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第九十九話 雨音家の答え

秋渡side


ーー

僕はシャワーから上がって髪をタオルで拭きながらスマホを見る。すると驚いたことに既に全員から返信が来ていた。愛奈は街のことを見ると久英さんと話してた気がするし美沙はライブのリハーサルって言ってた気がするんだが……。ともかく星華と冬美、美沙以外は今日でも平気か。ならさっさと終わらせるか。

というわけで出掛ける支度……って言っても着替えたり財布とかスマホ、そして刀を持ったりしただけで準備は終わる。そしてリビングに顔を出して出掛ける旨を伝えると明菜が小さく「頑張ってね」と声を掛けてくれた。恋華と舞は首を傾げていたが。


「……暑いな」


月が変わっても暑さは未だに残っており、少し汗が流れる。さて、行く順番だがまずは愛奈からにしよう。スマホで連絡を入れておくとすぐに返信が来て了解の返事をもらう。今久英さんは深桜の街にいるらしいのでそこへさっさも向かうことにしよう。僕はそう思って足に力を入れ、高くジャンプすると屋根へ飛び乗り、屋根から屋根へ飛び移って移動をする。普通ならこんなこと出来る奴なんていないだろうけど決戦のことがあってか人は見当たらない。人目を気にする必要ないことは正直ありがたいが、ここまで影響あると思うとなんだか寂しくもなる。この道は通学路で結構賑わいのあるところだからだろうな。


「(……ほんのひと月前なのになんだか遠い日のように感じるな)」


戻って来る人もいるかもしれないが、それがいつになるかは分からない。下手をすれば僕を怖がって戻って来ない人もいるだろう。僕は屋根から降りて道に着地するとそのままゆっくり歩き始めた。すると……。


「あら、世刻君じゃない!」


「ん?」


呼ばれて振り返るとそこには玄関の掃除をしているおばちゃんがいた。いつも笑顔でいて僕と恋華が登下校してる時にもよく見る人だ。だから昔から接点があってよく恋華と親しく話している人だったな。


「これからお出掛け?」


「ああ、ちょっと……な。あんたはここから去らないのか?」


あまりにいつも通りなので思わず聞いてしまう。それでもおばちゃんはニコニコしてるだけで、何も怒ろうともしない。


「私の家はここだからね。それに恋華ちゃんを助けてる子がそうそう負けるとは思わないよ。だからここで過ごしてるんだよ」


「……そか」


「うん。あ、引き留めて悪かったわね。頑張りなさいよ」


「ああ、サンキュ」


おばちゃんは僕から礼を聞くと頷いてから中へ戻った。どうやら丁度終わったみたいだな。さて、僕も行くか。止めていた足を動かしてすぐにふと思う。


「ああいう人もいるんだな。本当に変わってる人が多いな、この街は」


そう呟いたがそれが支えになってることにもこの街の活気の理由だからいいことなのだろう。思わずフッと笑ってしまい、すぐに足を早めると急ぎ足で愛奈達のところへ向かうのだった。


ーー

深桜街に着くとそこは慌ただしく働く従業員が多くいた。デパートの中のものだろう食料品やらその他様々なものが運ばれている。そんな人達を遠目で見ながら愛奈達を探す。だが……。


「見付からんな。やっぱ忙しかったか?」


近くを見回してもあの銀髪を靡かせているお嬢様の姿が見当たらない。働いてる人に聞いてもいいが邪魔をしそうなので仕方なく歩き回って探すことにする。街のどこかにいるのは間違いないだろうからひょっとしたら休憩がてら昼を取ってるのかもしれないな。


「参ったな、どうするかな……」


これならば幸紀の所を最初にした方が良かったか?だがそんな考えはすぐに解決することになる。


「秋渡さん〜♪」


「うわっ!?」


突如背後から誰かが飛び付いてきた。いや、誰かは分かってるんだけどさ。ただ気配を察知出来るのに一切気配を感じなかったのは何でだろう?それはともかく後ろから抱き着いてきたお嬢様を引き剥がして話をするとしよう。


「よう、愛奈」


「あぁん、秋渡さん引き剥がすの早すぎです!」


「そりゃな」


あれだけ抱き着かれてたら剥がし方くらい嫌でも覚えるだろう。愛奈は怒ったように喋ってるが表情は笑顔だった。こうして普通にしていると可愛いのに行動が入ると途端に残念になるよな……。と、愛奈と挨拶を交わしていたら久英さんと多分奥さんだろう女の人がやって来た。……奥さんだよね?


