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第百十八話 新崎沙彩との再会

黒坂が帰った後、しばらくしてから昼飯の時間となり食事が運ばれてきた。当然病院食なので味は薄いだろうが仕方ないだろう。それも食べ終えたら本当にやることがない。学校はまだだろうし出歩くにしても下手をすれば周りが恐縮してしまう可能性もある。なので部屋のベッドで横になっているのだが……。


「……暇すぎる」


残念ながら今は暇を潰せるものがない。まぁ目を覚ましたのが今朝だから仕方ないが……。もう一眠りするかと考えて目を瞑ると外から人の気配を感知した。軽く食べたおかげか何となく気配を感知出来ていた。間違いなく五神将ではないし、この気配は予想外だったが僕はフッと笑うとノックされる前に声を掛けた。


「開いている」


僕がそう言うと驚いた気配を感じたが、すぐにドアは開いた。そこから現れたのは……。


「久しぶりだな、元副会長さん?」


「ええ、久しぶりね、世刻秋渡君」


新崎沙彩。深桜高校の元生徒会副会長だった。彼女が僕の入院を知っていることは驚いたが、よくよく考えればあの戦いは全国で放送されてたんだからそこから病院を調べれば誰にでも可能なことだった。


「それで、どうかしたのか?」


僕は単刀直入に切り出すと、新崎はパイプ椅子を取り出してそこに腰掛け、僕を見てくる。そこでふと気付いた。新崎の表情が前に比べて少し柔らかくなっていた。それを見てこいつはこいつで問題にケリが付いたのだろう。


「……あなたのおかげで私はもう何かに縛られることはなくなったの。弓月も改心して私を自由にしたし深桜にも手を出さないことを約束したのよ。近いうちにまた深桜高校に遊びに行くわ」


「戻るって選択肢はないのか?」


凛桜からの強制転校を考えれば戻れるならばその方がいいように思える。しかし新崎は首を横に振ると病室の窓から外を見、穏やかな笑みを浮かべた。


「……深桜へ今戻ってもすぐに卒業だもの。二学期のこの時期に戻るのもおかしいし変わっていく凛桜を見届けたいと思ったのよ」


新崎はそう答えながらこちらへと向き直った。僕はその表情を見て「……そうか」とだけ答え、強く戻ることは強要しなかった。新崎の笑みからは不満はなさそうで冬美達と共に卒業出来ないことは心残りだろうがきっと凛桜で新しい出会いに恵まれたのかもしれない。


「……出会いってのは分からねーもんだよな」


天井を見上げながら呟いた僕に新崎も「そうね」とだけ答えた。新崎が凛桜で新たな出会いなどがあったように僕にも出会いがあった。その出会いのメンバーの一部は些か度が過ぎている気もするが……。僕は新崎へ視線を戻すと新崎は薄く笑った。それに小さく笑い返すと新崎は窓の外へ視線を移す。


「……冬美達には悪いことをしてるわね、私」


「気にするな、とは言えないがあいつらはお前が元気にしてることが一番だと思ってるはずだ。ただでさえお前は凛桜へ強制的に連れてかれたんだからな」


「そうね。そうだといいな……」


寂しげな顔付きに僕は思ってることだけを伝えた。冬美も室川も工藤も皆、新崎の無事に喜んでいたし心配をしていた。冬美から聞いた話だと新崎からは音沙汰無しだったようでどんな生活をしているのかも分からなかったらしい。時計破壊戦は新崎にとっては深桜の仲間から引き離されるきっかけと同時に凛桜での新しい出会いを生ませたことになる。全てが全て不幸に動いているとは限らないということの証明だろう。僕も新崎も無言になったが、ふと新崎が思い出したように振り返る。


「……と、そうだ。今日はその話じゃなくて別のことを言いに来たんだった」


振り返った新崎に僕は何の話か読めず、無言で待つ。


「結婚、するんでしょ?おめでとう」


「……まだ決まってないがな」


新崎の言葉に僕は肩を竦めながら答えた。何せまだ暁との戦いの勝者と決まったわけじゃない。だから僕はそうとしか答えられなかった。しかし新崎は首を横に振る。


「それでもよ。重婚出来るかは分からないって話だけどそうなったら冬美を幸せにしてあげてね」


……こいつは本当に冬美のことを考えてるんだな。無論、室川と工藤のことも同じだろうけど。


「ああ。そうなったらちゃんと幸せにするさ。……揉め事も多そうだがな」


僕は力強く頷くと同時に軽口も出す。実際、愛奈と舞は揉めることが多そうだし何やかんやその中に恋華も加わるだろう。それを冬美が窘めて美沙と幸紀が取り繕うとし、その光景を星華が眺めてるだろうことは簡単に浮かぶ。けどそんな日常を楽しみにしてしまっているのが僕だ。今までは想像も出来なかった騒がしい日々。それが僕を中心として出来るならばそれは好きになってくれた皆をちゃんと幸せに出来ているということだろう。少なくとも僕はそう考えている。


「最低でも、あいつらを守るって約束は果たしたがそれだけじゃまだ足りないな」


暁との戦いで果たしたのは仲間達を全員、死なせないように負けないでいられたということだけ。まだ幸せにするという約束だけは果たせてないのだからそれもちゃんと果たさなければならない。新崎は僕の言葉にクスリと笑うとドアの方へ向かおうとする。


