第百三話 風間家の答え
秋渡side
ーー
まずは星華の両親からだ。次に冬美、最後に美沙となる。とは言え家を知らないので深桜高校で待ち合わせとなった。そして待ち合わせ時間よりも三十分早く着き、星華はまだ来ないので今のうちにどう説得するかを考えておく。まず口調をどうにかしないといけないのだが……。
「(……敬語慣れてないから正直素が出そうだ)」
僕の問題点は敬語をほぼ使えないこと。生まれてこの方ほとんどタメ口で話しているせいで敬語を使ったことが極端に少ない。俊明さんと早奈英さん相手にもポロッと出ちまったし。なんとか改善しようとしてもそれが出来ない。高圧的な態度を取るのは相手にも失礼だしどうにかしたいのだが……。
「(むしろ変わると恋華達に心配されそうだな)」
「……私も心配する」
「気配完封して背後に立った挙句に心読むのはやめてくれ」
気配読むのは得意なのに何故か知らないが星華だけは感知出来ない。ともかく振り返ると私服で僕を見上げる無表情の星華が目に映る。とは言え白いポロシャツに黒いフレアスカートを穿いているだけのかなりラフな格好であまりオシャレとかはしていない。まぁすぐに自分家に戻るのだから無理はないだろう。それでも星華だけ気配が読めないのはどこか悔しい気持ちもある。
「……行こ?」
「おう」
どうにも釈然としないが今は考えないでおこう。星華が歩き始めると僕もその小さな後ろ姿を追うように歩き始めた。その間、星華から話題が振られることも僕から話すこともなかったのでかなり長い時間歩いたように思えたのはここだけの話だ。
ーー
星華の家に着くと早速上がらせてもらう。リビングへ通されて中へ入ると星華の両親と対面した。父親だろう男性はソファーに座りながら僕の登場にビクリとするとすぐに深呼吸をする。……何故か悲しくなった。別に威圧もしてないしむしろただ入っただけなのにこの反応は傷付くな。
「どうぞ、そちらへお座り下さい」
「どうも」
星華の母親だろう女性はむしろニコニコしながら二人がけソファーを指しながらお茶を用意していた。こうして見ていると星華の性格は父親似なんだろうか?失礼だが母親とは顔付きは似ているが性格はあまり似ていないように見える。逆に父親とは静かなところは似ていた。僕は勧められた所へ座ると横に星華が座って来た。やがて女性がお茶を置くと男性の隣へ座る。
「えっと、その……」
男性は何を言えば分からないのか何かを言おうとして視線をあちこちに動かしていた。それに星華は小さく息を吐く。
「……秋渡、気にしないで早速本題を言って?」
「……凄い混乱してるように見えるけどいいのか?」
「問題ないですよ、秋渡くん」
星華に急かされるが男性の様子に果たして本題をぶつけて平気なのかが心配になる。余計に混乱して倒れないか?女性も笑顔で言ってくれてるけど内容が内容だからな……。けど渋ってても仕方ないか。
「じゃあお言葉に甘えて。突然訪ねて来て申し訳ないんだが……」
「は、はい!?」
「星華を僕の嫁の一人に迎えたいからその許可を貰えないか?」
「は、はい?」
「あらあら♪」
「……え?」
男性、女性、星華の順に声が上がる。僕はそれを意に介さず続けた。
「無論嫌ならば断っても構わない。最低なことだと自負してるが僕は今七人の異性から好意を抱かれて誰に応えようかって悩んでな」
「それで全員を迎えようと?」
「法律的にそれは無理なのは承知してた。が、ある経由から総理大臣と話して今度の暁との戦いに勝てば特例扱いで許可を貰える約束になってる。だから決戦までの日に事前確認で今日ここに来た」
僕が説明を終えると女性が両手で口を抑えて驚きを隠さずにいる。男性も視線を僕に向けて固まっていた。まぁ総理大臣と話しただけで普通驚くからな。だがすぐに女性は柔らかい笑みを浮かべた。
