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第百話 長谷川家の答え

愛奈達の次は幸紀の所へ向かうことにした。雨音財閥の家族に見送られるというなんか凄いことを経験しながら僕へその足を長谷川家へ急がせていた。ただ走るだけだと間に合わないので再び塀の上へ跳んでそこから屋根へと跳ぶ。それから屋根を伝って跳躍しながら急ぐとその途中、ふと凛桜女学園が目に入る。……あの時計破壊戦がなければ婚約者どうこうの話が出るまで幸紀とは縁がなかったんだよな。そんなことを思ってからそう言えばと思う。


「弓月達は元気なんだろうか?」


弓月から連絡はたまに来ててもスルーが多かったりしたが(メールとかの量が多すぎて)、最近は全くそれがない。そういや凛桜はお嬢様校なんだから忙しくても無理はないんだよな。ましてやそこの生徒会長ともなると。まぁだが残念ながら僕が考えてる七人に弓月は含まれていない。別に容姿とかしっかりしてるところとか悪くはないんだけどやっぱり僕の中ではせめて友人、というレベルに収まってしまっている分、厳しいんだよな。


「……と、今はそっちじゃないな。急ごう」


知らぬ間に足を止めていたようで僕は幸紀の下へ行くために足を動かした。……俊明さん、納得してくれるといいんだけどな。


ーー

長谷川家に辿り着いた時、門に立っていたメイドさんが僕に気付くとすぐに中へ通してくれた。どうやら以前見たことを覚えていたらしい。覚えていた理由はやはり幸紀の婚約者ということが大きいのだろう。他にもあるのかもしれないがそれは置いておくとする。


「旦那様、秋渡様がお見えになりました」


「ああ、入ってくれ」


「失礼致します」


メイドさんは慣れた手付きでドアを開けるとそこには俊明さん、早奈英さん、そして幸紀の三人が大きめなテーブルを囲って椅子に座って待機していた。僕が中へ入ると三人は立ち上がって軽く頭を下げる。


「ようこそ、秋渡君」


「ご無沙汰しております、秋渡さん」


俊明さんと早奈英さんが頭を上げて微笑むと僕は頷いて答える。そして幸紀へ視線を送ると……。


「こんにちは、秋渡さん。会いたかったです」


「僕もだ、幸紀」


微笑んでそんな嬉しいことを言ってくれる。僕も微笑で答えるとすぐに話すために座ることを催促させると三人は座り、メイドさんは椅子を引いて僕を座らせた。メイドさんに礼を言うとメイドさんはペコリと一礼するとその場から立ち去った。それを見送ってから三人へ向き直ると早速切り出す。


「俊明さん、早奈英さん。貴方達には悪いと思ってるが頼みがある」


「……なんだい?まさか幸紀との婚約破棄とか……?」


僕の真面目な顔付きから勘違いしたのだろう、俊明さんはサッと顔を青冷め、幸紀は強ばって少し悲しそうな顔をする。僕はそれに首を横に振ると躊躇いをなくして思いを伝える。


「幸紀との婚約、結婚は考えてるからそこは安心してくれ。けど頼みってのは簡単な話だ」


僕が破棄しないことを安堵したのか三人は息を付いたがすぐに気を引き締めた。そんな三人を一人ずつ見てから告げる。


「勝手なことで悪いが僕は重婚をしようと考えてる。僕を想ってくれてる七人を全員妻として迎えるために。その中に幸紀を迎える許可を貰いたい」


「重婚?」


「僕の優柔不断が招いたってべきかな。一人を選んで他を悲しませる真似が僕には出来ない。だから今度の暁との戦いの勝利に重婚出来る許可を貰った。あとは家族からの承認を得たかったんだ」


「なるほど。優しい君らしい理由だな」


俊明さんは厳しい顔から優しい父親の顔付きに変わる。早奈英さんもどこか安堵している顔だ。問題は幸紀なんだが……。


「秋渡さん、やっぱりお優しい方ですね。私一人を愛してくれることはないのは辛いですが秋渡さんがお選びになる方とならば仲良くやれそうです」


「夏祭りの時の何人かだから問題は無いだろう。それで俊明さん、返事は?」


幸紀は思ってたよりも心配は必要なさそうだ。まぁ重婚しても一人一人と過ごす時間は作るつもりだからちゃんと愛することはする。確かに一人だけを選べなかったことは相手には辛いことなのだろう。それでも切り捨てることは僕には出来ない。さて、問題の返事は……?


「え?既に婚約者なのに返事とは何かな?」


「……え?」


俊明さんはキョトンとした顔で僕にそんな返事をする。早奈英さんも同様だ。幸紀は僕と一緒なのか驚いて自身の両親を見てるが俊明さんは首を傾げるだけだった。伝わってなかったのか?


