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第百十六話 目覚めた想い人

僕は重たい瞼を開き目を覚ました。何か夢を見ていた気もするが何も思い出せない。まぁ夢の内容を忘れることなど珍しくもないので思い出せなくても問題は無いだろう。だが今日の夢だけはどこか覚えていないことに違和感を抱いてはいた。けどそれは後回しだ。


「(ここは……病院か?)」


夜中に目を覚ましたのか僕はベッドの上で横たわっていてどことなく薬品の匂いはするし、自分の腕には点滴が打ってある。体を起こそうかと思ったが自由に動かせず、仕方なくそのまま横になっていた。人の気配はぼんやりとだがすぐ近くにあることは分かったが、それが誰なのかまでは把握出来ない。普段ならばまだ分かるのだがそこまで回復してないのだろう。だがそれよりも気になることがある。


「(あいつとの戦いの結果はどうなったんだ?)」


背後であいつが倒れたのは確認出来たし、その直後に自分も倒れたのだから実質引き分けだと僕は思っている。実際に怒りで我を失った時以外はあまり暁相手に善戦出来たかも怪しいレベルだったのだから。けど最後の最後は痛み分け……というよりも同時に意識を飛ばしたんだから引き分けが妥当だろう。あいつは君の勝ちとか言ってたが、勝ったという実感はなかった。ただ倒すことは出来たのだから負けではないはずだ。


「……っ!」


色々考えていたら頭が痛くなる。食事も摂ってないから思考力も低下しているのだろう。ぼんやりと病院の天井を眺めるが、すぐに飽きてきたのでこれならまた眠ってた方が良さそうと思って寝ることにしたのだった。近くで聞こえる寝息はソファーからで二人分。もし殺されていなければ恋華か舞か明菜の三人のうち二人だろう。だが今は真っ暗な部屋な上に天気も悪いのか明かりもなく、その確認も出来ないので仕方なくそのまま寝たのだった。……これならば明日の朝に目を覚ますのは難しくないだろう。普段は朝に弱いから断言は出来ないがな。


「(……あいつらが皆無事なら今はそれでいい)」


それだけを思って再び夢の中へと旅立った。意外にも眠気はすぐにやって来た。


ーー

恋華達side


「ん……」


恋華は秋渡の病室のソファーで目を覚ますと目元を擦りながら体を起こす。部屋のソファーは広いため幸いなことに二人いても場所に困ることはない。秋渡と春樹の戦いから既に一ヶ月が経過しており、未だに秋渡は目を覚まさない。三日前に達也が見舞いに来たこともあり、その時に春樹もまだ目を覚ましていないことを伝えられていた。今日も秋渡の方へ視線を向けるが相変わらず穏やかな呼吸をしながら眠っていた。……そう思っていたのだが。


「おはよう、恋華」


そこには体を起こし、笑みを浮かべながらその青と金の瞳でこちらを見据える男の顔。それを見た瞬間、恋華は思わず固まっていた。そして自然と涙が溢れ始める。秋渡はフッと笑うと両手を広げ、昔していたようにその胸元を開けてくれていた。


「秋渡ぉっ!」


恋華はここが病院だということを忘れて秋渡の胸元へ飛び込んだ。秋渡に抱き着くと秋渡は背中に片手を回し、もう片手で頭を撫でてくれる。この感触、優しい撫で方、そして先程の声。間違いなく恋華の知る幼馴染みのものだった。泣きながらも恋華は力いっぱい秋渡を抱き締める。それに秋渡は苦笑しながらもう一人の方へ視線を向けた。頭を撫でていた手をそちらへと差し出す。


「お前もこうしたいんじゃないか?……舞」


「お兄……様……。お兄様ぁ!」


恋華の声で目を覚まして泣いている恋華へ視線を向けたらそこには最愛の兄が目を覚ましてこちらへ手を差し伸べる姿。その対象の彼の妹、舞もまた兄の目覚めに我慢出来ず、涙を流しながら抱き締めた。二人は確かに感じる秋渡の温もりにこれは夢ということはなく、現実であることを悟る。最愛の人が目覚めたという事実を二人は実感した。二人は泣きながら顔を上げ、微笑むと秋渡へ言うべき言葉を言う。


