冬だけの思い出
それは寒い寒い日の夜でした。
サクッ
サクッ
サクッ
1人の雪女が歩いていました。
雪女は寒さに強いので全く寒くありませんでした。
ですが、なんだか心は寒いのです。
雪女はとにかく歩きます。
サックサク
サクサク
サックサク
雪女は山の中から街中へと出てきてしまいました。
雪女「もうこんなに歩いたんだ。」
なぜ心がこんなに寒いのか考えていた雪女は自分で気がつかないほど遠くに歩いて来てしまっていました。
でも、雪女はもどり方がわかりません。自分がどこから来たのかもわかりません。
雪女はまたサックサクと歩きだしました。
色々な家から出ている光は雪女の心を少し温めてくれました。
すると、他の家より心にとどく温かい光が見えました。
雪女は、その光に誘われて、その光に向かって歩いて行きました。
雪女が歩いていると道行く人々は変な目で見てきます。
雪女「なんで、みんな私に冷たいんだろう。」
なんでだろう。なんでだろう。
雪女はずっと考えます。
そして、あることに気付きました。
雪女は他の人より来ているものが薄いのです。白い長いドレスな様なものを着ています。
雪女「そうか、来ているものが違うからみんな冷たいんだ。」
雪女はそう思いました。
だから、新しい服がほしくて服が沢山ある家の中へ入りました。
だけど、そこにいた男の人は服をくれませんでした。
雪女「服をくださいな。暖かい服を。」
男の人「お金は持ってるのかい?」
雪女「お金?お金って何ですか?」
男の人はなんだか怒った顔をして雪女を外に出してしまいました。
雪女の心はもっともっと寒くなりました。
雪女「なんでこんなに心が寒いのかな。なんで服をくれないのかな。」
雪女はずっと考えていました。
考えているうちに、自分は温かい光に向かって歩いていたことを思い出しました。
みんなが冷たい目で見ることを寂しいけれど、気にしないことにしました。
雪女は、温かい光のほうへまた歩き出しました。
サックサク
サクサク
サックサク
だんだんと、温かい光が近づいてきます。
雪女の心が少しだけ温かくなりました。
雪女「なんだか、心がほわほわするなあ。」
雪女は嬉しくて、もっともっと光に近づきました。
その光は一軒の家から出ていました。
雪女はその家にはりたかったのですが、またさっきの男の人のように冷たくされるのが嫌だったので、近くで立ったままその家を眺めていました。
雪女「もう、心がほわほわしないなあ。」
やっぱり雪女はその家に入りたくなりました。
コンコン
家のドアを叩いてみました。
すると、中から年をとった男の人が出てきました。
雪女は少し怖かったのですが、勇気を出して
雪女「このお家の光が温かいの。お家に入れてちょうだいな。」
年をとった男の人は少しびっくりしているように見えました。
ですが、
老人「中におはいり。外は寒かっただろう。」
と言って、中に入れてくれました。
家の中はとても暖かくて、心まで温かくなるようでした。
雪女はずっとここにいたいと思いました。
雪女「ねえ、おじさん。私はずっとここにいたいわ。」
老人「ああ、いいとも。好きなだけここにいればいい。」
雪女はすごく嬉しくて、なんだか涙が出てきました。
でもすぐに、涙は乾いてしまいました。
おじさんの家には、雪女にぴったりな洋服が沢山ありました。
靴もぴったりです。帽子だってぴったり。何もかもがぴったりでした。
雪女「おじさん!ここにあるものは全部私にぴったりだわ!!私のために買ってくれたの?」
老人「ああ。そうだよ。これは全部君のためのものだよ。」
そういうと、なぜかおじさんは泣き出してしまいました。
雪女「おじさん。おじさん。泣かないで。どうしたの?私、また悪いことしちゃった?」
老人「君は何も悪いことなんてしてないんだよ。何もしていない。」
雪女は、このおじさんに会うのは初めてのはずなのに、なぜか今“また”という言葉を使ってしまいました。
おじさんはまだ泣いています。
でも、泣きながらおじさんは雪女のためにおいしいご飯を作ってくれました。
雪女はとっても嬉しくて、また少し涙が出ました。
でも、またすぐに乾きました。
雪女「おじさんおじさん。このご飯とてもおいしいわ。」
老人「そうかそうか。良かったなあ。」
そういうと、またおじさんが泣き出してしまいました。
よく泣くおじさんだなと思っていました。でも、自分も何度も泣いていたので言わないことにしました。
雪女はご飯を食べ終わり眠たくなりました。