「やぁ、世刻君」


「どうも、久英さん。それと……」


僕は愛奈が少し成長した後の姿にしか見えない女の人に視線を向ける。その人はニコニコとしてからほんわかと言葉を発する。


「初めまして、世刻秋渡君、久英さんの妻で愛奈の母の久美菜です♪」


「……愛奈の姉にしか見えねぇ」


「あらありがとう♪」


笑顔の眩しさ、愛奈と同じ輝く銀髪、その態度といいどれを見ても少なくとも言われなければ絶対に母とは分からないだろう。それほどにまで似ていた。チラリと見れば久英さんも笑っていた。どうやら僕以外も同じ手によく引っ掛かってたらしい。強面の顔をしてるのにこんな笑顔を浮かべられるなんて不思議な人だなってのは失礼かな。まぁ騙されたのは事実だから黙っていよう。


「それにしても……」


久美菜さんがジーッと効果音が付きそうなほどの視線で僕を見てくる。ただ見られる理由が分からないのでそのまま見つめ返しておく。それでも未だに見つめてくる。久英さん、怒るんじゃないか?


「……何か?」


埒が明かないので尋ねると、突如先程までの笑顔になって……。


「カッコイイわねぇ!愛奈の夫にはピッタリだわ!」


「……それはいいんで離してくれない?」


「そうですよ、お母様!」


お、愛奈が珍しくまともなことを?


「秋渡さんがカッコイイのは元からなんですから!」


「そこ!?」


うん、まぁ少し予想はしてたけどな。愛奈がまともなことを言うわけないよな。久英さんも笑いこらえてないで止めて欲しい。あんたの嫁と娘だろ。


「……とりあえずそろそろ話したいんだが」


「む、そうだったね。じゃあこっちに来てくれ、世刻君」


「ああ」


もうこれだけで疲れそうな僕は久英さんに声を掛けると久英さんも承諾して移動を開始した。愛奈がずっと腕から離れようとしなかったけど久英さんと久美菜さんは何も言わなかった。……なんか言えよと思ったが口には出さなかった。


ーー

移動した先は深桜ホテルの最上階……要するに高級部屋だった。椅子とかベッドとかも全て高級そうで部屋もホテルの部屋とは思えないほど広い。こんな部屋あったのかと思いつつテーブルの周りの椅子に腰掛けると早速話し始める。


「それで、話とは?」


「ああ。先に言っておくけど嫌なら嫌と言ってくれ」


「?分かった」


先に伝えておけばそれだけでも違うだろう。久英さんと久美菜さんは首を傾げるだけで追求はしてこない。というわけで緊張してる中、僕は早速切り出す。


「暁との戦いの後、勝ったら考えてることがあるんだ」


「ほう。君が考えてることか。一体なんだい?」


「……法を一つだけ僕のみ変えてもらうことだ」


「はい!?」


「ふむ?」


「え?」


僕の言葉に三人は驚きを隠せない……というより何を言ってるか分からないという顔をした。僕はそれをスルーして続ける。


「変えてもらうのは一夫多妻制を僕のみ有効にしてもらうことだ」


「ふむ、なるほど」


僕が伝えたことに久英さんは即座に納得したようだ。問題はここからなのだが……。


「それで、変えることは問題ないだろうがその前に聞かせてもらうよ」


「なんだ?」


僕は珍しく唾を呑みながら久英さんの言葉を待つ。愛奈と久美菜さんも黙って耳を傾けている。正直なんとなく不可能かと思い始めていたのだが久英さんの言葉に驚くことになるのは僕だった。


「当然、君の多妻の中に愛奈は含まれてるのかね?」


「……へ?」


思わず間の抜けた返事をしてしまう。しかし久英さんは真面目な顔をして聞いてきてるからには僕も真面目に答えるべきだ。いや、元々はそのための話なんだから。


「ああ。僕が考えてるのは七人だがその中に愛奈も含んでいる。だから……」


「ならよかった。許可するよ。いや、寧ろこっちからお願いしたいな」


「……いいのか?そんなあっさりと」


僕はすんなり許可をした久英さんに思わずそう返してしまう。しかし久英さんは真面目ながらとても笑顔を浮かべていた。


「君だからだよ。確かに私と君はこうして面と向かって話した回数は少ないがいつも愛奈から君の話は聞いてるよ。それに、前も言ったはずだよ。むしろ私が君にお願いしたいとね」


