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Destiny・Wars  作者: 梅院 暁
第二章 ~謹慎~
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第六話

 昨日、私は二十歳を迎えました。

 昨日中に更新しようと頑張ったのですが……何故か書けば書くほど切りのいいところに辿り着かず、気が付いた時には、八千字を越えてました(てへっ♪)。


 でも、よく考えたら、第四話と五話が結構短めだったので気にしないことにしました。

「よし、これが終わったら休憩にするぞ。気合を入れろ!」

 親方の掛け声に「おうっ」と短く答え、パーシヴァルは両手で持つ(つち)を頭上まで高く振り上げた。

 パーシヴァルの身長程もある長い柄の先に円柱状の鉄塊を付けたそれは、慣れない者が扱うと重心を上手く取ることが出来ず、振り回すのもままならない。

 しかし、長年触れ続けてきたパーシヴァルにとって、それはすっかり手に馴染んだものだった。左足を前に出し、どっしりと両足を固定して上半身を支える。

 親方が()に金鋏を突っ込んだ。燃え盛る炎の中から取り出されたものは、真っ赤に発光する直方体の物体。その正体は、炉の中でずっと熱されていた鉄塊だ。

 親方は左手に持つ金鋏で掴んだままの素材を金床の上に運び、右手に金槌――こちらは、片手で扱える大きさである――を握り締め、

「叩け!」

 と、命じた。

 パーシヴァルは勢いよく槌を振り下ろした。金属同士が衝突し、高い金属音を響かせながら火花を散らせる。

 パーシヴァルの腕が上げられると、すぐさま親方の槌が数回、金属を叩く。親方が叩き終えたときには、すでにパーシヴァルは先程とまったく同じ姿勢に戻っていた。再び槌を振り下ろし、親方がさらに金属を叩く。

 何度か同じことを繰り返すと、高熱の中でも直方体を保っていた金属の形状も少しずつ変形していく。薄く、細長く、そして先端は鋭く。

 形が整うと、親方は叩くのを止めて、張った水の中に金属を入れた。熱してあった金属は急激に冷却され、逆に水が熱されて蒸気が発生する。

 あとは、出来上がったものを砥石で砥ぎ、刃を形成するのだ。ただし、金属から完全に熱が抜けるまでに時間が掛かるので、今のところ作業はここまでである。

 パーシヴァルは槌を床に下ろし、頭に巻いている布を取った。布の中に収まっていた黒髪が下ろされ、炎が反射して橙色に光る。額の汗を布で(ぬぐ)うが、作業場は熱気に包まれ、立っているだけで次々と汗が流れてくる。

「よし、先に昼飯済ませるぞ」

 道具を整理していた親方が宣告し、立ち上がった。

 二人が作業場から出ると、すでに何人かの職人達が食べ始めていた。彼らは二人の姿を認めると、「お疲れ様です」「先に頂いてます」などと言って出迎えた。

 パーシヴァルが定位置に座ると、料理が並べてあった。料理とはいっても、少し硬く焼かれたパンとチーズ、そしてカブやニンジンといった野菜を干し肉と一緒に煮込んだスープという簡素な内容だ。とはいえ、味は決して悪くなく、むしろパーシヴァルは結構気に入ってたりする。

