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第百十一話 秋渡の豹変と恐ろしさ

恋華達side


ーー


「秋渡ぉ!?」


秋渡が春樹に弾き飛ばされ、噴水に激突した瞬間、恋華達は席を立って叫んだ。誰が見ても防御は成功したのにその吹き飛ばされ方などから無事であるとは思えなかった。恋華達は青ざめた顔で秋渡が立ち上がるのを待ったが、彼は一向に立ち上がらない。顔だけ動かしてなんとか立とうとしているがそれが出来ていなかった。そんな秋渡に静かに春樹が近寄る。


「……秋渡!」


「秋渡君!」


星華と冬美がまるで早く逃げてと言わんばかりに叫ぶが、やはり彼は動かない。黙ってそれを見ている五神将らだが、その顔はやはり春樹の勝利なのか、というものだった。しかし秋渡はかなり善戦したと言えるだろう。ここで彼が敗北しても達也も虎雄も龍大も笑う気はなかった。


「(寧ろここまでやれたことは素直に尊敬に値するぜ、世刻秋渡)」


龍大は内心本気でそう思っていた。あの男をここまでボロボロにしただけでも正直同じような真似は自分には無理だからこそだ。そこで春樹がとうとう秋渡の近くまで行き、長刀の範囲内に入った。このままだと逃げることはもちろん防ぐことも出来ないだろう。なんとか動こうとしても腕も上がらない様子にこれで終わりだと誰もが思う。この場にいない観戦している者達は少なくともそう思っていた。この戦いは一対一にも関わらず既に五時間は経過している。それほどの激闘が続いたのだから体力はもう尽きててもおかしいことではない。恋華達が必死に秋渡を呼び掛けるが残念ながらここから声は届かない。達也も虎雄も黙ってこの戦いの結末を見届けようとしている。そして春樹が何事か言ったらその手の中の長刀を振りかざす。その刀が振り下ろされた瞬間、龍大は妙な違和感を覚えた。


「(……なんだ?世刻の様子がなんかおかしい?)」


自分でもそれが何なのか分からない。そしてそんな中、春樹は噴水ごと破壊する勢いで秋渡を斬り、赤い鮮血が噴水の水と共に舞った。それを見て恋華達が絶望に涙を流しながらその場から崩れ落ちた。その時、龍大ははっとなった。いや、思わずその場から立ち上がってしまうほど困惑していた。それに気付いた虎雄は龍大の行動に疑問を持つ。彼が秋渡に肩を持っていたならおかしくはないがそれはない。


「どうした、青葉?」


しかし龍大は虎雄の問い掛けも無視して画面を見ている。水の勢いが酷くなったため、秋渡の姿は確認出来ない。春樹はその場から去ろうと既に噴水から背を向けていた。手応えがあったのを確認したからこそだろう。だがこの場において……いや、恐らくこのことに気付けたのは龍大だけだろう。


「まだ……」


「?」


龍大の呟きに虎雄と達也が龍大を見るが、彼の表情から驚きが隠せてないのはわかった。しかし何よりも驚いたのは次の言葉だった。


「まだ終わってねぇ!」


「え?」


虎雄と達也は龍大の言葉に思わず画面を見た瞬間だった。噴水の瓦礫が突然吹き飛ばされ、背を向けていた春樹が驚いてそちらへ視線を向けた。その音に気付いた恋華達は……いや、これを見ている者達全員が驚きを隠せなかった。噴水から出て来た男、全身は血だらけなのにしっかり立って目を閉じ、春樹に立ち向かう銀色の髪は見間違えることなどない。世刻秋渡その人だった。そして秋渡はその目を見開くとそこには普段の青と金の瞳はなく、恐ろしいまでに真っ赤に染まった瞳をしていた。


