この道、あの道、Vの道
好きなタイプの精神性してる男の主人公Vモノを見て、見返して。書きたくなったので書きました。
VTuber、という職がある。俺はそれを、なりきりやRPで生きていると認識している。今でもそう認識しているし、現に思っているのだが……⸺。
「⸺最近の趣味は、ドットの回転モーションを作ること。どうも、ふりーだむわーるど所属のアルクシス・フェンネアです」
《こんばんはー》
《こんアルク〜》
《回転て》
《今日は何するの?》
「今日は、自作ゲームの序章をプレイしていこうと思います。プレイ中にも表記させますが、配信終了後にフリーゲームサイトに投稿する予定です」
《出来たんだ!?》
《噂の自作ゲームか》
《マジか。全裸待機します》
《RPGだっけ? 作ってたのって》
「今回制作したゲームはRPG。で、先に白状します。百合です。シナリオ提供者が依頼当時百合にハマっていたので、百合です」
《ほう……?俺も全裸待機しようじゃないか》
《アルフェのゲームのシナリオ提供者、奴とは良い酒が飲めそうだ》
《気になる〜》
「では、早速初めて行きます」
⸺今日この瞬間以上に、そう強く思う事は無いだろうと、俺は思った。
◇◆◇◆◇
そもそもの事の発端は、一ヶ月前まで遡る。
高校卒業を機に、実家を出たいが一人暮らしはどうかという考えから、始まった双子の弟との同居。それも二年ほど経ち慣れた頃……その日、弟宛の郵便物を受け取り、弟の部屋の中まで持っていこうと入室したのだ。荷物を抱えていたのでノックは足で軽く蹴るという方法を取ったが、姉とはそういう生き物だ。
⸺その時、オンライン会議をしていた。画面を見る気は無かったのだが、目に入ってしまった。スーツ姿やラフな姿、だが、アイコンオンリーの参加者の方が多かった。
そして弟のアイコンであろうそれは、最近フォロワーがたまにファンアートを描いたり拡散しているVTuberで。
「へぇ、それお前なんだ。納得」
「うん、そう…………⸺は、姉ちゃん?!」
一応、配信系を始めたことは知っていたが、具体的な事は聞いていなかった。だから、「あぁソイツがお前のアバターなんね。道理で俺のTLにファンアートが流れてくる訳だ。趣味が似通ってるもん」という思考の元、その人物の中の人が弟なのかという納得がいったのだ。
「なんで、部屋……!?」
「見れば分かるだろ、お前宛のダンボール抱えてんの。あとノックはした、足で」
「いや足でノックするなよっ!?」
俺が抱えたダンボールを奪い取りながら、俺を部屋から追い出そうとするが、折角の面白い場面。弟を弄る要素として部屋から退出するのは負けである。抵抗した。
『⸺アレクシスさん? 大丈夫ですか?』
「え、あっ。はい! 大丈夫です会議中だったのでまだ良かった姉フラです! すみませんちょっとミュートにします」
『いいんじゃね? このままで』
姉弟の醜い攻防戦をしていると、通話相手の一人であろう男性の声が聞こえた。我が弟がマイクをOFFにしようと攻防を一度止めてパソコンに向かうが、それを止める声が続いた。光った画面から、恐らく弟の同業者だろう。
『………そうですね。以前仰っていた、お姉さんですよね? でしたら………少々、話してみたかったのです。いいですね、アレクシスさん』
「いや…あの………」
「いーじゃん。面白そう。代わりに我が弟の仕事ぶりでも聞かせてもらっても?」
「姉ちゃん!!!」
『えぇ、それで宜しければ』
「椎木さん!?」
弟が騒がしくしている最中、普段は弟が座っているであろうゲーミングチェアに我が物顔で座る。おぉ……いい椅子だ。俺もこれ買おうかな。
