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第百十五話 夢の中の幻想

秋渡side


ーー

暁との戦いで倒れて意識を手放してから少しした頃、僕はどこか分からない所で目を覚ました。青空が辺りに広がっているが、体を起こした所も青空だった。最初はひょっとしたら死んで天国にいるのではないかと思ったが、自分の中の感覚が『死』を否定している。立ち上がってみると足元が多少フラつくが不思議なことに怪我はない。服も何故か戦いの最中に着ていたものではなく白のワイシャツに銀色に近いロングコート、そして白のストレートパンツだった。あとは腰のベルトに差してある二本の刀。僕はどこか分からないここでの警戒は解かず歩き始めた。下を見ても地上と思わしきものは見当たらず、上を見ても太陽すら見えない。


「……一体どこなんだ、ここは」


シンと静まり返った空間で虚しく響いた声はどこか寂しく感じられ、ここには誰もいないことを思い知らされた。

それからどれだけ歩いただろうか。周りの変わらない空間をしばらく歩き続けていたら謎の扉がいつの間にか目の前に現れていた。扉の大きさはゲームで例えるとすれば王家の扉をイメージしたものでその高さは軽く四メートルはあるだろう。僕はその扉の前で立ち止まると不意に後ろから強大な気配を感じた。その気配はつい先程まで死闘を繰り広げた相手のものだった。


「やぁ、世刻くん」


「よぅ、暁」


振り返らず扉を見上げていたら横にその男ーー暁春樹が僕と似たような格好で並んだ。違いがあるとすればワイシャツの色は黒味があり、ロングコートやストレートパンツの色がその髪色を表したかのような深紅色になっていたことだ。そしてその背には奴の武器である長刀がある。だが今はそんな凶悪な存在よりも目の前のものだった。


「……ここ、どこなんだろうね」


不意に暁が呟くように声を掛けてくる。僕は視線だけを暁へと向け、すぐに戻すと「さぁな」とだけ答える。今の口振りから恐らく暁も僕と同じようにここまで誰とも会わずひたすら歩き続けて来たのだろう。先程までは互いに命を懸けて戦ったのに何故か嫌悪感や闘争心、何よりもこいつに対して敵対心が現れていない。それは向こうも同じなのか少し笑っている顔で扉を睨んでいた。ここがどこなのかは分からない。だがここで止まってても意味はないと思い、扉へ手を伸ばす。すると同じタイミングで暁も手を伸ばしており扉へ手を当てると一瞬だけ暁を見る。暁も僕を見て頷くと同時に力強く扉を開けた。意外だったのは扉は見た目に反して軽かったことだ。そしてその扉の先には……。


『よく来たね。歓迎するよ、世刻秋渡君、暁春樹君』


一人の瑠璃色の髪を腰辺りまで伸ばした女神と呼ばれててもおかしくないほどの女性が王が座るような豪華な椅子に座っていた。


ーー


「さて、本来ならここにはヒトは来れないんだけど……」


瑠璃色の髪の女性は椅子からぴょんと降りるとアニメなどで見るような騎士学校の制服のような桜色の服にそれに不釣り合いそうな藍色のスカートを身に纏い、黄金色のロングコートを袖を通さずに羽織っていた。そして服からはこれでもかと言わんばかりに大きな膨らみが主張をしていた。だが僕と暁はそんなことはどうでもよかった。何せこの女性を見た瞬間、初対面なはずなのに敵ではないと思い込んでしまったのだから。何よりもこの女性はその可愛らしいパッチリした瑠璃色の大きな瞳からは底知れない絶対強者の鋭さを感じられた。


「んー、でも二人は普通のヒトじゃないからおかしいことじゃないか。あ、でも他にも三人いるし……。う〜ん……」


何か悩み始めた女性を見ながら僕はいつでも刀を抜けるように刀へ手を近付ける。暁も同じように長刀へ手を伸ばしていた。しかしそれに気付いた女性はニパッと笑う。


「そんなに怖い顔で睨まないでよー。別にとって食うわけじゃないんだから」


「……君は何者だい?自惚れじゃないけど僕達二人に警戒されたら普通なら怯えるか何かあると思うんだけど?」


暁は長刀を手に握りながらいつでも攻撃出来る体勢を取っていた。僕も無言で刀に手を置く。すると女性は妖艶に微笑んで左手の人差し指を自身の唇へ当てる。


「それは今はまだ答えられないかな。でもヒントはあげるよ。私は貴方達五神将の血縁者ってところだよ。特に貴方達二人は……ね♪」


僕と暁は目を見開く。五神将の血筋は詳しく知らないが別に女がいなかったわけではないだろう。しかし目の前の女性は僕達とはそう大差ない年齢の見た目をしている。だが今五神将の中で兄弟が一人でもいるのは僕だけだ。暁達が公表せずに隠していたら分からないが、少なくとも女性の兄弟がいるのは僕だけだろう。だから血縁者だと言うならば……。


「あ、ちなみに血縁者って言っても大昔のだよ。……でもそっか〜。あの人達の子孫は……ふふ、よく似てるなぁ」


追加でもたらされた情報は僕達を驚かす要素としては充分過ぎだった。ヒントの割には答えに近いようにも聞こえるが、それだと僕と暁は今過去にいるとか非現実的なことを体験していることになる。実に有り得ないことだが、この場の風景、目の前の女性から感じられる絶対強者の覇気、そしてその女性を恐れずに自然に家族と思えてしまうその雰囲気にその可能性を感じてしまっている。


