一番近くにいる存在
私は学校に行って華に同じ部屋で住むことになったことを報告した。
すると華は少し考えたような顔をしながら、
「ふぅーん。拓海がねぇー」
どうやら、藤咲君がそんな行動をとったのが不思議らしい。
「じゃぁ桜は拓海の一番近くにいる存在なんだ?」
「えっ!? 一番近くにいる……存在?」
一番近くにいる存在? 私が? まぁ一緒に住んでるんだし、そう言われればそうなのかもしれないけど。
「そう。それに桜、拓海のことが好きなんでしょ?」
「えっ!? 私が藤咲君を?」
私は目を丸くしながら、華に聞き返してしまった。
「だって桜、拓海のこと話すときすごく楽しそうだよ」
華が嬉しそうに答える。
「だから、桜が昔のように恋してくれることが嬉しくてたまらないんだよ。あれ以来、恋なんてしてないでしょ?」
私が、恋をしている? 藤咲君に?
「そんなこと、あるはずないよ……」
つい、心の声を口に出してしまった。
「桜!?」
このままだと、過去の記憶がよみがえってきてしまう。
「華ごめん、今のは聞かなかったことにして。それと、先生に体調が悪いから保健室に行くって言っといて」
そう華に言い、私は教室を飛び出した。
私が向かっているのは保健室ではない。屋上だ。
集中できないときや考え事があるときは、いつも屋上に行く。屋上で風にあたりながら、心を落ち着かせるの。
「ふぅー。やっと着いた」
私の教室から屋上までは結構遠い。
華の言葉が、頭から離れない。『あれ以来、恋なんてしてないでしょ?』
そう、私はあの日から恋なんてしていない。5年前のあの日から、一度も……。あの日、私の中の何かが壊れてしまってからは一度も……。
そう思いながら、自分のお気に入りの場所に行く。日当たりが良くて、風がよく来る場所。
でも、そこには一つの人影があった。少しずつ近づいてみると、そこにいたのは……
「藤咲君!?」
そう、そこにいたのは藤咲君だった。
「桃山? なんでこんな所にいんの?」
彼もこっちに気付いたのか、私のほうに体を向けて不思議そうな顔をしながら聞いてきた。
「私は、サボった。授業集中できそうになくて」
今は藤咲君と私だけだし、いつも通りに話していいよね。
「藤咲君はどうしたの?」
藤咲君のサボったのかな? そう思いながら聞いてみる。
「俺は当然サボり」
予想通りの答えが返ってきた。
「同じだね」
そう言って私は笑った。
「そうだな」
すると、藤咲君も子供のような笑顔を見せてくれた。
その時、私の心臓が速くなっていることに気が付いた。
私、ドキドキしてる? まぁ、すぐに収まるよね。
私はまだ気づいていなかった。この正体に……。