『実は今、弟さんが所属している集まりで、視聴者や先輩・後輩を対象にしたドッキリを出来ないかと企画しておりましてですね………話を聞いたところ、お姉さんは弟さんの声真似が出来るのですよね?』
「えぇ………⸺ん”ん。このような感じに」
『素晴らしい。それで何ですが、報酬をお渡しするので、1配信だけ、弟さんのフリをして頂けますか?』
「なるほど……少し考えます」
椎木さん、と呼ばれた男性との会話の最中から聞こえていた弟の叫びを完全シャットアウトし、思考の海へと潜る。
弟が俺の話をしていた。まぁ、これはいい。俺自身、話のタネになりうる要素があることは自覚している。
で、ドッキリ企画……な。ふむ……………面白そうだ。是非、乗っかりたいと思う。なら、弟のVのキャラを把握するのに掛かる時間………あぁ、このチャンネルだな。さて、アーカイブ数は………なるほど。
「⸺二、三週間ほどアーカイブ視聴のためのお時間を頂ければ、可能です」
「姉ちゃん!!!」
『………なるほど。ではその様に。それでは、この通話アプリのIDは後ほど弟さん経由で交換させて頂きますね』
「分かりました」
そんなこんなで、俺の予定が決まった。
◇◆◇◆◇
「『そ、そんな……私の、家が……』、『絶望している暇、あるの? これで終わりだと、思っていたの?』」
《何その声の切り替え》
《初見です。これいつも聞けるんですか?》
《いや知らん》
《まさかあのアルフェがこんな特技まで持っているとは》
何度か予行練習として椎木さんや他の方に聞いてもらったが、総じて「完全に一致しすぎて違和感が無い」との言葉を頂いたので、俺である証拠として、ゲーム製作者の筈なのにシナリオやマップを完全に忘れている(実際に俺は初見だ)、台詞読みが上手い、という普段とは違う違和感を混ぜて配信する事になった。
「うわぁ………あ、強制セーブ。⸺っていう事で、今日の先行プレイ配信はここまでとなります」
《マジかここで!?》
《いつもより画面変更が早い。別人か?》
《それで別人は草↑》
《気になる所で終わるじゃん》
「なんだけど………皆、いつもの俺と違和感あった?」
《え、なに?》
《無かったが》
《強いていうならすげぇ忘れてんなって》
《あー……最近は違うけど、初期の頃のボイス棒読みだったな。今思い出したけど》
「え、初期の頃棒読みなん? うっわそれサーチしてなかった………マジか。道理で台詞読みで違和感になるって言われた訳だ」
《は?》
《マジの別人?》
《なんか声ちょっと高くなった?》
《誰だお前》
思わぬ情報を拾ってしまい、ついうっかり地声が出てしまった。まぁ、どうせ今すぐにネタバラシするからいいか。
「……はぁ。と、いうことでネタバラシです。来いテメェ」
「どーも。本当の最近の趣味はドットのままエロシーンを作れないか試行錯誤する事。ふりーだむわーるど所属のアルクシス・フェンネアです」
《うわいつものアルフェだ》
《え、二人?》
《本当の趣味のがヒデェw》
《もしかして:姉?》
「そ。何度か話したことのある、俺の姉。色々あって今回のドッキリに手伝って貰いました」
「褒美は焼肉な。チェーンの」
「ほんと姉ちゃん質より量だよな」
《ガチ姉!?》
《RPや朗読の声が煩くて実家に簡易的な防音室を作る原因になった人だっけ》
《え、まって。これ地声?惚れそう…》
《イケメン女子の声だ…》
肉は食える内に食うんだ。肉の油で胸焼けする老化が始まる前までに食うのさ。
てか弟よ、俺の若干の黒歴史をバラすのは止めてくんねぇ?
