第百二十六話 親の心情
恋華side
ーー
秋渡が幸紀と寝具を買いに行く前、恋華と舞、そして明菜は恋華の父親の車に揺られて買い出しに出ていた。恋華は助手席に座り、舞と明菜が後ろに座って談笑しているのを恋華の父親は嬉しそうに笑って聞いていた。それに恋華が気付く。
「お父さん、そんなに嬉しそうにしてどうしたの?」
娘に尋ねられ、父親はまた笑みを深める。
「実際嬉しいからね。何せ昔は秋渡君以外にはあまり親しい子がいなかった恋華にこれだけ仲良くなった人がいるんだから。あの事件もあって心を閉ざしてしまったと思ったのにこうして笑ってる娘を見れてるんだからそりゃ嬉しいさ」
「……それはそうだね」
父親の言ったことに恋華はすぐにそれはそっかと思った。親子の会話は舞と明菜には分からないが少なくとも暗い話ではなかった事にとりあえず安心する。そして恋華は窓の外を見ながら言う。
「秋渡は昔から私の王子様だったからね。昔した子供のちっぽけな約束ですら全力で応えてくれる。心を閉じそうになっても絶対に引っ張り上げてくれる。お父さんが秋渡との婚約話を聞いて喜んだのはそれもあるんでしょ?」
「ふふ、流石は俺の娘。それに秋渡君は俺達両親でも出来なかった事を幼くても出来た。悔しいとは思うけど秋渡君が五神将と知ってからは納得もしたし五神将なのに変わらず接してくれた事から恋華を任せられるのは彼しかいなかったからね。重婚は驚いたけどそれでも俺は秋渡君が恋華も選んでくれた事に何よりも喜んだんだよ」
「まぁ少なくとも秋渡にはお父さんなら了承なんてなくても大丈夫そうって思われてたくらいだからね」
秋渡は恋華の父親が重婚に反対しないだけが気がかりだったと言っていた。しかしそれは結婚する事に関しては了承すると最初から分かっていたのだろう。秋渡曰く。
「いや、なんかおじさんは僕と恋華が一緒の時めっちゃ嬉しそうにしてるし。少なくとも娘が男に盗られそうって慌ててるような雰囲気もないしなんならどうぞと言わんばかりの目をしてた」
とのこと。それを聞いた時は恋華は恥ずかしさと同時に娘の恋心を理解してたんだなと思った。普通ならば反対されそうなのに秋渡ならば納得してくれてたと分かった恋華はそんな父親に感謝していた。もっとも、その当人である秋渡は恋華の片想いには全然気付いてなかったが。実際に恋華に言った事を話してた時、秋渡はそれは恋華の気持ち考えてるのか?と思ってたらしい。
「へぇ、そのような話は初めて聞きました。お兄様はおじ様の事を信じてたんですね」
舞が二人の会話を聞いててそう思った。少なくとも自分なら絶対平気と自信満々に言う軽い男ならともかく秋渡はそんな人ではない。恋華の父親の事を理解し、昔から恋華の家族とも交流があったからこそ恋華の父親を冷静にそう判断出来たのだろう。後は単純に娘を救ってくれた恩があるから。舞の言葉に恋華の父親はどこか照れ臭そうに笑う。
「はは、五神将の現最強に信じられてたなら光栄だね。って言っても秋渡君が五神将の立場で俺と話してた事は多分ないけどね」
そう、秋渡は『五神将として』誰かと話してた事は殆どない。いや、正体が世間に明かされる前ならばそもそも彼が五神将だと知ってた相手が少ない。それに秋渡は婚約話を各家庭に話した時も五神将ではなく一人の男として頼み込みに行ったのだから。五神将の立場ならば余裕で娘を寄越せと言えばほぼ有無を言わさず婚約出来たのにも関わらず。しかしそうはしない。恋華の父親もそれだけは秋渡がしないと思っていたので、安心した。
「私の旦那様はそんな人じゃないからね。……各家庭に話そうとしてた時に緊張してた姿は珍しくて笑いそうだったけど」
「あー、普段なら秋渡は緊張なんてしなさそうだもんね」
恋華がクスクス笑いながら言うと明菜も納得して頷いていた。明菜や舞は秋渡と会ってからまだ長くはないがこの数ヶ月だけで秋渡の事を凡そは理解していた。見た目や言動に対して実は仲間思いだったり仲間を傷付けようとする者は許さなかったり。そして恋愛事に本格的に巻き込まれたら思ったよりも動揺したり複数の告白に答えが出せなかったので全員を選んだりその選んだ相手の両親の説得に緊張したりと。確かに普段の秋渡を見ていたら想像出来なかっただろう。何せ幼い頃から一緒にいた恋華でさえそうなのだから。
「ふふ、でも昔のようにほぼ感情を表に出してなかった秋渡君が笑ったり困ったり感情を出してくれるようになった事は素直に嬉しいよ。元々信念は強い子だったから恋華を護る事を優先して自分の事は考えてなかったところもほぼほぼなくなってるしね」
どこか懐かしそうに恋華の父親は笑っている。
「五神将って事はずっと隠していたようですが……」
舞の呟きに恋華は苦笑しながら「まぁね」と返す。は学校で櫻井ファミリーに襲撃された時に目の前で人殺しをした兄を見、そして以前までは有り得なかった女性に男性が勝つというのも見た。その時から……いや、秋渡が五神将と初めて戦った時からだろう。その歯車が動いたのは。実力者である事を隠していたにも関わらず棗達也の襲撃時、彼は油断していた達也に圧倒した。黒坂虎雄に関しても同じだ。青葉龍大も撃退したと言うが龍大は油断もしてなかったらしい。そして暁春樹との決戦。あの時秋渡は五神将としての実力を全開にして挑んだのだろう。そして勝利した。