ーー

秋渡side


ーー僕は負けない。

ーー僕は守る。

ーー僕はまだ戦える。


暁の長刀をほんの一瞬の間一髪で殺される範囲を抜けて避ける。代償に両肩を斬られた胸元から腹に付いた一閃から一筋の線が引かれ、そこから鮮血が飛び散った。しかし今の僕にはその痛覚がほとんどなかった。自分でも何が起きてるのかが分からないほどに。分かるのは大切な人達を殺そうとする暁を許せないと思ってからだ。体が勝手に動いて致命傷は避けた。そして崩れた噴水の瓦礫を力任せに吹き飛ばしてそこから立ち上がる。……不思議だ。さっきまでもう立ち上がれないほどの怪我だったのに。


「なっ……」


絶句した暁がこちらを見ている気配がする。そして噴水の水がかからない所まで出た瞬間、僕は目を開く。今やるべきことを再認識しながら。そしておもむろに両手に持つ刀を構えると暁に向かって突進する。


「ぐっ!?」


勢い強くぶつかる刀に暁は長刀で受け止めたが、予知してなかったためか簡単に吹き飛んだ。その後ろに建物はなかったのでバク転をして体勢を整える。そしてこちらを見た瞬間、暁は目を見開いた。


「君……なんだその目は……?」


目……?いや、僕の目は今はどうでもいい。とりあえずやることはこいつを叩き潰すことだ。再び刀を構えると突撃する。今度は暁もその長刀と己の力で迎え撃ってきた。が、不思議だ。自分の体がいつもよりも軽く感じ、力も湧いている気がする。速度も上がってるのか暁が苦しそうな顔をしていた。


「ぐっ、〜っ!」


声にならない言葉を発して防御する暁だが、今はそんなものすらどうにかできる。いや、してみせる。それが……あいつらを守ることに繋がるのだ!


「うおぉぉぉっ!!」


斬り上げ、叩き付け、薙ぎ払い、ジャンプ斬り、半回転斬り、交差斬り、突き攻撃。その全てを両手繰り出し連撃を繰り返す。雄叫びを上げながら何度も何度も。暁は必死に食らいつき、凌ぎ切ろうとするがそれはさせない。そしてほんの少し……ほんの一瞬だけの極僅かな隙をその目に移した瞬間。左手の刀を逆手に握り、それを暁の脇腹へ突き出した。それに気付いた暁だったが一歩遅かった。


「ぐふっ!?」


その一発がまともに暁に命中し、暁の防御が弱まるとほぼ背を向けているに近い格好から左の刀を引き抜き、右の刀で暁を一閃する。それは防がれることなく命中した。


「ぐあぁぁぁっ!!?」


暁が絶叫を上げたと共に血が噴き出した。小さくジャンプしてたのもあって刀が当たったのは胸よりも少し上だったが、まともに命中したことからこのダメージは大きいだろう。僕は着地をすると同時にそのままの勢いで回し蹴りを放つ。蹴りは暁の鳩尾にめり込んだ。


「がはっ!?」


口から空気と共に血を吐いた暁はその勢いで近くの建物に吹き飛んだ。そして僕は荒く息をしながらも暁に近付く。暁は壁を背に土煙の中で咳き込みながら僕を睨んでいた。だがさすがに怒涛の三連撃は流石の暁にも堪えたのか、苦痛で顔を歪めている。


「ゲホッ、ゲホッ!……なんなんだ一体」


まるで僕を凶悪者のように見る暁だが、僕には今はそれに答えるような思考は思い浮かばない。代わりにそのまま刀を振りかざすと先程の暁のように一閃する。暁はギョッとしながらも屈んでそれを回避してそのまま足掛けをしようと蹴りを繰り出したが、それを刀を振るった勢いのままにバク転をして避ける。その間に暁は立ち上がっていた。


「なんて変貌ぶりなんだ……。はは、こいつは本気で恐ろしいや……」


乾いた笑いをする暁に僕は目を細めて刀を構える。今はこいつを潰すことしか考えられない。恋華達を守るためにこいつは倒す。自分の感情に支配された故かその気持ちでいっぱいだった。暁は先程傷を負った所から血を流しながらも長刀を構え、攻勢に転じてきたのだった。