 料理を口に運んでいる間、職人衆から今回の謹慎についていろいろ聞かれた。

「そういや、この間の喧嘩が原因なんだって?」

「まぁね」

 と、パンを千切って口に放り込む。

「でも、相手の方は特に何も言われてねぇらしいじゃねぇか。おかしくねぇか?」

「それがよ、そいつお偉い貴族の息子らしくてな。父親に泣き付いてもみ消してもらったらしいぜ……なぁ、パーシヴァル?」

「そこまでは知らないよ。ま、可能性としてはありだけどな」

 と、スープを(すす)る。

「だとしたら、そいつは随分な腰抜けじゃねぇか。てめぇでやったことぐらい、てめぇで責任持てよ」

「それに親も問題ありだぜ。自分のガキ甘やかしてんじゃねぇよ」

 職人衆が言い合う中、パーシヴァルはのんびりとチーズをかじる。

「なぁ、いっそのこと軍なんか辞めて、本格的にこっちで働かねぇか?」

 突然の言葉に、パーシヴァルは驚いて食べる手を止めた。

「そうだぜ。筋は良いんだしよぉ、あんなとこ辞めちまえよ」

 パーシヴァルが何かを言う前に、

「馬鹿野郎ども! そんな半端なことでこの仕事が出来ると思ってんのか!」

 と、親方が怒鳴りつけた。

「で、でもよぉ、パーシヴァルの熱意も腕前も本物だぜ」

「そうだよ。軍隊なんかで報われることなく働くぐらいなら、こっちで身を立てた方が……」

 職人達が言い返すものの、

「でもも、しかしもあるか!

 いいかお(めぇ)ら、こいつ(パーシヴァル)の本職は金床で鉄相手に槌振るうことじゃねぇ、戦場で剣振るうのがこいつの仕事よぉ! そいつがいきなり職人に鞍替え出来るもんか。住む世界が違わぁ、そのことを忘れんじゃねぇ!」

 住む世界が違う……その言葉にパーシヴァルは頭を

 がつん

 と殴られるような衝撃を受けた。

「さぁ、お(めぇ)らいつまでダラダラ飯食ってんだ! とっとと食って仕事に取り掛からねぇか!」

 その声に慌てて職人衆は残りを平らげると作業場に戻っていった。

 フォラーズはパーシヴァルに気遣わしげな目線を送ってきたが、

「……店の様子見てくるわ」

 と言い残し、店頭へ向かった。

 親方とパーシヴァルの二人だけがその場に残った。

 パーシヴァルも作業場に向かおうと立ち上がると、

「すまねぇな」

 と、親方がポツリと漏らした。

 親方の方を向くと、バツが悪そうに俯いていた。

「気にしてないですよ」

 本当のことだ。第一、親方の言葉が間違っているわけでもない。

 それでも親方は、

「あいつらはお(めぇ)の実力を認めている……いや、実力だけじゃあないな。皆、お(めぇ)のことを本当に仲間だって思ってる」

 と、ここで親方は一旦言葉を切ると、

「だがよぉ……仮に軍辞めて、それがお(めぇ)にとって本当に良いのかと思っちまってよ。

 なぁパーシヴァル、覚えてっか? 八年も前だったか……お(めぇ)が初めて弟子入りしてぇって俺のところに来たとき、俺が言った言葉をよ……」

 パーシヴァルはすぐに思い出した。

 その頃は、まだ故郷を離れていなかった。母も生きていたし、二歳年下の弟が父から剣術を習っている横で、自分も木刀を振っていた。

 しかし、いつからだろうか、剣術よりも、剣そのものに興味を持ち始めた。いったい、どのようにすれば、あの流麗な形状と、宝石すら(かす)ませる輝きを放つ刀身が出来上がるのか――十歳になったばかりのパーシヴァルはそのことばかりを考えていた。

 初めて剣を打つ光景を見たとき、まだ精神的にも幼かった自分はただ圧倒された。槌で熱した鉄を叩くだけであの形を生み出すことに驚き、見入った。槌を振るう動作を見てるだけで、あっという間に一日が過ぎ去った。鍛冶職人になりたいのだと、真剣に思ったものだ。

 そのことを訴えると、今まさに自分の目の前にいる人間は言ったものだ。

 パーシヴァルは、覚えていたその言葉を唱えるように口に出す。

「人には天が定めた生き方がある。鍛冶職人の子は鍛冶職人に、騎士の子は騎士に、それが天の定めた道……」

「覚えていたか。パーシヴァル、お(めぇ)が本当にこの道で生きていくってんなら(おりゃ)あ止めん。だが、俺は常日頃から思ってんだよ……お(めぇ)をこんなちっぽけな鍛冶屋の職人として、一生を終わらせちまっていいのかと。こんなところに閉じ込めて、お(めぇ)の才を、器を潰しちまっていいのかと……」

