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第九十六話 明菜からの提案

翌朝。

嫌な兆しでもあったのか珍しく早く起きてしまい、二度寝したくとも眠れないという悪循環に陥る。結構寝るのは心が安らぐから好きなのだが、嫌な予感などがすると途端に眠れなくなったり寝てても目が覚めてしまう。それはそうと今日の嫌な予感というと恋華が来た時にトラブルが起こるかもしれないと考えるのがベストだろう。昨日の美沙のこともあるので気を付けよう。

……星華は星華で僕が誤って触ったことを楽しんでたのは理解出来なかったが、確かに昨日星華が言ってたように実は美沙の胸は僕の知り合いの異性の中でも大きい。だから素直な感想を言わせてもらえば柔らかかった。……うん、こんなこと考えると色々と危ないからやめよう。頭を振ってから僕は刀を手に取る。


「よし、さっさと始めよう」


雑念を振り払うことも含めて。


ーー


「はっ!」


ヒュンッ!といい音を立てながら刀を振るい、突き、宙返りしながら刀を振る。そして着地と同時に足下を狙うように右手の刀を一閃。その後、離脱の為に素早くうしろへと後ろへと下がる。そこで一息ついて立ち上がると刀を交差させて走り、振りかぶってからX字に斬る。そこで動きを一旦止めてから刀を床に置いて倒れ込む。


「はぁ……はぁ……。やはりずっと全力だと堪えるな……」


床の上に大の字になりながら冷たい床を少し堪能する。暁のスタミナは化物並にありそうだからこのままだとスタミナ切れを起こしそうだ。様子見がてらでヒットアンドアウェイで挑んだ方がいいか?いや、そもそも離脱を許さなさそうでそれも危ないやもしれんな。


「ふぅ……。……早く終わって月見もしてぇな」


普通ならば未成年は飲酒禁止だが、僕はノンアルの酒でよく月見をしていた。恋華は一緒の時もあればそうでない時もある。


「そういやそろそろ来るのか?」


恋華のことを考えててふと恋華が来るようなことを言っていたことを思い出す。来るとしたら朝早くからかと思ったのだが今はもう昼近くなので準備に手間取ってるとかそんなところか。ならまだ動いてても大丈夫だろう。すぐに刀を拾って立ち上がり、再び刀を振るう。


「はぁっ!せいっ!」


今度はX字ではなく右手の刀で薙ぎ払い、左手で突き攻撃を繰り出す。ビュンっといういい音を立てているが、それに満足することなく刀を振るう。一歩踏み出しての斬り込み、バックステップしながらの薙ぎ払い。様々な動きで色々なシチュエーションを思い浮かべる。自分ではいけそうと思ってもそれが奴からのカウンターにならないようにはどうするか、奴がどう動いたらカウンターを狙えるか。それを考えながら動く。


「うわっ!?」


すると突然ズルッと床に落ちた汗で足を滑らせる。勢いもあった動きをしていたためそのまま派手に転びそうになるのをなんとか手で側転して堪える。が、そのまま動きを止めてから額を伝う汗を拭う。


「……さすがに暑いな」


夏だから当然なのだが、ほぼ閉め切っていてクーラーなどもないところなので暑さは外よりも上かもしれない。今思うと汗臭さが半端なかったかもしれないと今更ながらに気付く。


「皆黙ってたけどさすがに臭うよな……」


誰かしら呟いても仕方ないのに誰からも言われていない。星華は普段からあまり多くは喋らないからおかしくはないが……。お嬢様の二人はどう思ったのだろうか?……いや、考えておくのはやめておこう。軽く頭を振って刀を構えた瞬間。


「秋渡〜?」


外から恋華の声が聞こえた。汗を多く掻いてまだ処理をしてないから凄く臭いそうで嫌だが、それでも招き入れるしかないだろう。まさか外で待たせるわけにもいかないし。と、いうわけで入口に向かってからドアを開ける。


