第十四話 守り抜く気持ち
サブタイトルはほぼ適当です。
ではどうぞ。
無事に家に着き、とりあえずは安堵する。さて、問題は木上か。いきなり男の家に連れ込まれたってことになるんだよな。……なんか犯罪を犯した気分だ。けど木上の前に僕は自身の左肩の血を止血する。ほぼかすっただけだったみたいで包帯を巻くだけにした。ふぅ……。さて、このあとはどうしたものか。
「あの……、世刻さん……」
そわそわしながらも控えめに僕に声を掛けてくる木上。やっぱ嫌だったよなぁ。
とりあえず僕は木上の方を向く。
「どうした?」
「あの……。その……。怪我は……大丈夫ですか?」
なんだそんなことを心配してそわそわしてたのか。
「かすり傷だから大丈夫だ。心配を掛けてすまんな」
「いえ、大丈夫ならよかったです……」
軽く腕を上げて答えると、木上は本当に大丈夫だと判断したのだろう、ほっとする。
これくらいなら全然平気だしな。
「さて、いきなり何者かに撃たれたわけだけど木上、何か知らないか?」
急な話題変化だが、せめて何か情報がないことには動けない。だから木上が何か知ってればありがたいんだが……。
しかし質問に首を横に振る木上。
「すみません。私も急すぎて何がなんだかよくわかりません……」
やっぱり何もわからんか。なら仕方ない。
「そうか。なら仕方ない。気にしないでくれ」
僕は返事を聞く前に再び考える。まず狙撃者。腕前はいい方だと思うし、恐らく潜入が得意なんだろう。気配がしなかったし。
「世刻さん、これからどうします?」
木上がこれからのことを聞いてくる。あ、そっか。木上は仕事があるからここで守り続けるわけにはいかねーんだ。そうなると今日だけでけりをつけないといけない。
「とりあえずは僕の家に木上はいてくれ」
やるべきことはここでは一つ。こいつを守り抜くことだな。
「え?世刻さんは?」
当然の疑問をぶつけてくる木上。そりゃそうか。家の主がどっか行くってことだもんな。
「少し外の様子を……」
しかしここで言葉を区切る。突然黙った僕に木上は首を傾げる。頭の上に?マークも着いてるだろう。
そんなことよりもまさかのまさか。外に八人位の殺気があった。けど八人分の殺気よりも棗や黒坂の方が怖いと思った。案外冷静だな、僕。そもそも五神将と比べたら終わりか。いやそれよりも、
「囲まれたか」
「え!?」
僕の言葉に木上は驚いてキョロキョロする。そして怖くなったのか、その場で震える。自分を殺そうとしてるのがいるんだもんな。誰だって怖いと思う。
「(どうする?って答えは一つしかないな……)」
考えようとしたが、浮かぶのはたった一つだけだ。それは、
ここで全員返り討ちにするだけだ。
善は急げ。僕は立って木上の横に行く。木上はずっと頭を押さえて震えてた。こんな時に思うのはおかしいが、正直その仕草が可愛かった。とりあえず僕は木上の頭をぽんっと撫でる。木上は一瞬ビクッとしたが、相手が僕だとわかって安心する。よく見ると震えも少し収まってた。そんな木上に僕は、
「これから外の奴等を追い払って来るから少し待っててくれ」
と、耳元で囁く。そして僕は自分のロングコートを木上に被せる。するとそのロングコートをキュッと掴んで木上は目を閉じる。
しかしすぐに目を開けて、
「世刻さん、大丈夫なんですか?」
と心配をしてくれる。アイドルに心配されるなんて、こいつのファンからしたら羨ましいだろうな。橋本とか。
「大丈夫だ。行ってくる」
返事を聞かずに二階へ行き、刀を取る。今回は鞘はいいか。
窓を開け、そこから飛び出す。そしてその音に囲んでた奴等が気付き、こっちに来た。そして僕を見つけ、八人全員が武器を構える。全員がハンドガンという、強いんだか弱いんだかわからんな。
「動くなよ、少年」
先頭にいた変なおっさんが言ってくる。
「誰がおっさんだ!こう見えて俺は二十代だぞ!」
「え、マジで!?」
どう見ても四十代にしか見えない。あと人の心を読める奴って多いんだな。
あとあんたの後ろの七人もマジ!?って顔をしてるぞ?おっさんからは死角になってるけど。
「マジで腹立たしいな、このガキャ!」
おっさんが切れた。後ろの奴等は傍観を決め込んでるし。あんたどんだけ信用ないんだよ。敵ながら哀れだ。
「……おい、何人を哀れんだ目で見てんだコラ!」
よくわからん怒りと共におっさんは槍を取りだs……。
「ちょっと待て。あんた今どっから槍を出した?」
僕は思わず疑問を口にする。だが無理はないだろ。だってさっきまであからさま槍を持ってる素振りもなかったし仕舞える場所もない。そうなりゃ誰だって疑問を抱くだろ。現に後ろの奴等も驚いてるし。
