もう一人のプリンス
「一ノ瀬君?」
「あっ! 桜ちゃん!!」
そう、屋上にあった人影とは、藤咲君ではなく一ノ瀬君のだった。
でも、なんでこんなところに?
「あの、お邪魔だったみたいですね。すみません、すぐに失礼します」
私がいたら邪魔だろうし。それに、泣いてるところなんか見られたくないしね。
私が教室に戻ろうと後ろを向いた瞬間、腕をつかまれた。
「別に邪魔じゃないから、ここにいていいよ」
一ノ瀬君はそう言って笑ってくれた。
よかった。邪魔じゃなかったんだ。でも、一ノ瀬君と二人っきりなのは、少しきついかも。
「はっ、はい、わかりました。あの、さっきの話ってなんだったんですか?」
『ちょっと話があるんだけどいい?』さっきの言葉がずっと気になっていた。私なんかに、なんの話があるというのだろう? 話したのも、たぶん今日が初めてだろうし。
「あー。その話をする前に、言っておきたいことがあるんだ」
私は首をかしげる。
なんだろう?
「さっきはごめん」
はい? なんで一ノ瀬君が謝ってるの?
私はキョトンとしながら、彼の姿を見ていた。
「なんで、一ノ瀬君が謝るんですか?」
「だって、みんなの前であんな目立つようなことしちゃったし、クラスの女の子に何か言われたでしょう?」
別に一ノ瀬君が悪いわけじゃないのに。
「そのことなら、別に大丈夫ですよ」
そう言って、私は少しだけ笑う。
「なら、なんでさっき泣きそうな顔してたの?」
「えっ!? そんなことないですよ。見間違えじゃないですか?」
なんで、一ノ瀬君がそんなこと知ってるの? まさか、見られてた?
「無理しなくていいよ。嘘つけないタイプだね、顔がひきずってる」
やっぱり華と同じこと言うのね。昔は、みんなにそう言われてたっけ……。
「すみません。私、もうそろそろ教室に戻ります。華が心配するので」
「うん、わかった」
私ははやばやと屋上を出た。
「やっぱり、昔と全然変わってないね。桜ちゃん」
一ノ瀬君のそんな言葉にも気付かなかった。




