第百六話 戦闘開始
全ての家から許可を貰って(美沙の所はそう言っていいかは分からないが……)、遂に決戦に臨めるようになる。説得が終わった後は家でゆっくり休養して体をなるべく休ませておいた。刀を振るうことも考えたが、明菜に休んでた方がいいと言われ、僕も反対する理由がなかったのでそれを受けた。
そして迎えた決戦の日。
「お兄様、いよいよなんですね……」
舞が玄関まで見送りに来て言う。僕は夏場にも関わらずワイシャツの上に丈の長い夏用のコートを羽織っていた。そして腰には自分の刀を二本左右に帯刀。ズボンはジーンズにしたが動きやすさではまぁ悪くは無い。
「ああ」
「どうかお気を付けて……」
未だに心配そうな舞に何と声を掛ければいいか、正直正解は分からない。けど僕がするべきことは決まっている。
「保証は出来ない。けどこれだけは伝えておく」
靴を履いてから立ち上がると僕は振り返って不敵な笑みを浮かべる。
「勝つ。それだけだ」
「……はい」
舞の優れない顔を見ても僕は刀を一度途中まで抜いてすぐに戻す。そして舞の後ろで黙ったままの明菜へ視線を移す。明菜は無言でいるがやがて口を開く。
「帰ってきてよ?まだまだ返す恩が残ってるんだから」
「それは戻らなきゃならないな。残してると後々文句が飛んできそうだ」
軽口で会話する僕達だが明菜の顔付きは厳しい。僕はそれに苦笑してからドアノブに手をかける。そして……。
「じゃ、五神将最強を倒してくる」
それだけ言って家を出た。
向かう場所は深桜の街だ。そこが決戦の場なのだから。徒歩で向かうことになるが、それも致し方ない。だが今日は人が出歩いてる様子はないので悠然と歩いている。空模様は曇り空だが晴れているよりも戦いやすい。コツコツと静かな道を歩きながら呼吸をする。緊張してないと言えば嘘となるだろう。けど不思議と思ったよりもプレッシャーはない。我ながら余裕があるなと思って笑う。
「(……さて)」
だがいつまでもそう余裕は保てない。街に近付くに連れて自然に体が引き締まってくる。それは緊張なのか、それとも戦いに対する何かなのかは分からないが、この戦いで変化は必ず起こる。そう予感をして静かに歩みを進めた。
ーー
同じ頃、秋渡の周りにいた女性達ーー即ち秋渡との結婚を考えられた者と友人らが五神将青葉龍大、黒坂虎雄、棗達也によって呼ばれたとある場所へ移動をしていた。移動には雨音家が車を出したが中へは黒坂の機械人間が案内をしていた。どこか恋華は歯を食いしばり堪えているのに他の者は気付いてはいたが恋華が手を出そうとしない限りはそのままでいた。
「それにしても一体何なのかしら」
歩きながら冬美は考える。呼んだ相手が五神将だから警戒しているが正直意図は読めない。龍大もこの戦いは手出ししないようなので人質として扱う気はないようなのだが、それでも身構えてしまう。他のメンバーも同じなのだが誰も冬美には答えられない。とにかく行かなければ分からないのだから。そして機械人間がしばらく歩いた先にあった扉を開ける。中は映画館の映画を見る場所のような所だった。広くて大勢の人が入れそうな所だ。
「失礼致します。彼女達をこちらへ連れて参りました」
「ん、じゃあ下がってくれ」
「了解、マスター」
中へ恋華達全員が入ると機械人間の女は立ち去った。そして面と向かい合う恋華達と五神将の三人とその護衛の三人。だが恋華達が身構えたのに対して五神将達からは殺気も何も溢れてなかった。代表して達也が席を立つと恋華達の前へ行く。
「警戒するのもわかるけど安心してくれ。今回君らを呼んだのはこれからの戦いで特等席で見てもらうためなんだ」
「……特等席?」
達也が苦笑して肩を竦めて呼んだ理由を教えると星華がほんの少しだけ眉を寄せる聞き返す。達也はそれに「そうそう」と答えるとどこか言いにくそうに付け足す。
「というかこれについては俺らも驚いてるんだよ。用意したのが暁だからさ」
「え!?」
達也の言葉に美沙が驚いた。達也は「まぁ驚くよな」と苦笑するとスクリーンを指差してから告げる。
「ま、あの二人の戦いだ。世刻の側にいる君らにこの戦いの結果を見届けろってことなんだろうよ。だから手出ししないし何よりも俺らも気になってるからな」
「とりあえず座りな。多分だがもうすぐ始まるからよ」
達也の言葉を遮るように龍大が言う。龍大の目はスクリーンに映っている深桜街に注がれており恋華達を見ていなかった。いや、正しくはいつ現れるか分からない二人をその目で探しているのだろう。達也が肩を竦めると達也もこれ以上何も言わずに席へ戻る。恋華達も互いに頷くとなるべく近くで固まって席に着いた。その際、恋華と愛奈はチラリと警戒するように虎雄を見やるが虎雄は出された紅茶を啜っていた。仕方なく視線を元に戻してスクリーンを見る。
「(秋渡……頑張って!)」
恋華は祈るように手を握ると強く心で願った。決戦の時間までは……あと僅かになるのを予感しながら。そしてそれはこの場の全員が感じていた。
ーー
秋渡side