「案外、イケるもんだねぇ……違和感持たれてたけど」
「だなぁ……俺は反対だったのに」
「マネージャーさん、すっごく乗り気だったよねぇ」
「姉ちゃんもだろうが!!!」
《草》
《あ、マジの姉だ》
《アルフェのツッコミ気質、姉からか》
《姉ちゃん呼び助かる》
「……あ、ママからだ」
「え、母さん?」
「ちげーよ! さっきまでお前が被ってたガワを生み出した人!」
「あぁ、そっか。そういう文化あったね」
「姉ちゃん主ジャンルVの者じゃねぇからな……」
《被ってたてw》
《お姉さんから感じる…アルフェの血を!》
《草、振り回されてるじゃん》
《同期のボケより苦労してない?w》
「……………言っていいから、読んで。ガタイのいい男の声で」
「いいけど……『アルフェ君、君の姉のママになりたい。もしも親を探しているなら、私が立候補する』……なんこれ」
「LIQUEURママのいつもの求愛行動」
「ええ………」
《草》
《LIQUEURのママニキ、ガタイいいんだよなぁ》
《あの人ぽんぽこ産んでるのに一番長生きしてるのがアルフェだけなんだよな…》
《何故かな…》
「因みに………あ来た。これは言っちゃだめね」
「……………………は?」⸺ガゴンッ
《大丈夫? 今凄い音したけど》
《まって低音困惑ボイスは俺に刺さる》
《なんだ、何を見たんだ?》
《だいじょーぶかー?》
まって、まって………これ衝撃の事実過ぎて無理。え会議? これ四年ぶりの開催案件では? ん、ん???まってどうしたらいいのこれ……。
「平気平気。まぁ、この件の詳細はいつか話せたらいいかもね」
「これ、話せるのかなぁ……まぁ、うん。うん。………うん」
《姉ガチ困惑してんだけど》
《大丈夫?ほんとに話せる?》
《聞きたいね……いつか》
《いつになるかな》
***
『椎木君、例の配信見たよ。彼女、凄いね』
「えぇ、本当に。普段からTRPGをやっていたりするそうで、その趣味が積み重なったそうです」
『なるほどなるほど………アレクシス君経由で、彼女にこのURLを送ってくれるかい?』
「………これって、5期生募集の。まさか⸺」
『⸺勿論、公平に判断はするさ。でも、その上で合格したら……面白いと思わないか? 椎木君』
「えぇ、本当に。………贔屓は無しですよ? 社長」
『あっはっは! 私が贔屓無しなのは視聴者諸君も良く知っているじゃないか! それと、私の元まで判断が来る時点で最終まで残ってるじゃないか』
「………はぁ」
***
例の配信から、三日後。
私と弟は、実家に帰省していた。
「えー……コホン。四年ぶり、第三回新堂家家族会議を始めます。議会主は私、娘の銘が務めさせて頂きます」
例の親父のポーズ(サングラス掛けて、肘立てて手を重ねてる奴。なお未だに俺は本家を見たことが無い)をしながら、神妙な声で会議を始める。いやー……本当。まさか私が議会主を務めることになるとは。
「今回招集した最大の理由です。こちらをご覧下さい」
とあるイラスト投稿サイトのユーザーページが開かれたスマホ画面を机の真ん中に置く。ユーザー名には、『LIQUEUR』と書かれている。フォローされている事には、一旦目を瞑る。
「これは貴方ですよね? 親父殿」
「そうだお☆」
「……あ”?」
「やめて娘なのに知らない男のガチギレボイスは流石に怖い」
そう。我が弟のV体を生み出したのは……我が父である。というか、このLIQUEURという絵師。俺の癖の絵を描くのでフォローしていた。というか何度か有償でTRPGのキャラクター立ち絵依頼をしたこともあった。
父がイラストレーターやっているのは知っていた。なのに……どうして。
「⸺あら。なら、これに便乗して白状してもいいかしら? 特に鞍麻に言いたいのだけど」
「え、何母さん」
「私のSNS名義は人沼ン。貴方のゲームにシナリオを提供している人よ、鞍麻」
「…………は?」
【速報】我が家族揃って弟氏の仕事の関係者になった模様【ガチ】
………より、地獄が生まれてしまったか。
主人公
新堂 銘
ネット活動名:特に無し
19歳 大学生(スーパーのレジ打ちと居酒屋バイトを掛け持ちしている)
趣味:TRPG・朗読
弟
本名:新堂 鞍麻
ネット活動名:アレクシス・フェンネア
19歳 大学生(VTuber)
趣味:ゲーム制作
父
本名:新堂 錬治
ネット活動名:LIQUEUR
47歳 イラストレーター
趣味:Vの母になること
母
本名:新堂 来海
ネット活動名:人沼ン
46歳 事務パート
趣味:執筆活動




