婚活します(後)
それから1時間と30分が過ぎた頃、間にフリータイムを挟みパーティは終盤を迎えた。軽食を交えたフリータイムでは、弘樹は結局、奈月と一言も話をできなかった。それでも、あらかじめ配布してあったチェックカードには奈月の番号だけにチェックをつけ、回収箱に放りこんだ。もう一度会いたい人、気になる、という人の番号を必ず3名チェックをいれてください、なんて言われても、会いたいのも気になるのも奈月だけなのだから、数打ちゃ当たる的なやり方には従えなかったのだ。
しかし、カップルになれる可能性は薄い。いや、無い。実はあれから一度も奈月と目が合うことはなかったし、むしろ避けられている。近づけば離れる距離に、気づくなというほうが無理だ。
けどまっ、そりゃそうだわな・・・。
対象外が、視界にも入れなくない存在になったというだけで、大きな変化あるわけではない。正直、奈月に微笑んで会話をしてもらえる男たちが妬ましくてしょうがないが、自業自得というやつである。
目を閉じれば、見たくないものは全て見えなくなった。会場の隅で一人ポツンと席に着き、腕を組んで、来るべき時を待つ。
すっかり元気を取戻した司会の男が長い前説のあと、
男性2番、女性1番の方、
カップルが成立した番号のみを読み上げていく。
おめでとうございます。
チャンチャラとよく分からない効果音。ぱらぱら起こる拍手。
男性5番、女性8番・・・・・
男性7番、女性3番・・・・
そこまで終えると、司会の男はたっぷり間をおいて、
いよいよ残るカップルは、一組です。
まるで、何かの大会の優勝者でも発表するかのような口ぶりで言った。
これが終れば、あとは真っ直ぐ家に帰るだけだ。
奈月とは二度とあうことはないだろうし、また畑と田んぼと母親との変わりない生活が待っている。
では、読み上げます。
嫁探しは暫くやめにしよう。
弟はまだ結婚なんか考えてもいないようだが、女は一応いるようだし、この折に押してみるのもいいかもしれない。
そりゃ孫は一緒に住んでるほうがいいだろうが、たまに遊びにくるだけでも、母親は喜ぶだろう。
男性、10番
どうせ俺は当分は、
って・・・10番?えぇっ?
突然、司会の男があげた素っ頓狂な声に、会場がざわめいた。何事か起こったらしい気配に弘樹も片方の目を開き・・・・待てよ、と思う。
今、何番って言った?
「男性10番、女性15番。それで間違いないですよ、司会者さん」
その答えは、遠い向こうの席から齎される。可笑しそうに響く、高すぎず、低すぎない、耳に優しい声。
弘樹は恐る恐る自分が首からぶら下げているハート型の紙をみて、書かれている番号を確認する。
「なんで・・・」
見開いた目で、思わず口から出た小さな呟きを、声の主は、あっさりと拾い上げた。
「だって、」
話はまだ、これからなんでしょ?
end