「……買いかぶり過ぎですよ、おやっさん」

 そう言いつつも、パーシヴァルは内心では親方の言葉を嬉しく感じていた。

 それと同時に、圧迫感を。

 この世界中どこを探しても、自分にここまでの期待を寄せてくれるのは、きっと親方だけだ。父だってそんなことを言わない……いや、言うはずがない。そのことが、パーシヴァルの心に重く()し掛かる。その重圧が、自分に知らしめる。

 自分は、誰かの期待を受けていい人間ではないということを。

 そう、自分は――


「何しやがる!」

 店先で悲鳴が上がった。

 パーシヴァルはその声に我に返った。

 パーシヴァルと親方の二人が店先に出ると、店頭に並べてあった刀剣が床に散乱していた。そして、フォラーズが、左肩を押さえている。

 彼の近くに落ちていた剣の先端が赤く染まっていた。

「おい、大丈夫か!」

 同じように先程の声を聞きつけたか、奥から職人達が出てきた。

「へぇ、掠り傷でさ……」

 フォラーズの声は弱々しかった。顔も、苦痛に歪んでいる。

「誰がこんな真似を……」

 パーシヴァルが店の外に目を向けると、四人の男達が立っていた。彼らは見て分かるほどに上質な布で出来た服を身に着けていた。どれもこれも派手な色に染められており、その上羽織っている防寒用のコートは間違いなく毛皮だ。ここまで金のかかる格好の出来る人間など、そう多くはいない。

「こんなところにいたか、パーシヴァル」

 相手が自分の名前を呼ぶことに、パーシヴァルは一々驚かなかった。何故なら、自分も相手を知っているからだ。

「てめぇ、よくもフォラーズを!」

 職人の一人が殴りかかろうとするのを、「よせ」とパーシヴァルは片手で制した。

「ヴィルジニア卿……でしたっけ? 何のつもりでしょうか?」

 パーシヴァルは口調だけは丁寧にし、この国の有力貴族の御子息とやらに聞いた。

(とぼ)けんなよ……この間、貴様に付けられた傷がシクシクと痛んでなぁ」

 と、ヴィルジニアは自分の右頬を指差した。そこが微かに赤みを帯びている。

 数日前、パーシヴァルが殴った箇所だ。

「私が悪いとおっしゃるんで? ご冗談を。私は罪無き民に乱暴を働いた暴漢どもを成敗したに過ぎません。いわば、一兵士の務めを(まっと)うしたまで……どこに責められる理由があるのやら」

 パーシヴァルは鼻で笑い飛ばしてやった。当然、連中に示してやる敬意など持ち合わせてなどいない。

 すると、ヴィルジニアの周りの男達が、

「貴様、無礼であろう!」

「その格好で兵士の職務を語るなど笑止!」

「第一、貴様謹慎中であろうが!」

 と、罵詈雑言を浴びせてきた。

 パーシヴァルは作業をするにあたって黒いズボンと長袖の白いシャツに着替えていた。理由は簡単、火を使うために(すす)などで汚れるからだ。

「それに貴様、罪無き民だと? 暴漢だと? 戯言(ざれごと)を言うな!

 あのガキはなぁ、事もあろうにこちらのヴィルジニア殿に狼藉を働いたのだぞ! 我らが罰して何が悪い!」

 パーシヴァルは思わず絶句した。もはや、上辺だけの敬意など込める気にもならない。

「……偶然ぶつかっただけの、年端もいかない子供に、あんな仕打ちをするのか!」


 ――数日前、パーシヴァルが市街地の見回りの合間に親方を尋ねた際、この男が五歳くらいの少女を突き飛ばしているのが目に入った。さらに驚いたことに、この男は剣を抜いたのだ。母親が急いで駆け寄り謝罪をしたが、ヴィルジニアはそのことを意にも介さずに、なんと母親ごと少女を斬ろうとした――


「当然だ! 僕は貴族だぞ! それをあの下賎(げせん)なガキめ……この僕に、この偉大な僕に対してあのような……決して許されるものではない!」

 ヴィルジニアがヒステリックに叫ぶのを聞き、パーシヴァルは呆然とした。立ち直ったときには、暗い思念がパーシヴァルの内に宿った。

 この男の理不尽さに対する憤りと……明確な、殺意。

 この男は今なんと言った? 許されるものではない? なら、こいつのしたことは許されることとでもいうのか? 許しを請う相手を……それも、子供を斬ることが当然だと?