深桜街の近くまで来ると本当に人がいないような感じがして気味が悪かった。だが状況が状況なだけにそれも無理はない。静かに深桜街の広場へと向かう。深呼吸して広場へと歩み続けてると不意に反対側から強烈な殺気を感知した。今まで戦った棗、黒坂、青葉など目じゃない。いや、前も思ったが三人を軽く凌駕するそれは殺気の他、ここからでも分かるほどの覇気を纏わせていた。無意識に目を細めこちらも自然に殺気が漏れ出す。上空にはヘリコプターが飛んでいて放映用のものなのだろう。全国の人が気になるだろう戦いだから無理はない。それよりも今は集中だ。
「負けない。負けられない。今の僕の本心だ」
そう言って深呼吸をやめてとうとう広場へと辿り着く。広場には噴水が噴いている小さな池があるのだが、今は何も無かった。だが今はそんなことはいい。少し遠くからでも見え始めた赤い髪に僕は刀を無意識に掴むが、まだ抜かない。そして少し待つとどこかワクワクした様子の五神将最強の男ーー。
暁春樹と本当の決着を着けるために対峙した。
ーー
恋華達side
「現れた!」
恋華は二人の登場に思わず声を上げる。だがそれは皆一緒で一気に色んな気持ちが含まれた様子でスクリーンを眺める。五神将の三人も無言で、しかし真剣な顔で同じように眺める。恋華はぎゅっと手を握るといよいよ始まるこの戦いに秋渡の勝利をただただ祈る。
「秋渡……」
「……秋渡」
「秋渡君」
「秋渡さん……」
「秋渡君……」
「お兄様……」
「秋渡さん……」
各々不安で愛する人の名を呟く。それを側で聞いていた明菜、真守、智樹、綺羅、優衣は不安ながらも無言でいる。五神将の三人は龍大はそのままスクリーンを眺め、虎雄は紅茶を啜りながらも無言で、達也は一瞬秋渡の仲間達へ視線を向けたがすぐにスクリーンへ戻す。画面の中で一定の距離で立ち止まった二人の間には知らぬ間に覇気がぶつかり合う。それはまだ極小のものだ。
「(それでもスクリーン越しでも感じるほどの覇気を放つとかマジで化け物だな)」
達也の素直な感想は龍大も虎雄も感じていることだった。だがその強大な存在である二人がぶつかるとなるとこれがどうなるか。それはまだ、誰も知らない。全てはこれからの二人次第なのだから。
ーー
秋渡side
睨み合う僕と暁。静かだがここでこれから何をするかは決まっている。だが暁は突如笑みを浮かべた。
「逃げないで来たね」
「そりゃな。こちとら大切な人の命が掛かってるんだから逃げる気なんてサラサラない」
「そうかい。そういった人がいない僕には分からないことだよ」
「だろうな。だからこそ負けられない」
僕の言葉に暁はただ笑う。するとどこかからか高級なコップと一本の酒を取り出した。それをコップに注ぐ。一つ注いだらコップと酒を僕に渡してくる。受け取って酒を注いで酒を地面に置くとただ無言で近寄る。そしてカチンとコップを当てると互いに一口だけ飲むとコップを口から離す。
「味はどうかな?」
「悪くない。詳しくはないが相当高価な酒なんだろう」
「もちろん。この場にでも相応しい……ね」
恐らくワインの類だろう。渋みがあるが飲みにくいほどの濃さはない。だから飲みやすくてこの場じゃなければどんどん飲んでいただろう。だがそうはいかない。暁も分かってるのか少し僕から離れてからコップの中身を気にもせず地面に置く。僕も少し離れてからコップを置いて再び対峙すると目の前の赤眼、青眼を見る。
「さて、それじゃやろうか。僕の未来が勝るか」
「僕が皆を守り切れるか」
「いざ……」
「尋常に……」
「「勝負!!」」
互いに瞬時に刀を抜いて接近し、強くぶつかり合った。
ア「どうも、アイギアスです!」
恋「恋華です」
星「……星華です」
ア「とうとう始まりましたね、戦い」
恋「今回はまだ互いに一発目って所だけど……」
星「……スクリーン越しでも二人の殺気は感じ取れた」
ア「五神将最強と最凶ですからね……」
恋「うん。他の五神将も凄い真剣な顔で見てた」
星「……それだけの戦いってこと。……さすがは私の秋渡」
恋「ちょっ!?どさくさに紛れて何言ってるの!?秋渡は私のなんだから!」
ア「え、秋渡君って皆さんのじゃないんですか?だから両親に交渉したのでは……」
恋・星「あ……」
ア「まぁそれも全て幸せな未来になるかは秋渡君次第ですが」
星「……そうだね。……ごめん、恋華」
恋「私こそごめんね、星華」
ア「ちなみに余談ですが戦いがどれくらいで終わるかはまだ未定です」
恋「そこは決めておこうよ……」
ア「すみません。けどそれなりに伸ばそうとは思っています。投稿遅いので『マジかよ』と思うかもしれませんが暖かい目で見守って頂けたら幸いです」
星「……いつも感想を下さる方もありがとうございます」
恋「感想は貰えるだけでも嬉しいです(作者談)」
ア「指摘などもあったら是非教えてください」
恋「さて、とりあえずはこんなものかな?」
星「……あとは作者がどれだけ戦闘シーンを書けるか次第」
ア「はは、頑張ります……。では終えましょうか。それでは……」
ア・恋・星「また次話で!」