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恋の果実  作者:
10/21

過去の恐怖

 やっぱり夏休みは長くていい。1日中のんびりできる。だけど、その夏休みも残り1週間。

 まぁ、夏休みの最後に急いでやる人もいるみたいだけど、私は夏休みが始まってから1週間で、夏休みの宿題を終わらせたから大丈夫! 楽しい夏休みを、勉強なんかでつぶされるなんて嫌だし。やっぱり夏休みはイベントを楽しまないと。

 そして今日は夏休み最大のイベントである、花火大会! 楽しみだなぁー。

 ブー、ブー。

 マナーモードにしてあった携帯が、ズボンのポケットの中で震えた。

 びっくりした、華からだ。

「もしもし。華? どうしたの?」

 もうそろそろ花火大会の支度しないとやばいんだけど。

 今の時刻は5時30分。花火大会は7時からだから、それまでに浴衣に着替えたり、藤咲君のご飯を作っておかないといけない。

「桜ごめん。今日の花火大会、用事でいけなくなっちゃった」

「えー!」

 楽しみにしてたのに。

「用事ならしょうがないよ」

 急用なんだろうし。

「桜、本当にごめんね。この埋め合わせは絶対するから」

「うん。全然大丈夫だよ。じゃぁね」

 ブチッ

 電話が切れたあと、私は床に寝転がった。

 はぁー。花火大会どうしよう。やっぱり諦めるしかないのかな。

「ただいま」

 玄関から、藤咲君の声が聞こえてきた。

「おかえり。今日はバイト早かったんだね」

 いつもなら、夜の9時ぐらいに帰ってくるのに。

「今日は花火大会があるからって、店長が早めに帰らせてくれたんだ。高校生なんだから、今日ぐらい楽しんで来いって」

 店長さん優しい。

「じゃぁ藤咲君、誰かと一緒に行くの? 一ノ瀬とか」

 二人仲いいし、一緒に行くのかな?

「誰とも行かないよ」

 そう言って藤咲君は笑った。

 でも、いつもの子供のような笑顔でも、優しい笑顔でもない。うわべだけの、笑顔……。

「桃山は、誰と見に行くんだ? 華とか?」

それを今だけは聞かれたくなかった。テンションが下がる。

「華と行く約束してたんだけど、華、急用ができたみたいで、いけなくなっちゃったの」

せっかく楽しみにしてたのに。

「桃山、花火大会行きたい?」

「もちろん!」

だって、夏休み最後のイベントだもん。

「じゃぁ行こうか」

「えっ!?」

行こうって、花火大会に? 藤咲君と?

「桃山、楽しみにしてたんだろう? なら行こう! なっ?」

たしかに、最後のイベントを、しかも夏休み最大のイベントを楽しまないのは嫌だ。

「うん、行く!」

 時計を見ると、6時ちょっと過ぎ。

 やばい!

「じゃぁ俺向こうで着替えてくる。桃山もはやく着換えろよ」

 着替えるってことは、藤咲君浴衣着るのかな?

「うん」

 藤咲君は別の部屋へと行ってしまった。

 私もさっさと着替えよ。

「藤咲君、お待たせ」

 結構時間がかかってしまった。

「おう!」

 藤咲君、ものすっごくかっこいい。

 今の藤咲君の格好は、紺色の浴衣を着ていて、いつもの雰囲気と、なんか違う。

「桃山、行くぞ」

「うん」

 花火大会の会場は、私の家の近くのため、歩いて10分くらいで着く。

 学校からも近いためか、同じ学校の人も少なくはないだろう。たぶん、ばれない。恰好だって、学校の私が着るような感じじゃないし。そのはずなのに、どうしてこんなに、胸騒ぎがするの?

「結構人多いんだな」

「うん。ここの花火大会、学校からも近いし、同じ学校の人も結構来てるんじゃない?」

「ふうーん」

 そう言いながら、藤咲君は辺りを見渡している。

 どうしたんだろう?

「桃山、ちょっとここで待ってて」

「うん」

 そう言って、藤咲君は屋台のほうへと走って行った。

 私は近くにあった木にもたれながら、藤咲君を待った。

「桃山ー」

 どこからか、藤咲君の声が聞こえてきた。しかし、辺りを見渡しても、藤咲君の姿が見当たらない。

 ふと前をみると、猫っぽいお面をつけた人がこっちに向かってきた。

 誰!?

「桃山、俺だよ」

 そう言って、お面をつけた人が、お面をとった。

「藤咲君! なんでお面なんてつけてるの?」

 その変な人の正体は、藤咲君だった。

「学校の人間とかに見られたら騒がれるし、それに桃山と一緒にいるなんて知ったら、女子がうるさいだろう? 桃山、そういう格好見られたくないみたいだしな。

 キュン

 藤咲君、私のこと考えてやってくれたんだ。なんか、すごく嬉しい。

「ありがとう」

 やっぱり藤咲君優しいや。

「じゃぁまず、花火を見る場所、見つけてこようぜ」

「うん」

 場所、空いてるかな?

「あっ! 桃山あそこ空いてる」

 藤咲君が見つけたところには、ちょうど二人が座れそうなくらいのスペースがあった。

「本当だ」

 私たちはそこに座った。

 空いててよかった。

「花火もうすぐだよね」

「うん、楽しみー」

 後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 私がふと後ろに振り向くと、忘れることのない二人の女の子の姿があった。

 彼女たちは、同じ学校の人ではない。でも、私ははっきりと覚えている。彼女たちは……昔私をいじめたうちの二人だった。

 私は彼女たちの姿を見た瞬間、走り出していた。

「桃山!」

 藤咲君の声も、もう私の耳には届いていなかった。

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