えています。
秋「果てしなく今更すぎないか?」
恋「私もそう思う」
星「……作者が気付くのが遅すぎなだけ」
愛「これじゃいつまで経っても秋渡さんと結婚どころかお付き合いすらできないじゃないですか!」
冬「みんな、これくらいにしておきましょ?みんなが言ってることは合ってるけれど」
美「作者さんって大変なんだね……」
うぐっ!事実だから反論できないです。とりあえず次からは気を付けていこうと思います。ではでは。
秋「強引に終わらせやがった……」