「「おかえりなさい!」」


「……ただいま。それと心配掛けさせたな」


秋渡も微笑み返し、二人をギュッと抱き締めた。


ーー

秋渡side


朝、いつもよりもずっと早く目を覚ますと体を起こし、夜中の気配の正体を知る。そこにいたのは幼馴染みと家族である恋華と舞がソファーで毛布を被りながら眠っていた。カレンダーを見れば九月になっており、かなりの日数眠っていたことを察した。だがそれよりも僕は今、昨日は思えなかった安心感に包まれていた。


「……良かった。こいつらをしっかり守れてたってことだよな」


恋華と舞の寝顔は見えなかったが、その姿は見間違えないだろう。僕は窓の外へ視線を向けると眩しい日差しが中に差し込んでいた。病院に世話になったことはほとんどないが、今は窓から見える外の景色がなんとも言えない気持ちにさせていた。そして傷跡はどうなったのかと思いそれを確認すると、意外にも縫ったような跡はなく、暁から受けた傷は古傷のように残っていた。小さな傷は治ったのか、見当たらない。肩からの傷跡は大きいが、そこから腹近くまで斬られた割には胸元くらいまでしか跡はない。他にも背中にも傷跡はあるだろうがそれは確認出来ないので諦める。なんとなく傷跡に触れてみるが不思議と痛みはなかった。


「ん……」


そこで呻き声が聞こえ、そちらへ顔を向けると恋華が起き上がる。そしてぽーっとした顔でこちらへ振り返る。それを見ながら僕は笑って声を掛ける。


「おはよう、恋華」


恐らくは大分久しぶりな朝の挨拶。恋華はそれに目を見開いているが、やがてその目から涙が流れ始め、小さく震えていた。それに昔と変わらないと思いながら笑うと昔のように両手を広げ、受け入れるために胸を貸す。


「秋渡ぉっ!」


恋華はそれが起動剤となったのか、大声を上げながら僕に抱き着いてきた。そして僕の胸元に顔を埋めると泣き続ける。僕はそんな恋華に微笑みながら頭を撫で、背中から抱き締めたら恋華も力強く抱き締め返してくる。少し強い力に思わず苦笑するが、恋華の声で目を覚ましたであろう舞も起き上がってこっちを見ていた。なので撫でていた手を舞へ伸ばすとチラリと一瞬だけ恋華を見て視線を戻すと僕の対象的な姿の妹へ声を掛ける。


「お前もこうしたいんじゃないか?……舞」


「お兄……様……。お兄様ぁ!」


すると舞も恋華と同じようにすぐに懐へ飛び込んで泣き付いて抱き締めてくる。撫でることは出来ないが、二人の背中に手を回して抱き締め返すと二人からの温かみがこれは幻覚でも死んだあとの走馬灯でもないことを実感する。それに嬉しく思いながら口元に笑みを浮かべると、不意に二人は涙を流しながら顔を上げた。


「「おかえりなさい!」」


そして二人で微笑みながらいつも家でしてくれていたようにそう言ってくれる。だから僕はそれに答える。


「ただいま。それと心配掛けさせたな」


僕も微笑みながら返事をし、ギュッと抱き締めた。その心の温もりも嘘じゃないことを実感しながら。そして二人が再び顔を埋めた時に僕の目元からもスっと涙が流れていたことに気が付くのだった。


ーー

それから三人で抱き合っていたのを看護師に見られたりすることがあったが、僕は検査を受けることになった。テキパキとそれを終えると、その担当の医者は僕の目を見れないのか少し怯えながら対応をしている。周りの看護師も同じだ。


「け、結果から言うとね……その……」


「ああ」


「怪我の回復はしている。だけど流した血の量が多いからビタミンCや鉄分をしっかり摂るようにした方がいいよ」


「分かった」


……お医者さん、頼むからそれを目を合わせながら言ってくれ。いや、まぁ五神将最凶と戦った相手だから下手なことをすれば殺されるとでも思ってるのかもしれないが……。とりあえず退院はしても問題はないだろうがもう一、二日は様子を見た方がいいとのこと。異論はないので頷くと先程の部屋へと案内をされる。その間は看護師からは何も言われず、後ろから見ても分かるくらいに怖がっていたのが窺えた。そして部屋の前で「ここまでで大丈夫」と伝えると看護師は「何かあったらナースコールでお呼びください」と言ってから立ち去った。それを見送りながら部屋へ戻ると恋華の他に舞と明菜がいた。三人は戻った僕に顔を向けるとまず明菜が声を掛けてくる。


