救われた少年と救った天使
「おかえりなさいませ、ご主人様」
私は一生懸命笑顔を作った。
今私は、華と彩ちゃんに対抗できず、嫌々メイドをしている。メイドが嫌というか、接客が嫌なんだよね。いつもにこにこしていないといけないし。私、ずっと笑ってるとか無理だし。
「おー!」
どうして周りから歓声が聞こえるの? 華と彩ちゃんがいるからかな?
「桃山さん、めっちゃ可愛いよな」
私!?
「さすが桜校のプリンセスだよな」
プリンセス!? 拓海と一ノ瀬君もプリンスって言われてるよね。
「華、プリンセスって何!」
「拓海や蓮と同じで、この学校で人気のある生徒のこと。そのメンバーが、私と桜と彩なの」
「いつからそんなのが!」
どうして私がそんなのに入ってるの?
「桜の性格が変わってきた日から。私と彩はもともとプリンセスって言われてたの。桜の性格が明るくなって、そのギャップが男子をノックアウトさせたことにより、桜もプリンセスの一人になったの」
それでこんなにこの店人気があるんだ。学校のプリンセスが三人揃ってるんだから。
「桜、隣の執事喫茶に行かない?」
「うん」
拓海の執事姿見てみたいし。
「彩も行こう」
「うん」
私たち三人は、隣のクラスに向かった。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
本格的だなあ。
「こちらにどうぞ」
私たちは案内された席に座った。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
そう言って、執事さんはどこかに行ってしまった。
「私はカフェオレ。二人はどうするの?」
「私はココア」
「私も」
「よし、決まり。すみませーん」
華が近くにいた執事さんを呼び、注文した。
「ねぇ桜、桜は拓海と蓮、どっちが好きなの?」
私は彩ちゃんをちらっと見た。
それに気付いた彩ちゃんが、にこっと笑った。
「私のことは気にしなくていいよ。もっといい男見つけるから」
「彩ちゃん……」
「で、どっちが好きなの?」
もう答えは決まってる。
「私が好きなのは---」
「お待たせいたしました。カフェオレでございます」
タイミングよく、執事さんがカフェオレを持ってきた。
「蓮!」
一ノ瀬君! 今の話、聞かれてないよね。
「いらっしゃい。華、桜ちゃん。それに、彩さんも」
「お久しぶり、一ノ瀬君。しっかりと会うのは、中学2年生以来ね」
同じ中学だったんだし、顔知っててもおかしくないよね。
「桜ちゃん、久しぶり」
「うん、久しぶり」
一ノ瀬君とは、あの屋上で話した日以来話してない。廊下とかであっても、私が避けてたから、話すのが気まずい。
「お待たせいたしました。ホットココアになります」
「拓海!」
拓海、すごくかっこいい。
「桜ちゃん、3時に屋上に来て。話したいことがあるから」
一ノ瀬君はそう私に耳打ちして、どこかに行ってしまった。
「桃山、どうかしたか?」
ぼーっとしていたみたい。
「大丈夫だよ」
「本当に大丈夫か?」
「藤咲君、あいかわらず心配性ね」
彩ちゃんが笑いながらそう言った。
「うるせえ」
拓海、焦ってる? 可愛い。
彩ちゃんと拓海も、少しずつ仲良くなってる。
「じゃあ、もうそろそろ戻ろうか」
「うん」
私たちは会計を済ませて、教室に戻った。
「私、実行委員の仕事してくるね」
「早めに帰ってきてね。プリンセスが一人減るだけで、お客結構減るんだから」
「はーい」
私は華たちと別れ、屋上に向かった。
「桜ちゃん、こっち」
「一ノ瀬君、どうしたの?」
屋上にはもうすでに、一ノ瀬君が来ていた。
「ごめんね、忙しいのに。桜ちゃんに、伝えたいことがあるんだ」
伝えたいこと?
「俺、小学3年生の頃いじめられてて、よく近くの公園で泣いてたんだ」
いじめ……。
「ある日、その公園で俺は天使に出会った」
天使?
「その天使はすごく明るくて、優しくて、いつも笑ってて、俺はその天使に一目惚れした。その天使は、俺を暗くて冷たい闇の中から、温かい光が当たる太陽の下に連れ出してくれたんだ。一人ぼっちだった俺に手を差し伸べて、一人じゃないって言ってくれた。俺が心の中にしまいこんでたものを、すべて出させてくれたんだ。俺の話を真剣に聞いてくれた」
私も救われた。私も、一ノ瀬君と同じだ。
「それが桜ちゃん、君だよ」
「えっ!?」
私が、一ノ瀬君を救った。
「俺、その天使に名前を聞いたんだ。そうしたら、桜って答えた。この高校で桜ちゃんを見たとき、もしかしたらって思った。桜ちゃん、公園で彩ちゃんに手を差し伸べてたでしょう。あのとき、昔の俺と彩さんが重なった。桜ちゃんの声と笑顔、それからあの光景で、俺は君があの頃の天使だと確信した」
少しだけ覚えてる。学校帰りに近くの公園で男の子が泣いていて、ほうっておけなくて声をかけたんだ。泣きながら、自分の感じた苦しみを話してくれた。まさかあの男の子が一ノ瀬君だったなんて。
「桜ちゃん、俺桜ちゃんのことが好きだ。俺と、付き合ってください」
私の好きな人は……。
「ごめんなさい。私には、他に好きな人がいます。だから、一ノ瀬君の気持ちには応えられません」
もう、はっきりと決まってるから。
「そっか。はっきり言ってくれてありがとう」
私、一ノ瀬君の気持ちに応えてないのに、お礼なんて言ってもらう資格ないよ。
「一ノ瀬君、こちらこそありがとう。私のこと好きになってくれて。それから、屋上で話した時ここにいていいって言ってくれて、心が楽になった。本当に、ありがとう」
「どういたしまして。俺、桜ちゃんにその気がなくても諦めないから。必ず、桜ちゃんを惚れさせてみせる」
そう言って、一ノ瀬君は屋上から出て行った。
ありがとう、一ノ瀬君。