「あ、秋渡……すっごい汗だね!?」


「お、お兄様が汗だく……。……これはこれでいいですね」


「中も暑そうね」


開けたらそこには恋華だけでなく舞と明菜もいた。恋華達の言葉にやっぱり傍から見ても凄い汗らしい。よく熱中症で倒れなかったものだ。


「汗の臭いが凄いが大丈夫か?」


「それはいいんだけど……」


「(お兄様の服が汗で透けてます……。申した方がよろしいのでしょうか?)」


「(男性だから問題はないと思うわよ。……それにしても服の上からだと痩せてるから分からなかったけど意外と筋肉あるのね)」


舞と明菜が何かコソコソ話してたが気にせずに中へ。恋華は入るなりまずは換気ということで窓を全て開ける。そして僕が寝てた部屋へ行くと着替えをいくつか持ってきた鞄の中へ入れると代わりの着替えを渡してくる。準備がいいなと思いつつもこういったことができるから恋華のことを守ってやりたくなるのかもしれない。


「洗濯する服はこれで全部?」


「ああ。なんか悪いな」


「ううん、このくらいいいんだよ。これで秋渡が鍛練に取り組めるならむしろ役に立てて嬉しい……かな」


「そうか。ありがとな、いつも」


「うん!」


恋華と笑い合うとそれを眺めている舞は微笑ましく笑い、明菜はどこか呆れつつも笑っていた。それにしても本当に恋華は気遣いができるよな。今もテキパキと部屋の掃除やらたくさん持ってきた食材とかで料理もするとか言ってるし舞と明菜にも指示をして手伝わせていた。僕は丁度いいから少し休んでからまた再開しようと考えて床に座る。


「お兄様、お飲み物です」


「ん、サンキュ」


舞にスポーツドリンクの入ったペットボトルを渡されたので蓋を開けて一気に飲む。結構喉も乾いてたのか一度で半分近くなくなった。僕はせっせと掃除とかをしてくれている三人を見て昨日の美沙の言葉を思い出していた。


『アイドルだからって異性に恋をしないなんてことはないんだよ?』


正直未だに夢だったのではと思うがあの時に告白前にされたキスの感触は残っていた。昔は恋華や恋華の母親と観てたドラマとかでキスシーンを見てもただ唇を触れさせてるだけじゃないかと思っていたのだが、高校に入って、何人かの異性に触れたらその思いは霧散していた。女の唇は柔らかいし何よりも自分もドキドキした。幸紀にキスした時は極自然に体が動いていたが、自分からする時と相手からされるのとでは全然違うことにも気付いた。


「(……そしてそれは相手も同じ……か)」


僕はスポーツドリンクを再び煽りながら考える。もしここで誰か特定の人を選んだらその人以外はやはり落ち込み、そしてもう話さなくなるのではないか、と。やはり告白して失恋したとしたら気まずさが生まれるだろう。だからと言って今はもう誰も選ばないという選択肢はない。皆それぞれに魅力があるし、何よりも選ばないなんて選択肢をしても皆納得はしないだろう。ある意味普通の戦いでの戦略を考えるよりも難しい問題だ。


「(誰を選ぶか……。幸紀との時間は濃密だったがそれだと恋華も当てはまる。他の皆だって濃くない日を送ってない人はいないし)」


恋華とは昔から、幸紀とは婚約者と知ってからの距離感の縮まりというものがあったが、他の皆だって似たようなものだ。

共に遅刻して教師を困らせたりもしたが、イジメから救ったことで仲良くなった星華。

凛桜女学園との決闘により色々と触れ合うことが多くなり、勝利してから僕を信頼してくれている冬美。

高須から、黒坂から助けたことで……いや、その前に絡まれていた機械を装備していた男らから助けて僕を振り向かせようと久英さんに頼んでまでわざわざ転校してきた愛奈。

ライブからただ企画されたデートという接触から青葉の部下から狙われた命を助け、以来護衛として僕を選び、忙しいながらも一緒にいる時間を増やしてくれた美沙。

爺達の村が消されることから僕に寄越された実妹にして、高校二年で初対面となり、それでも僕を疑うことなく慕ってくれた舞。

何よりも全員が共通してることは……。


僕が五神将という立場にいるにも関わらず信頼し、受け入れ、愛してくれているということだ。


「(これで幸せに感じない奴はいない)」


五神将は基本異性から忌み嫌われる存在だろう。たとえ一人が女性の味方という過去の事実があってもそれが絶対とも限らない。にも関わらず僕の周りの女性は嫌うことなく傍にいる。


