第九十五話 決戦までの時間
あれから昼を食べ終えてから少し体を動かし、その間に星華が作ってくれた夕食を食べ終えてから美沙と星華は後片付けをしてから帰った。夕食を一人で作ったのは美沙に僕へタオル、飲み物を渡してもらうためだということだ。美沙には別に構わないと言ったのだが、たまには立場を逆にしてみるのも楽しそうとのことで聞き入れてもらえなかったし、何よりも楽しみにしてるならいいかと僕も開き直った。見てるだけだからつまらないと思うが幸紀同様に熱烈な視線で眺めていた。それはいいがあれだけじっと見られてると恥ずかしく感じられる。
「恥を克服するにはいいかもしれなかったが……」
美沙は僕が動きをやめ、しゃがみ込むと即座にタオルとスポーツドリンクを渡してきたし、汗の始末もしてくれた。……アイドルにやらせていいことではないのは分かってるからやめさせたかったが、聞き入れてもらえなかったし、星華も美沙を援護してきたので諦めた。
「……やめだやめだ。今日はやめておこう。雑念が混じりすぎてる」
美沙が冷えたタオルで汗を拭ってくれ、星華が軽いマッサージをしてくれたのだが、何よりも近かった。美沙は気付いてなかったかもしれないが胸が後ろから時々当たってたし、星華はなぜか異様に体を寄せて来た。二人共柔らかい体をしてることを実感した時間だったが、さすがにそれを意識すると中々頭から抜けなくなる。
「僕ってこんなに異性に弱かったか?」
昔からの自分を振り返っても恋華とじゃれてた時にキスができそうなくらいまで顔を近付けて笑い合ったりした記憶しかない。それだけでも充分だがそれが中学までそんなことがよくあったし、高校一年の時にもあった。だから耐性があると思ってたんだけどどうやらそんなことはなかったらしい。やはり僕も男ってことか。
「……シャワー浴びて寝るか」
そう決めて着替えを持って浴室へ向かった。刀はとりあえず鞘に戻し、寝室へと置いてきた。服を脱いで浴室へ入り、シャワーで汗を流しながらふと思う。
「……それにしても皆なんで僕に好意を抱けるんだ?」
美沙からの告白を受けて、僕とつるんでる女子の大体が好意を寄せていたことを知ったが、なんで寄せられるかがさっぱり分からない。まぁ今はもうそこまでは気にはしない。恐らく皆からしたら皆なりの良さがあるんだろう。見当もつかないが。シャンプー(愛奈が持って来た)で頭を洗い泡を流してから石鹸を付けたスポンジで体を洗う。そしてさっさと泡を流してから湯船に浸かる。
「ふぅ……。さすがに家のものに比べると広いな」
部活などの練習場でもあるここの風呂は当然広めに造られてある。むさ苦しいだろうとも寝食を共にすることは互いの信用関係も築けることだから悪いことではないだろう。……まぁそういう部活には入ったことないから知らないけど。親父達が昔からいないことが多かったことから部活をやるよりも家事をやらなければならないことが多かったため、学校側も黙認していた。恋華や恋華の母親が手伝ってくれたりして楽になったりもしてたが、部活をやれるほどにはなってなかった。
「本当に感謝しかねぇな。親父達が家にいなかったのも理由だけど」
仮にお袋だけでもいたらひょっとしたら僕は家事があまり出来なかった可能性も高い。そう考えると別に悪くはないし、将来的にはありがたいことになるだろう。今は恋華の他に舞と明菜もやってるけど。
「でもなんで裁縫だけは出来ねーんだろ……」
昔から色々こなしてたから簡単に出来ると思ったら悪戦苦闘し、糸がぐちゃぐちゃになったりして大変だった。恋華の母親から教わってもなぜかうまく出来なかったため、何か縫ったりすることは恋華が請け負ってくれていた。……喜びながらやってたのはなんでなのか知らなかったが。
「……あと四日か」
風呂に深めに浸かるとふと決戦までの日を思う。あと四日で暁との戦いが始まり、何かが変わるだろう。何が変わるかは僕と暁、どっちが勝つかによって変わるから一概には言えない。それも女性には悪いか、男性には悪いか。ただ僕が勝てば男女差別もなくせるかもしれない。差別がなくなっても少しの間は女性らは自分らを上として見るだろう。五神将が撤廃されればそれこそ僕達五神将はただ偉い人になるだけ。
「……五神将という男性に心強いものがなくなる」
