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第百十三話 秋渡対春樹の戦い、ついに決着

僕と暁は叫び声を上げながら目の前の強敵と向き合う。速度にして言えば一瞬のことなので誰も見えてないかもしれない。いや辛うじて五神将達は見えているかもしれないが、実際は分からない。敵との距離はかなり開いていたにも関わらずそんなものはないに等しい。そしてお互いにこの距離という場所まで近付き、刀を長刀を振るう。守りを捨てた攻撃だ。当たれば今のお互いの体力的にすぐに力尽きるだろう。しかし僕も暁もすれ違いに斬ったことがなかったかのように武器を振るって互いを背にしながら止まった。そこでも距離があったが僕も暁も動かなかった。


ーー

恋華達side


恋華達は秋渡と春樹の二人が同時に駆け出してすれ違うようにしてお互いがお互いを斬ったことを理解していた。しかし秋渡は居合切りで瞬間的にすれ違う直前に抜刀した刀を右手で握って完璧なタイミングで春樹の胸元を斜め下から斬り、春樹はその長刀を両手で握り、秋渡の刀の軌道を読んで刀に触れないようにして隙だらけの胸元に上から斜めから斬り付けていた。

そしてその瞬間、残りの五神将の集まっているこの場、テレビなどの中継を見ている者達はまるで声が出せなかったかのように静まり返っていた。そしてそれがどれくらい経ったのだろうか。時間にしてみればほんの一瞬、けれど体感時間はずっと長く感じていた。時間が動き出した理由は簡単だ。


ーー秋渡と春樹から同時に血飛沫があがったからだ。


「秋渡!」


「秋渡さん!」


まず声を上げたのは恋華と幸紀だった。続いて他の者達も秋渡の名を呼びながら立ち上がる。


「暁!」


同時に龍大も春樹を呼ぶ。今二人からあがった血飛沫はそれだけ致命傷だということが誰の目に見ても明らかだった。それを理解しているこの場の者達は皆顔を青冷めていた。龍大は虎雄を見ると虎雄もすぐに機械人間を動かせるようにし、病院へ運ばせられるようにスマホを手に取る。それを見て愛奈もすぐにスマホで父親の久英の元へ電話を掛ける。


「……ケリが着いた。勝者はここで立っていた方だ」


龍大は汗を流しながらそう呟く。達也も頷き、画面から目を離さない。未だに二人は立っており髪で目元は見えない。けれども互いに口からは血が出ており、様々な所からも血が流れていた。それを見て龍大ですら血の気が引くほどに歯を食いしばっている。そしてついに勝者が明かされる。


ーー

秋渡side


暁とすれ違いさまの攻撃は血飛沫が出てようやく当たったこと、当てられたことを理解した。刀を振るった姿勢のまま口の中が鉄の味がするのを感じながら動かない。そして暁も同じで背後で動いている気配はない。真正面から一閃に斬られた肩から脇腹までの傷は深く、血が止まらない。視界もボヤけ、何かを考えるのもままならなかった。


「……大した男だよ、君は」


ふと背後から動かないでそのまま暁が声を掛けてくる。僕の攻撃はどこに当たったのかは分からないが、それでも暁の声が霞んでることからしっかりと命中していたことを表している。


「……勝負は紙一重だった。僕もお前も両方共即死じゃなかったのが奇跡な程にな」


「……ふふ。違いない」


そこでようやく武器を降ろすと暁は長刀を鞘へ戻し、それを背負う。僕も血を払って腰に差してある鞘へ戻すとその足でしっかり立ち続ける。血は止まらず、いずれこのままでは失血死するだろうなと思いながら僕は自分の手を見つめるが、腕に力が入らず、すぐにダラりと降ろしてしまう。足もブルブルと震え、立ち続けるのも困難になっている。筋肉痛ならばまだマシだったが、そんなレベルじゃない。未だに生きていることが奇跡なレベルなのに体はもう悲鳴を上げて脳は休めと訴えている。


「さて、決着だね。勝者は……」


暁は勝者を告げようとして咳き込むと肩越しにこちらへ視線を向けてきた。僕も肩越しに視線を向けると暁はフッと笑ってから小さく告げる。


「君の勝ちだよ、世刻秋渡くん……」


そして告げたと同時に暁は前のめりに倒れた。恐らくは最凶の男が初めて戦いによって倒れた瞬間だろう。暁が倒れてからその体の下に血溜まりが広がっていく。僕はそれを見て視線を前に戻すと薄く笑ってから呟く。