「……だからこそなんだよなぁ」


「何が?」


僕が床に横になって同時にボヤいた言葉を明菜が拾った。丁度テーブルを拭いていたようで聞こえてもおかしくない距離にいた。ただ明菜は僕のことを家族として好意を抱いているらしいので恋華達とは別だろう。それでもなんやかんやあったがこうして傍にいる。なので僕は明菜には隠さずに今思ってたことを話してみる。


「……なるほどね。確かに魅力だけじゃなく貴方の立場から考えたら迷うところね」


「だよな」


「どうせなら皆秋渡に嫁げばいいとは思うわよ。そうすれば誰か一人を愛することは出来なくとも悲しむ人もいないわ」


「法律的に無理だろうが……」


明菜が提案したことは実は考えたことはある。だが法律というものを気にするとその案は消さざるを得ないのだ。出来るならそうして本当に皆悲しまないならそうしたいが……。……いや、それはそれで僕が大変そうだな。主に気まずさ的な意味で。すると明菜は少し考え込んでからまた別の提案をしてくる。


「なら今度の戦い、勝利したらそれを認めてもらう……というのはどう?」


「……は?」


明菜からもたらされた発言は予想の斜め上を行っていた。


「暁との戦いに勝利すればそれは秋渡が英雄になるようなものでしょ?だったら一つくらい法律外のことをしても黙認されるんじゃないかしら?」


「いや、それは男としてどうかと思うし英雄にはならないと思うぞ?」


「そう?私はその方が悩みも解決するし平等に愛せると思えるけど?」


「……」


確かに明菜の言う通りそれが可能ならば一夫多妻にしてしまえばいいだろう。だがそれは果たして彼女達が納得するのだろうか?それと両親らも納得してくれるか?という新たな問題に直面しそうだ。幸紀と愛奈の親は僕との交際は認めている。だがそれはハーレム状態になっても認められるかは分からないし確率も低いと思う。自分の娘を優先したいならば当然認められるわけないし、下手をしたら背中から刺されかねない。そう思うとゾッとする選択肢だが、逆に皆が納得すればこれほどにまでありがたいことはない。


「……検討してみる」


「ええ、いいと思うわよ。……じゃあ道場の床掃除してくるわね」


「ああ」


明菜は立ち上がって清掃用具入れからモップ等を取り出すと道場の方へと向かった。僕はそれを見送ると再び色々と考え込むのだった。なんで暁との戦い以上に悩んでるんだろうな。天井を見上げながらそう思わずにはいられなかった。




ア「どうも、アイギアスです!」

恋「恋華です」

舞「舞です!」

明「明菜です」

ア「今回でヒロイン全員が秋渡くんの所に訪れましたね」

舞「お兄様の勝利は絶対でもやはりサポートできることはしたいですから」

恋「やっぱり万全な状態がいいからね。修行の疲れを残さないようにするには家事を請け負うだけでも違うし」

明「そうね。それに色んな恩も返せてなかったから良かったわ」

ア「それでも修行はもうこの日でおわりですね」

恋「うん。あとは家で体を休めるって言ってたわ」

舞「マッサージでもすれば少しは気休めになるでしょうか?」

明「いいとは思うわ。その方が秋渡もリラックスできるだろうし。ただやり過ぎないでね?」

舞「はい。お兄様に負担を与えない程度にします」

ア「さてさて、果たして戦いに恋にどうなるのでしょうか?今回はここまでです!それでは……」

ア・恋・舞・明「また次話で!」



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