第百十九話 深桜の嫁達
黒坂、新崎の二人が帰ってしばらく経ち、そろそろ学校も終わる頃になったが僕はベッドで横になりながら欠伸を漏らしていた。やはり疲労やダメージから寝すぎてたのか眠気はあまり来なくてほぼボーッとしているだけで時間が過ぎてしまった。
「素振りでもしておきたいんだがなぁ……」
流石に一ヶ月以上も間が空くと腕が鈍りそうだ。その前に体自身が訛ってそうだからまずは何かしらで体を動かすのが一番かもしれない。そう考えながら体を伸ばしていたら不意に人の気配を複数感じた。……というよりも間違いなく彼女達だろう。そう判断していたら控えめなノックが聞こえた。
「えっと、秋渡君、起きてる……かな?」
「ああ、問題ないぞ美沙」
「あ……」
扉も控えめに開けながら尋ねてきた声の主、木上美沙に僕は半分笑いながら答えた。何せとても美沙らしいその仕草になんとなく安心したからだ。
「秋渡君!」
美沙は起きていてベッドの上でリラックスしている僕の姿を見るや否や、即座に飛び付いてきた。恋華達同様、僕の胸に顔を埋めて温もりを確認するように強く抱き締めてくる。
「心配かけたな」
「うん」
「悪かった」
「ううん……。こうして無事でいてくれたなら良かった……」
美沙は涙を流しながらも僕を見上げてくる。そんな美沙の頭を優しく撫でると僕も美沙のことを抱き返す。美沙はまだ鼻を鳴らしながらも再び顔を僕の腕の中に埋めた。
……そんな空気の中。
「……美沙、独り占めは良くない」
「あの、私達もいい加減秋渡さんの無事を祝いたいのですが……」
「時々周り見えなくなるわよね、この子」
珍しく……というよりも多分初めてどこか拗ねたような声を出して声を掛けてきた星華にどこか怒ってるように……というよりも嫉妬するように刺々しい話し方をする愛奈、そして呆れたように頭に手を添えて溜め息を吐く冬美の声で美沙はハッと我に返る。そしてギギギギッと擬音が付きそうな感じで振り返るとそこには星華が分かりやすく、愛奈も笑顔だが目は、冬美も片目だけ開けて怒ってますと表せるように美沙と僕を見ていた。
「あ、はは……。ご、ごめん、つい……」
美沙はそんな視線から逃れるように僕の方へ向き直り、プルプルと震えていた。僕は小動物が怯えてるみたいだなと思いながらも美沙の背中をポンポンと叩きながら星華達へ顔を向ける。
「お前らも悪かったな。一ヶ月も放置して」
美沙を抱きながらも謝罪をする。しかし星華が首を振ると怒りが消えたいつもの無表情に戻る。
「……それはいい。……普通ならもっと時間が掛かるって聞いてたから寧ろ早い」
「お医者様は通常ならば手術が成功しても意識が戻るかは分からない程とおっしゃってました。五神将の快復力がなければ最悪の場合……ということも有り得たとのことです」
星華の説明に愛奈が補足してくれる。やはり五神将という存在は普通の人とは違うらしい。自分の身体能力、自然治癒力からそれはなんとなく分かってはいたが、とことん化け物としか言えない存在だな、僕達五神将は。
「それで、もう体調は大丈夫なの?」
冬美がまだ撫でられている美沙を羨ましそうに見ながらも尋ねる。それに僕は美沙を撫でていた手を離し、自分の手を開いて閉じてみる。力はまだ全快ではないが粗方は戻っていると言えるだろう。力が入らないとか痛みは特にない。それを確認して冬美に向き直ると頷く。
「ああ。これと言って痛みもないし力も込められる。ここにはもう一日様子見で入院だけど特に問題なく復学出来る」
「……そう。それなら良かったわ」
心から安堵するように笑みを浮かべた冬美に星華も愛奈も頷く。そして美沙もホッとしていることから僕も安心した。
「それで秋渡さん」
