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竜魔の乙女  作者: 深月 涼
クラス3:竜魔の乙女
10/14

大陸間交流試合

注意!

試合形式ですが、戦闘描写入ります。

傷付く表現が駄目な方はバックして下さい。

 交流試合に関して父ブライに確認した所、「なんだ、あっさりばれたな」と実に簡単に返されてしまった。

 しかし、これで後に引けなくなってしまったわけだ。

 ドリィは日々の巡回の後、城の訓練施設で、ヴァルスやヴァレリーと遅くまで特訓を続ける日々が続いた。

 ガイも意を酌み、しばらく単独で行動するという。

 単独と言っても、そのほとんどがブライと共にあちこち顔を出し、議会や有力者に顔を覚えて貰う事が中心だったが。


 大会開催1ヶ月前になり、早々と炎の国から来賓がやって来た。

 例の王子である。

 最近は魔の国にいる事の方が多いガイも、将来のドリィの婿として、挨拶する事になったわけだが、どうにも王子の態度がそっけない。

 ガイとしては、また難癖を付けられるのではと、気が進まなかった程なのだが。

「何か?言いたい事があるなら早く言ったらどうなんだ?」

 不機嫌な顔を隠そうともせず、面倒くさそうに異国の王子は言った。

「いや、以前お会いした時とずいぶん違うな、と思いましてね」

 立場上、身分が上の人物にまさか本音で話すわけにもいかず、遠回しに、今日はつっかかって来ないのか、と聞いた。

「ああ、ドリィの事?」

 分かって貰えたようだ。

 王子イグルは少し目元を緩めたが、それでもつまらなそうに事情を説明し始めた。

「もう分かっていると思うが、今回の事に関しては全て狂言だ。わざとお前に誤解させる様な発言をした」

「それは…何故?」

 確率は半々くらいだと思っていた事は、今は言わない方が良いだろう。

 聞きたかったのはその理由だ。

「まあ、別段特に頼まれた訳では無かったが、可愛い義従妹(いとこ)の為だからな」

 フッ、と唇の端だけで笑う。

「前回この国訪問したのは、自国との交渉(しごと)の為だけだったが、お婆様、女王陛下にドリィの婚約について考えている所だと話を聞いてね。僭越ながらこの僕が、勝手におせっかいを焼いたという訳さ。僕がお前にわざわざ身分差について指摘した事で、逆にお前は彼女を意識した筈だ。ついでに、僕が彼女のそばにいるという事にしておけば、お前は彼女がいっそう欲しくなるだろう?主役を引きたてる好敵手の存在は、恋愛物の小説ではよくある手法さ」

 つまり、彼は本気でドリィの為に、当て馬を演じたという訳か。

「…ドリィも言っておりました、イグル様は義理の従兄妹の様な方だ、と」

「それは僕も同じだ。ちなみに僕はドリィの婚約者だった事はないが、その話が1度も無かったわけではない。幼い頃、将来の結婚相手に、とお互い注目されていたことは確かだ」

 忘れるなよ、と王子はその美貌に似つかわしく無いニヤリとした笑いを浮かべた。



 交流試合の開催期日が迫り、城下の街も普段に比べだいぶ活気に溢れている。

 守都部隊も、揉め事を解決するため奔走する日々が続き、訓練の時間を取る事さえままならぬ事もあったが、後悔しない様に出来るだけの事をするんだ、と城の宿舎の1室を借りてまで仲魔と共に努力し続けた。



 そしてついに、開催の日が訪れた。

 貴賓席には王家の者、そして炎の国から国王と王妃、イグル王子が。雷の国からはR・M・Aの会長といった顔ぶれが並ぶ。

 そして今回、新たに同盟を結ぶ少数民族“鳥人”について正式な発表があった。

 同盟とはいえいずれはその概念も形骸化し、属国、あるいは自治州、という立場になって行くのかもしれなかったが。

 王族の姫君であり、若き騎士である「ドーレス=ギルティ・ライトサンド」嬢との婚約も共に。

 ガイはドリィと共に壇上でお披露目をされ、国民からは大きな歓声で迎えられた。

 