 視線を(めぐ)らすと、フォラーズが傷の手当を受けているのが見えた。その周りに散乱している刀剣も。きっと、こいつらが刀剣類を置いた台を引っくり返し、それがフォラーズを傷つけたのだ。そのことを考えると、さらに怒りが増す。

「ふざけるな!」

 パーシヴァルは思わず叫んでいた。その一言に込められた怒気に、取巻き達が一瞬怯んだが、当のヴィルジニアは、

「黙れ、貴様も同罪だ! 我が剣の(さび)にしてくれる!」

 と、腰の剣に手を掛けた。

 いつの間にか店を囲むように集まっていた野次馬達が騒ぎ出した。

 パーシヴァルも腰に手を伸ばしたところで、今帯刀してないことに気付いた。

「おいおい、そんな無体が通るとでも思ってんのかよ」

 パーシヴァルの背後から、親方が声を張り上げた。

「何だと?」

「頭冷やしてよく考えろよ……元はといやぁ、お(めぇ)さんが街中で剣を振り回そうとしたのが原因じゃねぇか。どんだけ言い(つくろ)っても、そのことは変わんねぇよぉ」

「えぇい、部外者が余計な口出しをするな!」

「部外者、ねぇ……いいか、その耳かっぽじってよく聞きやがれ、世間知らずのクソガキども!」

 突然響き渡った大声に、ヴィルジニアやパーシヴァルはおろか、野次馬も押し黙った。

「お(めぇ)らが剣抜いたとき、近くにはパーシヴァル以外の兵士も何人かいたさ。だが、皆が皆てめぇが貴族って事を知ってて手を出そうとしなかった……こいつも、そのことを知ってたはずだ。手ぇ出そうものなら自分も上からお叱りを受けるかもしれねぇってことも! それでも、こいつは助けることを選んだんだ! 自分の身がどうなろうとも、目の前で殺されそうになってる人間を助けたんだ!

 それに比べて、てめぇはどうだ? てめぇの親に泣き付いて、てめぇの罪を帳消しにしたはかりか、ただ人間として当然のことをしたこいつを謹慎に追い込んだんだ! 恥ずかしいとは思わねぇのか!」

 その言葉を聴き、パーシヴァルは幾分か胸の空く思いになった。

 逆に相手は顔を紅潮させ、

「おのれ、許せん! まず、貴様から血祭りに上げてくれるわ!」

 と、ついに剣を抜いた。

 だが、親方はそれに臆することもなく、

「ほぅ、俺を斬るってか、面白(おもしれ)ぇ! だがな、俺を斬ったところで青い血なんざ出ねぇよ。俺の身体にゃ赤い血しか流れてねぇんだ! さぁ、それでも斬るなら斬れ、斬りやがれ!」

