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第百十七話 黒坂虎雄の来訪

恋華、舞、明菜はしばらくいたが、明菜が二人にほぼずっといたんだから家で休みなさいと言われ、それにブー垂れた舞だったが、意外にも恋華は素直に従っていた。ずっと見ててくれていたことに「ありがとう」と伝えると恋華は「どういたしまして」と嬉しそうに笑っていた。舞は渋々明菜に従ったが、納得している様子はなかった。帰り間際に恋華は欠伸を零していたいたことからまともな睡眠時間は取れていなかったのかもしれない。舞も同じだったのかなんとか欠伸を噛み殺しているところが窺えたから明菜の判断は間違ってないだろう。そんな二人を明菜は連れ帰り、部屋には一人になる。ベッドで休んでいるが、体調は自分からしたら特に問題は無い。明菜が持って来てくれたおにぎりなどを食べたので腹は少しだけ膨れている。


「……眠くないしやることがねぇ」


本はあったが既に読んだことのあるものばかりだ。けどそれくらいしか暇を潰せるものがなく、近くに置かれていた本を手に取った。今日は平日らしく、恋華達は今日は休んで来ていたようだ。もっとも、平日でも金曜日らしいから明日は普通の休みだ。恋華達にはゆっくり休んでてほしい。そしてしばらくパラパラ本を読んでいた時だった。


「…………」


ふと人の気配を感じドアの方へ視線を向け、本を読む手を止める。栞はないがそのまま閉じて横に置くとノックが聞こえた。


「どうぞ」


とりあえずまだ気配感知は鈍っているかもしれないので知り合いではないことも踏まえ、そう声を掛けた。するとドアが開きそこに立っていたのは……。


「久しぶりだな」


「……ああ、久しぶりだ」


五神将黒坂虎雄。遠距離戦闘は恐らく五神将の中でもトップレベルの高さだろう男がそこにいた。


「……お前と暁相手だと遠距離戦も何もないがな」


「心を読むなよ」


心を読めるのは女だけじゃないんだな。黒坂は苦笑すると側に来て椅子に腰掛ける。自然に心を読まれたことに軽く驚いたことはスルーされ、黒坂は真顔になる。


「櫻井明菜から目を覚ましたことを聞いた。それで向こうには伝えたがお前には届いているかは分からないから伝えておく。暁も目を覚ました」


「……そうか。それで?」


「今日でなくてもいいから暁と会って二人でどちらの勝利なのかを世間に伝えてほしい。正直最後の所を見た限りじゃ俺らで判断するわけにはいかないからな」


黒坂はそれだけ伝えると持ってきた鞄からゴソゴソと何かを探し、取り出した。それは何かの飲み物とリンゴだった。


「それとこれ。市販のお茶を買ってきた。リンゴも一応持ってきたが食べるか?」


「……なんだ?見舞い品か?」


五神将であり、僕に敗れた黒坂の行動に眉を顰めるが、黒坂は頷いた。


「ああ。礼儀としては構わないだろう?」


「……まぁな」


黒坂は苦笑するが、自分でも似合わないと思っているのか自嘲気味だった。黒坂は果物ナイフを取り出すと器用に皮を剥き始める。手慣れているのか一切無駄がなかった。それを眺めていると黒坂はササッと剥き終えると皿にリンゴを食べやすい形に切ってから置いた。


「サンキュ。にしても随分と剥き慣れてるな」


お礼を言ってから素直に思ったことを尋ねる。黒坂は果物ナイフを布巾で拭きながらフッと笑うと答える。


「こう見えて結構自炊はしてるんでな。皮剥きとかは結構慣れてるぞ」


「へぇ。なんか意外だな」


なんとなく黒坂は五神将の中でも料理はしなさそうに思えた。何せ黒坂には自分で作った機械人間が大勢いる。戦闘用などが多くてもやろうと思えば家事全般行えるものも作れるだろう。だから料理とかはしないように思っていたのだが……。


「いや、まぁ確かに時間が惜しい時は機械人間に作らせている時もあるがな。やっぱり自分好みの味付けとかを再現させるのは流石に無理でな。だからそういった専門の機械人間を作るよりも自分で作った方がコストも極端に低いからそうしてるんだよ」