「(何より……)」


チラリと横を見る。暁春樹の赤い髪と蒼紅の瞳。この男が女性に対して敵対心を持とうとしていないことが驚くことだ。僕は視線を戻すと瑠璃色の髪の女性はころころ笑っていた笑みを浮かべながら僕達に近寄る。初めはその行動にハッとなって刀を構えようとしたのだが、瞬きをした瞬間、女性は目の前から消えていた。


「「なっ!?」」


思わず驚愕すると同じように女性を見失ったことに驚愕した暁と声が被る。しかしすぐに示したように暁と背中合わせになると互いに刀と長刀を手に周りを探る。僕も暁も気配を感知することは可能なのですぐに分かると思っていたのだが……。


「えーい♪」


突然女性の声がしたと思ったら僕と暁の腰にその女性が抱き着いていた。僕も暁もすぐに引き剥がそうとはせず、まずいつ接近されていたのかということに目を見開いた。それから何故か暁は顔を青ざめさせていた。


「……なるほど。お姉ちゃんの武器は貴方が……。そしてあの人の武器は貴方が……」


女性へ視線を向けた時、その目は寂しさを映していた。そして今の言葉に僕も暁も口を閉ざす。姉の武器とあの人の武器というのは分からないが、きっと何かを思い出したのだろう。僕は溜め息を吐くとそのままされるがままに女性の温もりを感じていた。暁も同じなのか、溜め息を吐いて抜きかけていた長刀を鞘へ戻し、何かに耐えるかのように腕を組んでいた。僕達の態度に女性はどう思ったのかは知らないが、少しだけ涙ぐみながらもギュッと力を込めていた。それに気付かないフリをしながらしばらくそのままでいた。


ーー

それが数分経ってからだろうか。おもむろに女性は離れると笑っていた。


「ありがとう、二人とも。やっぱり家族の温もりは触れるだけでも違うなぁ……」


遠い目をしながら女性は笑う。僕も暁も黙ってそれを眺め、女性がはにかむ。しかしすぐにその目に真剣味が現れ、僕達は目を細めた。


「名残惜しいけど今はここまでかな。けど甘えさせてくれたお礼に一つ教えてあげる。貴方達はきっと、争うだけでなく協力をする時が来る。それも近いうちに……ね。この戦いもきっと無意味のものじゃない。だから貴方達で五神将の本当の秘密を知って欲しいの。そのためには地球にいるだけじゃ分からないことがあるから貴方達はそれを見て来て欲しいって私は思う」


「……地球にいるだけじゃ分からない?」


僕はその言葉に引っ掛かる。日本にいるだけじゃ分からないのならばまだ分かるが、星を単位に考えられると全く分からない。宇宙にでも行けと言うのか?


「ふふ、今はいいの。とにかくしっかり休んでね。特にシュウトは待っている想い人が多くいるんだから。私の話もその時が来れば分かると思うから……ね」


「……分かった」


「……やれやれ、これは大変なことが起きるような気もするね」


女性に頷いた僕と面倒そうな声をあげる暁の体が少し輝き、足から順に光になって消えていく。恐らくこれは夢か何かを見せられていたのだろう。だったら起きてからまた考えるとしようか。僕は暁に顔を向けると暁も軽く頷いて僕達はここから立ち去ったのだった。いや、追い出された、が正しいか。そして完全に光に包まれてここから僕達がいなくなる。


「……お姉ちゃんを未だに狙っているあいつに勝つためにはやっぱり貴方達が必要なの。けれどそれはまたいずれ話すよ。おやすみなさい、シュウト、ハルキ。だから今はここでの記憶は残さないよ」


一人になってからそう言う女性の言葉は残念ながら僕達には聞こえなかった。


ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

春「春樹だよ」

ア「今回はお二人が見た夢の中の話ですね!」

秋「瑠璃色の髪の女……。なんか他人には見えないんだよな……」

春「同感だね。どこか懐かしさというか謎の安心感とかそういうのがあったよ」

ア「まぁ今回のお話、ぶっちゃけちょっとした伏線のようなものですし」

秋「それはこの作品のなんだよな?夢に関わるものと言えば苦幻夢くらいだろ?」

春「苦幻夢だとしたらまずあんな安心感とかそんなのはないよ」

ア「はい。ま、名前は明かしませんでしたからそれは楽しみにということで」

秋「絶対碌でもないことだろ、これ」

春「それはなんとも。けどすぐは関係なさそうだね。しっかし変な空間だったよね〜。夢にしては現実味あったし」

秋「何もない真っ白な空間でもなくモノクロな空間だったからな。目がチカチカしそうだったぞ」

春「だね。ま、これが夢なら夢でいいじゃん。気になる言葉もいくつかあったけどそれでも今は後回しでいいからね」

秋「……だな。今はこっちで僕達の問題の方が先だ」

ア「ですね。今後どうなるか、楽しみですね!」

秋「僕の勝ちか、引き分けか、暁の勝ちか」

春「君の勝ちでしょ?先に倒れたのは僕だし」

秋「その辺はまた互いに目覚めたらな」

春「……そうだね。ここではなんの意味もないし。じゃ、さっさと終わらせて寝ようか」

秋「そうだな。僕もまだ眠い」

ア「では今回はここで。それでは……」

ア・秋・春「また次話で!」


おまけ

?「私、名前は明かされてないけど暁春樹君よりも世刻秋渡君の方が縁が深いのよ」

ア「お二人がいなくなった後に何故ここに……」

?「いいじゃない。それにしても本当に世刻秋渡君はお姉ちゃんに、暁春樹君は義兄さんにそっくりね」

ア「あの、そのお姉ちゃんとお義兄さんがまず分かってませんからね?」

?「そっか。ま、それはここでは話せないわね!じゃ、またね〜」

ア「(一瞬で消えたことは何も突っ込みません)えっと、ヒロインが今回は出てませんがお許しを。ではでは」



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