 と、啖呵(たんか)を切った。

 助勢のつもりか、他の職人達が槌や剣を持って親方の周りを固めた。

 先程の親方の言葉で、冷静さを取り戻していたパーシヴァルは慌てて両者に割って入る。

「よせって、おやっさん」

「止めるな、パーシヴァル!」

「止めにも入るって。こいつらは俺に突っかかってきたのに、おやっさんに叩き殺されたら可哀想だろ!」

 一瞬、辺りが静まり返った。

「……何だと?」

「おいおい、お(めぇ)俺を心配したんじゃねぇのか?」

 ヴィルジニアと親方が同時に言った。

「まさか、むしろ心配なのは向こうだよ」

 そう言ってパーシヴァルはヴィルジニア達の方を指した。

「待て、貴様どういう意味……」

「黙ってろ! あんたらの命が助かるかどうかの瀬戸際なんだよ!」

 なおもパーシヴァルは親方を説得しようと言葉を紡ごうとした。

 そこに、

「数々の侮辱、もう許さん!」

 と、取巻きの一人が剣を抜くと、大上段に構えて斬りかかってきた。

 パーシヴァルもまた動いた。両手で相手の右手首と左の二の腕を掴むと、左足で相手の足を払う。

 パーシヴァルが手を放したときには、相手は宙を舞い、やがて陳列棚に衝突した。

 それを見たパーシヴァルは「あちゃー」と頭を抱え、

「す、すまん、おやっさん、店が……」

「気にすんな。暴れるんだったら、存分にやれ! もし軍辞めさせられたら俺が責任持って鍛冶職人にしてやる!」

 と、親方が鞘に納まったままの湾刀を投げた。

「そいつは心強いことで!」

 パーシヴァルは右手で受け取る。

 この刀は大陸南部地方でよく使われている種類のもので、柄頭が刀身の反りとは真逆の方向に曲がっていた。その地域の言語で「獅子の尾」を意味するシャムシールと呼ばれる。大陸共通語では、「シミター」という名が一般的だ。

 パーシヴァルは右手で鞘を握った状態で、左手を柄に添えた。

 また一人、剣を構えて突っ込んできた。

 振り下ろされるところに、数センチほど刀を鞘走らせ、その斬撃を刀身で受け止める。刃同士が激突し、火花が散った。

 パーシヴァルは相手の脇腹を蹴った。相手が数歩下がり、そこへ湾刀(シミター)の柄頭で殴りつける。「獅子の頭」と呼ばれる、独特な形の柄の先端が、見事に相手の右頬を捉えた。何かが砕ける湿った音がし、殴られた相手の口から白いものが飛んだ。折れた歯であろう。

 そいつが腰砕けに倒れるのを見届けず、パーシヴァルはもう一人の方へ間合いを詰めた。

 その男はパーシヴァルの接近に焦って剣を振ろうとしたが、その時にはパーシヴァルの刀が足を払っていた。倒れた男の鳩尾(みぞおち)に鞘尻を突き出すと、

「くぇっ!」

 と、男は奇妙な悲鳴と共に気絶した。

 これで、取巻きは全て始末した。あとは、ヴィルジニアただ一人――

 そう思ったとき、聞き慣れた文句が聞こえてきた。

「冷たき痛みを、彼の者に与えよ!」

 少し離れたところで、ヴィルジニアがこちらに右手を向けている。その手首には宝石の()め込まれた金属製の腕輪――魔装具が嵌められ、その周りでは三つの結晶が浮かんでいた。それは徐々に膨張している。

 ――こんな街中で、魔術を使う気か!

 詠唱の内容から判断すると、肥大化を続ける結晶の正体は、空気中の水分を集め、凝縮し、凍らせて作った氷だ。

 そして、詠唱を終わらせたヴィルジニアが、コマンドワードを発する。

「〝アイスニードル〟!」

 ヴィルジニアの周りに浮かんでいた氷の塊が、真っ直ぐにパーシヴァルに飛んできた。(ニードル)という名前だけあって、先端が鋭利に尖っている。ただし、大きさは短剣(ダガー)一本分に等しい。

 三本とも一直線に向かってきているために、避けるのは容易である。しかし、もし避けようものなら、自分の後ろの人間に被害が及ぶ。

 パーシヴァルは即座に覚悟を決めた。避けることを完全に放棄する。

 ヴィルジニアの顔が歪んでいた。どうやら、このことを計算して放ったらしい。

 パーシヴァルは湾刀(シミター)を勢いよく鞘走らせると、一本目を弾き飛ばした。キーン、という甲高い音が空気を振るわせる。

 だが、一拍遅れて二本目、三本目が迫る。刀を握った左手を振り切ったために、普通なら反応出来ずにここで残りの二本に貫かれる。相手もそう思ってるはずだ。

 ――最後まで自分の思い通りになると思うな!

