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恋の果実  作者:
20/21

救われた少年と救った天使

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 私は一生懸命笑顔を作った。

 今私は、華と彩ちゃんに対抗できず、嫌々メイドをしている。メイドが嫌というか、接客が嫌なんだよね。いつもにこにこしていないといけないし。私、ずっと笑ってるとか無理だし。

「おー!」

 どうして周りから歓声が聞こえるの? 華と彩ちゃんがいるからかな?

「桃山さん、めっちゃ可愛いよな」

 私!?

「さすが桜校のプリンセスだよな」

 プリンセス!? 拓海と一ノ瀬君もプリンスって言われてるよね。

「華、プリンセスって何!」

「拓海や蓮と同じで、この学校で人気のある生徒のこと。そのメンバーが、私と桜と彩なの」

「いつからそんなのが!」

 どうして私がそんなのに入ってるの?

「桜の性格が変わってきた日から。私と彩はもともとプリンセスって言われてたの。桜の性格が明るくなって、そのギャップが男子をノックアウトさせたことにより、桜もプリンセスの一人になったの」

 それでこんなにこの店人気があるんだ。学校のプリンセスが三人揃ってるんだから。


「桜、隣の執事喫茶に行かない?」

「うん」

 拓海の執事姿見てみたいし。

「彩も行こう」

「うん」

 私たち三人は、隣のクラスに向かった。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 本格的だなあ。

「こちらにどうぞ」

 私たちは案内された席に座った。

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

 そう言って、執事さんはどこかに行ってしまった。

「私はカフェオレ。二人はどうするの?」

「私はココア」

「私も」

「よし、決まり。すみませーん」

 華が近くにいた執事さんを呼び、注文した。

「ねぇ桜、桜は拓海と蓮、どっちが好きなの?」

 私は彩ちゃんをちらっと見た。

 それに気付いた彩ちゃんが、にこっと笑った。

「私のことは気にしなくていいよ。もっといい男見つけるから」

「彩ちゃん……」

「で、どっちが好きなの?」

 もう答えは決まってる。

「私が好きなのは---」

「お待たせいたしました。カフェオレでございます」

 タイミングよく、執事さんがカフェオレを持ってきた。

「蓮!」

 一ノ瀬君! 今の話、聞かれてないよね。

「いらっしゃい。華、桜ちゃん。それに、彩さんも」

「お久しぶり、一ノ瀬君。しっかりと会うのは、中学2年生以来ね」

 同じ中学だったんだし、顔知っててもおかしくないよね。

「桜ちゃん、久しぶり」

「うん、久しぶり」

 一ノ瀬君とは、あの屋上で話した日以来話してない。廊下とかであっても、私が避けてたから、話すのが気まずい。

「お待たせいたしました。ホットココアになります」

「拓海!」

 拓海、すごくかっこいい。

「桜ちゃん、3時に屋上に来て。話したいことがあるから」

 一ノ瀬君はそう私に耳打ちして、どこかに行ってしまった。

「桃山、どうかしたか?」

 ぼーっとしていたみたい。

「大丈夫だよ」

「本当に大丈夫か?」

「藤咲君、あいかわらず心配性ね」

 彩ちゃんが笑いながらそう言った。

「うるせえ」

 拓海、焦ってる? 可愛い。

 彩ちゃんと拓海も、少しずつ仲良くなってる。

「じゃあ、もうそろそろ戻ろうか」

「うん」

 私たちは会計を済ませて、教室に戻った。

「私、実行委員の仕事してくるね」

「早めに帰ってきてね。プリンセスが一人減るだけで、お客結構減るんだから」

「はーい」

 私は華たちと別れ、屋上に向かった。


「桜ちゃん、こっち」

「一ノ瀬君、どうしたの?」

 屋上にはもうすでに、一ノ瀬君が来ていた。

「ごめんね、忙しいのに。桜ちゃんに、伝えたいことがあるんだ」

 伝えたいこと?

「俺、小学3年生の頃いじめられてて、よく近くの公園で泣いてたんだ」

 いじめ……。

「ある日、その公園で俺は天使に出会った」

 天使?

「その天使はすごく明るくて、優しくて、いつも笑ってて、俺はその天使に一目惚れした。その天使は、俺を暗くて冷たい闇の中から、温かい光が当たる太陽の下に連れ出してくれたんだ。一人ぼっちだった俺に手を差し伸べて、一人じゃないって言ってくれた。俺が心の中にしまいこんでたものを、すべて出させてくれたんだ。俺の話を真剣に聞いてくれた」

 私も救われた。私も、一ノ瀬君と同じだ。

「それが桜ちゃん、君だよ」

「えっ!?」

 私が、一ノ瀬君を救った。

「俺、その天使に名前を聞いたんだ。そうしたら、桜って答えた。この高校で桜ちゃんを見たとき、もしかしたらって思った。桜ちゃん、公園で彩ちゃんに手を差し伸べてたでしょう。あのとき、昔の俺と彩さんが重なった。桜ちゃんの声と笑顔、それからあの光景で、俺は君があの頃の天使だと確信した」

 少しだけ覚えてる。学校帰りに近くの公園で男の子が泣いていて、ほうっておけなくて声をかけたんだ。泣きながら、自分の感じた苦しみを話してくれた。まさかあの男の子が一ノ瀬君だったなんて。

「桜ちゃん、俺桜ちゃんのことが好きだ。俺と、付き合ってください」

 私の好きな人は……。

「ごめんなさい。私には、他に好きな人がいます。だから、一ノ瀬君の気持ちには応えられません」

 もう、はっきりと決まってるから。

「そっか。はっきり言ってくれてありがとう」

 私、一ノ瀬君の気持ちに応えてないのに、お礼なんて言ってもらう資格ないよ。

「一ノ瀬君、こちらこそありがとう。私のこと好きになってくれて。それから、屋上で話した時ここにいていいって言ってくれて、心が楽になった。本当に、ありがとう」

「どういたしまして。俺、桜ちゃんにその気がなくても諦めないから。必ず、桜ちゃんを惚れさせてみせる」

 そう言って、一ノ瀬君は屋上から出て行った。

 ありがとう、一ノ瀬君。

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