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第百二十二話 五神将の行方

春樹side


ーー

秋渡が目を覚ます少し前、五神将の最強の男は目を覚ましていた。夜に目覚めたため、部屋は暗い。春樹はすぐに病院と気付き、体を起こす。


「……虎雄が手配したんだな」


他に患者がいないことから、病院の手配は五神将の中でも医療系に繋がりのある黒坂虎雄がしたのだと春樹は直感した。体を起こすと節々に痛みがあるがそれも少数だ。


「負けたんだなぁ、僕は」


体の調子を確かめてから再びベッドに横になる。最後に秋渡との一瞬の戦いに自分は負けたと春樹は思っていた。しかし言葉とは裏腹に春樹はどこか清々しい表情をしていた。


「……ようやく見付けられたんだな」


春樹は口元をニヤリと歪ませると傍らに置かれている鞘に収まった己の相棒の長刀を目にする。


「それにしても……」


春樹はベッドに横になりながらふと思う。


「あの夢は一体なんだ……?」


全ては覚えていないが薄らぼんやりと覚えている夢。その夢には秋渡の他にも見知らぬ女性がいた。ただ秋渡も思っていたが、春樹にも只者ではなく、どこか懐かしいものを感じていた。しかしそれは秋渡よりも薄い気持ちだ。


「まぁいっか!」


春樹は目元に手を当て笑う。あの夢の女性がなんなのかは分からずともそれよりも今後だ。自分は負けた。それも五神将を相手に。春樹は龍大にも虎雄にも達也にも負けたことはない。初見だとは言え秋渡にも負けるわけないと思っていた。実際最初は善戦していた。だが秋渡が変貌した瞬間、秋渡は恐ろしい程の力と速さで春樹を追い詰めてきた。それが戻った後も結局最後は先に倒れ、負けてしまった。


「いやー、あんな強い男がいるなんて。やっぱ僕もまだまだだなぁ」


春樹はそう言って笑う。無論、春樹より上の実力者などそうそうに見付かるわけないのだが、それを春樹は考えていない。


「さて、どうするかな」


虐げられる男性達を思って起こしたこの戦い。初めは戦争として戦うつもりだったが秋渡からの提案の一対一の決闘に変わった。春樹も負けるとは思ってなかったし秋渡の実力をこの目でしっかり見たいとも思っていた。だが結果として敗北。秋渡の大切な人を守るための意思は強く、そしてそれが彼の強さになった。それを見て春樹は純粋に秋渡がすごいと思った。五神将達の身体能力は普通の人達に比べたら遥かに凌駕しているが、秋渡が変貌した時の動きは最早人ですらなかった。まるで過去に描かれている英雄達のようで春樹は驚きを隠せなかった。


「けど……」


春樹はそれと同時に思ったこともあった。自分もだが龍大、虎雄、達也の三人も秋渡みたいに何かトリガーとなることがあればあれだけの強さを持っていても不思議ではない。春樹はそれを考えていると思わずニヤリと笑う。


「なんだ、まだまだ僕達も強くなれるじゃないか」


確信を持って春樹は呟く。秋渡のトリガーは間違いなく大切な人を必ず守り通し、それを仇なす者を打ち倒すというものだ。だが春樹は自分を含め他の五神将もまだトリガーを引いていない。いや、そのセーフティが一体なんなのかがまだ分かっていないのだ。ならばそれを解除したら?どうなるかは誰にも分からない。


「(……五神将のトリガー……か)」


春樹は呟き、その言葉は静かな部屋へ消えていった。


ーー

その後、春樹は医者を呼ぶよりも先に虎雄を呼んだ。虎雄は連絡を受け取ると即座に春樹の所へと現れる。


「お早い目覚めだな、暁」


「おかげさまでね。で、どうなった?」


春樹は前置きもなしにすぐに本題に入る。春樹の「どうなった」の意味も虎雄は理解しており、頷くとあの日のことを話す。


「……まず間違いなく先に倒れたのはお前だ。けどすぐに世刻も倒れた。最後にあいつは何か呟いてたが残念ながらそれは誰も聞いてない。ま、最後の戦況じゃどっちもどっちだったがな」


