第百十話 憤怒の目覚め
秋渡side
ーー
暁と幾度も刀を交わし、最初の一手以外は互いにダメージはほとんどない。暁もやはり先程のようなパターンも想定し始めたのか深くは斬り込んでこないため、同じ手は使えないだろう。もっとも、そんなことすりゃ僕の方が本気で持たないだろうからもうやらねーけど。もし動きが想定出来て攻撃を受けてもそれでこんな深手を負うならば二度やることはないだろう。やっても呆気なく戦闘不能になるだけだ。
「(けどこのままだとジリ貧だな……)」
互いの攻撃は掠りはしても致命傷には程遠い。しかもその掠っている数も数える程しかないためダメージは無に等しい。暁の攻撃を避けて一度大きく飛び退くと再びすぐに突撃して勢いを付けて斬り掛かるが、それも呆気なく止められる。暁の顔には楽しそうな笑みが浮かばられているが、決して油断はしてはならないという意味で目が笑っていなかった。暁に弾かれて宙へ投げ出されるが体を捻って綺麗に着地をすると同時に暁から突撃してくる。突き攻撃を刀をクロスさせて止めるとそのまま弾く。先程からその繰り返しが増えている。
「……簡単に倒せるとは思ってなかったけどな」
小さく呟いて息を整える。無呼吸運動を続けているようなものなのでスタミナの消費が酷い。また、出血量も多いせいなのか意識も時々ぼんやりする。それでも攻撃を受けてないのは本能が体を動かしているおかげなのだろう。腕で汗を拭って暁を睨むと、暁も同じく汗を拭ってその獰猛な目で僕を見据えている。腰を落として再び突撃しようとするのを見て僕はやるべきかと思いその場で刀を振るう構えを取る。
「むっ?」
それを警戒した暁は攻めて来ないで防御の姿勢を取る。……流石に簡単に釣られないとは思ってたが、まさか突撃する前に勘付く見事としか言えない。そして僕は刀を振るう。
「はぁっ!」
二刀からは衝撃波と言えるとは思うが、それこそアニメなどでしか出来ないだろう斬撃を放った。暁はそれに一瞬驚いたがすぐに長刀を縦に振るって斬撃を防いだ。中心部が途切れたため、横に広がっていた斬撃もすぐに消えてしまったが、暁は長刀を肩に担ぐとニヤリと笑う。
「まさかその距離からでも攻撃出来るとはね……」
驚きはあったがそれも想定内と言わんばかりのセリフに僕は刀を構え直す。タイミングは見誤ったがそれでも暁ならば例え不意を突いても意味はなかっただろう。そしてすぐに対応したってことはこいつも使える可能性が高い。そうでなきゃ斬撃は普通ジャンプして躱すか長刀で受け止めても少しは後退させられたはずだ。にも関わらず強い部分を叩き斬って防いだのだから使えると見て間違いはない。まだ見てないがその可能性があるならばそれも考慮して動けるから対応は出来るだろう。
「よく言うな。簡単に防いだくせに」
嫌味ったらしく言うと暁はくつくつと笑う。そして同時に長刀を振るってくるとそこから僕が放ったのよりも大きな斬撃が飛んできた。武器が長い分、そうなったのだろう。
「チッ!」
両手の刀を斬り上げるように振って衝撃を殺して斬撃をなんとか打ち消す。若干の腕の痺れがあるが戦いを放棄する程ではないのでそのまま構えた。そしてそのまま突撃すると暁も同じように長刀を構えて斬りかかってくる。両手の刀から暁の力の強さが伝わってくる。ギチギチと音を立て、時々その勢いから火花が飛び散る。そして互いに飛び退くようにして距離を取る。
「(やっぱりこいつの力、半端ねぇな。力押しが出来る気がしない)」
暁の攻撃は今まで変幻自在に動き回りながらの斬り付けなため、回避しても防いでも長刀だけでなく蹴りも飛んできたり、防ぐとその力強さからか少しだけ仰け反るために反撃が出来ない。仕方なく何度も斬り掛かり、避けては防いで、そして攻勢に出て……。時には攻撃を受けたり与えたり。
ーーそれを何度繰り返したのだろう。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……くっ……はぁ……」
お互い体力が落ち始めて来て攻撃が当たり初めていた。僕は最初にダメージを負った肩ではなく脇腹を手で押さえ、暁は胸元を押さえる。しかし今はそれら以外にもどこもかしこも傷だらけになっていた。顔、肩、腕、胸、腹、背中、腿、膝、等……。そこら中傷だらけになり、血を流していた。肩に比べれば軽傷なのだが、如何せん数が数であり、その痛みは多々ある。脇腹から手を離して武器を構えようとするが、体力的にも怪我の度合い的にも足が上手く動かない。
「(クソっ……。視界も若干ボヤけて来てやがる……)」
恐らくは血の流しすぎで起きてる事だ。しかもこれらの傷は何も刀だけで負ったものではない。蹴り飛ばされた時に壁や建物に激突して何度も意識を飛ばし掛けている。逆に吹き飛ばして同じこともやったのだが、暁は獰猛な肉食獣が獲物を狩るかのようにして目をギラつかせている。その蒼紅の瞳に向けられる眼光は失う気配がない。
「やっぱり楽しいねぇ……!ここまでボロボロにされるのは初めてだよ……」
血反吐を吐いてもまるで懲りないみたいで暁は長刀を握る手に力を入れる。深呼吸して僕も多少頭を振ると少しだけ視界が戻った……気がした。当然未だにあちこちが傷だらけで痛みもあるが、この程度ならばまだやれる。今僕を動かしてるのは彼女達を守る一心だ。その揺らがない目でも見たのだろうか、暁は笑う。
「いいねぇ……。その絶望する気配がない目は。もっとやれるってことだからねぇ!」