「そう考えると秋渡は暁以外には全力ですらなかったって事よね……」
「噂だと暁春樹も秋渡以外には全力じゃなかったらしいわ」
「ならやはり最強の称号はお兄様にこそ相応しいですね!」
「はは、そうだね。……と、着いたよ」
車の中で談笑していたらとうとうスーパーに到着した。舞と明菜は礼を言うと四人で中を回る。舞と明菜、そして恋華が先を歩きながら何を作るかの話をしながらその材料を見ていく。それを恋華の父親はカートを押しながら微笑ましそうに、嬉しそうに眺めていた。、恋華はふと挽肉の所で足を止めた。それに気付いた舞と明菜は恋華の視線の先を追う。
「挽肉……ですか?」
「うん。……今日は時間ないから無理だけどハンバーグを作ってそれにポテトを添えてあげると秋渡は喜びそうだなって」
恋華はその時を考えてるのか秋渡の笑みを思い浮かべる。昔秋渡に作ったら嬉しそうに薄く笑っていた。一緒に汁物も作ろうとしたらそれは秋渡に止められたのだが、それは秋渡が作る為だった。
「秋渡は私の作る料理を昔から嬉しそうに食べてくれるんだよね」
挽肉の量が多いものを選んでカートに入れる。ポテトを食べる時の秋渡は普段の冷静な姿からは予想しにくい程に嬉しそうにする。そういう所だけは子供っぽく見えた恋華にはその姿が可愛らしいと思ったものだ。
「あ、なら私は今度お兄様に肉じゃがでも作ろうかな……」
舞もそう言って肉を選び始める。明菜はそんな二人に少し呆れるが特に何も言わない。そしてそれを見つめる恋華の父親の目は優しかった。何よりも恋華の父親は今恋華と話している二人にも他の秋渡の嫁となる者達にとても感謝しているのだ。幼い頃はいじめられ秋渡に助けて貰ってからは友達らしい友達はいなかった。中学では友人を亡くした。基本中学の時は誰とでも仲良くなれていた恋華だったが心から信頼してたのは秋渡だけだろう。恋華の父親は秋渡からは恋華が本当に信用してる同級生は殆どいないと聞かされていた。それが親として何も出来なくて寂しく、悔しかった。だが高校に入ってからはその心配はなくなった。親友と呼べる人と会い、口喧嘩出来るような友人とも出会い、頼りになる先輩にも出会った。家でその話をされた時、恋華の父親は娘が寝た後に嬉しくて泣いていた。それは恋華の母親も同じだった。
「(あの時程恋華の事を大事にしてくれる仲間の話をされて喜んだ日はないな。それも秋渡くんの人徳から来たんだろうけどそれでも感謝してもしきれないね)」
目の前で楽しく話している娘とその妹分と言える二人を見ながら恋華の父親はそう思っていた。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
恋「恋華です」
秋「今回はまぁそこまで遅くならなかった……訳じゃないな。ダメな作者で本当に申し訳ない」
ア「す、すみませんでした……」
恋「あ、あはは……。それよりも今回のお話だけど……」
秋「おじさんは内心こんな事思ってたんだな。昔から知ってたけどやっぱり優しいな」
恋「うん。自慢のお父さんだと思ってるよ。秋渡の事も息子みたいに思ってるし」
ア「結婚するならば実質息子になりますね」
秋「そうだな。……てかそれだと僕は父親と母親が一気に増えるのか……」
ア「重婚ですからね……」
秋「まぁ無理難題を押し付けてくる人はあんまいないだろう。……数名心当たりあるから何とも言えないけどな」
恋「そうなの?」
秋「久英さんとか、金持ち組の両親がな」
ア「そういえば元々面白がられてましたよね。特に長谷川家に」
秋「親父達の友人だから似た者同士なんだろう。ま、今後を考えてそれも諦めて受け入れるさ」
恋「が、頑張ってね……」
秋「反対に安心なのは恋華の両親だな星華と冬美の両親は何とも言えねーが。美沙の両親もそれは一緒か」
ア「結構各家庭でも違いが出てますね」
秋「ま、しゃーないさ。五神将が娘を寄越せと言ってるんだからな」
恋「私達は誰一人嫌々な人はいないのにね」
秋「そうだろうけど親としてはやっぱり複雑なんだろうよ。その点金持ち組は簡単に承諾してくるから肝を抜かれたが」
ア「いざこざがないだけ良かったと思うべき……何でしょうかね?」
秋「そうだろうよ。さて、今回はここまでにしよう」
ア「ですね。それでは……」
ア・秋・恋「また次話で!」
〜オマケ〜
美「うぅ……。心配してくれるのは嬉しいんだけどさ……」
星「……うちも。……もう少し信じて欲しかった」
冬「うちは信じる信じないよりも五神将だからっていう恐怖感が上だったわ……」
愛「ふふ、私の両親は寧ろ押せ押せで行けと言ってくれましたからね!既に問題ないのは素晴らしいです!」
幸「うちも……ですね。と言うよりも婚約者だったからいずれは……と言うよりも秋渡さん以外認めなかったですからね、私の両親は」
美「羨ましいなぁ」
星「……うん」
冬「そうね……」