「……そうか。いや、最後は完全にやられたよ。世刻くんの実力を誤りすぎた」


「あの変貌は確かに凄まじかったな。けどそれにしては一方的にやられすぎだったようにも見えたが……」


虎雄の言葉に春樹は思わず苦笑する。確かにあの間、春樹は秋渡に攻撃は全然当てられなく、逆に秋渡の攻撃がかなり命中してしまっていた。それは春樹自身気付いていた。椅子に座って虎雄は春樹から何か感じたことを聞こうと身構えている。春樹もそれを察して頷くとポツポツと話し始める。


「彼の突然の強さはあからさまに妙だった。けど僕が世刻くんの恋人を手にかけることを言ったら途端に変わったんだ」


「愛すべき者を守るためってか?」


胡散臭そうに虎雄は口を挟む。春樹もそう思ったがそれだけであそこまでは変わらない。


「それもあるだろうけど恐らくはそれはトリガーを構えるきっかけに過ぎない」


「……トリガー?」


春樹のその言葉に思わず虎雄は疑問を挟む。春樹は頷くと続ける。


「守るべき者のために強くなる。それは別段そこまでおかしくはない。けれどもトリガーを引くきっかけとなったのは負けられないこともあったはずだ。きっと彼が許せないと思った相手に無意識に発動するようなものだよ。で、その対象が今回は僕だっただけさ」


「……つまりあいつ自身も無意識でよく分からないってことか。厄介だな」


「愛する者を守るため、そしてその人達に顔向け出来るようにするため、そしてそれを犯す相手を許せないと感じた時彼はあの変貌をするだろうね。トリガーを構えて力を込め、そしてトリガーを引く。けど間違いなくそんなことは普通の人間には出来ないよ。ただの気持ちの持ちようってだけのことじゃないんだからね」


春樹はそう締めると虎雄は小さく溜め息を吐く。


「全く、ただでさえ厄介な強さを誇るあいつが更に強くなるとか……。チートかよ」


「言っちゃなんだけどそれは五神将全員にも言えるからね?」


虎雄がうんざりしながら愚痴るが、春樹はツッコミを入れる。実際春樹は自分も虎雄も達也も龍大も。五神将はあのように覚醒することは出来ると思っている。ただ秋渡のようなトリガーを引くきっかけが未だに持ってないこととそれが本当にトリガーを引けるかは分からないことがある。少なくとも何かは一致してもどこかしらは秋渡と違うところがあるはずだ。


「(それが分かれば僕も虎雄達ももっと強くなる。それは間違いない)」


当然そうなれば秋渡もまだ強くなれるのは想像に容易い。だが春樹は少なくとも普通の手合わせを除いたら正直秋渡とな一騎討ちはあまりしたくないと思った。本気の戦いで今は少なくとも春樹は秋渡に勝てるビジョンはない。流石に絶対勝てない戦いは春樹にもしたくはない。理由は簡単。仕合の楽しみが一方的ではつまらないからだ。だから春樹が次に秋渡と戦うとしたら春樹も覚醒した時であり、それまでは大人しくするのが定義と思っている。


「(僕ももっと鍛えておかないとね)」


素直に春樹はそう思った。そして秋渡が無意識にでもトリガーのロックを解除したことを尊敬する。たとえ理由が理由でもそれでもあの瞬間、彼は間違いなく五神将のトップになったことは変わりはない。ならば自分に従ってくれる龍大達のように春樹は秋渡に従うのも当然だろうと考えていた。