「……なるほどな。こんな言い方はお前にはなんだが所詮機械だからか」


「構わんよ。俺もそう思ってるしな」


機械に拘りはあってもそこまで深入りするほどじゃないのか、黒坂は結構あっさりと認めていた。こうして話してみると意外と話しやすいことに驚きを隠せない。あの時はこいつの親友の頼みがあったから敵対してたが今はそれがない。黒坂曰く相も変わらず何かしようとしてたが何者かに阻まれてそもそも妨害すら出来なかったとのこと。黒坂なら助けられるが暁の怒りを買ってしまえば終わりと踏んでそのままにしていたらしい。ちなみに暁の症状も僕に似ていて目覚めが早くても二ヶ月かかると思われたらしいが黒坂は一ヶ月で目を覚ますと睨んでいたらしい。


「そうか。正直今生存出来たことが不思議な気分だ」


「だろうな。モニター越しでも分かるほどの重傷だったからな、お前ら。正直俺も青葉も棗も全員が冷や汗を流した程だ」


黒坂は苦笑しながらナイフを片付けると立ち上がる。


「もう行くのか?」


「ああ。いつまでもここにいるとお前の妻達に睨まれそうだ」


「お前別に怖くはないだろ……」


妻達という部分は否定しないでそう言うと黒坂は肩を竦めるが、黒坂には聞きたいことがある。


「帰る前に一ついいか?」


「なんだ?」


「僕と暁の戦い、お前の目にはどっちの勝利に見えた?」


そう、五神将の目から見てどう映ったのか、それが気になった。黒坂はその質問に少し考える素振りを見せて、しかしそれも一瞬だけですぐに不敵に笑う。


「そうだな。少なくとも俺の目にはお前の敗北はないとは思った。俺らからすれば良くて引き分け、悪くて暁の敗北だ」


「……そうか。答えてくれてありがとな」


「気にするな」


思ったよりもすんなり答えてくれた黒坂に礼を言うと黒坂は頷き、歩き出そうとしてふと足を止め、こちらへ向き直る。


「……と、それなら俺からもいいか?」


「ん?」


「逆に当事者のお前はどう思ってるんだ?」


黒坂に同じ質問を返され、僕は顎に手を当てて目を瞑る。あの最後のお互いの攻撃は双方共命中し、そして倒れた。ほんの少し僕だけが後に倒れたがほぼ同時に倒れたにも等しい。だから僕は目を開いて黒坂を見ると迷わず答える。


「引き分けだと思っている。少なくとも敗北とは僕も思ってはいないが」


僕の真剣な眼差しに黒坂は虚をつかれたように目を見開くがやがてフッと笑った。


「……そうか。正直お前は自分の勝利と言うかと思ってたんだがな」


「いいや、あれはほんの少しだけ立ってられた時間が長かったが実力的に言えば完全に互角だったと思っている。少なくともあまり勝ったという実感はない」


「へぇ。それは驚きだな」


「?何か驚くことでもあったか?」


黒坂の言葉に思わず首を傾げるが、黒坂は本当に驚いたようで驚愕に満ちた顔をしていた。


「あいつと互角の時点でも驚くことなんだがまさか勝ったとは思ってないとは思ってもなかった。つまりはお前の中ではもう引き分け一択みたいなものだろう?」


「そうなるな」


「そうか。ま、暁の敗北なら実質五神将を束ねるのはお前になる。そうなりゃ五神将の立場を無くすのもいいし他にやりたいことはやればいい。別に反乱する気もないしお前の指示には従う。それくらいは思ってたからこそ驚いたんだ」