「……戦いの結果は?」
愛奈が真面目な顔で、星華もいつもよりも目を鋭くして聞いてきた。僕も真面目な顔になると場の空気は張り詰めた。冬美も固唾を呑んで答えを待つ。
「正直分からない。僕の中では敗北だけはないと思ってるがあれで勝利と言えるのかは断言出来ない。少なくとも僕の中では引き分けじゃないかって思っている」
「そんな……」
「それもこれも全部、また暁と会ってから話す。それを全国に伝えなきゃならんしな」
僕はそれだけ言い切ると美沙を抱き締めている手を離すとそのまま窓を見る。大分日は傾いていて夕方になろうとしていた。それを見ながら僕は付け足す。
「だけど何があってもお前らは必ず守る。どんな結果になろうとな」
そして顔を戻すと星華は薄く微笑み、冬美は顔を赤らめながら笑い、愛奈は感激からか震えながら顔をふにゃっとさせ、美沙はそれこそ男も女も魅了させる最高の笑顔を返してくれた。そんな笑みの中、僕は一つ決断をする。
「(絶対に暁を納得させてやる)」
具体的な方法はない、思い付きもしてない。だがそれだけは決めた。僕は小さく拳を握ると将来の嫁達の一人一人の顔を見る。
「(こいつらを悲しませない為にも……)」
自分の無茶でここまで心配かけた相手達だ。暁との剣を交えた戦いは終わっても暁との戦いそのものはまだ終わってない。だから今度はある意味の本当の最終決戦となる。最悪の場合は再び剣をぶつけることになるだろうからそれも考慮しなくてはならない。……そうなったらまた病院で世話になりそうな気もするから本当は遠慮したいんだがな。と、そんな思考に捕らわれている時だった。
「あ、そうだ。秋渡君にお願いがあるんだけど……」
ふと冬美が思い出したようにポンッと手を叩く。
「お願い?」
僕が聞き返すと冬美は頷く。その内容は想像出来ないしそのお願いは星華達も知らないのか冬美の方を見ていた。いや、愛奈だけはすぐに「ああ、あれですか」と納得していた。愛奈は知っているみたいだが星華と美沙は知らないらしい。
「うん。結構前にも言ったと思うんだけど秋渡君、次期生徒会長になってくれないかしら?」
「あー……」
そう言えば大分前にも言われたな。その時は生徒会だったが次は生徒会長か……。面倒だし家事とかもあったから前は断ったんだよなぁ。けど二学期に入ったんだから冬美も新しい生徒会長、及び生徒会メンバーも選ばなければならないのだろう。冬美は溜め息を吐くと愚痴るように言う。
「前生徒会長は新生徒会長を最低誰か一人か二人は候補を探さなきゃいけないのよ。家が忙しいから会長は無理なのは承知だけど愛奈さんにも新生徒会メンバーにならないか声は掛けてあるの。今は考えてもらってるんだけどその後考えてもやっぱり生徒会長に相応しそうなのが真っ先に出てくるのが秋渡君なのよ」
「秋渡さんが生徒会長になるのでしたらお父様もお母様も生徒会に入ることを承諾してくれそうですし。と言うよりもそう言われました」
冬美の説明を聞いて自分のことを思い返す。確かに生徒会には今年からちょくちょく関わってたしこの学校ならではの差別化などに対処は出来る。ましてや今は前と違って五神将だと言うことも知れ渡っているだろうからな。けどそれだと五神将が学校を支配したみたいになりそうな気もするが……。
「生徒会長……生徒会長なぁ……」
ふとチラリと美沙を見る。美沙は首を傾げるが僕は美沙の警護を時々請け負っている。生徒会長になったらそれが疎かになりそうだし警護してやれる日も減るだろう。それに、他のメンバーについても同じだ。生徒会長の忙しさなどは冬美と関わってからはそれとなく分かってるし理解もしている。だからあまり忙しくなると重婚が出来ても引退まではあまり構えなくなってしまう。……どの道毎日は僕の耐久的に無理なので結局その分、さらに減ってしまうだろう。さて、どうするか……。