 開会の挨拶も済み、今は闘技場の控え室。

 ヴァレリーが軽く体を温めている。ヴァルスは巨大化し、その巨体故派手に動く事は出来ないが、足や背を伸ばしたりしていた。

 ドリィは動きやすい調教師(テイマー)服に着替え、静かにその時を待っていた。

「緊張してんな」

 鳥人の儀式衣装に身を包んだガイが顔を覗かせた。

「ガイさん」

「ガイさんだー」

「なによ」

「そんなピリピリしなさんな。お前達が、寝る間も惜しんで特訓してたのは皆知ってる。きっとなる様になるさ」

 あまりにも気楽に言うのでヴァレリーが噛み付いた。

「ひと事だと思ってー!」

「正直付け焼刃ですから」

 ぷんぷん怒っているヴァレリーの頭を撫でてなだめるドリィの言葉は、何処か弱々しいものだった。

「付け焼刃だって何だって力になるならそれでいいさ、そうだろう?そうやって難しく考えて普段の実力が出せなくなるのが一番怖い。後の事は考えるな、むしろ胸を借りる位の気持ちで行け、雷の英雄は強いんだろう?交流試合で対戦するの、楽しみにしていたんだろう?」

「あ、はい」

 試練の事で、頭がいっぱいになっていた事に気付かされたドリィの顔に、微かに笑みが戻る。

「そう、ですね。そうでした」

「よし、それで良い」

 ガイが満足そうに頷いた。

「お前等もしっかりやれよ」

「えーっ!?僕らそれだけ!?」

「ちょっと、それは無いんじゃないの!?」

 簡単に済まそうとしたガイに非難が浴びせられる。

「うるせえ、俺は抜け出して来てんだ、もう戻らなきゃならねえんだよ」

 一蹴する。

 まだぶーぶー言う魔物達を尻目に、大事な事を最後に伝える。

「全力を尽くせよ、無様な真似は見せてくれんな。だけど覚えとけ、これで駄目でも、全てが終わる訳じゃない、ってな」

「……はい!」

 駄目なら、また次の機会を作ればいい。

 それだけのことだと言われ、ドリィは強く頷いた。



 開始直前の闘技場には、ドリィ、ヴァルス、ヴァレリーが並んで開始の合図を待っていた。

 一方、ボウは1人で立っている。

「これじゃ作戦立てられないねー」

「これも相手の作戦の内、って事?」

 ボウにしては少々やり方が意地悪だ。

 ドリィ側が全員で立っているのは、闘いに出すのがこの二人だという事を、今さら隠しても仕方ないという理由もあるが。

「もしかしたら開幕で何かあるのかもしれないね」

 不意を突く奇策があるのかもしれない。気を付けなくちゃ、とドリィは自分に気合を入れ直す。

「準備は良いか?」

「はい!」

 対戦相手ボウは特に何も持っていなかっが、ドリィは愛杖を構えている。


 基本は魔物対魔物だが、調教者が近くにいる為、流れ弾が飛んで来ないとも限らない。

 魔物使い(モンスターテイマー)が試合に出場する場合、その方法は2種類ある。

 1つは強固な結界に自身を守らせ、その場から指示を出すに留まるもの。

 もう一つは魔物と共に闘技場内を駆け回るというものだ。


 闘技大会に出る魔物使いには2つの役割がある。

 1つは状況に応じて指示を出す事。あまりに力量が違うと判断した場合や、調教師本人の意思で、指示を与えないと判断する場合もあるが、万全を期するなら当然指示を出す方が人も魔物もやりやすい。

 もう一つが魔物に魔力を送る事である。

 これがあったからこそ、魔の国では魔物使い(モンスターテイマー)という職業が発展したのだ。

 普段活動する分には、一般的な食事や自然からの魔力の補給で彼らの存在は維持されているが、闘う事によってその消費量は爆発的に増える。

 それは強いもの同士が闘う時ほど顕著だ。

 必然的に魔力を多く持つ魔法士が魔物使いになると、使役される魔物は長時間全力で戦える事になる為、大会では有利なのだ。

 逆に、魔物使いの指示次第で、あるいはその魔物自身の強さで魔物使いの能力に関係なく勝敗が決まる事もあるので、一概に強いとは言い切れない所が魔物闘技試合(モンスターバトル)の面白い所だ。