「あらあら。五神将の方は女性からの好意を毛嫌いしてるかと思ってたのだけど……」
チラリと娘を見て笑みを深める。
「貴方は違うのですね」
「違うからこそ今度の決戦があるからな」
「……秋渡、ファイト」
「今は応援よりもこっちをだな……」
話が逸れそうだから強引に戻す。さて、後は返事だけだな。
「それで、返事を貰いたい。先に言っとくが断っても報復とかはしないから自分の気持ちを素直に答えてくれ」
「…………」
僕の前置きに男性は無言で女性を見る。女性はそれだけで分かったのか笑顔で答えた。
「私はいいですよ?星華からも少し彼のことを聞いてますし」
女性の言葉に男性は顔を顰めるがそれでも異論はないのか、はたまた別の理由なのか唸る。女性は星華を見てウインクすると星華は珍しく誰にでも分かるくらいに頬を紅く染めて笑った。……やっぱり星華は普段あまり見ないからか笑顔を見ると一際可愛く見えるんだよな。と、そんなことを考えていたら男性が顔を上げて僕に一言。
「少し三人にして貰えないかい?」
「構わない。どれくらいかかる?」
「すぐに終わるよ」
すぐに終わるならば外でも問題ないな。そう思って立ち上がろうとした時だった。
「お姉ちゃん、お客さん来たの?」
「……芹夏」
突然リビングへのドアが開いてそこから星華の母親似の女の子が入ってきた。その女の子は中学生くらいなのかまだまだ子供っぽいところが残っている。まるで星華の母親が幼くなって現れたような子でやはり姉妹なのか星華にも似ている。そしてその女の子が僕へ視線を当ててくる。
「へぇ、なんだか変わった人ね。この人がお姉ちゃんを助けた人なの?」
「……そうだよ」
「男に助けられるなんてお姉ちゃんも可哀想にね」
「…………」
なかなか刺々しい態度と言動だ。いや、深桜高校が変わってるからある意味これが普通か。僕は肩を竦めて今度こそ立ち上がると部屋から退散しようとする。
「……どちらへ?」
「外で待つ。終わったら呼んでくれ」
「は?この暑さの中外にいるの?馬鹿じゃないの?」
「せ、芹夏!」
父親さんが尋ねてそれに答えると芹夏と呼ばれた子が毒を吐いてくる。思ったよりも毒舌だな、この子。まぁそんな子の言葉なんて無視して僕はさっさと部屋から出て外へ出たのだった。外は夏本番を知らせるかのように暑く、とても長時間はいられそうにない。塀に背を預けて目を瞑って待ってることにし、考え事をし始める。
「(あの様子だと許可は厳しそうだな。星華には悪いがそうなったら引いてもらうしかない)」
親が認められないならば僕にはどうしようもない。折角ならば迎えてやりたかったのだが、もしダメならば仕方あるまい。また時間を置いてから訪ねてみるとしよう。とりあえず今は結果だけでも知れたら構わない。ふと背後から気配を感じた。
「ねぇ、あなた本当に五神将?」
「暑いから外に出ない方がいいと思うが?」
「!よく分かったね。こっそり出たつもりだったけど……」
後ろから声を掛ければ驚くと思ってたのだろう、芹夏は後ろも見ないで声を掛けられて驚いた。塀から背を離し、芹夏へと向き直る。星華と同じ緑の髪、しかし星華よりも元気さが基調されている顔付き。イジメなど無縁そうでクラスの男子を誑かそうとしてそうな悪い目。見覚えがある。中学の時の女子達がよくしていた目だ。誰か男子をイジメてはそれを偶然のように見せかけて一緒にやる悪事。……あれは見てても面白いものではなかった。
「それで、何か用か?」
僕は芹夏の目を見ながら尋ねる。もし危害を加えそうになったら星華には悪いがそれなりに抵抗……というか反撃はさせてもらう。とはいえ単純な好奇心だろうけどな。
「別に?暑いから外で待つ必要はないって思っただけよ?それよりもあたしの質問に答えなさいよ」
