恐怖の前触れ
この前は、本当に危なかった。たぶん、拓海が来なかったら、ずっとあそこで泣いていたと思う。
さて、長い夏休みが終わり、今日から学校。
私が教室に行くと、いつも通り、グループをつくり、夏休みの話をみんな楽しそうに話していた。
「桜!」
私がかばんを片付けていると、華が私の席に来た。
「どうしたの?」
今日の華、いつもと様子が違う。
すごく、焦ってる。
「桜、ちょっと話があるの」
華はそう真剣な表情で言った。
「何?」
私は動かしていた手を止め、華の目を見ながら、そう聞いた。
「桜最近ーー」
キーンコーンカーンコーン
華の声をかき消すかのように、チャイムが教室に鳴り響いた。
「華、話はこのあと聞くね」
「うん……」
そう言い、華は自分の席に戻って行った。
ガラガラガラ
「では、今日はさっそく転校生を紹介する」
先生は入ってくるなり、そう口に出した。
その瞬間、クラスの落ち着いた雰囲気が一気に変わり、ざわざわとしたものになった。
「入ってこい」
ガラガラガラ
みんなドアのほうに目を向けて、入ってきた少女を見て、みんな周りの子といろいろ言っている。
だけど、私はそんな気にはなれなかった。だってその子は……。
「本田彩です。今日からこの学校に通うことになりました。これからよろしくお願いします」
「なんで? なんで、ここにいるの?」
体の震えが止まらなかった。
彼女は本田彩。かつての私の友人の一人。私や華と同じ小学校に通っていた。だけど、小学5年生の冬に転校した。そして、私を裏切り、いじめた張本人。
私は固まったまま動けなかった……。
「じゃぁ本田の席は……桃山の隣だ」
嘘! 先生、なんでよりによって私の隣なの!?
「桜ちゃん!? 久しぶり! 元気だった?」
どうして、嫌そうな顔しないの? 私のこと、嫌いなんでしょう? 邪魔なんでしょう? でも、ここで挨拶しとかないと、変に思われちゃうよね。みんなの視線も、こっちに集中してるし。
「うん、久しぶり。5年ぶりだね」
「そうだね」
私はうわべだけの笑顔を必死につくった。
「おーい。本田、はやく席に着け」
「はーい」
彼女は先生にそう返事をし、自分の席に着いた。
「あー。もうすぐ文化祭がある。我が校をアピールする場でもあるから、気合いを入れて、みんな頑張ってくれ。それから、文化祭の実行委員を決めなくてはならんので、やりたい者は、先生のところに来るように」
「はーい」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、みんな次々と彩ちゃんの席に集まってきている。
ここも邪魔になりそうだ。
私はそう思い、華のところへ向かった。
「華! さっきの話って何?」
チャイムが鳴ったせいで、声が聞こえなかった。周りもうるさかったし。
「桜、ちょっと来て!」
華は私の腕をつかみ、屋上まで連れてきた。
「華、こんなところまで来たら、授業、間に合わなくなっちゃうよ」
「授業なんていいの!」
華が珍しく、大声を出した。
やっぱり今日の華、いつもと様子が変だ。
「桜、最近無理してない?」
無理、してるかもしれない。でも、これは私の問題だし、華に心配かけるわけにはいかない。
「無理なんてしてないよ」
「ほら、また嘘ついた」
また? 私華に嘘なんて……。いや、ついたか。あのときに。
「蓮が教室に来たとき、桜授業さぼったでしょう? 桜、あのとき泣きそうな顔してた。声も平気って感じじゃなかったし。なんで相談してくれないの? 私たち、親友でしょう?」
親友……。そうだね。華はいつも、私の傍にいてくれたね。あのときも……。
「そうだね。ごめんね、華」
「桜だから許す」
華は笑顔でそう言ってくれた。
華、ありがとう。華が親友でよかったと、あらためてそう思うよ。
「ところで、本田彩のこと、大丈夫?」
あっ……。
私は下を向いたまま、黙りこんでしまった。
「無理、しちゃだめだよ? 何かあったら、私にちゃんと相談するんだよ。私はいつでも、桜の味方だから」
「うん。ありがとう、華」
彩ちゃんのことは気になるけど、きっと大丈夫だよね……。