 魔の国は魔力の扱いに長け、その技術でもって発展してきた国だが、他国の住人も多かれ少なかれ魔力に触れ生活している。

 ただ、得手不得手があるだけだ。

 炎の国では火を操り、火の魔法に耐性があるが、長けている部分はそれだけだ。

 雷の国も同様に。今は亡き竜の国は魔の国に近く、竜を使役し、他人の魔力を感知できる。魔法に対する耐久も良いが、魔法自体は一切使えない、等。

 雷の国で魔物闘技試合(モンスターバトル)を始めたのは、魔竜との戦後、自国内で安定した社会を作る為の一環でもあり、ボウが魔竜退治の一件を経て、勇者やブライ、あるいはドーラの姿に憧れて、自分でもやりたいと言い出したからだった。


 その、救国の英雄が目の前にいる。

「行くぞ!」

 ボウの掛け声と同時に開始の銅鑼の音が大きく響いた。


 ボウの後方、入場(ゲート)から飛び出してきたのは、

「え!?」

「なっ!?」

「まさか!?」

 漆黒の巨大な鳥。

「まさかライバードの希少種(レア)!?」

「嘘だろ!?新種認定されてからまだそんなに経っていないのに、もうレアが発見されたのかよ!?」

 会場の一般客からも驚きの声が上がる。

 そのざわめきは、瞬く間に闘技場を埋め尽くした。


 さすがにこれは予想できなかった為、判断が一瞬遅れる。

「―――!!」

 甲高い雄叫びと共に、漆黒のライバードが闘技場に雷を何本も落として来る。

 ドリィ達の元に雷が肉薄するも、素早く立ち直ったヴァレリーが電撃で上手くその軌道を変えて行く。

「ヴァレリー!」

「しっかりしなさいよね!!」

「ごめん!」

 素直に謝ったヴァルスが前に進み出て竜の大咆哮(バインドボイス)で相手を委縮させる。

 ライバードは素直に引き下がったものの、もう一匹の魔物が背後から飛び出した。

「いけぇっ、デュラハン!!」

「オウ!」

 追撃に走ったヴァレリーの一撃を、虚空の鎧剣士が装備した盾で防いだ。

 そのまま接近して、

「ヴァレリー!」

「分かってる!!」

 回避ですり抜けながらも電撃を落とすのを忘れない。

 牽制のつもりで威力は考えていなかったが、やはりこちらも弾かれる。

「いっくよー!」

 デュラハンの正面の位置を取ったヴァルスが、吸い込んだ呼気を吐き出した。

 ごうっ、という音と共に闘技場の地面を炎が舐める。

「一瞬だ、飛び上がって回避、そのままドラゴンに迎え!」

「ココロエタ!」

 ボウの指示に従い、デュラハンが迫りくる炎に向かって跳び上がると、そのままの勢いでヴァルスに剣を振り下ろす。

「させぬ!」

 止めに入ろうとしたヴァレリーは、ライバードの雷に足止めを食らう。

「ヴァルス!受け止めて!!」

「了解!」

 振り下ろされた剣戟に合わせ、ヴァルスが腕を振り抜く。

 剣はヴァルスの鋭い鉤爪に弾かれ、デュラハンが剣を構えたまま少し後退した。

 ヴァレリーも漆黒のライバードと上空で睨みあう。


 いつしか会場内は静まり返っていたが、一連の攻防が収まると、途端に大きな歓声に包まれた。


 互角なのか、互角にされているのか。

 頭の中で戦略を組み立てる。向こうもこちらも、まだ本気を出していない、これからさらに激しい戦いになるのは必至だった。


「ふうん、やっぱ強えな」

 凄みのある表情をするボウに、ドリィは構えたままの愛杖をきつく握り直した。

「……そう簡単には、負けません!」

 ドリィが杖を振り下ろすと同時に、ヴァレリーが放った、流星群の様な幾筋もの強烈な閃光と、宙に飛びあがったヴァルスの、力強く羽ばたいた翼から巻き起こる凄まじい嵐の様な強風が、ボウのライバードに向かって行った。