「帰るのか?」


「ええ。元々様子を見に来るだけのつもりだったから」


そう言ってから「じゃあね」と言い、ドアから出て行った。それを見送ってから僕は溜め息を吐くとベッドに寝転がり、色々と思い返してみる。新崎は初めは敵だったが知らない間に同盟相手となり、仲間となった。不思議なもんだな。自分を打ち負かした存在を許すなんて普通ならば有り得ないだろうに。


「(ま、本人曰く次以降は絶対に勝てないとのことだが)」


あの時は油断、怒りにより呆気なくやられたのだが、新崎はそれをただの幸運だったと言う。だがおかげで僕は冷静に戦うことを覚えられた。まぁ暁との戦いであの時以上の怒りに囚われた挙句、その時をあまり覚えてないんだが……。ただ気付けば体が悲鳴を上げており、暁が重傷を負っていた。そして最後に居合切りで互いに重傷を負い、負傷、気を失ってここにいる。


「……たく、いつから恋華以外も守る対象として見てたのやら。挙句にこれだけ怪我するんだからな」


新崎との戦いでは受けなかった大怪我は青葉との戦いで少量、そして暁との戦いでは恐らくずっと残るような傷跡が残った。そのうちの一箇所の肩の傷にそっと触れると思わず笑みを浮かべてしまった。たとえそのために命を張ったとしてもどう答えられるかは分からない。ともかく今は暁との対話のために出来るだけ体力を回復させることが優先だ。


「それでも、後悔はないんだから不思議だな……」


自分の思いがここまで変わるだけ驚きであり、喜ぶべきなのだろう。いやまぁ愛した女性が七人もいるんだから不純ではあるんだが……。それでもその一人一人の顔を思い浮かべるだけで思わず笑みを浮かべてしまう辺り、僕もかなり毒されているのかもしれない。


「っと、あまり思い浮かべただけで笑うのはやばいな」


流石に気持ち悪いと思われそうだ。いや、あいつらがそんなこと思いそうには思えないが実際は分からんし気を付けるに越したことはない。


「……でも、恋華と舞と明菜には会えたけど他の奴らはまだ会ってないな」


なんとなく寂しい気はする。……大分重症だな僕。気持ちを切り替えるために頬をパンっと叩いて首を振ると、それだけで気持ちは落ち着いてくる。さて、改めて暁との対話のことでも考えるか。黒坂からあいつが回復したのは間違いない。僕でさえ目を覚ましたらここまで回復してるんだ。流石に再戦はないだろうが、それでも視野には入れておくべきだろう。横になっていたのから起き上がると自分の手を見る。そして手を握ると僕は目を細めてどうあってもあいつらは絶対守ることだけは改めて決意した。


ーーもっとも、この戦いの結末が予想だにしなかった結末になるのだが、それはまだ僕には知る由もなかった。



ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

沙「こんにちはみなさん。新崎沙彩です」

秋「おい作者。流石に今回は遅すぎないか?」

ア「す、すみません……。最近かなり忙しくて……」

沙「ま、まぁまぁ。それより、ここではどんなことを話すのかしら?」

秋「基本的に雑談だ。あとは本編に触れてないことを稀に話すことがある」

沙「そうなのね。うーん、でも面白そうな話なんて私は出来ないわよ?」

ア「では新崎沙彩さんは転校後はどのように過ごしていたのですか?」

秋「……そういや凛桜には何回か行ったが会ったことはないな」

沙「最初はちょっと家庭の事情で離れていたのよ。けどその後に高須武に会って貴方のことを聞いたからそこから苦幻夢を使えるように努力して貴方達の前に現れた。あとは知っての通りよ」

秋「なるほどな。凛桜の生徒会を襲ったのは?」

沙「恥ずかしい話だけどあれはただの私怨よ。長谷川幸紀さんは違ったけど他の二人の生徒会メンバーは私に当たりが強かったのよ。弓月会長は止めはしなかったけど結構溜め息を付いてたわ」

ア「……なんとなく想像出来ますね」

秋「ああ。あの二人は僕に対しても当たりは強かったな。でも時計破壊戦でのあのマヌケ顔は笑えたな」

沙「一矢報いることは出来たし私は満足したけどね。長谷川さんだけは心許せる相手だったから巻き込まないよう気を付けてたのだけど」

秋「幸紀は優しいからな。……たまに暴走したかのように大胆になるけど」

沙「仲が良いのね。長谷川さん、あまり男性には強くないって言ってたけど……」

ア「両想いの婚約者だから特別なのではないでしょうか?」

沙「あら、そうだったのね。まぁ確かに貴方なら長谷川さんにも相応しいし彼女も喜ぶでしょうね」

秋「……まぁ仲は悪くはないのは確かだ」

沙「照れてるの?ふふ、冷静沈着がピッタリな貴方のレアな表情ね」

秋「……」

ア「さて、秋渡君が照れて顔を逸らしてしまいましたがそろそろ終わるとしましょう!」

沙「分かったわ。もう終わりなのね」

秋「……本編に比べりゃ短いからな」

ア「それでは……」

ア・秋・沙「また次話で!」


ーおまけー


沙「結構楽しかったわ」

秋「そりゃ良かった。まぁ、いつもあんな感じだな」

沙「なるほどね。ふふ、冬美達が少し羨ましいわ」

秋「……まぁまた深桜にも遊びに来い。あいつらも喜ぶだろうしな」

沙「そうするわ。それじゃあね」

秋「ああ、じゃあな」


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