第百二十一話 幸紀との再会
幸紀side
ーー
秋渡の所から四人が帰る少し前。幸紀は一人で歩いていた時にとある人と会っていた。
「……警戒すんのは分かるけどよ、俺はお前を殺しに来たわけじゃないんだ。だから少し力を抜けよ」
幸紀はその男の言葉を真っ直ぐに受け止めることは出来なかった。一向に警戒心を解こうとしない幸紀に男はガシガシと頭を掻き、溜め息をつく。
「考えてもみろよ。今お前をもし殺そうとすれば怪我してようがなんだろうが世刻がやって来るだろ?キレたらあの暁すらも簡単に凌駕出来る男相手にそんなこと出来ねーよ」
「……何の用ですか」
幸紀は男の言葉に内心嬉しそうに思いながらも警戒は解かずに尋ねる。男は「ま、別にいいか」と言ってから幸紀に言う。
「今回の一件であいつの考えは理解した。けどやっぱり俺はそう簡単にはまだ信用は出来ん。けどあいつの思いに全て託して命すらも預けた相手には敬意を表せる。だから……その、な」
男は頬を掻きながらも手を降ろすとガバッと頭を下げた。
「すまん!」
そしてただ一言、それだけを言った。その様子に流石の幸紀もポカンとしてしまう。それはそうだろう。何せ頭を下げてきた相手は……。
「……青葉、龍大……さん?」
あの五神将で大鎌を自在に扱い、そして一度美沙と幸紀を狙った男、青葉龍大なのだから。そもそも五神将は基本的に相手に頭を下げたりなんかしない。立場もだが己が実力をよく知ってることもある。プライドが高いのもあるため、素直な謝罪は絶対にしないだろう。それなのに今目の前の五神将はそれを覆していた。
龍大は頭を上げるとどこかバツが悪そうに苦笑する。
「いや、あんたもだが木上美沙も雨音愛奈も皆あいつに命を預けたろ?だからそこまでの覚悟を見せたあんたらには敬意を示す。謝罪はそれを考えずに襲撃したからだ。……それだけだ」
龍大はそれだけ言うと背を向けた。幸紀は無言でいるが、肩越しに龍大が幸紀を見る。
「一方的なのは分かってる。が、これは俺がしたくてしたことだ。どう思っても構わないぜ。それじゃあな」
今度こそ背を向けて龍大は去った。幸紀はずっとあった緊張が抜けると知らぬ間に震えてた手を押さえた。けど何よりも驚いたのはあの龍大が謝ってきたことだった。何せ容赦なく襲い掛かってきたあの姿はまさに恐怖だった。それがトラウマだったのだろう。彼の目を見た瞬間、自然と体が震えたのだが彼が去ったらそれはなくなった。あの時秋渡と春樹の戦い時は秋渡が戦ってくれていたことから震えなかったが今は違った。
「(けれど……五神将すらもあんな風に変えてしまうのは流石ですね)」
龍大は五神将の中でも特に気性が荒いタイプだ。見境なし……ではないが、それでも五神将の中では見境なしに攻撃するだろう。だがあの時秋渡は……。
『少し本気出す』
それだけ言って龍大にも捉えられない程の速度の剣技で龍大を一瞬で斬り伏せた。龍大も目を見開き、そして倒れた。龍大の部下は何が起きたのか分からずボスを担いで撤退したのだ。
それから龍大も当然秋渡を警戒し、自分らをどうするかを窺っていたのだが、結果的に龍大が行動する前に春樹が動いた。
「(秋渡さん……)」
幸紀は愛する人を思いながら空を見上げると快晴の空に思わず手をかざして日の光を遮る。それから幸紀は歩き出した。秋渡が入院している病院へと。
ーー
秋渡side
四人が帰ると途端に静かになった病室で僕は暇潰しに恋華の置いていった本を読み始める。パラパラと本のページを捲る音以外響かない静かな部屋では集中して読めるが、今はどこか寂しくも感じる。一年前はこれが家では普通だったのにそんなことを思えるようになった辺り、やはり変わったのだろう。