「苦ゥッ」

「くそっ、身動き取れなくして閃光で炙ろうってか、そうはいくか!おい、デュラ!」

「ハアアアア…」

 ボウの掛け声にデュラハンが動く。

「コイツにだって飛び道具くらいあるんだよ!風刃(ふうじん)!!」

 上空にいるドリィの2匹に向けて、デュラハンが何度も剣を振るう。

 その度に、散弾の様な風の刃が上空の2匹を襲った。

「ヴァレリー、ヴァルス退避!!」

 ギリギリまで粘ってライバードにダメージを喰らわせるも、飛んできた鋭い風の刃に2人とも回避せざるを得なく、攻撃を受けたライバードには、まだ余裕がありそうだった。


「んじゃ、次はこっちからだな」

 攻守が逆転する。

「ライバード、デュラハンに雷!」

「心得た!」

 会場がどよめいた。

 同士打ちでは無いのか、と。

 ボウはニヤリとした表情のままだ。

「……」

 想像するに、これは…。

「ヴァレリー、閃光で壁を作って!それから電撃で誘導、ヴァルスはヴァレリーを庇って!」

 指示を飛ばした直後、

「いっくぜえ!轟雷刃撃!!」

「オオオオオオオ」

 ライバードの雷をその身に受けたデュラハンが、びりびりと電撃を発するその刀身から、強烈な一撃を繰り出してきた。

 放たれる強烈などという言葉では生ぬるい程の雷撃と正確無比な剣が、2匹を襲った。

「ヴァレリー、ヴァルス!!」


「まだまだ行くよー!」

 閃光が収まるか収まらないかのうちに、2匹のいた地点から聞こえた、どこかのんびりとした声が、戦闘続行を告げる。

「ヴァルス!」

「フライングボディアターック!!」

 心配するドリィを尻目に、ヴァルスが飛びあがり、デュラハンに向けて勢いよく降下した。

 ご丁寧に鉤爪を喰い込ませた後、自重で押しつぶす。

 鎧だけあって、物理攻撃には強いが、その重さまでは支えきれず、地面に押し付けられて身動きが取れなくなってしまう。

「ライバード!」

「応ッ!!」

「させないよッ」

 立て続けに魔力を消費してくたびれた様子のヴァレリーが、それでもライバードに向かって行く。

「見よう見まね、火炎弾!!」

 ドリィの練習を見て覚えたのか、伸ばした腕の先から炎の球が次々と発射されてゆく。

 ただ、正確さに欠けた為、先ほどの閃光より命中率が悪かった。

「無理しないでヴァレリー、閃光!」

「了解!」

 意図を正確にくみ取ったヴァレリーが、火炎弾と閃光を混ぜた攻撃をし始めた。

 火炎弾で牽制し、足が止まった所で強烈な閃光がライバードの翼を打ち抜いた。

「―――!」

「ビリー!!」

 よろめき落ちてきたライバードに駆け寄るボウ。

 審判が駆けより判定する。

希少種(レア)黒雷鳥(ドゥンバード)戦闘続行不能!」

 一方のヴァレリーも、だいぶ疲労がたまっており、すぐには動けそうに無かった。

 それでも何とか立ちあがる。

「はあ、はあっ」

「少し休んで、魔力が回復したら大技使って貰うから」

「分かった…」

 ヴァレリーに駆け寄ったドリィが小声で指示を出した。



「デュラ、連撃!ドラゴンの下から何としてでも這い出せ!」

「連続攻撃をかわしてもう一度拘束!」

 魔物使い2人の指示がほぼ同時に飛ぶ。

 デュラハンの連続攻撃がヴァルスに届く前に、一度空中に退避し、そのまま鉤爪で再び拘束しようとする。

「そのまま空中へ!」

「させるか!炎の国、騎士王直伝(ぱくりわざ)!なんちゃって居合切りっ!!」

「ムウウウゥゥ、…ヘアッ」

 その言葉に合わせる様に、デュラハンが溜めの動作の後、空中から方向転換で肉薄している為、回避の間に合わないヴァルスに、斬りかかった。

 剣を振り上げると、そう簡単には傷つかない筈の竜の鱗がバッサリ斬られていた。

「――――――!!!」

 今度は痛みで咆哮を上げる。

