第百十二話 戦いの最終幕
秋渡side
ーー
暁が攻勢に出てもほとんど状況は動いてなかった。暁の攻撃を僕が防ぎ、カウンターで攻撃をする。避けられたりもしたがその大体がかすり傷ながらも命中していた。逆に暁の攻撃は不思議と読めたりするため、防ぐのが簡単に思う程だ。数度目のカウンターで蹴りを繰り出すとそれが暁の腹に命中する。
「ぐあっ!」
暁の体が吹っ飛び、どこかの店の窓ガラスを割りながら中へ吹き飛ぶ。それを見ながら僕は両手に刀を構えてゆっくりと近寄る。中では暁が起き上がって噎せていたが、苦しげに歯を食いしばりながらも立ち上がった。僕は目を細め、暁目掛けて猛スピードで一直線に突撃する。暁も長刀を構えて僕が刀を振りかざすと同時に長刀を振るった。刀と刀のぶつかり合う音を響かせながらまたしても防戦一方の暁が押され始める。
「ぐ、くぅ……」
暁は僕の攻撃を長刀で防ぎながらもゆっくりと離れる。
「はぁ……はぁ……。怒りで性格が変わる五神将なんて初耳だね……」
「お前に恋華達は殺させない」
「はぁ……。彼女達の死を嫌う為に戦うのかい?」
「ああ」
暁が呼吸しながら聞いてくることに僕は当然のように答えた。それに暁は吐血しながらも笑ってくる。
「クク……。なら僕は君を殺してから彼女達も殺してやるよ。そうすれば皆一緒だよ?」
「殺させないって……」
暁の嘲笑を僕は言葉を区切りながら二刀を振るって斬撃を放ち、暁がそれを力技で防いだのを見ても動じることなく斬り掛かり、重たい一撃と共に叫ぶ。
「言ってるだろぉっ!!」
ギインッ!と力で暁を吹き飛ばすと暁は驚愕しながら店の奥へと吹き飛んだ。そこにレジがあったが、暁はそれを吹き飛ばされながらも難なく掴むとこちらへ投げてくる。それを回し蹴りで蹴って防ぐとそのまま刀を構えて暁へ突撃するために足に力を込める。が……。
「ぐ……あ……!?」
突然目の前がチカっと眩しくなり、心臓が強くドクンと脈打つ。そしてそれまでの忘れていた痛みなどが全て返ってきたかのように少しずつ、だが確かに激痛が起こる。
「あ、が、あぁぁぁぁぁぁっっ!!?」
あまりの激痛に叫ぶ。深く斬られた肩や決して浅くないダメージのある足や脇腹、その他の怪我を負った場所から血が噴き出る。そして同時に口からかなりの血を吐いた。右手の刀を杖替わりにしながら片膝になり、なんとか意識を保つ。
「はぁ……はぁ……」
僕は血を見ながらも霞む視界になんとか暁を見失わないように目を向ける。暁はレジを投げてからはどこかに激突してあちらもダメージが大きいからか動かない。壁の瓦礫から見えるのは大きく上下で動いている暁の胸と腹だ。決して浅くない呼吸を暁もしながら倒れている。だが暁はぐぐぐっと震えながらも何とか座り込む状態まで体を起こした。
「ゲホッ!……あれ?世刻くんの目の色が戻ってる……」
血を吐いてからこちらへ視線を向けるとそんなことを言われる。僕は自分の中から何かの感情が抜け落ちた気がする。それよりも辛いのは全身の痛み。荒い呼吸をして多くの血が流れ、吐血する。暁が立ち上がって笑うと同じように血を吐くと、長刀を杖替わりに立ち続けている。僕は頭から流れた血が右目に入って反射的に目を閉じる。
「ふぅ……。……決着、そろそろつけようか?」
「……そうだね。僕も……そして君も既に限界だろう。だったらその提案は呑むよ」