「っ!じゃあ」


「ああ、よろしく頼む。愛奈を幸せに出来る男は間違いなく君さ」


「ありがとう」


「こちらこそ、ありがとね。こんなに嬉しい話を持って来てくれて」


「ふふ、良かったわね、愛奈」


「はい!秋渡さん、ありがとうございます!」


僕は三人に頭を下げると三人もまた下げてきた。これで一人、無事に終えられたことになる。僕は頭を上げると息を吐いて椅子の背もたれに寄り掛かる。それを見て久英さんと久美菜さんは笑っていた。


「そんなに緊張してたのかい?」


「そりゃそうだろ。普通に娘をくれってことじゃなくて嫁の一人に寄越せって言うもんだからな。正直不安しかなかったよ」


「あらあら、私の義理の息子は結構肝が座ってるのかと思ってたわ」


「ふふ、秋渡さんなら確かにその通りですね。普段から冷静な人ですから」


雨音家は家族三人で微笑ましく会話をして笑っていた。まさか久英さんからこんなにあっさりと許可を貰えるとは思わなかったな。こりゃ他も頑張らねーと。と、そこでふと思う。


「……ところで久英さん達の呼び方はどうすればいい?義父さんとかだと他の家族とも混じりそうだが……」


「今まで通りでいいよ。その方が君も気楽だろう?」


「助かるわ」


まぁまだ交渉すらしてないから分かんねーんだけどな。そもそも法を変えられるかどうかも不安だし。と、考えてると久英さんが何か思い付いたようにポンッと手を叩くとその場から離れ、外に出てしまった。僕達は首を傾げるが分からないものはどうしようもないので談笑してることにする。そして数分で久英さんが戻って来た。


「秋渡君、喜んでくれ!今総理大臣に交渉したら暁春樹に勝利したら重婚を許すと許可が降りたぞ!」


「本当か!?というか行動早いな……」


「そりゃあね」


「ありがとう、久英さん」


「ふふ、いいってことさ。……ああ、それと後日総理大臣が君と少し話したいそうだよ」


「……え?」


許可が降りた喜びよりもその後の言葉に僕だけでなく愛奈、久美菜さんも固まった。え、待って、総理大臣と話とか凄く怖いんだけど。普通なら絶対ないことが起きようとしてるんだけど。やべぇ、なんか別の緊張が生まれてきた。そんな僕に気付いたのか久英さんは「ああ、話したいことはそんな堅苦しいことじゃないから気を抜いて欲しいってさ」と言ったが、ますます分からなくて困惑していた。


「ただ頼みたいことはあるとのことだよ。許可を貰うための条件と思った方がいいかもね」


「……それ、すぐに話出来ないか?流石にこの話を引き摺ったまま決戦に臨むのは戦いに支障をきたしかねん」


「そう言うと思ったよ。はい」


久英さんはまるで僕の心を読んでたかのようにして携帯を差し出してくる。僕はそれを受け取ってそのまま電話に出ると久英さん達はその場から退散していた。流石に聞いていい話じゃないと判断したんだろうな。


「もしもし?」


『もしもし。君が世刻秋渡君かな?』


「あ……はい」


危うくいつも通りの口調で話しそうになる。だが流石にそれは相手が相手のために出来ないので注意しなくては……。それはそうと電話越しの声は高齢とまではいかないがそれなりの年齢の女性の声だ。きっと僕の知らない国のためにやれることを本格的に考えてる立場の人なのだからこうして電話で会話するだけでも自慢話……というかまぁ話題にはできそうだな。とか考えてみる。


『うん、ありがとう。私は総理大臣の大平(おおだいら)陽香(ようか)です。改めてよろしく』


「こちらこそ、ご丁寧にどうも。知ってると思いますが世刻秋渡です」


『知ってるよ。今度の前代未聞の決戦の二人のうちの一人だね。さて、急かして申し訳ないけどこちらも時間がないし大方の話は雨音さんに聞いたからこちらからの話を率直に申させてもらうね』