暁は狂ったように急接近をし、その長刀を横に振るってくる。その時僕の目に映ったのはまるで暁の動きを追うように蠢く瞳の光だった。まるで流れ星が流れた時に見える光線を描いたかのような……。それに思わずゾッとした僕は無我夢中で防御に徹した。が……。
「フンっ!」
「っ!?」
これまでになかった一撃の重たさに僕は耐え切れず吹き飛ばされた。そして背後の噴水が破壊される勢いで思い切り叩き付けられる。
「がっ!?」
その衝撃にほんの一瞬だけ意識を失い、すぐに取り戻すが噴水は壊れ、そこから溢れ出る水を全身に浴びながら噴水を背にぐったりと崩れ落ちる。なんとか顔だけ動かして暁を見るが、その暁はゆっくり僕に近付いている所だった。なんとか立ち上がろうとするが、水の冷たさも相まって起き上がるに起き上がれない。髪から滴る水もシャワーを浴びてる時のように感じられた。
「……うっ!……ゲホッ!」
呻き声と共に血を吐き出す。血はすぐに水と同化して分からなくなったが、この状況を変えるわけではない。立ち上がって戦わなければ僕は全てを失う。家族、友人、そして愛する人。その全てが消され、僕は心身共に死ぬ。それだけは避けなければならない。自分が死ぬことよりも大切な人を守ることが出来なかったら僕はきっと後悔するだろう。だからこそ立って戦わなければいけない。そんな意地がまだあるはずなのに、体は言うことを聞かなかった。そして暁がとうとうすぐ近くまでやって来た。……本格的にまずい。
「楽しかったよ。これが一度きりなのは残念だけどそれは仕方の無いことだ。君もよく戦った。もう充分だろう?」
お互いボロボロのはずなのに暁は肩で息をしながらもしっかり立っていて、対する僕は無様に噴水を背に崩れ落ちている。悔しく思いながらも、このままだと暁の言う通り何も出来ず、トドメを刺されて終わりだろう。だがそれは出来ない。これは僕一人の戦いじゃないんだ。僕を信じてくれている人達の為にも、自分の命を賭けてまでここに送り出してくれた人達を守るための戦いなんだ。なのになんだこのザマは……。このままじゃ死んでも誰にも合わせる顔がなくなるじゃないか。
「……はっ」
僕はそこまで考えて自分はこんな正義感の強い人間だったかと思って笑ってしまった。それに暁も気付いて顔を顰めるが、やがて口元だけでも笑うと長刀を構えた。
「さようなら。今度は仲間として共に戦えるといいね。君の恋人やお友達とかもすぐに後を追わせてやるよ。だから寂しくないだろう?」
暁のその言葉にドクンと心臓が跳ねたように聞こえた。暁が僕を殺せばその後に殺されるのは仲間達なのは間違いない。それを許して僕は殺されるのか?……いや、そんなこと許せるわけがない。となるとこの脳裏の熱はなんだ?まるで今の言葉……大切な人達が殺されそうになったのがキーワードになってたかのように今何かが脳裏を掠めている気がする。なんなんだ、これは?そこまで考えていたらふと気付いた。……ああ、これは絶対にやらせてたまるかという意地であり、怒りだ。ならその怒りをどうする?ただ表に出しても無様に散るだけだろう。
「……やらせてたまるか。……いや、やられてたまるか」
噴水からの水の音で恐らくは自分にしか聞こえないような声で僕は口を動かして喋る。そして覚悟を決めた。その瞬間、暁の長刀が無慈悲にも振り払われた。同時に僕の中で何かがカチリと音を立てていた。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
舞「舞です!」
明「明菜です」
ア「今回は妹と後輩ですね!」
秋「態度とか見てると後輩ってことを忘れそうになるがな」
明「う……。ご、ごめん」
秋「別に気にしてないけどな。同じ家にいるんだしある意味義妹みたいなもんだろ」
舞「実妹は私ですからね?」
秋「知ってるよ。とは言えずっと一緒だったわけじゃないから何とも言えない違和感もあるがな」
ア「目元とかは似てるんですけどね」
明「不思議なのは瞳の色と髪色が正反対の色って所かな」
秋「それは僕も思ったがな。五神将の妹だからそうなったのかもしれんが……」
舞「それよりも私は今回のお話の最後にある部分が気になってます」
明「怒りって出てる所?」
舞「それもですが一体何の音が出たのかです……」
ア「それは次話で判明しますよ」
秋「だ、そうだ。ココ最近は何故か投稿早いから今度も早めに分かるんじゃないか?」
明「確かに前話から今回も日にちは経ってないわよね。一体どうして?」
ア「珍しくスラスラと書けたんです。まぁ誤字・脱字があるかもしれませんが……」
秋「そこは見直して訂正しろよ」
ア「更新した後で気付くこともあるんですよ……」
舞「ああ、そうなんですね……」
秋「やれやれ……。ま、そこはもう諦めるか。読者の皆さんも温かい目で見て頂けたら助かるかな」
明「それと感想をくださる方、本当にありがとうございます(ペコリ)」
ア「いつも読ませて頂いてそれが励みになってます。本当にありがとうございます!」
舞「何か気になったりした点がありましたらお教え下さい。お答え出来ることなら答えますので」
ア「では終えましょうか。それでは……」
ア・秋・舞・明「また次話で!」
おまけ
舞「お兄様が深手を負うなんて思わなかったです……」
明「相手が相手だからね。ただやっぱり強いのは間違いないわ」
舞「それでも最後にお兄様が勝つと私は信じています!」
明「私もよ。それがどうやって勝てるかは想像出来ないのだけれども……」
秋「ま、そこは見守っててくれ」
舞「はい、お兄様」
明「……分かったわ」