第百二十三話 完全決着
秋渡side
ーー
病院生活から逃れ、やっと退院出来た日から数日。僕は一人の男に呼び出されてその場へ……初めて会合した場所へ向かっていた。
すぐに着いたが、目的の男は既にそこで待っていた。
「待たせた」
「大丈夫だよ」
目の前に圧倒的な覇気を纏う最凶の男、暁春樹がいる、僕は警戒しながら暁と距離を置いて話しかける。だが不思議と暁から敵対心はなかった。
「用事とはなんだ?」
僕は気を抜かないまま本題へ入る。この場には暁から連絡があってやって来ている。周りからは他の人間の気配はない。それでも目の前の男の強さを実感した今は油断は出来ない。だが暁はただフッと笑うだけだった。
「警戒する必要は無い……と言っても意味は無いだろうね。ともかく今日はあの戦いの決着の話をしに来た」
「……なるほど」
他にメンバーがいない理由は分かった。こいつは僕とタイマンの話をしたかったのだろう。あの時の当事者は僕とこの男しかいないのだから。それでもこれは僕達の未来に関わること。ここから離脱する訳にはいかない。僕は眉を寄せながら暁に続きを促す。だが暁から放たれた言葉は僕の予想の斜め上を行くことになる。
「この戦い、君の勝ちだ。僕ら五神将をどうするかは君の判断に任せるよ」
「……なんだと?」
結果を聞いた瞬間は驚いたが、それよりも二言目に更に驚いて声を上げてしまった。僕の驚きが面白かったのか、暁はくつくつ笑うがすぐに人が良さそうな笑み(見た目のみ)を浮かべる。
「何も驚くことはないよ。何せ今……いや、五神将全員に勝利した君は五神将のトップの存在となった。しかも全員一騎討ちにて撃破しているしそれを証言出来る人間も君の周りがいる。だから五神将という存在をどうするかは君次第ってことになる」
「…………」
「五神将の存在をどうするかは今すぐ決めなくてもいい。けど君の勝利だけは先に全国に伝えなければならないんだ」
黙り込んだ僕に暁はロングジャケットのポケットに手を入れながら自嘲気味に笑う。僕はあれが勝利だとは思えなかった。だがこいつがそう判断したのなら今はそれに乗る方がいいのだろう。だが五神将をどうするかはまだ決められない。
「聞きたいことがある」
「何かな?」
「もし五神将の存在がなくなったらどうなる?」
僕は暁の目を見て尋ねる。それに暁は少し考える素振りを見せ、何かを数えるように右手の指を折っていく。
「まずまだ終わってない女性が格上ってものを抑制するものがなくなるね。それと僕、達也、虎雄、龍大が経営する会社も全てなくすことになるだろう。何せ五神将の名前を使って作った会社だからね。もちろん雇っている人は皆解雇になる。あとは恐らく今回の戦いを言い訳にそこら中で女性が男性を虐げることになるだろう。何せ五神将がいなくなれば怖いもの無しになるからね」
「……思ってた以上に深刻なことになるな」
やべぇ、予想の斜め上だった。というかこいつら全員会社設立してたのかよ。だが五神将という抑止力がなくなるのは間違いなくまずいのは確かだ。大きく分ければ女性優位が変わらず、しかも今度は抑止力まで消えるとなれば間違いなく荒れる人間が出て来る。そして五神将の設立した会社がなくなれば多分男性が働く宛がなくなるのも間違いないな。……それに五神将の立場がなくなると下手をすれば総理大臣からの約束が取り消される可能性が高い。……となれば考える必要もないだろう。そしてそれを察したのか暁は笑う。
「負けた身で言うのもなんだけど五神将は残した方がいいと思うよ。男性にとっても五神将が残ってるのは希望を捨てることがなくなるからね」
「……そうだな。僕もそう思う」
「あ、もちろん負けたからには蹂躙みたいなことはしないよ。もしやろうとする輩がいれば今度は僕らが止めることも約束するよ」
サラッと提案してきた暁だが、暁の言葉に嘘偽りはないと思う。しかも暁がその止める筆頭になるならば蹂躙なんて起きようもないだろう。……今までは存在だけでもヤバい男がこの戦いで強さも証明したんだから誰もこいつを敵にしたくないだろう。ぶっちゃけ僕もこいつとの殺し合いは二度と御免だし。僕は溜め息を吐くと腕を組んで暁に答える。
「五神将の存在はなくさない。けどお前らが蹂躙しないことを条件にしてもしそんなことがあったら僕が今度こそ息の根を止める。それでいいか?」
「了解したよ。じゃあ……」
「その前にもう一つ」
「ん?」
暁はスマホを取り出してどこかに連絡しようとするが、それを一旦止める。これだけは譲れないことがある。ただの自分の中での我儘みたいなものだが。
「この戦い、お前から言われた通り僕の勝利ってさせてもらう。けど僕はあれでお前に勝ったとは思ってないことだけは伝えておく」
「……そっか。いや、最後の結末はともかく途中から完全に君の勝ちだったとは思うんだけどね」