息を吐いて僕が提案すると暁は承諾する。そして顎をくいっと外へ向けると僕も頷いて先に外へ出る。その間に目の辺りの血を袖で拭き取る。その時の歩みはいつもからは程遠く、とても平然と歩いているとはとても言えない。だがなんとかして外へ出ると僕の後から出てきた暁が僕と反対側に進むとお互いに振り返って僕と暁はまるで初めの戦いのように睨み合う。ただし、最初と違うのはお互いに多く怪我をしてそう長くは動けないことだった。けどお互いに闘志だけは消えていない。
「さてそれじゃ……」
「決着、つけるとしようか!」
僕と暁は同時に駆け出し、最後の打ち合いをする為に僕は二刀を、そして暁は長刀を構えて最後の戦いが始まった。そしてそれは長くないだろう。つまりこれで決着がつく最後の打ち合いになる。
ーー
恋華達side
恋華達は駆け出した秋渡と春樹の二人を見て震える。先程の動きはかなり無茶をしたのは明白で秋渡の動きが止まって吐血したのは体を酷使しすぎたためだろうと思っている。何よりもそれ以前に秋渡も春樹も出血が多い。下手に体を酷使すればたちまち体が悲鳴を上げるだろう。それでも秋渡も春樹も止まらない。秋渡は己の愛する者達を、かけがえのない仲間達を守るため、春樹は己の信念が正しいことを証明し、苦しむ者達を救うため。二人は互いにすべきことを貫くためにその障害である相手と戦っている。それはこの場の皆が知っていることだ。
「(それでも守れてもそこに秋渡がいないと意味が無いんだよ……?)」
恋華は内心でそう思う。折角守れてもそこで守ってくれた秋渡がいなければ意味は無い。彼女達も秋渡が負けないと……必ず生きることを信じて託しているのだから。しかし今の秋渡は頭から血を流し、体のあちこちが傷だらけで血が流れている。そんな中で秋渡が無事でいられるかと問われるとそれは分からない。虎雄曰く五神将は怪我の治りは早いらしいがそれでもあれ程の怪我はすぐに完治はしないだろう。出来るのならば今すぐに手当てをしないと危ないのではないかと思っている程だ。
「はい……。ですから……」
ふと声が聞こえてそちらへ恋華は振り返ると他の仲間達には聞こえないだろう所で愛奈がどこかへ電話を掛けていた。その顔は真剣で諦めてはいないみたいだが、若干だが光っているものが目の辺りにあった。そこで恋華は愛奈は秋渡をすぐに処置が出来るように手配してることを理解した。そしてそれは彼女達の中では愛奈が一番準備が出来、親の久英もその為に動いてくれるだろう。電話を終えた愛奈はホッと息を吐くと恋華が自分を見ていたことに気が付いた。目元をハンカチで拭くと恋華に近寄ってくる。
「……あの出血量だとたとえ戦いに勝っても秋渡さんの命は危険です。なので終わってからすぐに動けるように近くに雨音財閥が誇る医療チームを待機させておきました」
「うん。ありがとう、愛奈ちゃん」
やはり思った通りだと恋華は思った。そして愛奈も秋渡が危険な領域に達していることを把握している。愛奈も改めてスクリーンを見て秋渡の姿を眺める。ほぼ全身が傷だらけなのにあれだけ戦う秋渡と春樹を見てると不安がどんどんと積み重なっていた。
「(……死ぬなんて許さないよ、秋渡)」
恋華は目から流れる涙に気付かずにスクリーンを凝視するのだった。
龍大達五神将もずっと無言でスクリーンを眺めている。そして虎雄が予め用意している救急班に近くで待機して貰っていると聞いているが、それでも自分達の友の姿に焦りは隠せない。
「(頼むから死ぬのだけはやめてくれよ、暁……)」
龍大は拳を無意識に握り、虎雄は冷や汗を流し、達也は唇を噛み締めていた。今この場に聞こえるのはたった二人の戦場から聞こえる刀と刀がぶつかり合う音、建物が斬られて崩れる音のみ。知らぬ間に誰もがこの戦いを無言で眺めているのだった。