言ってみてそれは完全に止めの一環になってしまうのだろう。だとしたら五神将の位はなくさずに残しておいた方がいい。無闇に権力を行使しようとする女性の抑止力にもなるし、男性には味方となる高位の立場の人にもなれる。など、これからの事を考え出すとキリがないな。そうなると勝っていいのか負けた方がいいのか分からなくなる。
「いや、負けるのはダメだな」
自分で考えてすぐにその考えは改める。負けたら僕の周りの人は殺されてしまうのだからそれだけはダメだ。たとえ僕が生き延びても周りに仲間がいないと結局僕は負けたことを大いに後悔して何をしでかすかわからない。そうならないようにするには当然暁に勝利するしかない。あとのことはそれから考えよう。そう結論付けて僕は湯船から上がった。
ーー
風呂から上がると髪をタオルで乾かしながら少しスマホを開いてみる。メールは何も入ってないが、代わりに着信は一件入っていた。誰からだろうと見てみると恋華からだった。
『風邪引かないようにね!明日差し入れ持ってくから。じゃあおやすみ!』
と、短く残っていた。つまり明日は恋華が来てくれるようだ。妙にソワソワしながら入ってくるのが容易に想像できて思わず笑みを浮かべてしまう。普段は元気で明るいのに変なところで落ち着きようがないからな。
「……あー、恋華の親には一言は言っとくべきだったかもな」
昔から世話にもなってるからせめて何か言っておくべきだった。そういや今は引越しとかで家を移してる家庭も多いが恋華の家はどうなんだろう?いや、恋華に限らず友人ら全員どうしたんだろうか。ふと気になると考えてしまうが、まぁどんな戦いになるか想像も付かないから避難することは決して悪いことじゃない。むしろ留まってる人がいる方が不思議なくらいだ。今は家から出てるから分からないが、家に戻ったら周りの家の人は皆いなくなっている可能性も高い。どれだけの範囲の戦いになるか、全く予測つかないし僕も暁も斬撃を飛ばせると思うからどこまで被害が被るかも分からない。つまりは近ければ近いほど被害が大きくなることになる。
「……いや、今は被害のことは考えないでおこう」
被害のことを考えて戦うということは、暁相手に手加減をすることになってしまう。当然手加減して勝てる相手ではないため、それは命取りに繋がる。
「……うし、とりあえず軽く柔軟してから寝るか」
体を伸ばしたり捻ったりしてから布団を敷き、灯りを消してさっさと横になる。ふと寝る前に考えたのは明日は恋華は一人で来るのか、舞と明菜も一緒に来るのかという正直なんでもないことだった。だがすぐに睡魔が襲ってきたので、僕はさっさと眠りについたのだった。
……決戦の日を徐々近づくのを肌で感じながら。
ア「どうも、アイギアスです!」
秋「秋渡だ」
ア「お、今回は一人回だったみたいですね」
秋「ああ。考え事やらなんやらが多かったからな」
ア「決戦日までは四日ですが修行はあと二日ですよね?」
秋「まぁな。ずっとやってるといざという時体が動かない可能性もあるしな。結構全力で体を動かしてるから一日で回復は厳しいと判断して二日は休むようにした」
ア「効率的にはいい方法なのでしょうね」
秋「まぁ家だと舞や恋華とかから何か言われたりしそうだから怖いがそれでも刀振ってて疲れを残すよりかはずっといいさ」
ア「さすがに決戦日間近だと皆さんも遠慮しそうですが……」
秋「いや、恋華は逆に世話を焼こうと必死になるだろう」
ア「舞さんもそれに乗りそうですね」
秋「そういうことだ。さて、そろそろ終わるか」
ア「そうですね。あ、それと更新が遅くなってしまって申し訳ありませんでした」
秋「不定期更新とはいえ月一の可能性が高いし更新もいつになるかは分からないしな……。ま、気長に待っていてもらえると助かるよ」
ア「それでは……」
ア・秋「また次話で」
ーー
オマケ
恋「うぅ……みんな知らないうちに秋渡の所に行ってたなんて……」
舞「皆さんもお兄様が心配なのは分かるのですがやはり先を越されたという感じが強いです……」
明「(それよりもこの写メ、二人に見せたらまずいわよね……。星華先輩、よく秋渡に気付かれずに撮れたわね……。でも何がどうなって秋渡が美沙先輩の胸を揉む事態になったのかしら?)」
恋「秋渡にスポーツドリンクとかタオル用意しておかなきゃ!」
舞「洗濯物もあるでしょうから着替えもあった方が良いでしょうか?」
恋「ううん。着替えは結構持っていってたから洗濯物を入れる鞄を用意して」
舞「はい、恋華お姉様!」
明「……秋渡って本当に愛されてるわよね。色んな異性から」