「いや、だから重婚に幸紀を迎えて……」


「ん?婚約者を例え重婚に迎えるのに私達の許可はいらないだろう?」


「えぇ……」


「そもそも君は私達にこう言えばいいんだよ。『娘を僕に寄越せ』って。その権利があるだろう?」


「そんな暴君みたいなことはしたくない。だから許可をちゃんと貰おうとしてるんだよ」


「……そうか。真面目だな、君は」


そんな傲慢すぎる金持ちの男が言いそうなことは僕は言うつもりはない。そもそも仮に権利があってもそこはしっかり許可を貰うべきところだ。それは僕の譲れないところだ。俊明さんは笑うとうんうん頷いてから今度こそしっかりと答えてくれた。


「許可するよ。幸紀をよろしく」


「……ありがとう」


「ふふ、こちらこそ」


俊明さんから正式に許可を貰えた。幸紀は元々反対する気はなかったのか嬉しそうに笑っていて、それを見ている早奈英さんは微笑ましそうに笑っていた。やっぱりこの家族はとても温かい家庭なんだなと思った。僕は昔から家だけで言えば基本的に一人だったからそういうのは正直羨ましく感じる。


「……じゃあ、僕は行くよ」


「もう行くのかい?見た所あまり休んでないだろう?少しくらい休んだらどうだい?」


「そうしたいところだがな。まだ何人かの家庭が残ってるんだ。それが終わったらゆっくり休むつもりさ」


眩しい家庭にずっといるのはちょっと気が引けたのが本音だ。僕は立ち上がって出口へ向かうと丁度そこからポットやカップなどを運んで来たメイドさんに遭遇した。準備をしてこれから淹れようとしていたところなのだろう。メイドさんはどうするか迷ってあたふたしてしまう。そこに俊明さんは声を掛けた。


「少しお茶をするくらいはいいのではないかい?焦っても仕方ないよ」


「……はぁ。準備もされてちゃ断るに断れねぇか」


仕方なく僕は元の位置へ戻って椅子に腰掛けると、その横に幸紀が移動してきた。それからメイドさんがテキパキと紅茶を淹れてそれぞれの前に温かい紅茶を置き、一礼してから立ち去った。……流石に慣れているというべきか、完璧な上に仕事も早いな。僕はカップを手に取って一口飲むと、すぐに戻す。……いい茶葉でも使ってるのだろう、美味しかった。


「美味い」


「お口に合って恐縮です」


感想を漏らすとメイドさんが笑顔で答えてくれる。僕からしたら何に恐縮したのかが分からないが、そういや以前もここの執事兼シェフも僕が食べる姿を見て引き締まった表情をしていたな。五神将だからなのか?味覚とかは完全に庶民なんだが……。と、ふとここで思い出したことがあった。


「そういやあの道場の後片付け、請け負ってくれてありがとな」


「秋渡君を休ませるためさ。気にしないでくれ」


僕が礼を言うとすかさず俊明さんは返した。それに早奈英さんも幸紀も頷いていた。僕はなんやかんや色んな人に借りを作ってるんだなと思うとなんだか笑えてくる。それでもここまでされて負けました、なんてのは格好悪い上に情けない。他の人が気にしなくとも僕は気にする。それだけの規模の戦いだからこそ、だ。いや、ひょっとしたらほんの小さな争いでも僕は気にするかもしれないだろう。


ーー負けたことがほとんどない分、余計に。


ーー


「……そっか。弓月も受験生だもんな」


「はい。会長の手腕にはいつまでも頼っているわけにはいかないですからね」


少しお茶を飲んだ後、幸紀に少し談笑したいと言われて幸紀の部屋へ移っていた。移動する時に俊明さんと早奈英さんがニヤニヤしてたのは言うまでもない。幸紀も気付いてたからか顔を赤くしていたが何も言わず無言で僕の手を引いて少し強引に部屋へやって来た。そこで話題になったのが今の凛桜についてだ。