「久しぶり、秋渡」


「ああ、久しぶりだな。……まさか一ヶ月も経ってるとは思わなかったがな」


これはさっき医者から聞いたことだ。戦いから一ヶ月が経っており、その間、僕も暁も全く目を覚まさなかったらしい。だが怪我の治りは異常な速度だったらしく、それは朝確認した通りだ。


「普通だったら早くて二ヶ月、遅くて一年以上の大怪我だったらしいわよ?」


「……マジか」


明菜のその説明に驚きを隠せない。もし五神将特有の自然治癒力がなければそもそも傷口の広さから出血死の可能性もあったらしい。いや、それはまだ意識を飛ばす前の状態からでもなんとなく理解出来ることだ。


「でも良かった。まだ返せてない恩があるんだからちゃんと返させてよ?」


「別に気にする必要はないんだがな。ま、言っても聞かないだろうが」


「それだけのことだからね。……うん、でも何よりも目を覚ましたことはそれとは関係なしに良かったわ」


明菜は安堵の息を漏らす。舞も笑っており恋華は頷いていた。しかし明菜も本当によく笑うようになったな。いい事だしそれを咎めるつもりはないし、逆にそれが新たなスタートを踏み出せた証拠だろう。

そんなことを考えていたら恋華が話し掛けてくる。


「後で他の皆も来るってさ」


「……そか。皆に会うのも久しぶりになるんだな。ずっと寝てたからそんな感じはあまり感じないが」


「お兄様はそうでも私達には長い一ヶ月だったのですよ?」


ここにはいない仲間達のことをしみじみと思うと舞が若干膨れながら抗議してくる。それもそうかと思って早々に肩を竦め、三人に検査の結果などを報告した。食事制限みたいなのはないが、目覚めたばかりの今はそんなにガッツリは食えないだろうからビタミンCや鉄分が含まれるもの優先的に食うことになる。それと数日様子見することを伝えると三人は頷き、僕がベッドに座ると三人は近くまで来て側にある椅子に座り、あたかも家にいた時のように談笑をするのだった。



ア「どうも、アイギアスです!」

恋「恋華です!」

舞「舞です」

ア「今回は秋渡君が目覚める話ですね!」

舞「あの、投稿が遅くなったのは……」

ア「リアルの事情です」

恋「秋渡がいたら斬られるわよ……。ま、その本人はやっと目を覚ましたんだけどさ」

舞「ふふ、恋華お姉様、頬が緩んでますよ?」

恋「それはそうよ。秋渡はちゃんと生きて帰って来たんだから」

ア「あの出血量からはありえない奇跡的な回復でしたからね」

舞「はい……。でもお兄様が無事にお戻りになられて良かった……」

恋「皆を心配させすぎなのよ、全く……。でも本当に良かった……」

ア「あとは秋渡君と春樹君の話し合いですね」

恋「うん。それは二人に任せるしかないわ」

舞「他の五神将の方もその結果を受け入れるならば私達も同じですから……。でもどうあれ変わりますね、色々と」

ア「二人の判断はどうなるか、それはまだ分かりません。次話以降をお楽しみに!」

恋「そういえばなんかのアプリで私達のイメージみたいなのを描いたらしいわね」

ア「投稿は出来ませんよ、多分」

舞「ちなみに誰を描いたんですか?」

ア「舞さんと美沙さんは描きましたよ」

舞「わぁ〜、見てみたいです!」

恋「……私も早く描いてほしいわ……」

ア「努力します。それでは……」

ア・恋・舞「また次話で!」


おまけ


舞「他の子はいつ描かれるのでしょうか?」

秋「さぁな」

舞「(お兄様も描かれるのかな……)」

秋「ちなみにそのアプリ、女性しか書けないらしいぞ」

舞「え、そんなぁ……」

秋「そもそも僕は作者の友人が描いてくれたしな。感謝しかないよ」

舞「うぅ……お兄様が喜んでるなら私は何も言えないですよ……」


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