すると、おじさんが昔話を聞かせてくれました。
そのお話は、一人の女の子と一人の男の人の物語でした。
ある寒い寒い日のことでした。
女の子は、いつものように冬になったらある男の人のところへ行きました。
男の人も、女の子を待っていました。
女の子も男の人も冬が大好きでした。
お互いのことが大好きでした。
女の子はいつものように、少し遊んでから男の人のお家へ行きました。
コンコン
男の人のお家のドアをたたきました。
女の子「おじさんおじさん。来たよー!」
男の人「いらっしゃい。寒かっただろう。おはいり。」
女の子は男の人が最後まで言い切らないうちに家の中に入ってしまいます。
男の人は女の子のために買っておいた服をプレゼントしました。
女の子は喜んで、すぐにその服に着替えました。
そして、男の人が作ってくれたご飯をたっぷり食べました。
男の人と女の子は寝るまでずーとお話をしました。
女の子が眠たくなると、いつも男の人は昔話を聞かせてくれました。
昔話を聞いているうちに女の子は眠たくなってしまい寝ました。
そんな日々が何日も何日も続きました。
そして、女の子が帰ってしまう日が来ました。
女の子「おじさんおじさん。またね!また冬に来るね!」
男の人「待ってるからね。また新しい服を買ってあげよう。おいしいご飯も作っておくからね。」
女の子「うん!ばいばい!またね。」
そういって、女の子は帰って行ってしまいました。
男の人は少しさみしい気持ちになりました。
そして、また冬が来ました。
女の子がいつも通り来ました。
いつも通り服をあげてご飯を作って昔話をして、一緒に寝ました。
そして、女の子は冬が過ぎると帰って行きました。
男の人は、冬が大好きでした。
女の子と過ごす日々が一番好きでした。
また、冬になりました。
でも、女の子は来ませんでした。
今度は、冬が終わっても女の子は一度も来てくれませんでした。
買っておいた服は包んだまましまっておきました。
また、冬が来ました。
でも、女の子はまた来ませんでした。
また、新しく買った服はしまっておきました。
そうして、どんどん冬は過ぎて行きました。
それから、女の子は一度も男の人の家に来てくれませんでした。
でも、男の人は女の子のために服を毎回買っていました。
おいしいご飯も毎日作りました。
それでも、女の子は来ませんでした。
そんなある日、町の人から女の子が死んでしまったと聞きました。
男の人の家に向かっている途中に急いで走って転んでしまって、車にひかれてしまったのだと。
男の人は泣いてしまいました。
また冬が来ました。
男の人はもう老人になってしまいました。
男の人は、毎年冬になると女の子のための新しい服を買って、毎日おいしいご飯を作りました。
女の子はもう2度と現れることはありませんでした。
雪女「その男の人はどうなったの??」
老人「その男の人はね、今もずっと冬になったら服を買って、おいしいご飯を作り続けているんだよ。」
雪女も、おじさんも泣きました。
2人でずっと泣いていました。
そのうちに、雪女は泣き疲れて寝てしまいました。
雪女が起きると、おじさんはまだ寝ていました。
雪女「おじさんおじさん。起きて!朝のご飯作ってよ。」
おじさんは、起きてくれません。
雪女「おじさんおじさん。早く起きてよ。私おなかぺこぺこだよ。」
それでも、おじさんは起きてくれませんでした。
雪女はなんだか悲しくなりました。
雪女は泣きました。
ずーとずーと泣きました。
泣いているうちに思い出しました。
おじさんが話してくれた昔話の女の子は自分だと。
雪女「私は、もう死んでるんだ。」
雪女はずーとずーとずーと泣きました。
今度は、涙が乾きませんでした。疲れて寝ることもありませんでした。
大声で泣いているのにおじさんは起きてくれませんでした。
雪女「おじさんおじさん!起きて起きて!私だよ?また、おじさんのお家に来たよ!」
おじさんの体が冷たくなっていました。
雪女と同じくらい冷たくなっていました。
雪女は、もっともっと悲しくなって、沢山泣きました。
雪女は泣いているうちに疲れてしまいました。
おじさんと寝よう。と思いました。
雪女は、おじさんの隣に横になって泣きながら眠りました。
翌日、新しい服を届けに来た服屋さんの男の人が倒れているおじさんを見つけました。
おじさんは、死んでしまっていました。
でも、となりに雪女はいませんでした。
おじさんの隣には、雪女が来ていた洋服だけが残っていました。