「何でしょう?」


さて、どんな無理難題を吹っかけられるのやら。僕は少し冷や汗を掻きながら言葉を待つ。電話を持っていない手が震えてる気がする。


『この決戦で君が勝ったら君に仕事として他の五神将達を止める役目を果たして欲しい』


「あいつらを止める?」


『うん。彼らがまた力を使っても抑えられるように君に抑止する依頼をしたいんだ。当然毎月ちゃんと給料は支払うよ』


「……ちなみにどれくらいです?」


あいつらを養えるようにするにはそれなりに金は必要になるからな。僕は総理大臣の依頼をすぐには飲み込まずに尋ねた。大平さんはが話越しで少しクスクス笑ってる声がしたけど僕はそのまま待つ。


『月五十万円で考えてる。どうかな?』


「そんなにですか?」


予想よりも遥かに高い金額に思わず声を出してしまう。予想でも二十五万円辺りを考えてた分、その倍であって驚いてしまった。だが無理はないだろう。そんな金額なんてよほど上の立場に立った人じゃなければ月単位では手に入らないものだからな。


『うん。あ、それとも不服かい?けど上げるとしてももう五万円が限度になっちゃうかな』


「……それだけの給料の理由を聞いても?」


『命の危険も伴ってるし他の人には絶対に依頼出来ないことだからね。奮発させてもらったんだよ』


命に関わる仕事なら多々あるだろうが、それはあくまで事故などによるものがほとんどだ。しかし五神将絡みとなると死ぬことはもちろん大怪我だっていつでもありえることだから確かに妥当だろう。しかも他に頼めないとなれば。それでもまだ聞くべきことはある。


「普段は?」


『何もしなくていいよ。いざという時に動けないと困るからね』


「……分かりました、承諾させて貰います」


『感謝します。法の件は勝利した際に受理したことにしますので必ず勝利してください』


「言われなくともそのつもりです」


『健闘を祈ります。では』


「失礼します」


そこで会話は終わった。ついでに勝ったらもう就職も決まってしまった。まぁそれはいいことだから置いとくとして後は他の家庭に話……か。やるしかねぇ。と、そこで久英さん達が部屋へ入ってきた。


「終わったようだし決まったようだね」


「ああ、おかげさんで。感謝する」


「うん、お役に立てて光栄だよ」


「ではそろそろ失礼する」


「分かった。またいつでもおいで」


「待ってるわね、世刻秋渡くん」


「秋渡さん、いってらっしゃい♪」


三人に見送られながら僕は部屋を後にした。内心総理大臣との会話が無事終わって安心しながら。そして次からの話し合いに不安を抱きながら。



ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

愛「愛奈です!」

ア「いよいよ話し合いですね!」

秋「胃がキリキリするよ……」

愛「私は他の皆さんと一緒でも秋渡さんが愛してくださるなら構いませんけど……」

秋「本人は良くても親は良しとしないからな。世の中そう簡単にはいかないんだよ」

ア「そもそも法律的に現実は出来ませんからね」

秋「それもそうなんだよ。だから僕のやることはある意味無謀なことなんだよ」

愛「秋渡さんったら、それをどうにかしてしまうのが秋渡さんなんですよ?そしてそれもまた秋渡さんの魅力の一つなんですから」

秋「無謀なことをすることがか?」

愛「今までも無謀なことをして退けてるのが秋渡さんなんですから。今回は大きさが違いますがそれでもなんとかしてしまう。それもまた私達を結び付けた結果になるのですから」

ア「普通は挫折するか誰か一人を選ぶかしかないですからね。悩んでのは分かりますが」

秋「自分の優柔不断さがよく分かったがな。それと……」

ア「それと?」

秋「……一人を選んで他を斬り捨てることが僕には出来なかった」

愛「……やっぱり秋渡さん優しいですよ」

秋「そんなことないだろ。こうして僕は一人を相手に選ぶことなんて出来なかったんだから」

愛「だからって全員を等しく愛する、なんてこと、普通の方ならば思い付かないと思いますよ?」

ア「そうですよ!それに、もう宣言したのですからしっかりやり遂げないといけませんよ!」

秋「当然だ。やって挫けるほど弱くはない」

愛「はい、それでこそ私の大好きな秋渡さんです!」

ア「さて、秋渡くんの気合いも伝わったところで今回は終わりましょう。それでは……」

ア・秋・愛「また次話で!」




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