 パーシヴァルの右腕が動いた。右手首が捻られ、握られていた鞘が二本目を叩き落す。

 さらに左腕が動き、眼前にまで迫った三本目を寸前のところで、柄頭で横から叩く。冷たき針が、その一撃で粉々に砕けた。欠片のいくつかがパーシヴァルの顔を掠る。

 ヴィルジニアの目が驚愕に見開かれた。

 周りも粛として物音一つ立てるものはいない。

 パーシヴァルは刀を鞘に納めると、左の(てのひら)をヴィルジニアに向けた。

「お返しだ」

 そう言ってパーシヴァルは詠唱を始める。

「大気に潜む清廉なるものよ、我が意志に応え、彼の者に冷たき痛みを!」

 魔力を込めながら、パーシヴァルは想像する。冷たく、透明な刃が相手を貫く光景を。

 空気中の水分が集まり、一本の細長い結晶を形成し始めた。今、パーシヴァルは魔装具を持ってないため、どれだけ詠唱しようと大した大きさのものは作り出せない。

 ――それでも、十分だ。

 今、パーシヴァルの左手の前には、一本の針が出来上がっていた。針と言うには大きく、太いが、先程放たれたものよりも二回りほど小さい。

 パーシヴァルはゆっくりと左手を動かし、目標に狙いを定め、コマンドワードを発する。

「〝アイスニードル〟!」

 放たれた棘は目標に向かって凄まじい速度で飛び――ヴィルジニアの右太股に突き立った。

「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁ足が! 僕の足がぁぁぁぁぁぁ……」

 唖然としていて、氷の針が自分に向けられていることも意識してなかったヴィルジニアは絶叫した。痛みに耐えかねないようで、地面をもんどり打っている。

「おい、何だこの騒ぎは!」

 そこに、野次馬の列を掻き分け、二人の兵士が駆けつけて来た。どうやら、見回りの最中だったようだ。

 パーシヴァルが何かを言う前に、足を押さえて(うずくま)っていたヴィルジニアが、

「僕は、パスメノス・ヴィルジニアが一子、アフティだ! そこの乱心者を捕らえろ!」

 と、パーシヴァルを指し示しながら命じた。

「何があったのですか?」

 兵士の一人が尋ねた。

「そこの男はパーシヴァルといって、今は謹慎してるはずの兵士だ。だが、何を考えたかそこの店で暴れ、挙句に職人の一人に怪我を負わせた! それだけじゃなく、止めに入った我々に対し、刀を振り回して抵抗し、恥ずかしながら為す(すべ)なく斬られた! このままではどれだけの被害になるか分からん! 早急に捕らえよ! 無理ならば斬り捨てよ!」

 どの口からそんな言葉が出てくるのか、全ての罪をパーシヴァルに押し付けようとしていた。

 パーシヴァルが呆れていると、兵士の一人が、

「武器を捨てて投降しろ!」

 と、剣を抜いた。

 ――あんな出鱈目(でたらめ)を信じたのかよ!

 パーシヴァルが絶句していると、

「聞こえないのか! 武器を捨てろ! さもなくば斬る!」

 と、宣告してきた。

「おいおい、ちょっと話を聞けって……」

 パーシヴァルが一歩進むと、

「えぇい、抵抗する気か! ()むをえん、斬り捨てるぞ!」

 と、もう一人も剣を抜いた。

「ま、待て、俺の話を……」

「問答無用!」

 兵士二人が、今まさに斬りかからんとしたとき、

「その勝負、待った!」

 と、野次馬の中から声が上がった。

 今回の話、恐ろしい文字量になったし、後書き休んでもいいよね?

 答えは聞いてn……え、前回休んだから駄目? そうですか……


<D・W第四話、第五話作成秘話および裏話>

 ……とは言っても、今回書くことはこれくらいです。


 友人曰く、「パーシヴァルはロリコン」

 友人曰く、「おやっさんはモブキャラ」


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