「むしろ今僕が驚いたんだが……」


引き分け一択で考えていたしそれは認めざるを得ないと思っていたのだが、黒坂から聞いたものは正直驚きを隠せなかった。立場を無くすかと言われれば無くした方がいいとはあまり思っていない。なにせ五神将という男性にとっての後ろ盾が消えることは折角暁との勝負で僕が勝ったとしても元の状態に戻るだけだ。いや、五神将という脅威がなくなることから更に悪化するだろう。だから五神将は消さない方がいいだろう。それもだがそれより五神将が僕に従うということに一番驚きを隠せなかった。どいつもプライド……というより傲慢な連中だから力でねじ伏せた……じゃないか。あいつの雰囲気はどこか僕に似ていることから多分自然にそうなった可能性が高いな。でなきゃ脅威の存在であろう暁が倒れても治療などしないだろう。


「はは、そうかもしれんが忘れたか?俺らは皆お前に敗れたってことを」


「!」


「棗は油断してたにしてもそれでもスピードで、俺は遠距離攻撃を全て防がれてそのままの勢いで、青葉は完全な力と速さ勝負による攻撃力で、そして暁はそれらの総合的な戦いで全員がお前に敗北した。それなら筋は通っているだろう?」


「……自分で言うのもなんだが否定は出来ないな」


今思えばたった一度ずつの戦いで僕は全員とタイマンで戦って勝ったことになるのか。いや暁は勝ちとは言えないが……。それに悩んでると今度こそ黒坂は部屋から出ようとする。


「じゃ、またな。今度は暁達ともまた来る」


「……分かった。じゃあな」


黒坂に答えると黒坂は手をヒラヒラ振って振り返らずに出て行った。それを見届けてから僕は再び考えていた。……ところでこの戦い、勝たなければ確か重婚は無効というか認められないことになるのでは?とふと思い出して頭を抱えることになった。


ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

ア「今回は秋渡君お一人なんですね」

秋「そのようだな。ま、それはいいだろう」

ア「今回のお話は意外な人の訪問でしたね!」

秋「黒坂が現れるとはな。何よりも驚いたのはあいつ、リンゴの皮剥きめっちゃ上手かったことだな。ナイフでの戦闘も出来ないことはないがどうやらあまり近接戦闘は得意ではないらしいが……」

ア「銃は一通り使えるとのことです。それだけでも凄いかと思います」

秋「ああ。遠距離戦は五神将でもトップレベルだろう。ハンドガンであれだけの改造が出来るんだからな」

ア「ですね。それはそれとして秋渡君、このままだと重婚出来ないのでは?」

秋「……あー、どうなんだろうな。暁の判断はまだ分からんからそう決まったわけではないからな。でも僕は嘘を吐いた覚えはない。もし出来なかったら……そん時は考える」

ア「まだチャンスは潰えてないということですね」

秋「ああ。ま、どの道あとはあいつとまた会ってからだな」

ア「それは次話以降になりますからどうなるか、お待ちください」

秋「そういやまた感想貰えたんだって?」

ア「はい!励みにもなるので凄く嬉しいです!」

秋「感謝しかないな」

ア「感想下さった方、ありがとうございます!」

秋「大分最終話に近付いてる感じがしてるからな。あと何話かはまだ未明だがどうか付き合って貰えたら嬉しい」

ア「次話以降はどうなるかはどうかお楽しみにしててください!あまりバトルはなくなるとは思いますが……」

秋「時期が時期だからまた特別話とかあるかもしれないな。クリスマスとか」

ア「ですね。その辺りもまた考えてみます!それでは今回はこの辺で!では……」

ア・秋「また次話で!」


おまけ


幸「秋渡さんとはまた濃いクリスマスを過ごしたいです……」

恋「ダ、ダメ!今年は私と……」

星「……私も秋渡とは過ごしたい。……皆とでも構わないけど」

冬「でも折角なら二人で過ごしたいとは思うわ」

愛「今なら私と過ごして貰えるかもしれません!声を掛けてみましょう……。ふふ……」

美「んー、秋渡君とは一緒がいいけど多分忙しいんだよね……。特集とかもあるし」

舞「美沙さんの場合は仕方がないかと思いますが……。でも私もお兄様とは一緒に過ごしたいです」

秋「(……これは今出たら何されるか分からなさそうだから大人しく去るとしよう。さてはて、今年のクリスマスはどうなることやら……。僕も皆とは過ごしたいとは思うがな)」



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