「次期生徒会長とかは決まってるのか?」


「私の可能性が高いです。佐々木さんと斎藤さんも三年生ですから」


「……そうか」


「うぅ……正直不安です……」


幸紀は自分の可能性がほぼ確定していることを悟っているのか、不安そうな顔を隠しもせずにベッドに腰掛けている。だが急に僕に寄り掛かると少し安心したような顔をする。


「……秋渡さんが応援してくださるならやれる気がします」


「買い被りすぎやしないか?」


「そんなことないです。不思議と勇気を貰える気がするんです」


「……ないと思うんだがな。まぁいいか」


僕は頭を掻いてから寄り掛かる幸紀に顔を合わせながら一言。


「幸紀、お前なら大丈夫。だからやってみろ」


「ふふ、そこは頑張れじゃないんですね」


「変に気負わせるよりはいいだろう?」


「はい。秋渡さんのそういったさり気ない優しさ、大好きです」


目を閉じ顔を赤らめる幸紀は本当に嬉しそうに、幸せそうに寄り掛かっていた。そんな幸紀に僕もフッと笑ってその頭を優しく撫でてやる。幸紀はそれも嬉しいのか、それとも恥ずかしいのか分からないが顔を赤らめるが文句を言うことはなかった。それにしても生徒会長か。冬美に薦められたけど断ったんだよな。生徒会長なんてガラじゃないし学校の生徒のトップに立ちたいとも思わない。僕がやるのは僕の周り、親しい友や愛する者を守ることだからな。幸紀の頭を撫でることをやめると幸紀をそっと抱き締める。それにビクッとしたが恐らくいきなり抱き着かれて驚いただけだろう。……こういう温もりとかは誰かに好かれることがなければ一生分からなかったかもしれないな。


「秋渡さん?」


「……」


「あ、あの、嬉しいですが……少し恥ずかしいです……」


「キスとかもしたのにか?」


「う……そ、それはそうですが……」


「嫌ならやめる。嫌じゃないなら少しだけこのままにさせてくれ」


「……はい。構いませんよ。嫌じゃありませんから……」


幸紀は僕の腕にそっと片手を当てて微笑んだ。……まぁ確信は持ってなかったけど幸紀が嫌がらないことを予想はしていたからこそいきなりやったことなんだけどな。そもそも幸紀とはキスどころかそれ以上のこともしたことがあるから今更恥ずかしがることもあまりないんだよな。全くないかと言われれば嘘になるが。


ーー

それからどれくらい経っただろうか。時間にしては短かったかもしれないがかなり長く抱き締めていた気がする。僕は徐ろに手を離すと幸紀が見上げてきて「もうよろしいのですか?」と目で訴えてくる。それに頷くと少し名残惜しそうにしながらも微笑んでくれた。そして立ち上がると僕は幸紀に「そろそろ帰るよ」と伝え、幸紀も止めないで頷く。二人で部屋を出てから俊明さんと早奈英さんに一言言ってから長谷川家を出る。


「またいつでも来てくれ」


「待ってるわ」


「秋渡さん、お気を付けて」


「ありがとう。邪魔したな」


幸紀、俊明さん、早奈英さんに見送られ、メイドさんと執事さんが一礼してくるので軽く会釈を返して僕は長谷川家を後にした。今日はもう戻った方がいいだろう。明日は星華、冬美、美沙の三家庭と話があるし、もう夕方だからな。


「……緊張、したなぁ」


ふと今日を振り返るとお嬢様の家庭二つをよくもまぁ交渉しに行けたものだ。良好的だったから良かったけどそうじゃなかったらと思うとゾッとする。だから緊張から解かれて安心したのか幸紀を抱き締めていたのかもしれない。普通なら親に殺されかねない事態だけどきっと俊明さんと早奈英さんなら笑って許してくれるのだろう。そんな気がした。さて、帰ろう。あまり待たせると舞が拗ねそうだしな。そう思って歩く足を早め、帰るべき家へと向かったのだった。


ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

幸「幸紀です」

ア「今回は長谷川家の説得でしたね」

秋「苦労すると思ってたんだがな」

幸「お父さんは秋渡さんらしいって納得してましたよ」

秋「そんなにか?」

ア「なんやかんや優しいですからね」

幸「はい。そこも好きですよ♪」

秋「……ありがと」

幸「しゅ、秋渡さんが照れてます……。かわいい……」

秋「……幸紀」

幸「はい?」

秋「前にも言ったはずだがあまりからかうと……」

幸「からかってはいませんよ?私は本当に思ったことをおっしゃたのです」

ア「それが秋渡くんにはアウトなのでは?」

秋「はぁ……。まぁいい、それは後でお仕置きするとしよう」

幸「え!?そ、それは一体何をする気なのですか……?」

秋「なんで喜んでる?」

幸「そ、それは……い、言わせないでください!恥ずかしいです!」

秋「(……何をされると思ったんだろう)」

ア「(黙ってた方がいいかと……)」

秋「(そうだな)」

幸「あ、ですがせめてシャワーを浴びてからで……」

秋「よし、今回もいいな!終わろうか!」

ア「そうですね!」

幸「あ……はい?…………ぷぅ」

ア「それでは……」

ア・秋・幸「また次話で!」


おまけー


幸「それで秋渡さん、私にな、何をするつもりなのですか……?」

秋「え、それ引っ張るのか?」

幸「秋渡さんになら何をされても……構いませんから……」

秋「……幸紀」

幸「秋渡さん……」

秋「ここ、人前だからな?」

幸「既に人前で色々したじゃないですか」

秋「……しょうがないな。じゃあ来い」

幸「はい!」


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