「そうか。他に待つ所は知らねぇから外に出たに過ぎん。質問の答えは想像に任せるとしよう」
「……変わった人ね。でもお姉ちゃんから聞いてる感じだと確かにどこか違うわ、あなた」
星華が何を話したのかは知らんが気にすることもないだろう。僕は再び塀に寄り掛かって黙り込む。すると芹夏が突如僕の手を握ってきた。そして引っ張ると再び中へと入れられる。抵抗も考えたが殺意も悪意も感じられなかったからされるがままにしておく。客観的に見れば僕がこれからパシられるように見えるだろうがな。
「で、どこへ連れてく気なんだ?」
中に入って靴を脱いだら手を離されるかと思えばその兆しはない。なので若干面倒そうに思いながらも尋ねてみた。まぁなんとなく予想は出来てるがな。
「あたしの部屋。まだ涼しいからそこで待ってよ?」
「年頃の女が男を簡単に部屋に入れていいのか?」
「……普通ならアウトね」
予想通りだった。けど僕の言葉に芹夏はほんの少しだけ間を置いてから否定した。だったらやめればいいのにと思わずにはいられなかった。しかし芹夏は振り返って面白そうに笑うと言葉を繋げる。
「でもあなたは将来義理の兄になるかもしれないんでしょ?ならいいじゃない」
「……知ってたのか?」
星華達の誰にも話してなかったのにその話を知ってるのは妙だった。だがあのタイミングで入って来たことからすれば聞き耳を立てていたのかもしれないな。だとすれば納得もいく。どの道いずれ話すことにはなっただろうから遅かれ早かれだから気にすることもないだろう。
「まぁね。とにかく入りなよ。ずっとあなたを外で待たせるとお父さんが失神しそうだし」
「確かにあの様子だとな……」
僕と対面しただけで動揺してたことから無理はない。ま、そんなわけで僕は芹夏の部屋へお邪魔した。中は綺麗に片付けられており、ベッドにぬいぐるみがあったり他にも女子が好きそうな可愛らしい置き物もある。言っちゃなんだがとても女の子らしいものだった。ただあまりキョロキョロと見るのは失礼だからそんな見ないようにはしたが……。
「それにしても五神将の戦いとか怖いわね。あ、そこに座って」
「ん。そりゃな」
規格外同士のぶつかり合いなのだからそれは無理はない。唐突にそんなこと言われるとは思わなかったが。だが同意しといてなんだけど戦う僕が頷けることではないな。言われたところに腰を下ろすと芹夏は自分の机の椅子に座る。
「友達も結構引越しっていうか親の実家にしばらく泊まるとか言ってたし」
「どれくらい被害が出るか分からんし無理はないさ。むしろ残ってる人がそれなりにでもいることの方が驚きだ」
「ま、それは街から離れてる人がほとんどよ。街の人には避難勧告出てたし」
恐らくは災害レベルの戦いになると踏んだのだろう。もしかしたらあっさり終わる可能性もあるが、万が一のために巻き込まれないようにさせるのは大切だな。芹夏は肩を竦めてから体重を背もたれに預ける。
「なんか、五神将って全員が全員同じじゃないんだね」
芹夏が唐突にそんなことを呟くと僕は目を閉じて答える。
「個性あっての人間だからな」
「個性が強すぎる気もするけど?」
「違いない」
芹夏の返事に思わず笑みを浮かべる。そして互いの学校について話していたら部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「星華だな?終わったのか?」
「……うん」
「わかった、今行く」
「あたしも行く!」
呼びに来た星華に答えてから立ち上がると椅子から離れた芹夏も立ち上がる。そしてドアを開けるといつも通り無表情な星華の顔が目に入る。そんな星華の先導で僕と芹夏は居間へ移った。先程と同じ場所に腰掛けると星華が左隣に座り、芹夏は右隣に座った。そして正面は相変わらず視線を彷徨わせた父親さんとニコニコ笑っている母親さん。