「そこは気にしたら負けだ、ガキ」
いやいやそりゃ無理があるぞ、おっさん。地味にほくそ笑み浮かべてるし。いや、どっちかって言ったらドヤ顔だな。まぁこんなコントみたいなやり取りはこの変にしていい加減始めるか。
「まぁいいや。始めるか、おっさん」
「いいだろう、ガキ!」
一瞬にして雰囲気が変わった。戦いに関しては手練れ、ってことか。あんま油断はできねーな。ふと気になり、
「一騎討ち、でいいのか?」
と聞く。するとおっさんは一瞬キョトンとしたがすぐに、
「当然だ。でなければつまらないだろう?」
と笑って返してくる。つまりは後ろの奴等は手を出さないってわけか。自分が強いのも自負してる。……面白い!五神将ではないけど絶対に高須よりは強いだろうしな。あれは弱かったし。
とここで急におっさんは後ろを向き、
「……お前ら、手を出すなよ?」
と釘を刺した。正真正銘の一騎討ちだ。なら勝って退却させるのが一番だな。木上も早く安心させたいし。
部下が頷くのを確認してからおっさんは向き直る。
「……行くぜ」
「……来い」
同時に走る。大槍を持ってる奴とは思えない速さだった。槍とか刺さったら痛いだろうな。刀で受けることにする。
ガキンッ
走った分のエネルギーも加算されてお互いの一撃が重くなる。これはこれで痛かった。けどこれならまあ余裕で耐えられる。おっさんは一撃を当てたらバックステップで後ろに下がる。油断ならない。
「よく受け止めれたな、ガキ!」
「おっさんこそ、僕からのカウンターを見越してよくすぐに下がったな」
「伊達に長い間戦ってきたわけではない、ということだガキ!」
「そのようだな。けどそれは僕もだ、とだけ言っておくよ」
互いを称賛し、互いに微笑を浮かべる。……間違いない。このおっさんは強い。高須なんかと比べたら何倍も、な。
「ふ……。おもしろい奴だ。……そういえば名を聞いてなかったな。名はなんだ?」
「……世刻秋渡だ。あんたは?」
「俺は久崎大揮だ」
まるで武士の名乗り合いをしてる気分だ。おっさんーーいや、久崎はふと懐から懐中時計を出してパカッ、と開けて見て、
「……時間か。世刻、お前と殺りあえたのは楽しかったぞ。次は決着をつけよう」
「そうか……。じゃあ今回は引き分け、だな」
「ああ。では御免!」
シュバッと久崎は去った。部下達もそれに倣って付いていった。僕は少し見送った後に家に戻り、木上の所に行く。木上は僕のロングコートを被り……ではなくなぜか羽織っていた。けど踞っていて表情はわからない。けどさっきに比べたらガクガク震えてはいなかった。
「木上」
声を掛けると木上は一瞬ビクッ、として恐る恐る僕を見る。そして相手が僕だとわかったからか、恐怖感から安心感に変わってるのがわかった。そしておもむろに両目に涙を溜めて、僕に抱き着いてきた。いきなりだったから僕は反応ができなかった。
「う、うわあぁぁん!恐かったよう……!」
そして思いっきり泣いた。……当然と言えば当然だがやはり恐かったらしい。僕はーー自分の中ではだがーー出来るだけ優しく木上を撫でる。
「もう大丈夫だから安心しろって」
木上に優しく声を掛ける。とは言え僕は内心は安堵してなかった。今回の戦い、あからさま五神将が現れていない。しかもこれだけのスナイパーを用意できるとも限らない。久崎ならできるかもしれないがなんとなくあいつがボスとは思えない。
ま、なんであれ今は木上を安心させることだな。
「ぐすっ……。……ありがとね、世刻君……」
どうやら一泣きしたら落ち着いたらしい。微笑を僕に向けてくる。
「気にするな。僕は当然のことをしただけだ」
少し照れてぶっきらぼうになってしまった。僕らしいか。
「ううん、それでも、だよ。ありがとう……」
ぽすっと僕に体を預ける木上。この様子ならもう大丈夫だろう。
関係ないけど今の木上はデパートで見た皆のアイドルと言うよりは程遠いってわけではないが親に怒られたのを自分の兄に慰められて甘えている妹みたいだな。と、僕は内心で思っていた。
なんであれ無事に守りきれたことに関しては本当によかった……。
どうも、アイギアスです。
とうとう年が明けますね。長いようで短い一年でした。
秋「やれやれ……。僕が戦ってる中でも呑気にしてた奴が何言ってんだか。けどま、一応一年間お疲れさん」
恋「クスッ。いいじゃない、それくらい。私、来年こそは……」
秋「ん?」
恋「ううん、なんでもないよ」
秋「そうか。ならいいがな」
さてさて、果たしてこの作品はこの後どうなるのでしょうかね?我ながら楽しみです。
ではよいお年を。