ーー

恋華達side


ーー


「ど、どうなってるの……?」


呆然とした顔で声を震わせる恋華。だがそれに答えられる者はいなかった。五神将の三人ですら今起きていることに声を発せられないのだから。恋華の呟きはまさにこの場の全員の気持ちを代弁したものだった。恋華達は泣きながらも愛する人の豹変ぶりに絶句し、綺羅達はその強さから来る恐怖に支配され、五神将の護衛達は恐怖で腰を抜かしていた。そしてその五神将達でさえも今の秋渡の姿に恐怖している。


「(な、なんだ?何が起きたんだ!?暁の攻撃を耐えて瓦礫から現れたら目の色が変わって暁を圧倒だと!?)」


龍大は自分の感覚が少し分からなくなっていた。先程暁に押されていた秋渡は今謎の変貌をしてその暁を圧倒している。それだけでも驚きなのだが龍大の目には今の秋渡は何かに囚われて我を失っているようにも見える。更には龍大からは秋渡は豹変してからかなり好戦的になっているようにも見えていた。まるでその目の色が示すように……。そこで龍大はハッとなる。


「(……待てよ?そもそもなんで今あいつは戦っている?)」


チラリと恋華達へ視線を向け、すぐにスクリーンへ戻す。


「(暁が勝てばこいつらは殺される。世刻の全部を知ってるわけじゃないから断言は出来ねーがもしかしたらこの可能性が高くないか?)」


今秋渡が変貌した理由は春樹が仲間へ手を下そうとするのを阻止するため。荒々しい怒涛の攻撃には絶対に守るという意思があるとしたら?龍大はここで答えを見付けられた。


「……あいつ、怒り狂ってるってことか」


大切な人達を傷付けようとしてブチ切れたのならば秋渡の豹変ぶりにも説明が付く。そして今、その怒りが痛みなどを脳から消し去っているため、秋渡はあれだけの動きが出来るのではないか、そう龍大が導き出した答えだった。赤い瞳もそれを表しているとなればそれも頷けることだ。ならば今彼が止まるには怒りの中でも体が限界を迎えるか春樹が倒れるかのどちらかしかない。それはつまるところ……。


「……決着の時は近いってことだな」


誰にも聞こえないように龍大は知らぬ間に冷や汗を流しながら小さく言葉を漏らした。

この戦いはもうすぐ終わることを告げるのはどちからが倒れるまでという前提になる。秋渡が勝つか、春樹が勝つか、それとも相打ちになるか。それは見ている側では誰にも予測は出来ない。見ていても知る者がいるとすれば実在するのならば神のみであるのは間違いがなかった。


ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

ア「今回は私達だけなんですね」

秋「まぁ一応ヒロインは皆出したからな」

ア「まぁ明菜さんは違いますが……」

秋「むしろ違うことに驚かれそうな気もするがな」

ア「それはそれとして今回は秋渡くんの怒りが爆発ですね!」

秋「そりゃ大事な人達を傷付けたり殺そうとするなら……な。とは言えここまで心の底からキレたことはないからどうなることやら……」

ア「まぁそれはまた次話以降で確認出来るでしょう!」

秋「戦いも折り返し……なのか?」

ア「近いかもですね。青葉龍大さんは決着の予感がしてるみたいですが」

秋「そうか。ならこの戦いを無事に乗り越えて皆を安心させなきゃな」

ア「そうですね。まずはこの戦いを頑張ってください」

秋「言われなくても。さて、終えるか?」

ア「ですね。それでは……」

ア・秋「また次話で!」


おまけ


恋「今回こっちで誰もヒロイン出なかったよ〜!」

幸「うぅ……久しぶりに秋渡さんと二人きりになりたいです……」

恋「秋渡と手を繋ぎながら街を歩きたい……」

幸「秋渡さんにそっと寄り添って温め会いたい……」

恋「そして秋渡の家でお泊まりして一緒に……キャッ♪」

幸「そのまま流れるようにキスをして……キャッ♪」

秋「(……声を掛けようかと思ったが今見付かったら何されるか分からんから逃げよう)」

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