過去の恐怖
やっぱり夏休みは長くていい。1日中のんびりできる。だけど、その夏休みも残り1週間。
まぁ、夏休みの最後に急いでやる人もいるみたいだけど、私は夏休みが始まってから1週間で、夏休みの宿題を終わらせたから大丈夫! 楽しい夏休みを、勉強なんかでつぶされるなんて嫌だし。やっぱり夏休みはイベントを楽しまないと。
そして今日は夏休み最大のイベントである、花火大会! 楽しみだなぁー。
ブー、ブー。
マナーモードにしてあった携帯が、ズボンのポケットの中で震えた。
びっくりした、華からだ。
「もしもし。華? どうしたの?」
もうそろそろ花火大会の支度しないとやばいんだけど。
今の時刻は5時30分。花火大会は7時からだから、それまでに浴衣に着替えたり、藤咲君のご飯を作っておかないといけない。
「桜ごめん。今日の花火大会、用事でいけなくなっちゃった」
「えー!」
楽しみにしてたのに。
「用事ならしょうがないよ」
急用なんだろうし。
「桜、本当にごめんね。この埋め合わせは絶対するから」
「うん。全然大丈夫だよ。じゃぁね」
ブチッ
電話が切れたあと、私は床に寝転がった。
はぁー。花火大会どうしよう。やっぱり諦めるしかないのかな。
「ただいま」
玄関から、藤咲君の声が聞こえてきた。
「おかえり。今日はバイト早かったんだね」
いつもなら、夜の9時ぐらいに帰ってくるのに。
「今日は花火大会があるからって、店長が早めに帰らせてくれたんだ。高校生なんだから、今日ぐらい楽しんで来いって」
店長さん優しい。
「じゃぁ藤咲君、誰かと一緒に行くの? 一ノ瀬とか」
二人仲いいし、一緒に行くのかな?
「誰とも行かないよ」
そう言って藤咲君は笑った。
でも、いつもの子供のような笑顔でも、優しい笑顔でもない。うわべだけの、笑顔……。
「桃山は、誰と見に行くんだ? 華とか?」
それを今だけは聞かれたくなかった。テンションが下がる。
「華と行く約束してたんだけど、華、急用ができたみたいで、いけなくなっちゃったの」
せっかく楽しみにしてたのに。
「桃山、花火大会行きたい?」
「もちろん!」
だって、夏休み最後のイベントだもん。
「じゃぁ行こうか」
「えっ!?」
行こうって、花火大会に? 藤咲君と?
「桃山、楽しみにしてたんだろう? なら行こう! なっ?」
たしかに、最後のイベントを、しかも夏休み最大のイベントを楽しまないのは嫌だ。
「うん、行く!」
時計を見ると、6時ちょっと過ぎ。
やばい!
「じゃぁ俺向こうで着替えてくる。桃山もはやく着換えろよ」
着替えるってことは、藤咲君浴衣着るのかな?
「うん」
藤咲君は別の部屋へと行ってしまった。
私もさっさと着替えよ。
「藤咲君、お待たせ」
結構時間がかかってしまった。
「おう!」
藤咲君、ものすっごくかっこいい。
今の藤咲君の格好は、紺色の浴衣を着ていて、いつもの雰囲気と、なんか違う。
「桃山、行くぞ」
「うん」
花火大会の会場は、私の家の近くのため、歩いて10分くらいで着く。
学校からも近いためか、同じ学校の人も少なくはないだろう。たぶん、ばれない。恰好だって、学校の私が着るような感じじゃないし。そのはずなのに、どうしてこんなに、胸騒ぎがするの?
「結構人多いんだな」
「うん。ここの花火大会、学校からも近いし、同じ学校の人も結構来てるんじゃない?」
「ふうーん」
そう言いながら、藤咲君は辺りを見渡している。
どうしたんだろう?
「桃山、ちょっとここで待ってて」
「うん」
そう言って、藤咲君は屋台のほうへと走って行った。
私は近くにあった木にもたれながら、藤咲君を待った。
「桃山ー」
どこからか、藤咲君の声が聞こえてきた。しかし、辺りを見渡しても、藤咲君の姿が見当たらない。
ふと前をみると、猫っぽいお面をつけた人がこっちに向かってきた。
誰!?
「桃山、俺だよ」
そう言って、お面をつけた人が、お面をとった。
「藤咲君! なんでお面なんてつけてるの?」
その変な人の正体は、藤咲君だった。
「学校の人間とかに見られたら騒がれるし、それに桃山と一緒にいるなんて知ったら、女子がうるさいだろう? 桃山、そういう格好見られたくないみたいだしな。
キュン
藤咲君、私のこと考えてやってくれたんだ。なんか、すごく嬉しい。
「ありがとう」
やっぱり藤咲君優しいや。
「じゃぁまず、花火を見る場所、見つけてこようぜ」
「うん」
場所、空いてるかな?
「あっ! 桃山あそこ空いてる」
藤咲君が見つけたところには、ちょうど二人が座れそうなくらいのスペースがあった。
「本当だ」
私たちはそこに座った。
空いててよかった。
「花火もうすぐだよね」
「うん、楽しみー」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
私がふと後ろに振り向くと、忘れることのない二人の女の子の姿があった。
彼女たちは、同じ学校の人ではない。でも、私ははっきりと覚えている。彼女たちは……昔私をいじめたうちの二人だった。
私は彼女たちの姿を見た瞬間、走り出していた。
「桃山!」
藤咲君の声も、もう私の耳には届いていなかった。




