封印された過去
「桃山!」
「藤咲君!」
後ろを振り向くと、拓海がこちらに走ってきた。
「ちょっと、華に用事があって。呼んでくれるか?」
学校で華と話すなんて珍しいなあ。
華は拓海と一瀬君との関係を隠してるから、当然学校で話すなんてこともしない。話すとしたら電話かメールで。直接話すことはない。
「わかった。教室にいるはずだから、ちょっと呼んでくるね」
私は拓海にそう言い、教室にいるはずの華を呼びに行くために、教室に入った。
「藤咲君」
そこに、彩ちゃんがいたことも気付かずに……。
「華、藤咲君が呼んでるよ」
私は、自分の席で本を読んでいる華にそう伝えた。
「えっ! 拓海が?」
華が目を丸くしながらそう言った。
華が驚いてるってことは、華も拓海が何の用で来ているのかは心当たりないんだ。急用だったのかな?
「うん」
「わかった。教えてくれてありがとう、桜」
華はそう言って、廊下に走って行った。
「桜ー」
廊下に行ったはずの華が戻ってきた。
話をしたにしては短すぎる。まだ一分も経ってないし。
「華、藤咲君と話した?」
「拓海、廊下にいなかったよ?」
待っててって言ったし、拓海は勝手にいなくなるような人じゃないし。どうしたんだろう?
「私、探してくる」
今は昼休みで、まだ15分ほど時間もあるから、次の授業までには戻ってこれる。
「桜!」
私は無意識のうちに走り出していた。
さっきから、胸騒ぎがする。どうしてだろう?
私は、拓海の教室、中庭、使われていない空き教室、いろいろなところを探したけど、どこにも拓海の姿はなかった。
「残りは、屋上」
あと拓海がいそうな場所って言ったら、屋上しかない。
私は急いで屋上に向かった。
屋上に行ってみると、話声が聞こえてきた。
「拓海、どうして私と別れたの?」
この声、彩ちゃん? それに、別れたってどういうこと? 彩ちゃんってもしかして、拓海の彼女?
「本田、その呼び方はやめろ。俺はもう、お前の彼氏じゃない」
彼氏……。その言葉が、私の胸に突き刺さった。ずっと憧れてた言葉。でも今は、その言葉を聞くと胸が苦しい。
「私、まだ拓海が好き。忘れられないの」
あんなにかっこいいんだもん。好きになるよね。彩ちゃんと拓海なら、すごくお似合いのカップルになるんだろうな。
「悪いが、俺はもうお前のこと好きじゃない。それから、先に裏切ったのはそっちだ。別れた理由が分からないと言うのであれば、自分の今までの行いを振り返ってみろ」
いつもよりも数段低い声。それに、すごく冷たい。
やばい! 拓海、こっちに来る。
私はとっさに物陰に隠れた。
「桜、いるだろう?」
ばれてる!
私は隠れるのをやめ、拓海の前に出た。
「全部、聞いてた?」
「ごめんなさい、盗み聞きする気はなくて」
そう言いながら、私は頭を下げた。
「いいよ、別に。桜、今日家に帰ったら話があるんだけど、いいかな?」
やっぱり、彩ちゃんのこと?
「うん、大丈夫」
私たちは気付いていなかった。彩ちゃんが私たちの話を聞いていたことに、またあの恐怖を味わうことになることに。