「ヴァルス!」

「ヴァレリー、デュラハンから魔力吸収(ドレイン)!」

「わ、分かった!」

 先ほど、ライバードの雷の力を上乗せした剣戟に耐えた際、回復技(ヒーリング)を使った様に、再びヴァルスに回復をかける。

 しかし、それには技を使う方も大きな負担となる。その負担の一部を相手から奪って賄おうというのだ。

 回復も吸収も、人間より魔力が生命に直結する魔物であるヴァレリーにとっては、相当な大技だ。

「くっ…」

 ヴァレリーの顔が苦しそうに歪むが、ドリィには何も出来ない。

 人間は指示と魔力の伝達だけで、他の事に関しては一切手出し無用なのだから。

「…っは」

「も、大丈夫だよ」

 そう言うヴァルスも、傷は塞がったものの、魔力切れを起こしかけていて、立つのもやっと、といった風情に見えた。

「…そ、じゃ、後は任せるわ」

 回復と吸収で魔力をほとんど使い果たしたヴァレリーが、眠る様に意識を失った。

「御苦労さま、有り難うヴァレリー」

 駆けよって来た審判が、戦闘不能を告げた。


「お互い1匹づつになったな」

「はい。恐らく」

「この1度の攻防で終わる、な」

 ヴァルスも、デュラハンも、立っているのがやっと、と言った風情だ。

「いくぜ?」

「望む所です」

 お互いに睨みあう。

「ヴァルス、恐らく大技が来る。何としてでも耐えしのいで」

「…わかったよ、頑張る」

 ヴァルスの瞳は、まだ強い光を放っていた。

「そうしたら、こちらの番です」

 ドリィが口の中で小さく呟いた。


「デュラハン、回転斬り!!」

「来たっ、避けて!」

 最後の攻防が始まった。

 剣を水平に持ち、回転しながら迫ってくる。

 速度自体はそれほど速くない。

 難なくかわしたヴァルスだったが、違和感を感じた。

 その違和感は、次のボウの言葉で分かる。

「いいぞ、そのままつむじ風を起こせ!」

「フヌウウ!!」

「…っ、危ないけど、近づかないとまずい!ヴァルス、上空から中心部分のデュラハンを狙って!」

「分かったー!」

 近づけば剣戟が、遠く離れれば風の攻撃が襲ってくるだろう。

 風攻撃が完成する前に中心部を叩く!

「遅いっ!デュラハン、最終奥義!竜巻風刃剣!!」

 ごうっ、と強烈な風に煽られ、体勢を崩したヴァルスが地上に落ちかける。

 その眼前には、デュラハンの剣。

「ヴァルス、炎爆嵐フレイムバーストストーム!!」

 落ちながらも、ヴァルスが口を開く。

 赤い光。


 風と、炎と、衝撃と、音と光で、会場は埋め尽くされたかに見えた。


 デュラハンを中心に発生した巨大竜巻でも、その炎は消せなかった。

 むしろ一層激しさを増し、デュラハンとヴァルスを呑みこんだのだ。


 衝撃が収まった後、倒れ伏す2匹の魔物達。

 それぞれの主人(テイマー)が駆け寄った。


「ヴァルス、しっかりして!」

「うう…」

 目を開くのもやっとの有様だ。

 竜種属の強靭な肉体でも、今の炎と風の狂宴は相当堪える物だったらしい。

 あちこち煤けて焼け焦げた体で、それでも何とか立ちあがろうとする。

「……。ヴァルス」

 ドリィが小さく呼びかける。

 その巨体故にヴァルスを支える事も出来ず、声をかけ、寄り添う事くらいしか出来ない。

 それでも何とか体を起こしたヴァルスは、ギラギラした瞳で、なおも前方のデュラハンを見据えていた。

 それほどまでに傷付いた体でも、諦めない闘志を見て取ったドリィは、同じく立ち上がろうとするデュラハンを見て、きゅっと唇を引き結んだ。

 そして、



(はし)れ」



 その瞬間、闘技場を蒼い稲妻が走り抜けた。

 





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