「……俺らの負け、か」


虎雄がポツリと呟いたその言葉に春樹は笑みを消した。そして静かに頭を下げた。


「すまないね。大事な戦いで負けてしまって」


「あ、すまん。そういうつもりじゃなかったんだ」


無意識に呟いたのだろう、春樹の謝罪に虎雄は慌てて弁明する。


「確かに戦いとしては負けたからふと俺らはどうなるのかと思ってな。何せ五神将最強が新たに変わったわけだしそうなると俺らの立場はどうなるのかと思ったんだ。出来ればこのままだとありがたいんだが……」


「……そうだね。五神将だからって言ってもそれぞれが人を雇っているんだ。五神将の立場とかがなくなったら僕らの設立した会社も倒産したも同然になる」


「ましてやお前と龍大のところなんて人が多いんだ。もしそうなったら生きるのに困る連中も多いだろう。だから世刻と話す時はせめてそれだけは説明しておけ。俺も棗も今倒産したら色々困る」


「いや虎雄の所もかなり人いるよね。まぁ言うだけ言っておくよ」


春樹は苦笑いしながらそれだけ答える。虎雄も頷いて「頼んだ」とだけ言う。達也は主にホテルや旅館の会社を築き、虎雄は機械関連の大きな設備のメンテナンスやその販売、また電化製品の製造等も行う会社。龍大は自衛隊に近い部隊の育成と災害時の人員派遣。春樹は大型会社による様々なジャンルの商品の製造と販売。もし全てが倒産すれば男手を主に雇うことにしている五神将の会社の男達は浪人となるだろう。


「(せめてそれだけはさせないようにしてあげないとね……)」


春樹は苦々しい顔でそう決めていた。



ア「どうも、アイギアスです!」

春「春樹だよ」

虎「……黒坂虎雄だ」

ア「今回はこの話の登場人物であるお二人ですね」

虎「いや、まぁそうなんだが……。これ、世刻を除いて俺らが出る意味あるのか?」

春「あはは。まぁ本編では語られないことの補足としてはいいんじゃない?」

虎「メタいこと言うんじゃねーよ。……まぁいいけどさ」

ア「まぁ毎度毎度秋渡君はヒロインとイチャイチャして終わってますからね」

春「想像出来るなぁ。んー、でも何話そう?」

虎「五神将それぞれの会社……つーかやってることは今回の本編に出たしな。まぁ強いて挙げるなら暁の会社で作ってるものじゃないか?」

春「いやほらこれ一応恋愛系でしょ?ならその話は別にしておこうよ」

虎「恋愛……ねぇ。んー、暁と棗は今までの女嫌いがなくなればきっとモテるだろうな。青葉は見た目は厳ついし性格も好戦的だから女といることの想像が一番出来ないな」

ア「そんなことしてるなら大鎌振り回してそうですからね……」

春「否定は出来ないねぇ。ただそれなら世刻くんを除けば虎雄にだって女は寄ってきそうだけど?」

虎「寄るかは分からんけどたまに部下からも結婚とかしないのかは聞かれるな。そんな気がないからしないことを言ったけどこれからはどうなるかは分からないな」

ア「なるほど。やっぱり秋渡君との戦いは見解を変える程のものだったんですね」

春「達也もそれで変わろうとしてたからね。けど世刻くんのあれを見てたら大変そうに見えるけどなぁ。ハーレムなのに誰か一人しか選べないのは正直辛いように思えるよ。まぁ多分彼は全員と結婚するんだろうけど」

ア「総理大臣にその条件を指定されましたからね。ある意味達成と言えますよ」

虎「ふむ、とりあえず俺は今はまだいい。世刻のを見て楽しむとしよう」

春「さて、それじゃ終わろっか!」

ア「そうですね!それでは……」

ア・春・虎「まだ次話で!」


〜オマケ〜


春「ところで虎雄」

虎「なんだ?」

春「夢を見返せる機械ってあったりしない?」

虎「そんなの作れるなら作ってるさ。で、なんでだ?」

春「ちょっとね。気になったことがあったんだ。まぁあまり気にしないでくれ」

虎「?そうか、分かった」

春「(いずれ分かりそうな予感がする……と感じてるからね)」


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