「……何が君の勝ち……だ。こんなの引き分け……だろうが……」


言って僕も糸が切れた操り人形みたいにその場に崩れ落ち、倒れた。その後に聞こえて来たのは僕と暁を呼ぶ声とたくさんの人が駆け寄ってくる気配を感じたと同時に僕は意識を失った。


ーー

恋華達side


「秋渡!」


「秋渡さん!」


愛奈が手配した医療チームと虎雄の機械人間達がそれぞれ秋渡と春樹を運ぶ中、恋華と幸紀は真っ先に秋渡の下へ駆け付けた。それに少し遅れる形で他の仲間もやって来る。


「ひ、酷い怪我……!」


冬美が顔を青冷めて口元を手で抑える。普通の人間ならば吐き気を覚えるほどにまでこの場からは血の匂いがした。秋渡も目を瞑り普段からは想像も出来ないほど弱々しい呼吸をしている。生きていることにホッとするが、それでもこの出血量は危険だった。


「おい暁の傷口、早めに止血しろ!」


反対側で春樹を見ている虎雄が機械人間達に慌ただしく指示を飛ばしていた。医療用に作ったものなのか動きは普通の人と比べても遜色ない。そのためテキパキと動いているが虎雄は落ち着いていなかった。達也と龍大も何事か会話しているがとても平和な会話はしていないだろう。


「お兄様ぁ、お兄様ぁ……!」


「大丈夫、大丈夫よ、舞……」


出血量から最悪な未来を予想して泣きじゃくる舞を明菜が必死に元気付けるために宥めていた。恋華達だって何かしたいのにこの場はプロに任せるしかない。何も出来ないことに悔しさを覚えるが今は耐える。やがてその場で応急手当をして救急車で秋渡は運ばれた。虎雄も同じように春樹を運ばせ、後は医者の手腕と天に祈るしかなかった。


「ったく、よくもまぁあんな状態で動けたもんだ」


龍大の呟きにこの場の者が視線を向けるが、台詞とは裏腹に龍大の表情は柔らかかった。そして誰も否定の言葉がない。秋渡も春樹も正直生きていることが不思議な程の怪我をしていた。それぞれの最後の一撃が決め手となったのだろうが、それでもあんなに高速で動けたことは驚きを隠せない。体中が悲鳴を上げているにも関わらず己を保って戦い抜いたことに龍大は心から敬意を払った。


「さて……。これで戦いは終わったわけなんだが」


龍大はそれから恋華達と向き合い、これからの話をする。しかし龍大だけでなくこの場の者達全員が同じことを思っていたことがある。秋渡の方が若干倒れたのが遅かったとは言えほぼ同時に倒れた二人を見て勝者がどちらなのかが分からなかった。結果を見れば秋渡の勝ちに見えるが、秋渡と春樹は最後に同時に攻撃し、命中して倒れた。


「とりあえず俺から案を出させてもらうとすればあの二人が目覚めてから決めてもらおうと思う」


「……そうね。最後に言葉を交わしてたのは分かったけどなんて言ってたのかは分からなかったわ」


龍大の提案に冬美は賛成した。実際どちらの勝利なのかはあの二人にしか分からないだろう。ここで自分らが勝敗を決めたら最悪あの二人が相手になる。秋渡も春樹も己の勝敗は自分らで決めるだろうから冬美も反対はしなかった。それに恋華達も達也達も誰も反対しなかったため、龍大が頷いてとりあえず宣告する。


「世刻秋渡対暁春樹の戦いはここで終わりだ!勝敗の結果はあの二人が目を覚ましたら臨時ニュースで報道する!それまではとりあえず今までとは変わらないが俺らはしばらく大人しくしてるから安心して生活をするといい!」


