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竜魔の乙女  作者: 深月 涼
クラス3:竜魔の乙女
12/14

エピローグ

 広い平原にぽつんと立った一軒家。

 その隣には巨大な厩舎が併設されている。

 そこは巨大な農場、といったところか。


 厩舎から平原に、魔物使いの服を着た少女が、魔物達と共に出てきた。

 首筋の辺りまでの緑の髪に、生き生きと輝く黒い瞳、活発そうな表情のその少女は、今は日向で巨大な青白い竜の相手をしていた。


「セヴンー」

「今日は何して遊ぶの?」

「なあ、かくれんぼしようぜ?」

「泥投げ合戦だよ」

「おい、今は我の身づくろいの最中なのだがな」

「そんなのかんけーねー!」

「そうだそうだー!」

「だめだよ、ちゃんと終わってからにしよう?順番だよ」


賑やかな魔物達に囲まれる、穏やかな日常。

大きな月白色の竜は年長者の様だ。

その蒼い瞳にいつも浮かんでいる酷薄そうな光は、今は薄まり、穏やかに年下の者を見つめている。

白金のゴーレムは見かけによらず子供っぽいのか、活発すぎて粗さが目立つ。

それでも、仲間思いで優しく、年少の魔物のリーダー格になる位には責任感があった。

銀色の長い髪が特徴の青い瞳の妖精(ピクシー)は、魔物使いの少女をセヴンと呼んだ。姉妹と言うよりは、同じ年頃の親友の様だ。

理知的な赤い瞳が印象的な、漆黒の兎の魔物は、年少組では控えめな方か。すぐに騒ぎ出す他の2匹をたしなめる。


「わかった、わかったって、アローンもシアも、ブルーが終わったら遊んであげるから!プリンス!」

「仕方ないなあ、ほら行くよー」

人の子供ほどしかない身長の兎が倍の背丈のゴーレムと、華奢とはいえ自分より大きなピクシーを引きずって行く。

そのまま作戦会議に移行したらしい。はてさて、今回はどんな遊びを要求されるのか。

巻き込まれるだろう遠く無い未来を想像して、竜と少女は顔を見合わせ苦笑し合う。

その時、母屋から水の精霊(ウンディーネ)を従えた青年が出てきた。


「ナイト!」

「ナイトだー」

「遊べー!」

 魔物達の要求を慣れた様子で流し、妹のセヴンに近づく。

「程々にしとけよ、今連絡があったが、兄ちゃんが帰ってくるらしいからな」

「えっ!?」

「お嫁さん連れて帰ってくるって」

 精霊の一言に、セヴンだけではなく、魔物達も驚いた。

「ええーっ!?」

「嫁ぇ!?」

「これは驚いた」

「びっくりです」


「そんなに驚くようなことじゃないだろう?俺だっていい歳なんだから」

 空の上から異形の人物が女性を抱きかかえて降りてきた。

 兄弟達の中では父親に一番似ている(そして本人には強く否定される)長兄のリュージュだ。

 祖父や曾祖父に似て大柄な体格で、背中には、竜の翼とも鳥の翼ともつかない、鉤爪のついた大きな羽根が生えていた。


「リュージュ兄ちゃん!」

「お帰りの一言も無いのか、お前等は」

駆け寄ったセヴンの額に手刀が落とされる。

「お帰り兄ちゃん、…その人がお嫁さん?」

「こ、こんにちは…」

 美人の女性は、リュージュの腕の中からおっかなびっくり挨拶をする。

「こんにちは、お姉さん。あのさ、この人でホントに良いの?」

「てっめ、このやろ」

 指差してまで説得じみた確認をしたナイトに、リュージュが怒った。

 その様子を見て、女性はくすくす笑い出す。

「はい。いいんです」

 その様子は、何処となく普段おっとりした彼等の母を連想させる。

「とりあえず、ドリィマスター呼んで来た方が良いんじゃない?」

「あたしっ、行って来る!」

 母を呼んできた方が良いと言うシア…シルヴァニアの言葉に、セヴンが踵を返す。

 その様子を見て、長兄が止めた。


「ちょいまちセヴン」

「え、何?」

「俺が今までどこに行ってたか知ってるか?」

「え?雷の国でしょ?」

 母と同じく、若くして国の外へと飛び出して行った兄は、ひと所に落ち着く事は無く、様々な国や地域を巡っていた。

「正解。来月から、お前の学園に1人留学生が来る。雷の国の外れにある辺境部族の神官御子だ」

「え、へえー…、そなんだ?」

 いまいち掴めないのか、首を傾げたセヴンの返答は、幾分ぼんやりしたものだ。

「雷の国に俺が行っていたのは、その御子を迎えに行く為。まあ、結果的にはそれだけじゃなくなった訳だけどな」

 リュージュと女性は顔を見合わせる。女性の顔が赤く染まった所で、どこぞの夫婦を思い出して、下の兄弟たちは苦い顔になった。


 ……甘い。


「で、だ。お前、その御子付きになったから、面倒見てやってくれな?頼んだ」

「ぅええええええっ!!??」

「何かあったらすぐバレるから、しっかりちゃんとやるんだぞー?」

「嘘おっ!?」

 ひらひらと手を振って、女性を伴い母屋に向かう薄情な長兄には、少女の悲鳴は効果が無かった様である。


「これからどうなるんだろうねー」

「遠い国の御子様かー、想像つかねーなー」

「セヴン、好きな人いたよね?まさか三角関係になったりして!?」

「そんな事を言っているが、お前達。後で泣きついても知らんぞ?いつもの事ながら、毎度必ずと言って良い程巻き込まれるのだからな」

「巻き込まれ上等!」

「今度は何が起こるのか楽しみね!」

「うーん、雷の国の辺境かー、あの辺り何があったかな?少し調べておいた方が良いかも?」

 よく晴れた広い空の下、気持ちの良い草原には、何処までものんきな声だけが残った。

 彼女の魔物達は、ご主人様のそんなちょっとした危機も、茶化す対象にしてしまう。

 

 これから起こる一連の騒動に、案の定しっかり巻き込まれてしまう事も知らずに…。



 世界は続いて行く。

 

 未来へ、


 遠くへ。


 あの時彼女が旅立ったように、彼女達の子等も又、旅立ちの時を迎えようとしていた。






これにて終幕です。


今まで有り難う御座いました。

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