「(……ふむ)」
本に栞を挟んで閉じるとふと消えなかった肩の傷跡に触れる。まだ一ヶ月しか経ってない傷だからなのか少し痛みがあるが、今はそれだけだ。幸い服を着ていると残った傷跡はどこも見えないため少し助かっていた。自分だけなら何も思わないが流石にあいつらに痛々しい姿を見せたくはなかった。……まぁもう見た可能性もあるが。
「……皆来てくれたな。幸紀以外」
傷跡から手を離して横になるとそんなことを呟く。まぁ急に目覚めて幸紀に用事があるならば仕方ないことなのだが、やっぱり全員の姿を確認しておきたい。皆が無事であったことが顔を見て分かることはやはり安心出来るからだ。時計を見るともうすぐ夕方六時半を回ろうとしていた。
「退院したら幸紀の家に行くか」
幸紀の顔を見たいのもあるが、俊明さんと早奈英さんにも顔は見せておきたいしな。いや、それだと恋華の両親にもか。と、そんなことを考えてふと思った。
「……はは、なんだ」
手を目に当てて軽く笑うと僕は自分でも分かるくらい穏やかに呟く。
「孤独なんて、僕には無縁なんじゃないか」
強者は孤独に生きるなんて言葉はあるが、どうやらそれは全員が同じであるとは限らないらしい。恋華と恋華の両親だけでなく今は星華達もいる。嫁候補だけでなく互いに立場を考えなくていい友人もいる。それは五神将である者にしてみれば珍しいのかもしれない。そう考えたら自然と笑っていた。
「……ああ、皆に会いてぇな」
また馬鹿みたいに笑って、楽しんで、喜んで、時には悲しんで、けどやはり最後は全員で笑っていたいものだ。僕はそう思ってベッドから立ち上がり、財布を持って休憩スペースへと向かう。なんてことはない、ただ飲み物を買うだけだ。僕の場合病気じゃないから別に制限もないしな。というか怪我もほぼ治ってるし。暁に深く斬られた箇所を除けば傷跡もない。あと病室から休憩スペースまでの距離が短いから凄く助かるな。すぐに着いた。人は少しだがいる。入院してる人もいればその見舞いに来た人もいた。
「……どれにしようか」
紙パックのでいいと思ってたので自販機の前に立つと思ったよりも色々あって迷う。が、折角なのでヨーグルトでも選ぶかと思った時だ。
「迷っているなら私が持ってきたものでも飲みますか?」
「……え?」
突然声を掛けられて後ろを振り返る。人が少しだけいたし飲み物を選んでいたから気配に気付かなかったようだ。振り返った先には……というか割と近くまで寄ってきていたのはさっき会いたいと思っていた長谷川幸紀だった。茶色の髪が肩よりも下まで伸びていた。そして幸紀の目は……潤んでいた。理由なんて聞くだけ野暮だろう。
「お久しぶりです、秋渡さん」
「ああ、久しぶりだな、幸紀」
ーー
二人で病室に戻ると幸紀は早速持ってきた飲み物を渡してくれた。渡されたのはペットボトルに入った紅茶だった。開けて少し飲むとそれを近くの台に置く。それから幸紀に向き直るのだが……。
「……ところで何をしてるんだ、幸紀?」
幸紀はベッドに腰掛けるように座ったと思ったら、僕の体をぺたぺたと触ってきていた。正直くすぐったいのだが……。あと時折残った傷跡に触れて痺れるような痛みが若干来る。声を掛けたが、幸紀は真剣な顔をしてスルー。
「(なんなんだ?)」
全く幸紀の行動が分からないが、ある程度ぺたぺた触ったら満足したのかそのままギュッと抱き着いてきた。……なるほど。痛がったらしないようにするために確認か。僕に聞いたら平気と返されるのが分かってたんだろうな。だが触っても痛がる素振りがないからこうして抱き着いてきたんだろう。ならば僕も抱き返してやるだけだ。