「それで、返事は?」
僕は父親さんに真っ直ぐ問い掛けると父親さんは手で頭を抱えながらもすぐに離すと真っ直ぐ見返してくる。
「娘を……お願いします」
「……いいのか?」
正直断られると思ってたので拍子抜けする。だが父親さんは頷くと隣の星華へ視線を送る。
「娘から君のことは聞いていた。普通ならば助けもしないはずのイジメに自分から助けを買って出て挙句には居場所もくれた人だってことも。五神将だから無理矢理言い聞かせるのかと思ったのにそれも先程の態度にも言動にもなかった。だから信じる。それだけだよ」
「……そうか。ありがとう」
「こちらこそ。そしてこれからもよろしく」
「ああ。星華は幸せにしてみせる」
僕と父親さんが握手を交わすとそれを微笑ましそうに見る風間家の女性達。そして手を離すと横で星華が嬉しそうに笑う。
「……秋渡。……良かった」
「僕も同じだよ」
星華に笑い返すと星華はこくりと頷く。そして横から芹夏が腕を絡めてくる。
「良かったじゃん!じゃあこれからは義理の兄ってなるんだよね?」
目を爛々と輝かせる姿は本当に眩しいなこの子。だが嘘でもないから頷いておく。芹夏は腕を離すとすぐに立ち上がって「友達に知らせてこよ!」と言って居間から出て行く。それを困ったように見つめる母親さん。父親さんは山を超えたように一息つく。
「あらあら、困ったわね、あの子は」
「……ふぅ。緊張した」
そんな二人を僕は薄く笑うと立ち上がり、すぐに玄関へと。音が聞こえたのか芹夏もすぐに戻ってきた。
「じゃあ次に行く。許可してくれてありがとな」
「はい。残りも許可を貰えることを願ってますね」
「道中気を付けて……」
「……またね、秋渡」
「またお話しようね!絶対だよ!」
「ああ。邪魔したな」
玄関まで移動して見送りに来た風間家に答えるとすぐに家を出た。普通の家庭ってのはどれだけ温かいのだろうか。見た感じ星華の家は家族間の仲はとても良く見えた。……と、今はそのことを考えてる場合じゃないな。さて、次は冬美だ。行くとするか。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
星「……星華です」
芹「星華お姉ちゃんの妹、芹夏だよ!」
ア「まずは投稿がかなり遅くなってしまいすみませんでした」
秋「大方芹夏の名前で悩んでたんだろ?」
ア「それもありますがリアルでも色々とありまして……。書く時間があまりなかったんですよ」
星「……まぁ仕方ない……かな?」
芹「あたしのことで悩んでたんだ」
ア「名前を星華さんと近くすることと漢字をどうするかを悩んでまして……」
秋「結果こうなったと」
ア「はい」
秋「折角待ってくれてた人もいるのかもしれなかったんだからもっと早くやれよ」
ア「か、返す言葉もないです……」
芹「そう言えば感想貰ったんだよね?どうだったの?」
ア「それはここでは内緒です。でも感想は頂けて嬉しいのは事実ですよ!」
星「……あともう少しかもしれないんだからファイト」
ア「ありがとうございます。星華さんもおめでとうございます!」
星「……ん、これも秋渡のおかげ」
芹「あ、ならあたしもお兄ちゃんって呼べるようにしておかないと」
秋「まぁそれはすぐじゃなくて構わないから別にいいぞ?それよりもそろそろ終わろう」
ア「そうですね。それでは……」
ア・秋・星・芹「また次話で!」
ーおまけー
舞「はっ!?」
明「どうしたの?」
舞「今なんだか新たな妹属性の誕生を感知しました!」
明「……ああ」
舞「お兄様の妹は私だけなのに!」
明「(どこかの家の交渉が上手くいったってことかしら?)」