未来へ
「桜、実行委員、頑張ってね」
「うん」
私は華にそう返事をし、委員会が行われる会議室に向かった。
ガラガラガラガラ
会議室の扉を開けると、数人の生徒が、もうすでに自分のクラスの席に着いていた。
これ、どういう席なの?
「桃山」
私が会議室の中をきょろきょろしていると、私を呼ぶ、小さな声が聞こえてきた。
私は声のした方を見た。
「藤咲君!」
そこには拓海の姿があった。拓海が手招きするので、私は拓海のもとに向かった。
どうやら、クラス順に席が決まっているらしい。
私は拓海の隣の席に座った。
「藤咲君、実行委員だったの?」
「サポートするって言っただろう?」
サポートするってこういうことだったんだ。話聞いてくれたりすることだと思ってた。
「言ってくれればよかったのに」
「内緒にしといたほうが、桃山の反応が面白いだろう?」
「意味わかんないよ!」
どうして私って、人に面白がられるんだろう? 華にもよく面白いって言われるんだよね。
「それではこれから、文化祭実行委員会を始めます。まず初めに、今回のクラス別の出し物について1年生から順に教えてください」
私からか。
「1年A組はメイド喫茶です」
「1年B組は執事喫茶です」
拓海のクラスは執事喫茶かあー。拓海の執事姿、かっこいいんだろうなあ。
次々クラス別の出し物が発表されていき、それで今回の実行委員会は終了した。
早く買い物に行かないと!
私は急いで教室に戻り、鞄を持って学校を出た。
間に合ってよかった。今日は野菜が安かったから、シチューにすることにした。
私が家に帰って食材を冷蔵庫に入れていると、携帯の着信音が鳴り響いた。
華からだ。なんだろう?
「もしもし、華? どうしたの?」
「桜、いまどこ?」
いつもの冷静な華じゃない。すごく焦ってる。どうしたんだろう?
「家にいるけど」
「拓海が、拓海が階段から落ちた」
拓海が、階段から落ちた? 偶然? それとも……。
「星川病院にいるから、すぐに向かって!」
「うん」
私はタクシーで、星川病院に向かった。
すでに病院には華が来ていた。
私は華に拓海がどこにいるのかを聞いた。そしたら、ある一つの部屋を指さしたので、私はそこの扉を開けた。
「藤咲君!」
拓海は椅子に座って、医師の治療を受けていた。
「桃山! どうしてここに」
「そんなことはどうでもいいの! 怪我は?」
骨折とかはしてなさそうだけど……。
「ただの捻挫だから、そんなに心配しなくて大丈夫だ」
よかった。
「外に華もいるんだろう? 待たせると怒るから、外に出るぞ」
こんなところにずっといたら、迷惑だよね。
私たちは部屋を出た。
「拓海、大丈夫?」
華が心配そうな顔でそう聞いた。
「捻挫だから大丈夫だ」
「そう」
「だが、階段から落ちる直前、誰かに押されたような感覚があったんだよな」
それってまさか、彩ちゃん……?
「とにかく、今日は早く帰ってゆっくり休もう」
華がそう言ったため、私たちは家に帰った。
私は予定よりも早く目が覚めた。
あんまり眠れなかったなあ。
ブー、ブー
マナーモードにしていた携帯が鳴っていることに気付き、私は画面を見た。
登録されていない電話番号。でも、これが誰からなのかはわかる。
「もしもし」
「おはよう、桜ちゃん」
「おはよう、彩ちゃん」
やっぱり、彩ちゃんか。
「こんな朝早くにごめんね。今日の7時30分に、あの場所に来てほしいんだけど、いいかな? 大切な話があるの」
「うん、わかった。それじゃあ、7時30分に」
私はそう言い、電話を切った。
今の時刻は6時。ぎりぎり間に合うかな。
私は朝食と、お弁当を作り始めた。
学校の準備ができたあと、朝食を済ませて、机の上に拓海の朝食とお弁当、手紙を置いて部屋を出た。
星川公園、それが彩ちゃんとの待ち合わせ場所。昔よく遊んだ、思い出の場所。
私が公園に行くと、一つの人影があった。
「お待たせ、待った?」
「大丈夫だよ」
彩ちゃんはにこっと笑った。
「拓海はどう? 階段から落ちたって聞いたけど」
よくそんなことが言えたものだ。
「何言ってるの? あなたが落としたんでしょう?」
「気付いてたの。そう、私が拓海を階段から落とした」
やっぱり。
「どうしてそんなことするの? 彼のことが好きなんでしょう?」
「あんたがいるからに決まってるでしょう。また、私の邪魔をするの? 拓海は私のものだったのに、あんたが奪ったのよ!」
「拓海を落とせば、自分のせいで拓海を傷つけたと気付いて引き下がってくれると思ったんだけど、予想外ね」
そんなことのためだけに、拓海を階段から落としたの? そんなくだらないことのために。
「馬鹿にしないで。私は昔と違う。昔みたいな、逃げてるだけの私じゃない。藤咲君のこと好きなんでしょう? どうして自分の好きな人を傷つけるの? 好きなら、その人の幸せを願い、するものでしょう。これ以上、誰かが傷つくのは見たくないの。華も、藤咲君も、クラスのみんなも、彩ちゃんも」
自分の気持ちを素直に。
「私ね、藤咲君から彩ちゃんのこと聞くまで、怖いっていう思いが強かった。でも、藤咲君から話を聞いて、彩ちゃんの気持ちが少しわかったような気がしたの。彩ちゃん不器用だから、自分の気持ちをうまく伝えられなかっただけ。藤咲君との約束を破ったのだって、何か理由があるんでしょう? 自分に嘘、ついちゃだめだよ。嘘つくと、間違った方向に歩いて行っちゃうから。私ね、彩ちゃんに感謝してるの。彩ちゃんのおかげで、私はここまで強くなれたと思う。ありがとう、彩ちゃん。一緒に学校、行こう」
そう言って、私は手を差し出した。
「昔、彩ちゃんもこうやってやってくれたよね。私が泣いてるときに」
「そういえば、そんなこともあったね」
彩ちゃんは私の手を握った。
「行こう、学校」
「うん」
私たちは走り出した。新たに動き出した未来へ。