「……無事で良かったです」
腕の中で幸紀は本当に安堵したように声を震わせる。それに僕は片手で頭を撫でながらフッと笑う。
「当然だ。折角好きになった相手を置いていったら後から皆から説教されちまう」
冗談交じりに言うが、多分説教はされそうだ。もちろんもし死んで皆を死なせることになってしまったらあの世で後悔している僕に恋華達は文句などを言うだろう。だが顔を上げた幸紀は涙を流しながらも僕を見つめてくる。
「文句は言いませんよ。私たちが秋渡さんに託したのですから」
「はは、けど今思えば生きたから良かったが幸紀も含めた全員の命を奪ったのは僕かもしれなかったんだよな」
幸紀は僕の言葉に若干ムスッとしたが、何も言わずに再びぽふりと胸に顔を埋めた。僕も少し力を入れて強く抱き締めてやる。幸紀は嬉しそうに笑いながらポツリと言う。
「私は……私たちは何よりも秋渡さんが生きて戻ることが一番だったんです。もし暁春樹に負けたとしても、そうなったら秋渡さんと心中だってする覚悟もありました。ですが不思議と恐ろしくはなかったんです」
再び見上げてくる幸紀。その目には一切の迷いも言葉通り恐ろしさも浮かんではなかった。
「秋渡さんは負けない。今まで救ってくれたように、今度もそうしてくれると……私たちを全力で守り切ってくれると……信じていましたから」
「……そうか」
幸紀の言葉にも迷いなどなかった。僕はそれに敵わないな、と思うと同時に愛されてるなと思いながら幸紀を抱きしめるのだった。幸紀も嬉しそうに抱き締め返してくれた。そんなことをしばらく続けたのだった。
ア「どうも、アイギアスです!……ゴホッ!」
秋「秋渡だ。……投稿が遅くなったことは置いておく」
幸「幸紀です。……どうされたんです?」
ア「いえ、最近風邪を引いてしまいまして。遅くなったのはリアルの忙しさがありま……ゴホッ!」
秋「そうか。夏風邪なら珍しくはないのかもしれんな」
幸「休んでてください。ここのコーナーは私と秋渡さんでやっておきます」
ア「ありがとうございます……ゴホッ!。皆さん、遅くなって申し訳ありませんでした」
秋「……夏風邪か。夏風邪とは別だが最近は暑いな」
幸「ですね。皆さんも熱中症にはお気を付けくださいね」
秋「こまめな水分補給、忘れないようにな」
幸「それにしてもこの作品がここまで遅くなるのは久しぶりなのでは?」
秋「そうだな。月一程度に更新はしてたはずなんだが。まぁリアルが忙しいのは事実だ。時間が出来ても恐らくは疲れてたとかそんなところだろう」
幸「元々不定期とは伝えてありましたし。……ところで今回のお話でヒロインとは全員再会しましたね!」
秋「ん、そうだな。一日で全員と再会するのはある意味奇跡と言える。いいことだがな」
幸「しかも私だけ一人で秋渡さんと……ふふ♪」
秋「(嬉しそうにいるのはいいんだが何か言うとヤバそうだからそっとしておこう)」
秋「ま、なんであれ全員の顔を見れたことは僕も安心した。……まだどうなるかは分からんがな」
幸「……それは暁春樹が来てからになるでしょうね。ですが私は大丈夫と信じています」
秋「そうか。なら、それは次回以降に委ねるとしようか」
幸「はい!」
秋「そろそろ終えよう。それじゃ……」
秋・幸「また次話で!」
おまけ
秋「終わったから帰るか」
幸「あ……」
秋「ほら、送るぞ」
幸「ありがとうございます。ですがもう少しだけ一緒に……」
秋「分かってる。ほら、どっかで軽く茶でも飲もう」
幸「……!はいっ♪」