「あの……さ」
するとそこで躊躇いながら美沙が挙手をする。それに皆の視線が集まりそれを確認した美沙は話す。
「それなんだけど秋渡君が生徒会長じゃなくて役員ならまだ大丈夫なんじゃないかな?確かに秋渡君の先導する姿は見てみたいけどそうでなくても秋渡君が生徒会に入るだけでかなり違うと思うんだけど……」
美沙の言葉に冬美は「……生徒会にも普通に誘って断られたんだけどね」と遠い目をする。愛奈は「秋渡さんが入るなら私も入ります」と言ってるから僕が入らなきゃやらないということ。星華は無言でいるからどう思っているかは分からない。しっかし皆なんで僕を生徒会に入れたがるんだ?ただでさえ今は大人しくしてたい時だってのに。考えてもその答えは分からないから聞くしかないんだけどさ、それでもやはり納得は出来ない僕だった。
秋「皆さんこんちには。秋渡だ」
冬「冬美よ」
愛「愛奈です!」
冬「あら?作者は?」
秋「投稿が遅かったことと自分らが今回の話にいなかったということから恋華、舞、幸紀が作者に理不尽な八つ当たりして作者は今どっかで眠ってる」
愛「あ、あはは……。まぁ恋華と舞はともかく幸紀さんは前回もなかったですからね」
冬「少し同情するわ。まぁ投稿が遅いのは良くないわね」
秋「そこは色々と事情があるにせよな。それはそれとして僕は今回の話のサブタイトルに物言いたいんだが……」
愛「え?お見舞いに来たメンバーからして特に問題はないのでは?」
冬「まだ正式に決まってないからかしら?」
秋「……いやそれもあるけどこれだけ見ると女誑しみたいじゃねーか」
愛「私はこの皆さんとなら良いのですが……。これ以上増えたら別ですが」
冬「争いはしそうだけどまだまともだとは思うわよ。増えたら別だけど」
秋「既に七人いるんだからどうとも言えないが……。まぁ増えることはないだろう」
愛「ですが秋渡さんを狙っている人は多いかと思いますよ?未だに五神将と分かってても秋渡さんに想い寄せてる異性は多いですし」
冬「むしろ暁春樹と並んでる姿は普通にイケメンが並んで剣を交えてるところだったものね。逆にそれが素敵だって噂が流れてたわ」
秋「……腐向けの意味じゃないよな?それ」
愛「腐向け?何の事かは分かりませんが聞いた話では『あの二人になら支配されたい』とかそういう類のものでしたよ?」
冬「『あの威圧感で迫られたら何も抵抗出来ない』みたいなのもあったわ」
秋「心配してた内容じゃなかっただけ安心したがそっちはそっちで不安になるな」
愛「私は秋渡さんにはもう支配されてるので関係はないです♪」
冬「愛奈さん、それは私達全員が同じよ」
愛「あ、そうでしたね。私達全員、身体も心も既に支配されていますから」
秋「誤解招きそうな言い方はやめてくれ……。いや、過去の自分のことを思えば手遅れな気もしてくるが」
冬「ふふ。それじゃ今回はここまでにしましょうか」
秋「そうだな。最後にここ最近投稿が遅くなって申し訳ない。遅れても投稿はするつもりだから気長に、そして暖かく待っててくれると助かるよ。それじゃ……」
秋・冬・愛「また次話で!」
おまけ
ア「あー、天国のお爺ちゃんが手を振って呼んでますよ〜……」
恋「……やり過ぎたかしら?」
舞「私はまだまだ足りません!お兄様ともっとイチャイチャシーンを増やして欲しいです!」
幸「願望も混じってないかな、それ……。でも確かにやり過ぎた……かもしれませんね」
恋「まぁあとは作者が次話を早く出すことを願いましょうか」
幸「そうですね」
舞「むぅ……。早くお兄様と結ばれたいです……」