「それでもだ。そもそも初めは僕が圧倒されているし。ま、単に僕が勝手にそう決めているだけさ」
「そう。君が引き分けと思ってても僕は敗北と思っている。お互いそう思うことにしておこう」
「ああ。……それじゃ、僕は帰る」
「うん。全国に伝えるのは任せてくれ」
それを最後に僕は踵を返すと背を向けた途端に後ろからの強烈な覇気が嘘のように消えた。振り返るとそこには暁はおらずただ涼しい風が吹いているだけだった。
「……やっぱ人間技じゃねぇよ。何もかもな」
小さく呟くと僕も大地を蹴ってその場から素早く立ち去ったのだった。残されたその場には大地を強く蹴った跡のみがあったが、それも草花に埋もれ、簡単には見つけられないようになっていた。
ーー
「ただいま」
「おかえりなさい、お兄様」
「おかえり」
帰ってドアを開けるとすぐに舞と明菜が笑顔で出迎えてくれた。僕も二人に笑みを返すと舞は嬉しそうに、明菜も安堵したように笑う。
「それで、どうだったの?」
リビングの中に入って僕がコートを脱ぐと同時に明菜は尋ねてくる。なんの事かなんてことは聞く必要などない。僕と暁が目を覚ましたというニュースが流れたと同時に速報であの戦いの結果がどうなるかというものが多く流れた。何かしらの解説員が色んな見解を表していたが僕のことが分からないということから確証を持てないというものも多かった。そしてそれは僕と暁を知っている者達も同じ。僕はソファーに座ると両隣りに二人も座る。そして暁と話した結果を伝える。
「僕の勝利ってことになった」
「本当ですか!?」
勝利を伝えた瞬間、舞は顔を輝かせ明菜はホッと一息つき、僕も頷く。
「暁がテレビで全国に伝えるらしいから大平総理にも伝われば重婚の話も来ると思う。だから今は待つだけだな」
ソファーの背もたれに背中を預けながら僕は言う。それに明菜は「そうね」とだけ答え、ただその表情にはどこか寂しそうなものが窺えた。確かに僕が重婚だろうがそれが叶わなくても結婚することになれば明菜はここを出なければと思うのだろう。だが……。
「心配しなくとも明菜の帰る場所はここだ。勝手にいなくなるのは許さんからな」
「お兄様の言う通りです。勝手にいなくなったら約束を破ったと見なして怒りますからね?」
明菜の心情を読んだ僕と舞の二人に明菜はキョトンとするがすぐに少し涙を溜めながら笑う。そして……。
「……ありがとう。二人に会えたことは本当に忘れないから」
それだけ言う。僕と舞は笑みを浮かべるとただただ涙を流す明菜を見る。明菜は本当に心から嬉しそうに笑っている。あの時、校舎で会った姿など忘れたかのように。だがそれでいい。僕も舞もあの時を思い出すよりもこれから一人の人間として……いや、今ではもう家族なんだから家族としての思い出をたくさん紡いで欲しいと心から思っていた。舞がハンカチを渡すとお礼を言いながら涙を拭く明菜に僕は優しい笑みを浮かべる。
そして、明菜が泣き止み、テレビを付けたタイミングで。
『番組の途中ですが緊急速報をお伝えします!』
僕と恋華達、そしてあの戦いを伝える速報が丁度始まるのだった。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「……秋渡だ」
舞「舞です!」
明「明菜です」
秋「さて、まずはここまで遅かった言い訳でも聞こうか?」
ア「刀突き付けながら聞くのはやめてほしいんですが!?」
舞「怒っているお兄様も素敵です……」
明「舞は秋渡のどんな表情でも好きじゃない」
舞「当然です!」
秋「…………」
ア「えっと、とりあえず遅くなってすみません。リアルが忙しくて書いては消してを繰り返したりしていたらここまで遅くなってしまいました」
秋「はぁ……。反省はしてるしもういいか。それよりも遂に世間にも勝敗が伝わるんだな」
明「秋渡と暁春樹が目覚めるまではどうなるのかテレビにも上がってたわ。もっとも、本人達の意志は完全無視してたけれどもね」
舞「暁春樹さんが聞いてたらそれこそ怒りそうなものでした……」
ア「というかその辺りは部下からも聞いているのでは?」
秋「……バレてたらその人、物理的に消されてるかもな。いや、まぁ暁なら笑ってそうな気もするが……」
明「本当に掴めない人ね。……貴方もだけど」
秋「……なぜ矛先がこっちにまで」
舞「私はどんなお兄様でも受け入れます。この髪色と瞳を受け入れてくださったお兄様なんですから」
秋「ああ、まぁ僕も同じだしな」
ア「ではここまでにしましょうか。改めて皆さんこの一年もありがとうございました!」
秋「来年も書き続けるけど終わりも近いからな。ずっと読んでくれている人達に感謝するよ」
舞「本当にありがとうございます。来年もよろしくお願いします」
明「今年は全員での挨拶でなくてごめんなさい」
ア「それでは……」
ア・秋・舞・明「良いお年を!」