ーー
秋渡side
「ふっ!」
「はっ!」
ギインッ!と刀が火花を散らしながらぶつかり合う。そしてガードが出来ないところを狙えばたちまち後ろの建物が犠牲になる。荒い呼吸を繰り返して空から容赦ない夏の日差しが僕らの水分を奪う。だが熱中症で倒れるほどではない。しかしこのままでは体力切れで負けてしまうだろう。そうならないようにするために僕は覚悟を決め、大きな賭けに出ることにした。左手に持っていた刀も右手に持っていた刀も暁との距離を確認しながら鞘へ戻すと左腰に差してある鞘を左手で握り、腰を落としていつでも刀を抜けるように右手を添える。
「……っ!……はぁ……はぁ」
僕は痛みを堪え、集中力を切らさないようにするために鋭い眼光で暁を睨み付ける。暁も僕のやろうとしてることが分かっただろうが阻止しようとする意思はない。いや、暁ももうそこまで激しく動けないのだろう。あれだけの深手だ、おかしくはない。僕は一段と腰を落とし、居合斬りの体勢を取る。そして暁もそれを受けて立つかのように長刀を構えた。
「……来い、世刻くん」
「……行くぞ、暁」
その言葉が合図のように、僕はドンッ!と言う音と共に地面を強く蹴って猛スピードで……今までの中でも特に今出せる全力で最速を出すほどのレベルで暁へ真正面から突撃した。
ア「どうも、アイギアスです!」
美「美沙です」
舞「舞です!」
ア「今回のお話は秋渡君の一時的な暴走とそれが解けるものです!」
美「しゅ、秋渡君は怒るとあんなに豹変するんだね……」
舞「豹変と言うよりもどちらかと言えば我を忘れているものかと……」
ア「いずれにせよ彼の力はまだまだ未知でもあるということです」
美「あ、そう言われればそうなるね。でも色々と不安だなぁ……」
舞「はい。次話で決着が着きそうな終わり方でしたがお二人共怪我の具合が酷いです……」
美「うぅ……。無茶はして欲しくないけどあの人相手にそれは無理だよね……」
ア「寧ろ手を抜けば殺られる可能性が極めて高いですからね。……さて、戦闘のイメージはこれで大丈夫だったでしょうか?」
舞「文章力ありませんからね、作者さん」
ア「ひ、否定しません……」
美「ま、まぁまぁ……。次話のお話を少しだけすると次で決着は着きます」
ア「どちらが勝つか、それは次話のお楽しみにしていただければと思います」
舞「……まともな次話のお話をここでするのはお久しぶりですね」
ア「それは……お許しを……」
舞「まぁいいです。お兄様の勇姿は妹がしっかり見届けます。お兄様の最後の攻撃はきっと暁春樹さんを倒しますよ!」
美「……ふふ、そうだね。秋渡君ならきっと勝ってくれる。だから不安はあっても信じられるもん」
ア「羨ましいですね、彼は。ですがどうなるかは本当に次話でお楽しみに。それでは……」
ア・美・舞「また次話で!」
おまけ〜
秋「……なんか今作者が考えてる執筆中の作品、これの続編らしいけど僕の他はお前が出るかもしれないらしい」
?「え、僕達が一緒だと色々とまずいんじゃないかな?」
秋「異世界うんたら言ってたから大丈夫じゃね?」
?「うーん、まぁ敵対したら分からないけど味方なら大丈夫かも?」
秋「そこはどうなるかは僕も知らん」
?「ならあんま気にしないでおくよ。転移系ならまぁ仕方ない程度に思っとく」
秋「……僕としてはもし本当の話なら敵対するのはゴメンだ」
?「それはお互い様って奴だよ。じゃ、僕はここで」
秋「ああ。……さて、どうなることやら」