龍大はテレビで見ている者達全員に告げるように宣告し、ここでようやく最強と最凶の戦いは終わった。あとは全て二人が目を覚ましてから決められることになる。


ーー


「では俺らはここで立ち去る。すまないが世刻が目を覚ましたら連絡をくれないか?」


「分かりました。そちらも暁さんが目を覚ましたらお教えください」


「承知した。ではまたな」


虎雄と愛奈の会話を終えて龍大達五神将は去った。それからは愛奈の家の者が手配した車に全員が乗って秋渡が運ばれた病院へ向かった。その間、車の中は酷く静かで綺羅達も話題を振れるような空気ではなかった。特に恋華は泣いていることを誤魔化すように必死で隠しているが、やはり静かな車の中では嗚咽が聞こえてしまう。星華も普段は読めないポーカーフェイスも崩れて妙にソワソワしながら不安な顔を隠せていなかった。冬美は静かに目を瞑っているが、やはり不安なのか小さく肩が震えており、優衣がポンっと肩に手を置いている。愛奈は珍しく静かに外を見ているが、やはり目元には微かに涙の跡がある。美沙は震えながらも心の中で「秋渡君なら大丈夫……。きっとまた私達を安心させてくれる」と必死に考えて堪えていたが、やはり震えが鎮まることはなかった。舞は終始明菜に抱きつきながら泣いていた。それでも声に出すことはなく、必死に堪えている。幸紀は涙目で胸の前でギュッと手を握ってただただ秋渡が快復することを祈っていた。


そんな重苦しい空気の中、秋渡が運ばれた病院へ着いたのだった。


ア「どうも、アイギアスです!」

龍「青葉龍大だ」

幸「……幸紀です」

ア「とうとう決着が着きましたね」

幸「それもそうですがなぜこちらに青葉さんが……」

龍「俺も知りてぇがここでは気にするな。別に斬り掛かったりとかはしねぇよ」

幸「私、貴方からは前科あるので」

龍「ハハ、言われればそうだな!ま、それはいい。にしても世刻の奴マジでやりやがったな」

幸「何をです?」

龍「いや、馬鹿にしてたわけじゃないが正直暁を倒した奴なんて初めて見たからよ、昔から知ってた分それが信じられなくてな」

ア「そう言えば龍大さんは彼といつから付き合いが?」

龍「かなり昔からだな。ガキの頃から知り合ってたから五神将の招集前にはお互い知り合ってたぞ」

幸「え……?それってつまり幼馴染みということですか?」

龍「ああ。えっと世刻んとこだと水嶋恋華……だったか?あの二人よりは長くねぇがそれに近いな」

ア「だからお互いの実力とかも分かってたんですね。ですがそれならば名前で呼び合ったりはしないんですか?」

龍「んー、俺は昔から他人のことを名前で呼ぶのを嫌ってたからなぁ……。暁も理解してたしそれで合わせてくれてたんだ」

幸「五神将のトップクラス二名がそこまでの付き合いの長さだったなんて……」

龍「ハッハッハ!まぁだからこそなんだろうな。あいつの敗北を聞いたことない俺は一度敗北を知って欲しいって思ったんだよ。勝利だけしか知らないと敗北の時のことは何も分からないからな」

ア「へぇ、結構暁さんのこと考えてるんですね」

龍「まぁな。付き合いなげーしお互い邪険にはしねー間柄だからな。……ま、こんな話は別にいいだろ。それよりも暁と世刻の戦い、どっちの勝利で終わるんだろうな」

幸「お二人に託しましたからね。秋渡さんなら間違ったことはしませんから」

龍「おアツイねぇ。ま、どうなろうと文句は言わねぇよ。ただ……」

ア「ただ?」

龍「あいつらがいつ目覚めてくれるかは分からねぇから心配なのはそこだな」

ア「それは仕方ないです。あんな大怪我したんですから」

幸「秋渡さん……」

龍「……とにかく待つしかねぇな」

ア「ではそろそろ終えましょう。それでは……」

ア・幸・龍「また次話で!」


おまけ!!


恋「秋渡ぉ……」

舞「お兄様ぁ……」

明「……泣いていることはもうどうしようもないですね」

冬「あとはもう秋渡君に託す。それだけよ。今は皆のために無事に目覚めてくれることが一番だもの」

明「そうですね」

恋「秋渡のためにご飯作って待ってるからぁ……!」

舞「お兄様のためにお部屋綺麗にしておきますからぁ……!」

明「(……意外と大丈夫そうね。いえ、心配されないように前向きに考えただけかしら)」

冬「(二人だけじゃなくて他にも君のちゃんとした帰還を待ってるのよ、秋渡君。だからまたいつも通りの姿を見せてね)」


挿絵(By みてみん)


ア「あ、これ秋渡君のイメージ図です!」

恋「え、作者さん描いたの!?」

ア「いえ、友人に描いてもらいました。本当に感謝です!」

恋「そうなの!?……本当にその友人さんには感謝だね!ありがとうございます!」

ア「私も嬉しいです!ありがとうございます!」

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